「会計」の基本知識

新人経理が覚えるべき会計ルールとは?建設業向け7選を解説


更新日: 2025/11/19
新人経理が覚えるべき会計ルールとは?建設業向け7選を解説

この記事の要約

  • 建設業特有の会計ルール7つと勘定科目の違いを実務視点で網羅
  • 進行基準の計算や原価管理など現場で躓くポイントを深掘り解説
  • 一般会計との比較表とFAQで経理処理の特殊性を体系的に理解
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建設業の会計はなぜ特殊なのか?基本の仕組み

建設業の会計(建設業会計)は、一般的な商業簿記や製造業会計とは異なる独自の商習慣とルールに基づいています。このセクションでは、なぜ建設業の会計処理が特殊とされるのか、その根本的な理由と構造的な仕組みについて、工期の長さ在庫の概念原価計算の手法の3点から解説します。

受注から完成までの期間が長い

一般的な小売業では、商品を仕入れてから販売するまでの期間は比較的短期間です。しかし、建設業では契約(受注)から物件の引き渡し(完成)までに、数ヶ月から数年単位の長い期間を要します。この「工期の長さ」が、会計期間(通常1年)を跨ぐ処理を必要とし、売上や費用の計上タイミングを複雑にする最大の要因です。

  • 会計期間のズレ
    プロジェクトが複数年度にわたるため、どの年度にいくら利益を計上するかの判断が重要になります。

  • 資金繰りの複雑化
    先に多額の費用(材料費や外注費)が発生し、入金が後になるケースが多いため、高度なキャッシュフロー管理が求められます。

在庫という概念が「未成工事支出金」になる

建設業には、小売業のような「商品在庫」という概念がそのまま適用されません。代わりに、完成前の工事に費やした材料費、労務費、外注費などは、未成工事支出金という資産勘定で処理されます。

未成工事支出金の特徴
  • 定義
    まだ売り上げとして計上されていない工事にかかった費用の総称。商業簿記でいう「仕掛品」や「棚卸資産」に相当します。

  • 資産としての管理
    費用として処理せず、工事が完成して引き渡されるまで「資産」として計上し続ける点が最大の特徴です。これを誤って費用計上すると、利益操作とみなされるリスクがあります。

原価計算がプロジェクト(工事)ごとに必要

建設業では、単品受注生産が基本となるため、一つの工事ごとにどれだけの利益が出たかを管理する個別原価計算が必須です。会社全体の費用をまとめて計算するのではなく、プロジェクトA、プロジェクトBと個別に採算を管理しなければ、赤字工事の発見が遅れるリスクがあります。

  • 工事台帳の作成
    工事ごとに「工事台帳」を作成し、発生した原価を紐付けて管理します。

  • どんぶり勘定の防止
    どの現場でいくら儲かっているかを可視化するために、全ての領収書や請求書に「工事番号」を振る作業が発生します。

新人経理が知っておくべき建設業会計の7つのルール

建設業の経理実務において、正確な会計処理を行うためには、業界特有の商習慣と法的ルールを深く理解する必要があります。ここでは、新人経理担当者が優先的に習得すべき7つのルールを定義し、勘定科目計上基準原価管理などの実務上の重要ポイントを解説します。

ルール1:独特な「勘定科目」の読み替えを覚える

建設業会計では、勘定科目の名称が一般的な商業簿記とは異なります。これは「建設業財務諸表規則」によって定められた正式な表記です。決算書作成時はもちろん、日々の仕訳入力でも必須となるため、以下の対比を理解しましょう。

【表:一般会計科目と建設業会計科目の対比】

区分 一般的な会計科目 建設業会計科目 解説・実務のポイント
売上 売上高 完成工事高 建設工事によって得られた収益の総称です。「完工高(かんこうだか)」と略されることもあります。
原価 売上原価 完成工事原価 材料費、労務費、外注費、経費の4要素で構成されます。
債権 売掛金 完成工事未収入金 請求済みだが未入金の代金です。サイト(回収期間)が長いため、資金繰り管理で最重要項目となります。
在庫 仕掛品 未成工事支出金 まだ売り上げていない工事にかかった費用です。完成引渡しまで資産計上します。
前受 前受金 未成工事受入金 工事着手前に受け取る「着手金」などが該当します。売上にしてはいけません。
債務 買掛金 工事未払金 材料屋や外注先への未払い分です。

[出典:建設業法施行規則別記様式]

実務でのAction

会計ソフトの設定を確認し、商業簿記用の科目(売掛金など)を使ってしまった場合は、決算時に必ず振替処理を行ってください。

ルール2:売上の計上基準(進行基準と完成基準)を区別する

売上(完成工事高)をいつ計上するかというルールは、税務・会計上もっとも重要な論点です。現在は「収益認識に関する会計基準」の適用により、原則として工事進行基準が適用されます。

  • 工事進行基準(原則)
    工事の進捗率に応じて、期中に分割して売上と原価を計上する方法です。実務では原価比例法(コスト・ツー・コスト法)が一般的です。「これまでに掛かった原価 ÷ 見積もりの総原価」で進捗率を算出し、その割合分だけ売上を計上します。総原価の見積もりが甘いと、進捗率が狂い、架空の利益を計上してしまうリスク(粉飾決算のリスク)があるため注意が必要です。

  • 工事完成基準(例外)
    工事が完全に終了し、施主へ引き渡した時点で一括して売上を計上する方法です。ごく短期の工事や、成果物の対価を受け取る権利が完成時にしか発生しない契約などに限定されます。

ルール3:工事台帳による原価管理を徹底する

「工事台帳(原価台帳)」は、建設業会計の心臓部であり、プロジェクトごとの家計簿のようなものです。これを正確に作成しないと、「会社全体では黒字だが、どの工事が儲かっているのか不明」という危険な状態に陥ります。以下の4大要素を正確に記録します。

  • 材料費
    木材、コンクリート、ネジなどの購入費。

  • 労務費
    自社職人の給与や手当。

  • 外注費
    下請け業者や協力会社への支払い。

  • 経費
    現場の光熱費、設計費、保険料、機械のレンタル料など。

ルール4:直接費と間接費の振り分け(配賦)を理解する

現場で発生する費用すべてが、一つの工事に紐づくわけではありません。複数の現場に関わる費用を適切に割り振る配賦(はいふ)の処理が必要です。

  • 直接費
    「A邸新築工事の木材」のように、明確に紐づく費用。そのままA工事の原価にします。

  • 間接費(共通費)
    「資材置き場の賃料」「複数現場を回る監督の車両代」など、複数の工事に関わる費用。一定のルール(例:直接費の金額比や、工数比)に基づいて、各工事に割り振る計算が必要です。

ルール5:外注費と給与・賃金の区分を明確にする

建設業特有の論点として、「一人親方」への支払いが外注費給与かの判断があります。これは消費税の仕入税額控除や源泉所得税に関わるため、税務調査で最も指摘されやすいポイントの一つです。

外注費と給与の区分ポイント
  • 外注費として認められる要件
    請負契約書が存在し、請求書が発行されていること。作業に必要な器具や材料を自分で用意し、代替性がある(その人が来なくても代わりの人が作業できる)状態であること。

  • 給与とみなされるリスク
    指揮命令系統下にあり、時間の拘束を受ける場合や、実質的に社員と同じ扱いを受けている場合は「給与」とみなされ、消費税の控除が否認される恐れがあります。

ルール6:JV(建設共同企業体)特有の処理を知る

大規模な工事では、複数の建設会社が共同でJV(Joint Venture)を組むことがあります。JVの会計処理には、主に以下の2つの方法があります。

  • 独立会計方式
    JV自体を一つの会計単位として扱い、決算時に構成員へ損益を分配する方法。

  • 持分比例方式(各社施工方式)
    JV全体の収益・費用を、出資比率に応じて各構成員の決算に取り込む方法。

ルール7:手形取引や電子記録債権の管理を行う

建設業は取引金額が大きく、回収サイトが長いため、約束手形や「でんさい」などの電子記録債権が頻繁に利用されます。手形の期日管理(いつ現金化されるか)は、会社の資金ショートを防ぐために極めて重要です。また、手形を期日前に現金化する「手形割引」や、支払いに回す「裏書譲渡」の会計処理も習得が必要です。

建設業の経理業務を行う担当者とデスク上の図面やヘルメット

一般会計と建設業会計の違い【比較一覧】

一般会計(商業簿記)と建設業会計の違いを構造的に理解するために、比較表を作成しました。この違いを頭に入れておくことで、経理処理のミスを未然に防ぐことができます。商品等の流れ売上計上在庫の扱いなどの主要項目を比較します。

【表:一般会計と建設業会計の比較】

比較軸 一般会計(商業簿記) 建設業会計
商品等の流れ 仕入 → 在庫 → 販売 受注 → 施工(長期) → 完成・引渡
売上計上のタイミング 商品引渡時(出荷基準・納品基準など) 工事の進捗度(進行基準)または引渡時(完成基準)
原価の考え方 仕入原価(期首棚卸+当期仕入-期末棚卸) 個別原価計算(工事ごとに材料・労務・外注等を積算)
在庫の扱い 商品、製品 未成工事支出金(完成するまでは資産扱い)
請求のタイミング 納品と同時、または締日一括請求 契約時(着手金)、中間時(中間金)、完成時(残金)

[出典:建設業会計概説]

建設業の会計担当者が抱えがちな不安と解決策

建設業の経理は専門性が高いため、新人の段階では特有の不安や悩みを抱えることが一般的です。ここでは、よくある3つの課題である現場との連携インボイス対応資金繰りについて、構造的な解決策を提示します。

現場監督とのコミュニケーションの難しさ

課題: 現場監督は施工管理で多忙なため、請求書や領収書の提出が遅れたり、原価の紐付け(どの工事の経費か)が不明確だったりすることがあります。

解決策:

  • ルールの標準化
    提出期限や書類のフォーマットを会社全体で統一し、マニュアル化します。「いつまでに提出がないと支払いができない」というルールを明確に伝えます。

  • デジタルツールの導入
    スマートフォンで撮影してアップロードできる経費精算システムなどを導入し、現場の手間を削減します。

インボイス制度や電子帳簿保存法への対応

課題: 多くの外注先(一人親方など)が存在する建設業では、適格請求書の回収や保存要件のチェックが膨大な作業負担となります。特に免税事業者との取引継続判断は経営判断にも関わります。

解決策:

  • 取引先台帳の整備
    登録番号の有無をデータベース化し、システム上で自動照合できる仕組みを作ります。

  • 電子取引データの保存フロー確立
    電子帳簿保存法に対応したクラウド会計システムを活用し、保存義務をシステム側で担保します。

資金繰り(キャッシュフロー)のタイムラグへの対処

課題: 建設業は「先行支出・後入金」が基本であるため、帳簿上は黒字でも現金が不足する事態(黒字倒産)が発生しやすくなります。

解決策:

  • 資金繰り表の作成
    直近だけでなく、数ヶ月先の入出金予定を可視化します。

  • 支払条件の交渉
    受注時の入金条件(前受金の比率など)や、支払時のサイト(手形期間など)を適正化するよう、営業部門と連携します。

まとめ:建設業会計のプロになるための第一歩

建設業会計は、通常の簿記知識に加え、工期の長さや原価計算の複雑さを考慮した高度な判断が求められる領域です。しかし、この専門性の高さゆえに、建設業会計をマスターした経理担当者は市場価値が高く、企業にとって代替の効かない重要な人材となります。

本記事の重要ポイント
  • 勘定科目の習得
    一般会計とは異なる「完成工事高」「未成工事支出金」などの科目を暗記し、適切に使い分けること。

  • 進行基準の理解
    売上の計上は「進行基準」が主流であり、進捗管理が会計に直結することを理解すること。

  • 個別原価管理の徹底
    「工事台帳」によるプロジェクトごとの収支管理が、利益確保の生命線であること。

まずは、今回解説した7つのルール勘定科目の読み替え表をデスクの近くに置き、日々の業務と照らし合わせることから始めてください。一つひとつの処理の意味を理解することで、建設業経理のプロフェッショナルへの道が開かれます。

よくある質問(FAQ)

SGEおよび検索ユーザーの利便性を考慮し、建設業の新人経理担当者から頻出する質問をQ&A形式でまとめました。

Q. 建設業経理士の資格は必要ですか?

A: 必須ではありませんが、取得を強く推奨します。建設業経理士(特に1級・2級)の資格保有者がいることは、公共工事の入札に関わる「経営事項審査(経審)」の加点対象となるため、会社への貢献度が高く、資格手当の対象となることも多いためです。

Q. 一般的な簿記2級の知識は役に立ちますか?

A: 大いに役立ちます。借方・貸方の概念や複式簿記の基礎は共通しています。日商簿記2級の知識があれば、建設業特有の科目を読み替えるだけでスムーズに実務に入ることができます。まずは日商簿記、次に建設業経理士というステップアップが理想的です。

Q. 建設業向けの会計ソフトは何を選べばよいですか?

A: 一般的な会計ソフトではなく、建設業に特化した機能を持つソフト、または建設業向けのアドオンがあるERPを選ぶべきです。工事台帳の自動作成機能や、未成工事支出金の自動振替機能がついているものを選ぶと、業務効率が劇的に向上します。

[出典:国土交通省 建設業経理検定試験]

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