会計ソフトの選び方とは?建設業向け導入ポイントを解説

この記事の要約
- 建設業独自の勘定科目や進行基準に対応したソフト選定が必須
- 汎用型と特化型の違いを理解しコストと機能を比較検討する
- インボイス対応や原価管理の自動化で業務効率を最大化する
- 目次
- 建設業特有の「会計」処理とは?なぜ一般業種と違うのか
- 勘定科目の違い(未成工事支出金など)
- 工期が長期にわたる売上の計上基準(完成工事基準・進行基準)
- 原価管理(現場別管理)の重要性
- 建設業で「会計」ソフトを導入するメリット
- 複雑な仕訳入力の自動化と効率化
- インボイス制度・電子帳簿保存法へのスムーズな対応
- 現場ごとの収支(原価)の可視化と経営判断の迅速化
- 失敗しない!建設業向け会計ソフトの選び方【4つのステップ】
- ステップ1:自社の課題と導入目的を明確にする
- ステップ2:システムの種類(汎用型 vs 特化型)を決める
- ステップ3:必須機能と連携性の有無をチェックする
- ステップ4:サポート体制と操作性をトライアルで確認する
- 汎用型と特化型「会計」システムの比較
- 汎用型ソフト(クラウド会計など)の特徴と向いている企業
- 建設業特化型ソフトの特徴と向いている企業
- コストパフォーマンスと機能のバランス
- 「会計」システム導入時のよくある不安と対策
- エクセルや紙からの移行はスムーズにできるか
- 現場監督や高齢の担当者でも使いこなせるか
- 税理士指定のソフトと異なる場合の対応策
- まとめ
- よくある質問
- Q. 小規模な一人親方でも建設業向けの会計ソフトは必要ですか?
- Q. 無料の会計ソフトでも建設業の決算は可能ですか?
- Q. 導入にあたって利用できる補助金はありますか?

建設業特有の「会計」処理とは?なぜ一般業種と違うのか
建設業の会計業務は、一般的な小売業やサービス業とは異なり、長期にわたる工期や複雑な原価管理が求められるため、極めて専門性が高い分野です。ここでは、なぜ建設業において専用の知識やソフト選びが必要なのか、前提となる一般会計との構造的な違いを定義します。
勘定科目の違い(未成工事支出金など)
建設業会計における最大の特徴は、独自の勘定科目を使用することです。一般会計では製造途中の製品を「仕掛品」と呼びますが、建設業ではこれを未成工事支出金として扱います。同様に、「売掛金」は完成工事未収入金、「買掛金」は工事未払金といった専門用語で処理されます。これらの科目は、建設業法および建設業法施行規則に基づいて定められており、決算書(財務諸表)を作成する際もこの区分に従う必要があります。一般的な会計ソフトではこれらの科目が初期設定されていない場合があり、手動での追加設定が必要になる点が相違点です。
- 一般会計と建設会計の主な勘定科目対比リスト
- 売上高 → 完成工事高
建設業の本業による収益を表します。 - 売掛金 → 完成工事未収入金
引き渡し済みだが未回収の代金を指します。 - 仕掛品 → 未成工事支出金
完成前の工事にかかった費用(材料費、労務費など)です。 - 前受金 → 未成工事受入金
完成前に発注者から受け取った手付金などを指します。 - 買掛金 → 工事未払金
工事に関わる未払いの材料費や外注費のことです。
- 売上高 → 完成工事高
工期が長期にわたる売上の計上基準(完成工事基準・進行基準)
建設工事は着工から完成・引き渡しまでに長期間(数ヶ月〜数年)を要するため、売上の計上タイミングにも特別なルールが適用されます。工事進行基準に対応するためには、進捗率を正確に把握し、期中の原価を適切に配分する機能が会計システムに求められます。
- 建設業の売上計上基準の定義
- 工事完成基準
工事が完了し、発注者に引き渡した時点で売上と原価を計上する方法。主に工期が短い小規模工事で採用されます。 - 工事進行基準
工事の進捗度合いに応じて、決算期ごとに売上と費用を分割して計上する方法。長期かつ大規模な工事では原則としてこちらが適用されます。
- 工事完成基準
原価管理(現場別管理)の重要性
建設業では、会社全体の利益だけでなく、工事現場ごと(プロジェクトごと)の収支管理が不可欠です。これを工事台帳と呼びます。材料費、労務費、外注費などの原価を、どの現場で発生した費用なのか紐付けて管理しなければ、現場ごとの利益率が把握できず、赤字工事の発見が遅れる原因となります。一般会計ソフトでは「部門管理」機能で代用することもありますが、建設業特化型ソフトではこの現場別管理が標準機能として組み込まれています。
建設業で「会計」ソフトを導入するメリット
手書きの帳簿や表計算ソフト(Excel)による管理には限界があり、転記ミスや属人化のリスクが伴います。建設業に対応した会計ソフトを導入しデジタル化を進めることで、業務負担の大幅な軽減と経営数値のリアルタイムな見える化が実現します。主なメリットは以下の通りです。
複雑な仕訳入力の自動化と効率化
会計ソフトを導入する最大のメリットは、入力業務の自動化です。銀行口座やクレジットカード、経費精算システムと連携することで、明細データを自動で取り込み、AIが勘定科目を推測して仕訳を提案します。これにより、手入力の手間が削減されるだけでなく、金額の入力ミスや二重計上などのヒューマンエラーを未然に防ぐことができます。また、一度登録した取引先や定期的な支払いは自動仕訳として学習されるため、使うほどに業務効率が向上します。
インボイス制度・電子帳簿保存法へのスムーズな対応
近年の法改正により、経理業務のデジタル対応は必須事項となりつつあります。対応ソフトを使用すれば、証憑データをアップロードするだけで法的要件を満たした形式で保存可能です。
- インボイス制度(適格請求書等保存方式)
受領した請求書が適格請求書かどうかを判定し、税額控除の対象となるかを正しく処理する必要があります。最新の会計ソフトであれば、登録番号の照合や税区分の自動判別機能が搭載されています。 - 電子帳簿保存法
電子取引データの保存要件(検索機能の確保、タイムスタンプなど)を満たす必要があります。
現場ごとの収支(原価)の可視化と経営判断の迅速化
会計ソフト上で各取引に「現場(プロジェクト)タグ」を付与することで、工事台帳を自動作成できます。これにより、以下のことが可能になります。
- リアルタイムな利益管理
工事が終わるのを待たずに、現在の原価発生状況を確認できるため、予算オーバーの兆候を早期に検知できます。 - 正確な資金繰り計画
入金予定と支払予定が可視化されることで、資金ショートのリスクを回避し、銀行融資などの対策を早めに講じることができます。

失敗しない!建設業向け会計ソフトの選び方【4つのステップ】
数ある会計ソフトの中から自社に最適なものを選ぶには、機能やコストを闇雲に比較するのではなく、順序立てて検討することが重要です。導入後に「機能が足りない」「使いこなせない」と後悔しないために、以下の4つのステップで選定を進めてください。
ステップ1:自社の課題と導入目的を明確にする
まずは、現在の経理業務における課題を洗い出します。目的が曖昧なまま高機能なソフトを導入しても、現場の負担が増えるだけです。
- 課題例
「手書きの帳簿で計算ミスが多い」「現場ごとの利益が工事終了までわからない」「インボイス対応が不安」 - 目的設定
単に確定申告ができればよいのか、それとも現場別の原価管理まで厳密に行いたいのかを決定します。
ステップ2:システムの種類(汎用型 vs 特化型)を決める
自社の規模と業務内容に合わせて、ソフトのタイプを絞り込みます。
- 汎用型(クラウド会計など)
小規模事業者、リフォーム・内装業メイン、コスト重視の場合に適しています。 - 建設業特化型
中規模以上の建設会社、公共工事主体、厳密な工事台帳や経営事項審査(経審)への対応が必要な場合に適しています。
ステップ3:必須機能と連携性の有無をチェックする
候補となるソフトに、自社に必要な機能が備わっているかを確認します。特に以下の3点は必須チェック項目です。
- 建設業勘定科目
「未成工事支出金」などの科目が初期設定されているか。 - 他システム連携
給与計算ソフトや勤怠管理システムとAPI連携し、仕訳入力を自動化できるか。 - 法対応
インボイス制度(適格請求書発行事業者番号の照合)や電子帳簿保存法に対応しているか。
ステップ4:サポート体制と操作性をトライアルで確認する
カタログスペックだけで決めず、必ず無料トライアルやデモ版を利用します。
- 操作性
経理担当者だけでなく、現場監督や社長自身がスマホ等で直感的に操作できるか。 - サポート
導入時の設定代行や、電話・チャットでのサポート体制が自社のITスキルに見合っているか。また、顧問税理士がそのソフトに対応可能かも確認しておきましょう。
表:会計ソフト選定時のチェックリスト
| ステップ | 確認項目 | チェックポイント |
|---|---|---|
| STEP 1 | 導入目的 | 確定申告のみか、原価管理も含むか |
| STEP 2 | ソフト種別 | 汎用型(低コスト)か、特化型(高機能)か |
| STEP 3 | 機能要件 | 建設業科目の有無、インボイス・電帳法対応 |
| STEP 4 | 運用体制 | 現場でのスマホ利用可否、税理士とのデータ共有 |
汎用型と特化型「会計」システムの比較
会計ソフトは大きく分けて、全業種に対応可能な「汎用型」と、建設業の商習慣に最適化された「特化型」があります。それぞれの特徴を深く理解し、コストと機能のバランスを見極めることが成功の鍵です。ここでは比較しやすいよう構造的に整理します。
汎用型ソフト(クラウド会計など)の特徴と向いている企業
汎用型は、直感的な操作画面と低コストが魅力です。「freee会計」や「マネーフォワード クラウド会計」などが該当します。
- メリット
銀行連携やAI自動仕訳機能が強力。スマホアプリが使いやすい。 - デメリット
建設業専用の帳票や高度な原価管理機能はオプション扱い、または非搭載の場合がある。 - 向いている企業
一人親方や従業員数名の小規模事業者、工事内容がシンプルで複雑な進行基準を用いない企業。
建設業特化型ソフトの特徴と向いている企業
特化型は、建設業特有の処理を標準でカバーしています。「建設大臣」「勘定奉行(建設業編)」などが該当します。
- メリット
工事台帳、JV(ジョイントベンチャー)管理、出面管理などが標準搭載。経営事項審査(経審)に対応した決算書が作成しやすい。 - デメリット
導入コストが高額になりがち。専門用語が多く、経理知識がないと操作が難しい場合がある。 - 向いている企業
売上規模が大きく公共工事を受注している企業、厳密な原価管理と経営事項審査への対応が必要な中堅・大手企業。
コストパフォーマンスと機能のバランス
コストだけで選ぶと必要な機能が不足し、機能だけで選ぶとオーバースペックで使いこなせないという事態に陥ります。「自社にとって譲れない機能は何か」を明確にし、予算とのバランスを見極めることが重要です。
表:汎用型 vs 特化型の機能・コスト比較
| 比較項目 | 汎用型会計ソフト | 建設業特化型会計ソフト |
|---|---|---|
| 主な特徴 | 低コストで導入しやすく、UIが直感的。 | 建設業独自の商習慣や帳票に標準対応。 |
| 勘定科目 | 手動設定が必要な場合がある。 | 建設業特有の科目がプリセット済み。 |
| 原価管理 | 簡易的または別途ツールが必要。 | 工事台帳や原価管理機能が一体化。 |
| コスト | 安価(月額数千円〜のサブスク型)。 | やや高額(初期費用数十万円〜など)。 |
| ターゲット | 小規模事業者、内装・リフォーム業。 | 中規模以上の建設会社、公共工事主体。 |
「会計」システム導入時のよくある不安と対策
新しいシステムの導入には、データ移行の不安や操作への抵抗感がつきものです。検索意図に含まれる潜在的な不安要素と、その解決策を解説します。
エクセルや紙からの移行はスムーズにできるか
多くの会計ソフトには、Excel(CSV形式)からのインポート機能が備わっています。既存の顧客リストや勘定科目設定をCSV形式で出力し、新システムに取り込むことで、手入力の手間を最小限に抑えられます。導入初期には、ベンダーが提供する「導入支援サービス(有料・無料)」を利用し、初期設定の代行や指導を受けるのも有効な対策です。
現場監督や高齢の担当者でも使いこなせるか
ITツールに不慣れな担当者がいる場合、操作のわかりやすさ(UI/UX)が最優先事項になります。対策としては、無料トライアル期間を利用して、実際に現場担当者や経理担当者に触ってもらうことが重要です。「スマホで領収書を撮影するだけ」といった簡単な操作から始められるクラウド型ソフトを選ぶことで、心理的なハードルを下げることができます。
税理士指定のソフトと異なる場合の対応策
「顧問税理士が指定するソフトと、自社が使いたいソフトが違う」というケースは多々あります。現在は、多くのクラウド会計ソフトが「他社ソフト形式でのデータエクスポート」に対応しています。自社では使いやすいクラウド会計で日々の記帳を行い、決算時に税理士指定のソフトに合わせた形式でデータを出力・渡すという運用フローを構築すれば問題ありません。
まとめ
建設業における会計ソフト選びは、単なる事務作業の効率化だけでなく、工事ごとの収益性を可視化し、経営の健全性を保つための重要な投資です。
- 会計ソフト選びの重要ポイントまとめ
- 自社の規模と目的の合致
小規模・民間工事主体ならコスト重視の「汎用クラウド型」、中大規模・公共工事主体なら機能重視の「特化型」を選びましょう。 - 業務フロー全体の最適化
インボイス制度や電子帳簿保存法対応はもちろん、給与・勤怠システムとの連携も視野に入れて選定してください。 - トライアルの実施
導入後のミスマッチを防ぐため、必ず無料トライアルで現場の操作性を確認することが成功への第一歩です。
- 自社の規模と目的の合致
よくある質問
建設業の会計ソフト導入に関して、頻繁に寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。
Q. 小規模な一人親方でも建設業向けの会計ソフトは必要ですか?
- A. 必須ではありませんが、導入を強く推奨します。
確定申告(青色申告)の65万円控除を受けるためには複式簿記が必要です。汎用型の安価なクラウド会計ソフトであれば、月額1,000円程度から利用でき、確定申告の手間を大幅に削減できます。
Q. 無料の会計ソフトでも建設業の決算は可能ですか?
- A. 建設業特有の勘定科目に対応していないことが多く、おすすめしません。
決算書の作成には簿記の専門知識による修正が必要になるため、リスクが高いです。また、無料版はデータの保存期間や機能に制限があることが多いため、ビジネス利用には有料版が安全です。
Q. 導入にあたって利用できる補助金はありますか?
- A. はい、「IT導入補助金」などが利用できる場合があります。
会計ソフトはインボイス対応類型などで補助対象となることが多く、導入費用の1/2〜3/4程度の補助を受けられる可能性があります。申請にはIT導入支援事業者を通じた手続きが必要です。最新の公募要領を確認してください。
[出典:国土交通省「建設業の経理の状況」]
[出典:国税庁「No.2106 建設業等の未成工事支出金」]





