建設業法と会計処理の関係とは?経審・原価管理の視点から解説

この記事の要約
- 建設業特有の会計ルールと法的保存義務を徹底解説
- 経審の評点アップに直結する財務指標と管理ポイント
- 原価管理を効率化する会計システムと実務の解決策
建設業法が求める建設業特有の会計処理ルール
建設業において会計処理は、単なる税務申告の手段ではありません。建設業法では、適正な施工体制と経営の透明性を確保するために、独自の会計基準と帳簿保存を義務付けています。このルールを遵守しない場合、法的なペナルティを受けるだけでなく、公共工事の入札資格にも悪影響を及ぼします。ここでは、一般会計との構造的な違いと、法律で定められた具体的な義務について解説します。
一般会計と建設業会計の決定的な違い
一般的な商業簿記(商品売買など)と建設業会計の最大の違いは、生産形態と売上計上のタイミングにあります。建設業は受注生産であり、着工から完成・引き渡しまでに長期間を要するため、以下のような特有の概念が適用されます。
- 建設業会計の主要な特徴
- 完成工事基準と工事進行基準
売上を計上するタイミングが、原則として「引渡時(完成工事基準)」か「進捗度合い(工事進行基準)」によって異なります。現在は会計基準により、長期・大規模工事は工事進行基準が原則化されています。 - 特有の勘定科目
一般会計の「売掛金」や「仕掛品」にあたるものが、建設業では「完成工事未収入金」や「未成工事支出金」といった専門用語で処理されます。
- 完成工事基準と工事進行基準
以下の表は、一般会計と建設業会計の主要な違いを整理したものです。
表:一般会計と建設業会計の比較
| 比較項目 | 一般会計(商業簿記) | 建設業会計 |
|---|---|---|
| 生産形態 | 見込生産(在庫販売) | 受注生産(請負契約) |
| 売上の計上 | 商品引渡時 | 工事進行基準 または 完成引渡時 |
| 売掛金 | 売掛金 | 完成工事未収入金 |
| 在庫(仕掛品) | 仕掛品・商品 | 未成工事支出金 |
| 前受金 | 前受金 | 未成工事受入金 |
| 買掛金 | 買掛金 | 工事未払金 |
[出典:建設業会計の基礎知識]
特に重要なのが未成工事支出金です。これは工事が完成するまでに投入した材料費や労務費を「費用」ではなく「資産」として計上する科目であり、適正な期間損益計算を行うための要となります。
建設業法で定められた帳簿保存と会計基準
建設業法第40条の3では、建設業者に対して帳簿の備え付けと保存を義務付けています。これは、工事の施工状況や資金の流れを明らかにし、発注者保護と経営の健全化を図るためです。
- 保存すべき帳簿と保存期間
- 保存期間:5年間(発注者は10年間)
契約書、工事台帳、図面、領収証などの証憑類は、原則として5年間の保存が義務付けられています。特に発注者から直接請け負った建設工事(新築住宅など)に関する特定の図書は10年間の保存が必要です。 - 工事台帳の記載事項
工事名、工事場所、契約日、工期、顧客名、従事した技術者名などを網羅的に記録する必要があります。
- 保存期間:5年間(発注者は10年間)
これらの帳簿を作成する際、建設業法は「建設業の会計処理の基準(建設業会計基準)」に従うことを求めています。この基準に準拠していない場合、建設業法違反として営業停止処分の対象となる可能性があるため、実務担当者は常に最新の基準を確認する必要があります。
経営事項審査(経審)における会計情報の重要性
公共工事の入札に参加するために必要な「経営事項審査(経審)」において、会計情報は企業の格付け(ランク)を決定する決定的な要素です。経審の総合評点(P点)のうち、経営状況を評価する「Y点」は財務諸表の数値から算出されるため、日々の会計処理の精度がそのまま受注機会に影響します。
経審の評点アップに直結する会計指標
Y点の評価項目は多岐にわたりますが、会計処理の工夫や経営改善によってコントロール可能な主要指標が存在します。これらを適正に管理することで、健全な経営状態をアピールし、評点を向上させることが可能です。
- Y点対策として注視すべき財務指標
- 純支払利息比率(低いほど高評価)
売上高に対する支払利息の割合です。建設業会計では、工事のために借り入れた資金の利息を「未成工事支出金(資産)」に算入できる場合があり、これにより費用としての支払利息を圧縮し、比率を改善できる可能性があります。 - 負債回転期間(短いほど高評価)
月商に対する負債(支払手形や工事未払金など)の滞留期間です。サイトの長い手形取引を減らし、現金決済比率を高めることや、完成工事未払金を迅速に処理することが評価につながります。 - 自己資本比率(高いほど高評価)
総資本に占める自己資本の割合です。利益剰余金の蓄積だけでなく、不良資産(長期滞留している未成工事支出金など)を整理し、バランスシートをスリム化することで相対的に比率を高めることができます。
- 純支払利息比率(低いほど高評価)
虚偽の会計報告に対するペナルティ
経審の評点を良く見せるために粉飾決算や虚偽の申請を行うことは、極めてリスクの高い行為です。建設業法および刑法に基づき、以下のような厳しい処分が科されます。
- 経審結果の取消しと再審査
虚偽が発覚した場合、認定された結果が取り消され、入札参加資格を失います。 - 営業停止処分および許可の取消し
悪質性が高いと判断された場合、営業停止処分や、最長で5年間再取得できない「建設業許可の取消し」が行われます。 - 刑事罰と社会的制裁
虚偽申請罪としての刑事罰に加え、指名停止措置による公共工事からの排除、金融機関からの融資停止など、企業存続に関わる重大なダメージを受けます。
工事台帳と会計帳簿の連動による原価管理
会計データは、単に決算書を作成するためだけのものではありません。現場ごとの収支をリアルタイムに把握し、利益を確保するための「原価管理」の基盤となります。工事台帳と会計帳簿を正確に連動させることが、赤字工事を防ぐ鍵となります。

建設業の会計における原価の4要素と計上フロー
建設工事の原価は、主に4つの要素で構成されます。これらを正確に分類し、会計システムへ反映させるフローを確立することが重要です。
- 原価の4要素
- 材料費:工事に使用する物品の購入費
- 労務費:直接雇用した作業員への賃金
- 外注費:協力会社への工事支払額
- 経費:現場経費(光熱費、機械損料、保険料など)
これらのコストは発生時、まず「未成工事支出金(資産)」として集計されます。その後、工事が完成して売上が計上されるタイミングで、対応する金額が「完成工事原価(費用)」へと振り替えられます。この振り替え処理が正確に行われないと、期間損益が歪み、正しい経営判断ができなくなります。
実行予算と実際原価の差異分析
効果的な原価管理には、工事着工前に作成した「実行予算」と、会計データから集計された「実際原価」を比較する予実管理が不可欠です。
- リアルタイムな差異分析
工事完了後に赤字が判明しても手遅れです。月次または週次で会計データを確認し、予算を超過している費目(例:材料費の高騰、想定外の外注追加)を早期に発見する必要があります。 - フィードバックサイクルの構築
差異の原因を分析し、現場の工程見直しや発注単価の交渉などの対策を打つことで、最終的な利益率を確保します。
建設業の会計実務で発生しやすい課題と解決策
建設業の経理実務では、現場と管理部門の意識のズレや、システムの非効率性が課題となるケースが多々あります。ここでは、現場でよくある問題点とその解決策、適切なシステムの選び方について解説します。

現場と経理部門の間で起こる会計認識のズレ
現場監督は「工程と品質」を最優先するため、経理処理に必要な書類提出が後回しになりがちです。これが原因で、月次決算の遅延や原価の計上漏れが発生します。
表:現場と経理の課題と解決策
| 課題 | 発生原因 | 解決策 |
|---|---|---|
| 月次決算の遅延 | 請求書や日報の提出遅れ | クラウド型システム導入による提出フローのデジタル化 |
| 使途不明金の発生 | 領収証の紛失・記載不備 | 経費精算アプリの活用と入力ルールの簡素化 |
| 原価の配賦ミス | 共通費の按分基準が曖昧 | 工事ごとの配賦基準(工数、直接費比率など)の明確化とマニュアル化 |
汎用会計ソフトと建設業専用システムの比較
会計ソフトには、全業種向けの汎用ソフトと、建設業に特化した専用システムがあります。自社の規模や公共工事の有無に合わせて適切なツールを選定することが、業務効率化のポイントです。





