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建設業における多様な雇用形態とは?人事の実務を解説


更新日: 2026/01/15
建設業における多様な雇用形態とは?人事の実務を解説

この記事の要約

  • 建設業界特有の多様な雇用形態と人事管理の要点を網羅的に解説。
  • 正社員や派遣、一人親方など形態別の実務上の注意点を整理。
  • 2024年問題や社会保険適用拡大へのコンプライアンス対応を詳述。
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1. 建設業の人事が把握すべき雇用形態の全体像

建設業界では慢性的な人手不足や2024年問題への対応が急務であり、従来の雇用慣行を見直す時期に来ています。本項では、人事担当者が把握すべき基本となる直接雇用の各形態と、その役割について体系的に解説します。

正社員(無期雇用)の特徴と役割

建設業における正社員は、期間の定めがない無期雇用契約を結ぶ、企業の根幹を成す人材です。現場監督(施工管理技士)や技術職、営業職などがこの形態に該当します。人事実務においては、単なる労働力の確保だけでなく、長期的なスキルアップや国家資格取得に向けた教育支援が重要です。月給制が一般的であり、賞与や退職金制度の対象となることで、従業員の生活安定と帰属意識の向上を図る役割を担います。

契約社員・期間雇用社員(有期雇用)の注意点

特定の大型プロジェクトの期間のみ雇用を継続する場合や、定年後のベテラン技術者を再雇用する場合などは、有期雇用契約となります。この場合、人事が最も注意すべきは契約期間の管理です。契約更新の有無や更新判断の基準、契約上限期間を労働条件通知書に明記しなければなりません。また、無期転換ルール(通算5年を超えて更新した場合の無期転換申込権)への対応準備も、長期的な労務計画の中で欠かせない要素です。

パート・アルバイトの活用シーン

主に工事事務所での事務補助、現場周辺の清掃、交通誘導の補助などで活用される形態です。建設現場の工期や繁忙期に合わせて、柔軟な人員配置を可能にするメリットがあります。しかし、人事としては「社会保険の適用拡大」に細心の注意を払う必要があります。2024年10月から従業員数51人以上の企業で、週20時間以上勤務などの条件を満たすパートタイマーの社会保険加入が義務化されており、人件費予算への影響を正しく見積もる必要があります。

建設現場の前で図面やタブレットを持つ多様な雇用形態の作業員たち

2. 建設現場で複雑化する外部リソースと人事管理のポイント

建設現場の管理において、自社社員以外のリソース管理は避けて通れない課題です。派遣社員の受け入れ制限や一人親方との契約、さらには外国人材の活用など、人事がコンプライアンスの観点で遵守すべきルールを詳しく説明します。

派遣社員の受け入れと建設業務の禁止事項

建設業には労働者派遣法により、いわゆる「建設業務(現場での直接的な作業)」への派遣が禁止されているという特殊なルールがあります。人事は、受け入れるスタッフが法律に抵触しない業務に従事しているかを厳格に管理しなければなりません。

派遣受け入れの可否判断基準
  • 派遣可能な業務(事務・補助的業務)
    施工管理の補助(写真整理や書類作成)、CAD操作、現場事務、安全管理の巡回補助などは派遣の受け入れが認められています。

  • 派遣禁止の業務(直接的作業)
    土木、建築、解体などの現場における直接の作業(釘打ち、左官、塗装、資材の運搬など)への派遣は、労働者派遣法第4条第1項により禁止されています。

一人親方・個人事業主との業務委託契約

建設現場に欠かせない熟練技能者である「一人親方」とは、雇用契約ではなく業務委託契約(請負契約)を締結します。人事として留意すべきは、実態が雇用とみなされる「偽装請負」の防止です。一人親方は自身の裁量で仕事を進める独立した事業者であり、元請け企業から直接的な指揮命令を受けることはできません。契約書において、業務の内容や報酬、責任の範囲を明確に規定しておくことが、法的リスクを回避する鍵となります。

外国人技能実習生・特定技能の採用ルール

深刻な労働力不足を背景に、外国人材の活用は不可欠です。人事は「技能実習」と「特定技能」の違いを正しく理解し、適切な手続きを行う責任があります。

  • 技能実習制度
    日本で培われた技能の移転による国際協力を目的とした制度です。受け入れ人数枠の制限や、監理団体を通じた手続きが必要です。

  • 特定技能1号・2号
    即戦力としての労働力確保を目的とした制度です。建設分野では、国土交通省による建設特定技能受入計画の認定が必要であり、日本人と同等以上の報酬を支払うことが義務付けられています。

[出典:国土交通省「特定技能制度(建設分野)に関する運用要領」]

3. 多様な働き方を支える建設業人事の実務プロセス

雇用形態が多岐にわたる建設業では、事務手続きのミスが大きなトラブルに直結します。本項では、人事が実務で活用できる比較表を用いながら、労働条件通知書の発行から社会保険の手続き、勤怠管理のポイントまで整理します。

雇用形態別の労働条件通知書と契約締結

雇用契約を結ぶ際は、書面による労働条件の明示が義務付けられています。雇用形態によって、管理すべき項目が異なります。

項目 正社員 契約社員 パート・アルバイト
契約期間 定めなし 定めあり(更新条件明記) 定めあり(シフト制)
主な賃金体系 月給制(固定給) 月給または日給制 時給または日給制
残業代支払 対象 対象 対象
人事の留意点 長期育成・評価 更新管理・5年ルール 社会保険加入要件の確認

[出典:厚生労働省「労働基準法第15条 労働条件の明示」]

社会保険・労働保険の適用範囲と比較

建設業では「社会保険未加入対策」が厳格化されており、適切な加入は現場入場(グリーンファイルの作成)に際して必須条件となります。人事は以下の適用基準を遵守しなければなりません。

保険の種類 正社員 契約社員 パート(条件を満たす場合) 一人親方
健康保険・厚生年金 加入 加入 条件により加入 原則対象外(個人)
厚生年金 加入 加入 条件により加入 国民年金(個人)
雇用保険 加入 加入 加入(週20h以上) 対象外
労災保険 適用 適用 適用 特別加入制度を利用
パート・アルバイトの社会保険加入条件
  • 1.週の所定労働時間が20時間以上
  • 2.月額賃金が8.8万円以上
  • 3.2ヶ月を超える雇用の見込みがある
  • 4.学生ではないこと(例外あり)
上記の条件をすべて満たす場合、企業規模に応じて社会保険への加入が必要となります。

勤怠管理と36協定の遵守

2024年4月から、建設業においても時間外労働の上限規制が適用されました。多様な雇用形態が混在する中、人事は正確な労働時間の把握と36協定の遵守を徹底しなければなりません。
1.客観的な記録による労働時間管理(顔認証、ICカード、GPS等)
2.残業時間のモニタリングと現場へのアラート発信
3.36協定の特別条項を適用する場合の手続きと上限確認
これらを怠ると、企業名公表や罰則の対象となるだけでなく、元請け・下請け間の信頼関係にも悪影響を及ぼします。

4. 建設業の人事が直面する「よくある不安」と解決策

多様な働き方を導入する際、現場や経営層から懸念の声が上がることは少なくありません。人事として適切に回答・対応できるよう、偽装請負や同一労働同一賃金、定着率向上に向けたキャリア支援などの重要トピックを深掘りします。

偽装請負と判断されないための運用チェック

一人親方や外注業者との契約において、実態が労働者とみなされる「偽装請負」は、建設業界で厳しく監視されているリスクです。人事は以下のポイントが現場で守られているか定期的にチェックする必要があります。

偽装請負防止チェックリスト
  • 業務の指揮命令を元請けが行っていないか
    作業の進め方や配置、時間の指定などを直接一人親方に指示してはいけません。

  • 勤怠管理や出退勤の承認を行っていないか
    出勤簿への捺印や休憩時間の指定を元請けが管理していると、雇用関係があるとみなされます。

  • 道具や備品の負担区分が明確か
    原則として請負側が自前の機材を使用することが求められます。

同一労働同一賃金への対応と処遇改善

同一労働同一賃金とは、正社員と非正規雇用者の間で、不合理な待遇格差を設けることを禁じる原則です。人事は単に賃金額を比較するだけでなく、各種手当(通勤手当、精勤手当、出張手当等)や福利厚生施設(更衣室、食堂等)の利用についても、格差がないかを確認しなければなりません。
「職務内容」や「責任の範囲」が同じであれば、同じ待遇を提供する必要があります。もし差を設ける場合は、客観的な理由(将来の役割への期待値など)を論理的に説明できる状態にしておくことが求められます。

離職率低下を目指すキャリア形成支援

人手不足が深刻な建設業界において、雇用形態に関わらず「この会社で働き続けたい」と思わせる仕組み作りが人事のミッションです。

  • 正社員登用制度の明確化
    パートや契約社員としてスタートした人材でも、実績や意欲に応じて正社員へステップアップできる道筋を可視化します。

  • 多能工化に向けた資格取得支援
    雇用形態に関わらず、複数の工種をこなせる「多能工」への育成を支援し、個人の市場価値を高めると同時に現場の生産性を向上させます。

人事担当者が作業員に労働条件やキャリアパスについて説明している様子

5. 雇用形態を最適化して建設業の人事課題を突破する

建設業界における多様な雇用形態の活用は、人手不足という難局を乗り越えるための戦略的な選択です。しかし、形態が増えるほど人事実務の負担とコンプライアンスリスクは増大します。

  • 人事は、正社員から派遣、一人親方まで、各形態の法的特徴とリスク(偽装請負など)を正確に把握しなければなりません。
  • 社会保険の適正加入や上限規制への対応を徹底し、健全な労務環境を現場に提供することが不可欠です。
  • 同一労働同一賃金への対応やキャリア支援を通じて、多様な人材が活躍できる土壌を整えることが、企業の永続的な成長につながります。

各雇用形態のメリットと法的制約をバランスよく管理し、柔軟な組織体制を構築することが、これからの建設業における人事の使命といえるでしょう。

Q1. 一人親方に対して、現場で急ぎの作業指示を出すことは可能ですか?

A. 直接の指示は避けるべきです。
請負契約において、元請けが一人親方に直接指揮命令を行うと「偽装請負」とみなされます。急ぎの指示であっても、請負契約の代表者や責任者を通じて依頼するか、仕様書や契約内容の変更として提示するのが正当な手続きです。

Q2. 建設現場の事務作業で受け入れた派遣社員に、少しだけ片付けを手伝ってもらってもよいですか?

A. 原則として禁止です。
現場での「片付け(清掃・資材整理)」は労働者派遣法で禁止されている「建設業務」に該当する可能性が非常に高いです。たとえ短時間であっても、本来の事務契約外の業務に従事させることは法違反となるため、人事および現場担当者は厳格に区別する必要があります。

Q3. パートやアルバイトでも、労災保険の請求は可能ですか?

A. はい、可能です。
労災保険は雇用形態や労働時間の長さ、国籍、年齢を問わず、1人でも労働者を雇用している事業場のすべての労働者に適用されます。現場での怪我や通勤中の事故については、正社員と同様に給付を受ける権利があります。人事は事故発生時、速やかに労働基準監督署への報告と手続きを行う必要があります。

[出典:厚生労働省「労災保険制度の概要」]

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