「BIM」の基本知識

BIMを社内で推進するには?体制構築のポイントを解説


更新日: 2025/12/03
BIMを社内で推進するには?体制構築のポイントを解説

この記事の要約

  • BIM原則適用を見据えた社内体制の構築手順を4ステップで解説
  • 単なる3D化ではないBIMの本質的価値と導入メリットを定義
  • 失敗を防ぐための運用ルール策定とソフト選定基準を網羅
『蔵衛門クラウド』で情報伝達をスムーズに

BIM導入が建設業界で急速に進む背景

建設業界においてBIMへの移行は、単なるツールの変更ではなく、業務プロセスの抜本的な改革として位置づけられています。ここでは、なぜ今BIMが必要とされているのか、その定義や業界を取り巻く環境変化、国土交通省の施策といった観点から、導入が急務となっている背景を解説します。

BIMの定義と3D CADとの決定的な違い

BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)とは、コンピュータ上に現実と同じ建物の立体モデルを構築する技術ですが、単に形状を3Dで表現する「3D CAD」とは決定的な違いがあります。

  • 3D CAD
    主に「形状」を可視化するためのツールであり、線や面の集合体で構成されます。

  • BIM
    形状に加え、属性情報(建材の名称、素材、強度、コスト、仕上げ、性能など)を一つのモデルに統合したデータベースです。

BIMでは、壁一つをとっても「厚さ」「断熱性能」「品番」「価格」などの情報が埋め込まれています。これにより、設計図書の作成だけでなく、構造計算、設備計算、積算、環境シミュレーションなどを一つのデータから連動して行うことが可能です。BIMは「作図ツール」ではなく、「建物のライフサイクル全体を管理する情報プラットフォーム」であると理解することが重要です。

2025年のBIM原則適用と業界の動向

日本国内においても、BIM導入の流れは不可逆的なものとなっています。国土交通省は、建設現場の生産性向上を目指す「i-Construction」の一環としてBIM/CIMの活用を推進しており、2025年度には直轄土木業務・工事におけるBIM/CIM原則適用の方針を打ち出しています。

また、建設業界が直面している「2024年問題(時間外労働の上限規制)」による人手不足も、BIM導入を後押しする大きな要因です。限られた人員で生産性を維持・向上させるためには、従来の2次元図面ベースの非効率なワークフローからの脱却が求められています。公共工事だけでなく、民間プロジェクトにおいてもBIM指定案件が増加しており、対応できない企業は受注機会を損失するリスクが高まっています。

[出典:国土交通省「建築BIM推進会議」]

社内でのBIM推進会議とチーム連携の様子

BIMを活用するメリットと導入効果

BIM導入には初期投資や学習コストがかかりますが、それを補って余りあるメリットが存在します。設計品質の向上はもちろん、施工現場でのトラブル削減やコスト管理の適正化など、プロジェクト全体に波及する具体的な導入効果について、フロントローディングとデータ連携の視点から解説します。

フロントローディングによる業務効率化

BIMの最大のメリットは、フロントローディング(業務の前倒し)の実現です。従来のワークフローでは、施工段階に入ってから図面の不整合や納まりの問題が発覚し、修正に追われることが常態化していました。

BIMを活用することで、設計の早い段階で詳細なシミュレーションが可能になります。意匠・構造・設備の各モデルを統合(重ね合わせ)し、配管と梁の干渉などを自動検知する「干渉チェック」を行うことで、施工前に問題を解決できます。これにより、後工程での手戻りが激減し、トータルの工期短縮と業務効率化が達成されます。

施工手戻りの削減とコスト管理の精度向上

BIMモデルには「数量情報」が含まれているため、モデルを作成すると同時に、必要な資材の数量算出(拾い出し)が自動的に行われます。これにより、手作業による積算ミスがなくなり、見積もりの精度が飛躍的に向上します。

また、正確な数量把握は、過剰発注や資材不足による工程遅延を防ぎ、コスト管理の適正化に寄与します。施工段階での手戻りが減ることは、廃棄物の削減にもつながり、環境負荷の低減という側面でもメリットがあります。

表:従来のCADワークフローとBIMワークフローの比較

項目 従来のCAD(2次元) BIM(3次元モデル)
情報の種類 線分・文字情報のみ 形状・素材・コスト・工程情報など
図面間の整合性 手動で修正が必要(不整合のリスクあり) 自動連動(一箇所の修正が全てに反映)
合意形成 専門知識がないと理解しにくい 3D可視化により誰でも理解しやすい
データ活用 設計・施工段階で断絶しやすい 維持管理までデータを一貫利用可能

社内でBIM推進を成功させるための体制構築フロー

BIM導入を成功させるには、単にソフトウェアを購入するだけでは不十分です。組織全体でBIMを活用するための明確なロードマップと体制づくりが不可欠です。ここでは、目的設定からチーム編成、ルール策定に至るまでの具体的なステップを、手順に沿って解説します。

ステップ1:BIM導入の目的とゴールの明確化

漠然と導入するのではなく、自社の課題解決に直結する目的を設定します。

  • 現状課題の洗い出し
    図面の不整合が多い、積算に時間がかかる、施主へのプレゼン力が弱いなど、解決したい課題をリストアップします。

  • BIM利用目的の定義
    「プレゼン能力の向上」「干渉チェックによる手戻り削減」「積算連携」など、何を最優先事項とするかを決定します。

  • ゴールの設定
    「1年後には全案件の30%をBIM化する」「設計施工連携を実現する」といった具体的な数値目標や状態目標を設定します。

ステップ2:推進チーム(BIMマネージャー)の選定

BIM推進には、専任または兼任のリーダーが必要です。この段階で、ITリテラシーが高く、業務フロー全体を理解している人材をアサインすることが重要です。

  • BIMマネージャー
    全体の戦略立案、運用ルールの策定、教育計画を統括するリーダーです。

  • BIMコーディネーター
    プロジェクトごとのモデルデータ管理や、他社とのデータ連携を調整する役割を担います。

ステップ3:パイロットプロジェクトの実施と評価

いきなり全案件でBIMを導入するのはリスクが高すぎます。まずは小規模で、比較的難易度の低いプロジェクトを「パイロットプロジェクト」として選定し、試験運用を行います。

  • 対象案件の選定
    納期に余裕があり、形状が複雑すぎない標準的な案件を選びます。

  • 実務検証
    実際にモデリングを行い、設計・積算・施工の各フェーズでどのような効果や問題点があるかを記録します。

  • 効果測定とフィードバック
    工数削減効果や品質向上効果を検証し、課題を抽出します。

ステップ4:社内標準(BIMガイドライン)の策定

パイロットプロジェクトの結果をもとに、自社独自の「BIMガイドライン」を作成します。ガイドラインがないと、作成者によってモデルの品質にばらつきが生じ、データ活用が困難になります。

  • モデリングルール
    レイヤ分け、ファミリ(部品)の命名規則、入力すべき属性情報の範囲を定めます。

  • データ運用ルール
    フォルダ構成、バックアップ体制、承認フローを確立します。

  • テンプレートの整備
    よく使う建具や詳細図をテンプレート化し、作業効率を上げます。
体制構築に必要な役割分担
  • 経営層
    予算確保、トップダウンでの導入意思表示、長期的な視点での評価

  • BIMマネージャー
    ソフト選定、ガイドライン策定、教育計画の立案、社内啓蒙

  • BIMオペレーター
    モデリング実務、ライブラリ作成、実務上の課題フィードバック

  • 設計・施工現場担当者
    実プロジェクトでの活用、運用テスト、改善要望の提示

タブレットでBIMモデルを確認する現場監督

BIM運用でよくある失敗と読者が抱える不安

BIM導入は業務変革であるため、現場からの抵抗や運用上の課題が必ず発生します。ここでは、導入企業が陥りやすい失敗パターンと、それに対する解決策、そしてコストや教育に関する担当者の不安を解消するための具体的なアプローチを紹介します。

導入コストと維持費に対する不安

BIMソフトは高機能である分、ライセンス費用が高額になる傾向があります。また、快適に動作させるためのハイスペックPC(ワークステーション)の導入も必要です。

対策としては、IT導入補助金などの助成制度を活用する、まずは必要なライセンス数に絞ってスモールスタートする、サブスクリプション契約で初期費用を抑えるなどの工夫が有効です。コストは「経費」ではなく「生産性向上への投資」と捉え直す必要があります。

既存社員のスキル不足と教育への抵抗感

「今までのCADで十分」「覚えるのが大変」という現場の反発は最大の障壁です。全員がいきなり全ての機能を覚える必要はありません。

対策として、「閲覧だけできる人」「入力ができる人」「管理ができる人」とレベルを分け、段階的な教育プログラムを用意します。操作が簡単なビューワーソフトから導入し、3Dの便利さを体感してもらうことから始めます。

データ互換性と取引先との連携課題

使用するBIMソフトが異なると、データ連携がうまくいかない場合があります。

対策としては、建設業界標準のデータ交換フォーマットである「IFC(Industry Foundation Classes)」を活用します。また、プロジェクト開始時に、関係者間でBIM実行計画書(BEP)を取り交わし、使用ソフトのバージョンやデータ形式を事前に合意しておくことが重要です。

表:よくある課題と解決策

よくある課題 原因 推奨される解決策
途中で使われなくなる 目的が曖昧、操作が難しすぎる 小規模なパイロット運用から始め、成功体験を作る
作業効率が落ちる 従来のCADと同じ感覚で操作している BIM特有の「属性情報入力」の重要性を教育する
コスト対効果が見えない 短期的な利益だけを見ている 施工後の維持管理や手戻り削減など、中長期視点で評価する

自社に合ったBIM対応ソフトの選び方

BIMソフトにはそれぞれ特徴があり、自社の業種や規模に合ったものを選ぶことが重要です。世界的なシェアを持つ主要ソフトや、国産ソフトなど選択肢は多岐にわたります。ここでは、ソフト選定の際に基準とすべきポイントと、コストの考え方について解説します。

汎用性か専門性か?ソフト選定の基準

ソフト選定の際は、自社の主業務と取引先の環境を考慮する必要があります。

  • 意匠設計重視
    デザインの自由度が高く、プレゼンテーション機能に優れたソフト(例:ArchiCAD、Vectorworksなど)。

  • 総合・構造・設備重視
    大手ゼネコンや組織設計事務所でのシェアが高く、構造・設備との連携に強いソフト(例:Revitなど)。

  • 国内法規・施工重視
    日本の建築基準法や、日本特有の施工図作成に最適化された国産ソフト(例:GLOOBEなど)。

イニシャルコストとランニングコストの比較

現在は多くのソフトがサブスクリプション(期間契約)形式を採用しています。
初期導入費だけでなく、年間の維持費、トレーニング費用、アドオンソフト(機能拡張)の費用を含めたトータルコストで比較検討します。体験版を利用して、操作性やPCへの負荷を確認することも必須です。

まとめ

本記事では、BIMを社内で推進するための体制構築について解説しました。BIM導入は単なるソフトの変更ではなく、業務フローそのものの変革です。成功の鍵は、明確な目的設定、適切なチーム編成、そして段階的な運用拡大にあります。まずは小規模なプロジェクトから着手し、自社に最適な運用ルールを確立していくことをおすすめします。

BIM体制構築のポイントまとめ
  • BIMは3D形状だけでなく属性情報を持つデータベースであり、フロントローディングを実現する
  • 導入プロセスは「目的設定」「チーム選定」「パイロット運用」「ガイドライン策定」の順で進める
  • 現場の抵抗感を減らすために、スモールスタートで成功体験を積み重ねる
  • ソフト選定は自社の業務特性と、取引先とのデータ連携(IFC対応など)を考慮する

よくある質問(FAQ)

BIM導入に関して、現場担当者や経営層から寄せられる頻出の質問と回答をまとめました。導入検討時の参考にしてください。

Q1. BIMを導入するにはどのくらいの費用がかかりますか?

導入するソフトウェアの種類やライセンス数、PCのスペック、導入コンサルティングの有無によって大きく異なります。一般的に、ソフトウェアの年間ライセンス料に加え、グラフィック性能の高いハイスペックPCの購入費、初期教育コストを見込んでおく必要があります。IT導入補助金などが活用できる場合もあります。

Q2. 中小企業でもBIM導入は必要ですか?

はい、必要性は高まっています。大手ゼネコンだけでなく、連携する協力会社にもBIM対応が求められるケースが増えています。また、人手不足解消のための業務効率化ツールとしても、企業規模を問わず有効です。中小規模だからこそ、意思決定を早く行い、小回りの利くBIM活用ができるという利点もあります。

Q3. BIMオペレーターの育成にはどのくらいの期間が必要ですか?

基礎操作の習得には数週間〜数ヶ月程度かかりますが、実務で使いこなせるようになるには半年〜1年程度の実践経験が目安となります。社外の研修サービスやeラーニングを活用することで、育成期間を短縮することも可能です。社内に教えられる人がいない場合は、外部の専門家によるサポートを受けることが近道です。

『蔵衛門クラウド』で情報伝達をスムーズに
NETIS
J-COMSIA信憑性確認
i-Construction
Pマーク
IMSM

株式会社ルクレは、建設業界のDX化を支援します