国土交通省が推進するBIM標準とは?背景と内容を解説

- 目次
- なぜ今「BIM標準」が必要なのか? 国土交通省が推進する背景
- 建設業界が直面する共通の課題
- これまでのBIM活用の問題点
- 国土交通省の狙いと「i-Construction」
- 国土交通省が定める「BIM標準」の具体的な内容
- 標準ガイドラインと参照基準
- データ形式の標準化(IFCの重要性)
- モデリングのルールと詳細度(LOD)
- 情報共有の基盤(CDE:共通データ環境)
- BIM標準導入のメリットと「よくある不安」
- BIM標準がもたらす主要なメリット
- 【比較検討】導入時の課題と読者の不安
- 企業が国土交通省のBIM標準に対応するためにすべきこと
- ステップ1:現状の把握と目的の明確化
- ステップ2:社内体制の整備と人材育成
- ステップ3:必要なツールと環境の準備
- まとめ:BIM標準の理解は、建設業界の未来を切り拓く第一歩
- 国土交通省のBIM標準に関するよくある質問(Q&A)
- Q1. BIM標準に準拠しないと、公共事業の入札に参加できなくなりますか?
- Q2. 中小企業や小規模な設計事務所でもBIM標準への対応は必要ですか?
- Q3. BIM標準に関する最新のガイドラインや情報はどこで確認できますか?
この記事では、国土交通省が推進するBIM標準について、その背景、具体的な内容、そして企業が対応すべきことまでを網羅的に解説します。
なぜ今「BIM標準」が必要なのか? 国土交通省が推進する背景
建設業界では生産性の向上や働き方改革が喫緊の課題となっています。国土交通省がBIM標準化を強力に推進する背景には、これらの課題を解決し、業界全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させる狙いがあります。
建設業界が直面する共通の課題
日本の建設業界は、長年にわたり複数の深刻な課題を抱えています。これらは個別の企業努力だけでは解決が難しく、業界全体の構造的な変革が求められています。
・ 深刻化する人手不足と高齢化
・ 長時間労働の常態化(「2024年問題」による時間外労働の上限規制対応)
・ 生産性の伸び悩み(他産業比較)
・ 紙ベースのアナログな業務慣習(情報共有の非効率性)
これまでのBIM活用の問題点
BIM(Building Information Modeling)自体は、これらの課題を解決するポテンシャルを持つ技術として以前から注目されてきました。しかし、業界全体での活用が進む中で、新たな問題点も浮き彫りになってきました。
・ 企業間・ソフト間でのデータ互換性の低さ
・ 統一されたモデリングルールや情報入力ルールの不在
・ BIMデータの「作って終わり」となり、後工程で活用されない
国土交通省の狙いと「i-Construction」
こうした業界の課題とBIM活用の問題点を解決するため、国土交通省は強力なリーダーシップを発揮しています。その中核となるのが「i-Construction(アイ・コンストラクション)」と「BIM/CIMの原則適用」です。
・ BIMの活用を前提とした「i-Construction」の推進
国土交通省は2016年から、ICT(情報通信技術)の全面的な活用により建設現場の生産性を飛躍的に向上させる「i-Construction」を推進しています。BIM(建築分野)およびCIM(Civil Information Modeling:土木分野)は、このi-Constructionを実現するための根幹技術と位置づけられています。
[出典:国土交通省「i-Construction」]
・ 公共事業におけるBIM/CIM原則適用の狙い
特に大きな動きとして、2023年度(令和5年度)から公共事業(主に土木分野)においてBIM/CIMの原則適用が開始されました。これは、発注者である国が率先してBIM活用のルール(標準)を定め、その活用を促すことで、業界全体の標準化とDXを牽引しようとする強い意志の表れです。
[出典:国土交通省「BISO(BIM/CIMの原則適用)」]
・ データ連携の円滑化による「サプライチェーン全体の効率化」
国土交通省の最終的な狙いは、BIM標準を確立することで、発注者から設計、施工、維持管理に至るまでの建設生産プロセス全体(サプライチェーン)でデジタルデータがスムーズに連携・活用される環境を構築することです。
国土交通省が定める「BIM標準」の具体的な内容
国土交通省が示す「BIM標準」は、特定のソフトウェアを指すものではなく、BIMデータを円滑に作成・連携・活用するための「ルール」や「基準」の総称です。これらは各種ガイドラインや要領で示されており、業界全体で守るべき共通の約束事となります。ここでは、その中核となる要素を解説します。
標準ガイドラインと参照基準
BIM標準の具体的な内容は、国土交通省や関連団体が発行する複数のガイドラインによって定義されています。これらは、分野(建築・土木)や目的(設計・施工)に応じて参照すべき基準となります。
・ 建築BIM推進会議が示す主要なガイドライン
建築分野では、「建築BIM推進会議」が中心となり、各種ガイドラインが整備されています。「建築分野におけるBIM活用ガイドライン」などでは、BIMデータの作成方法や活用方法の基本的な考え方が示されています。
[出典:国土交通省「建築BIM推進会議」]
・ 土木分野でのBIM/CIM標準(CIM導入ガイドラインなど)
土木分野では「BIM/CIM」と呼ばれ、「CIM導入ガイドライン」や各種「BIM/CIM設計照査要領」などが整備されています。これらは、公共事業におけるデータ作成の仕様や納品ルールを具体的に定めています。
[出典:国土交通省「BIM/CIMポータルサイト」]
データ形式の標準化(IFCの重要性)
BIM標準の中核の一つが、データ形式の標準化です。特定のソフトウェアベンダーに依存しない共通のデータ形式を用いることで、異なるソフト間での情報連携を可能にします。
・ 特定のソフトに依存しない「IFC(Industry Foundation Classes)」の役割
その標準形式として国際的に採用されているのが「IFC」です。IFCは、BIMソフトウェア間でデータを交換するための「共通言語」のようなものです。
・ なぜIFCによるデータ連携が求められるのか
IFCを利用することで、各企業が自社の業務に最適なソフトウェアを選定しつつ、プロジェクト全体でのデータ連携(オープンBIM)が可能となり、サプライチェーン全体の効率化に繋がります。

モデリングのルールと詳細度(LOD)
BIM標準は、「何を、どこまで詳細にモデリングするか」というルールも定めています。これが曖昧だと、データが重すぎたり、逆に情報が足りなかったりする事態が発生します。
・ 「どの程度詳細に」モデル化するかの共通ルール
プロジェクトの目的や段階(企画、基本設計、実施設計、施工など)に応じて、必要なモデルの詳細度を関係者間で共有するためのルールがLODです。
・ LOD(Level of Development:詳細度)の定義と重要性
LODは、モデルの形状的な詳細さ(見た目)だけでなく、それに紐づく属性情報(仕様、コスト、部材名など)がどれだけ充実しているかも定義します。
・ 属性情報の標準化
形状情報だけでなく、部材の名称、材質、型番などの「属性情報」をどのルールで入力するかも標準化の対象です。情報が標準化されていれば、積算や維持管理など後工程でのデータ活用が容易になります。
情報共有の基盤(CDE:共通データ環境)
作成されたBIMデータを、プロジェクト関係者間でいかに効率的かつ安全に共有するか。そのための「場所」の標準化も重要です。
・ CDE(Common Data Environment)の必要性
CDE(共通データ環境)は、BIMデータや関連文書を一元的に管理・共有するためのクラウドベースのプラットフォームやシステムを指します。
・ 国土交通省が推奨する情報共有のあり方
国土交通省のガイドラインでも、CDEの活用が推奨されています。CDE上でデータの版管理(いつ、誰が、何を更新したか)を徹底し、承認フローを明確にすることで、情報伝達のミスや手戻りを防ぎます。
BIM標準導入のメリットと「よくある不安」
国土交通省が推進するBIM標準への対応は、短期的にはコストや教育の負担がかかる側面もあります。しかし、中長期的にはそれを上回る大きなメリットを企業にもたらします。ここでは、期待されるメリットと、導入企業が抱えがちな不安や課題を整理します。
BIM標準がもたらす主要なメリット
BIM標準に準拠することは、単に「国のルールに従う」という受け身のものではなく、企業の競争力を高める積極的な経営戦略となり得ます。
・ 生産性の向上: データ連携の円滑化、手戻りの削減
・ 品質の確保: 精度の高いモデリングと情報共有によるミス防止
・ データ活用の促進: 企画・設計から施工・維持管理までの一貫したデータ活用
・ 発注者・関係者との合意形成: 3Dモデルによる視覚的な情報共有
【比較検討】導入時の課題と読者の不安
多くのメリットがある一方で、特にこれからBIM標準に対応しようとする企業にとっては、不安や疑問も多いはずです。以下の表に、よくある不安とそれに対する考え方や対策をまとめました。
表:BIM標準導入に関する主な課題と対策
| 読者のよくある不安(課題) | 対策と考え方 |
|---|---|
| コスト: ソフトウェア導入や教育に費用がかかるのでは? | 長期的なリターン(生産性向上、手戻り削減)を見据えた投資として捉えることが重要です。導入初期の負担を軽減するための各種補助金・助成金の活用も検討しましょう。 |
| 人 材: BIMを扱える人材が社内にいない… | 段階的な導入と社内教育(OJT)の実施が現実的です。まずは特定のプロジェクトや部門からスモールスタートし、操作できる人材を徐々に育成していく計画が必要です。 |
| 業務フロー: 従来のやり方を大きく変える必要がある? | 全てを一度に変える必要はありません。BIM標準の「どの部分から」取り入れるか(例:まずはIFCでのデータ連携から)、自社の実情に合わせて優先順位をつけることが成功の鍵です。 |
| 互換性: 取引先が対応していないと意味がないのでは? | 国土交通省の推進(特に公共事業での原則適用)により、今後はBIM標準への対応が業界の前提となります。未対応は将来的な取引リスクにも繋がるため、自社から積極的に対応を進める姿勢が求められます。 |
企業が国土交通省のBIM標準に対応するためにすべきこと
国土交通省のBIM標準に対応することは、もはや一部の大企業だけの話ではなく、「選択」から「必須」の取り組みへと変わりつつあります。中小企業や専門工事業者も含め、企業が今から準備すべきことを3つのステップで解説します。
ステップ1:現状の把握と目的の明確化
BIM標準対応の第一歩は、自社の立ち位置を正確に知ることから始まります。
・ 自社の現在のBIM活用レベル(または未導入)の確認
・ 「何のために」BIM標準に対応するのか(公共事業対応、生産性向上など)目的を定める

ステップ2:社内体制の整備と人材育成
BIM導入は「ツール導入」ではなく「業務改革」です。推進するための体制が不可欠です。
・ BIM推進担当者またはチームの決定
・ 段階的な研修・教育計画の策定
・ 社内ルールの整備(標準ガイドラインの理解)
ステップ3:必要なツールと環境の準備
目的と体制が整ったら、それを実行するための「道具」と「場所」を準備します。
・ BIM標準に対応したソフトウェアの選定
・ CDE(共通データ環境)の検討・導入
・ ハードウェア(PCスペックなど)の確認
まとめ:BIM標準の理解は、建設業界の未来を切り拓く第一歩
本記事では、国土交通省が推進する「BIM標準」について、その背景、具体的な内容、そして企業が対応すべきことを解説しました。
・ BIM標準は、建設業界の生産性向上とDXのために不可欠なルールである。
・ データ形式(IFC)や詳細度(LOD)、情報共有(CDE)などが主な内容に含まれる。
・ 導入には課題もあるが、メリットは大きく、対応は急務となっている。
・ まずは現状把握と目的設定からスモールスタートすることが重要。
BIM標準への対応は、単なるツール導入ではなく、企業の「業務プロセスの変革」そのものです。この記事で得た知識を、貴社のBIM推進の第一歩としてお役立てください。
国土交通省のBIM標準に関するよくある質問(Q&A)
国土交通省のBIM標準に関して、特に多く寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q1. BIM標準に準拠しないと、公共事業の入札に参加できなくなりますか?
A1. 将来的には、BIM/CIM原則適用工事の対象拡大に伴い、準拠していないと不利になる、あるいは参加が難しくなる可能性が非常に高いです。国土交通省は段階的に適用範囲を広げており、早期の対応が推奨されます。(2023年度より土木分野で原則適用が開始されています)
Q2. 中小企業や小規模な設計事務所でもBIM標準への対応は必要ですか?
A2. 必要です。今後は発注者や元請け企業から、サプライチェーン全体(協力会社含む)に対してBIM標準への準拠が求められるケースが増加します。取引を継続・拡大するためにも、規模に関わらず対応準備を進めることが重要です。
Q3. BIM標準に関する最新のガイドラインや情報はどこで確認できますか?
A3. 国土交通省のウェブサイト内にある「建築BIM推進会議」のページ(建築分野)や、「BIM/CIMポータルサイト」(土木分野)で、最新のガイドライン、要領、関連資料が公開されています。これらは随時更新されるため、定期的にチェックすることをお勧めします。
・ [建築BIM推進会議]
・ [BIM/CIMポータルサイト]




