IFCとは?異なるBIMソフト間の連携規格をわかりやすく解説

この記事の要約
- 異なるBIMソフトをつなぐ世界標準のファイル形式
- データの長期保存とオープンな連携を実現する鍵
- 実務で役立つバージョン知識と変換時の注意点を解説
- 目次
- BIMデータの標準フォーマット「IFC」の基礎知識
- IFC(Industry Foundation Classes)の定義
- なぜBIMにIFCが必要なのか
- BIMソフト間でIFCを活用する3つのメリット
- コラボレーションの効率化
- 資産管理としてのデータの永続性
- BIM実務で知っておくべきIFCのバージョンと種類
- IFC2x3とIFC4の違い
- MVD(モデルビュー定義)の役割
- ネイティブデータとIFCデータの違い:BIM運用での使い分け
- ネイティブ形式と中間ファイル形式の比較
- どのフェーズでIFCを使うべきか
- BIMデータをIFC変換する際の「よくある不安」と注意点
- 完全な互換性は保証されない(データ欠落のリスク)
- ファイルサイズとパフォーマンスの問題
- 変換前のマッピング設定の重要性
- まとめ:IFCはBIMによる建設DXを支える重要なインフラ
- よくある質問(FAQ)
- Q1. IFCファイルは無料のビューアーで見られますか?
- Q2. IFCデータがあれば、他のBIMソフトで修正・編集はできますか?
- Q3. 最新のIFC4を使えば間違いありませんか?
BIMデータの標準フォーマット「IFC」の基礎知識
BIMプロジェクトでは、意匠・構造・設備でそれぞれ最適なツールが異なるため、多種多様なソフトが混在します。ここでは、異なるツールをつなぐための共通言語であるIFCの定義と、なぜそれが建設業界で不可欠なのか、その根幹となる概念を解説します。
IFC(Industry Foundation Classes)の定義
IFC(Industry Foundation Classes)とは、国際的な非営利団体であるbuildingSMART Internationalが策定・管理している、BIMデータ共有のための国際標準規格(ISO 16739)です。
特定のソフトウェアベンダーに依存しない中間ファイル形式であり、異なるアプリケーション間で建物の3次元形状データや属性情報(部材名称、仕様、配置情報など)を受け渡すための共通言語として機能します。PDFが文書ドキュメントの共通規格であるのと同様に、IFCは建設モデルデータの共通規格と言えます。
なぜBIMにIFCが必要なのか
建設業界のプロジェクトでは、以下のように役割やフェーズごとに異なるBIMソフトが使用されることが一般的です。
- 各分野で使用される主なBIMソフト例
- 意匠設計
Revit, ArchiCAD, Vectorworksなど - 構造設計
Tekla Structures, ST-Bridge対応ソフトなど - 設備設計
Rebro, Tfas, CADWe'll Tfasなど
- 意匠設計
これらのソフトは独自のネイティブ形式でデータを保存しており、そのままでは他社のソフトで開くことができません。この相互運用性(Interoperability)の壁を取り払い、異なるソフト間でも情報の連携・統合を可能にするために、共通フォーマットであるIFCが必要不可欠となります。

BIMソフト間でIFCを活用する3つのメリット
ネイティブデータではなく、あえてIFC形式を経由することには明確な利点があります。ここでは、コラボレーションの円滑化、データの保存性、そして特定のベンダーに縛られない自由度という3つの観点からメリットを整理します。
- IFC活用の主なメリット
- 異なるBIMソフト間でのデータ連携が可能
意匠・構造・設備の各担当者が異なるメーカーのソフトを使用していても、モデルを統合し、重ね合わせて干渉チェックなどが可能です。 - 長期的なデータ保存(アーカイブ)に適している
特定のソフトのバージョンアップやサービス終了の影響を受けにくいため、数十年単位で管理が必要な建物データの保管に適しています。 - Open BIM(オープンBIM)の実現
特定のベンダー製品に依存するベンダーロックインを防ぎ、プロジェクトの特性に合わせて最適なツールを自由に選択できる環境(Open BIM)を実現します。
- 異なるBIMソフト間でのデータ連携が可能
コラボレーションの効率化
IFCを活用することで、使用ソフトが異なる協力会社間でも、スムーズなデータ受け渡しが可能になります。これにより、従来は2次元図面に変換して行っていた整合性確認作業を3Dモデル上で行えるようになり、手戻りの削減やコミュニケーションコストの大幅な低減につながります。
資産管理としてのデータの永続性
建物のライフサイクルは数十年におよびますが、ソフトウェアのバージョンは毎年更新されます。ネイティブデータの場合、数年前のファイルが開けなくなったり、変換が必要になったりするリスクがあります。一方、テキストベースの構造を持つ国際標準規格であるIFCは、ソフトウェアの改廃に左右されにくく、維持管理フェーズにおけるデータの永続性を担保する上で有利に働きます。
BIM実務で知っておくべきIFCのバージョンと種類
IFCにはいくつかのバージョンが存在し、それぞれ対応する形状の複雑さやデータ構造が異なります。実務でトラブルを避けるために必須となるIFC2x3とIFC4の違い、そしてMVDの役割について解説します。
IFC2x3とIFC4の違い
現在、実務で主に使用されているのは以下の2つのバージョンです。それぞれの特徴を理解し、プロジェクトの要件に合わせて選択する必要があります。
| 項目 | IFC2x3 | IFC4 |
|---|---|---|
| 特徴 | 長年運用されている安定版。基本的なBIMデータ連携機能を網羅。 | 機能拡張版。より複雑な形状(NURBSなど)やテクスチャ表現、地理情報への対応力が向上。 |
| 現在の普及度 | 非常に高い。ほぼ全てのBIMソフトが標準対応。 | 徐々に普及中。ソフトによって対応レベル(インポート/エクスポート)に差がある。 |
| 主な用途 | 現在の実務における標準的なデータ受け渡し。 | 高度な形状表現が必要な場合や、双方が対応しているプロジェクト。 |
MVD(モデルビュー定義)の役割
IFCでデータを書き出す際、すべての情報を無条件に渡すわけではありません。目的に応じて必要な情報だけをフィルタリングする仕組みがあり、これをMVD(Model View Definition:モデルビュー定義)と呼びます。
- Coordination View(コーディネーションビュー)
意匠・構造・設備の干渉チェックなど、各専門分野のモデルを統合・調整するために使用される最も一般的な定義。 - Reference View(リファレンスビュー)
参照用として形状を正確に伝えることを重視し、編集は想定しない定義(IFC4で主に利用)。
MVDを適切に指定することで、不要なデータによる容量増大を防ぎ、目的に合致した正確なデータ連携が可能になります。
ネイティブデータとIFCデータの違い:BIM運用での使い分け
BIM運用において最も重要なのは、すべての作業をIFCで行うことはできないという点を理解することです。編集性に優れたネイティブデータと、汎用性に優れたIFCデータの特性を比較し、プロジェクトのフェーズに応じて適切に使い分ける方法を詳しく解説します。
ネイティブ形式と中間ファイル形式の比較
BIMソフト独自のネイティブデータと、標準規格のIFCデータには、編集の自由度や情報量において決定的な違いがあります。それぞれの特性を理解するための比較表を以下に示します。
| 項目 | ネイティブデータ(.rvt, .plnなど) | IFCデータ(.ifc) |
|---|---|---|
| 形式 | 各ソフト独自の専用形式 | 世界標準の中間ファイル形式 |
| 編集の自由度 | 非常に高い パラメトリックな修正(数値変更で壁厚を変える等)が自在。 |
低い 形状が固定化(Brep化)されることが多く、大幅な修正には向かない。 |
| 情報量 | 最大 作図設定、ビュー設定、独自の計算式なども含む。 |
限定的 設定により必要な属性情報のみ保持される。 |
| 互換性 | 低い 同じソフト、同じバージョンが必要。 |
高い 対応するあらゆるビューアー、他社ソフトで閲覧可能。 |
| 主な用途 | 設計作業、図面作成、詳細モデリング。 | 干渉チェック、発注者への納品、確認申請、異なるソフト間の参照。 |
どのフェーズでIFCを使うべきか
上記の特性を踏まえ、実務では以下のような使い分けが推奨されます。
- 設計・修正フェーズ(ネイティブデータ推奨)
設計中は、壁の位置変更や窓のサイズ変更など、試行錯誤が繰り返されます。この段階では、パラメータを変更するだけで形状が追従するパラメトリック機能が必須であるため、同じソフトを使用しているチーム内ではネイティブデータで作業を進めます。この段階でIFCに変換してしまうと、修正のたびに再モデリングに近い作業が発生し、非効率です。 - 調整・納品フェーズ(IFCデータ推奨)
構造設計者と設備設計者が異なるソフトを使っている場合、それぞれのモデルを重ね合わせて配管と梁がぶつかっていないかを確認する干渉チェックを行います。このような参照目的の場合や、発注者への最終成果物としてデータを提出する際は、互換性の高いIFCデータを利用します。
このように、「作業はネイティブ、連携はIFC」という原則を守ることが、BIMプロジェクトを円滑に進めるための重要なポイントです。

BIMデータをIFC変換する際の「よくある不安」と注意点
便利なIFCですが、万能ではありません。変換時の形状崩れや情報欠落といったリスクを正しく認識し、事前のマッピング設定などでトラブルを回避するための実務的な注意点を解説します。
完全な互換性は保証されない(データ欠落のリスク)
「IFCに変換すれば、相手のソフトで完全に元通りに開ける」という認識は誤りです。IFCはあくまで共通規格に翻訳したデータであるため、以下のような現象が起こる可能性があります。
- パラメトリック性の喪失
元のソフトでは「幅を変更できる壁」だったものが、IFC変換後は単なる「壁の形をした立体(Brep)」となり、数値変更による形状修正ができなくなるケースがあります。 - 独自の属性情報の欠落
ソフト固有の特殊なパラメータや計算式は、標準規格であるIFCには引き継がれない場合があります。
ファイルサイズとパフォーマンスの問題
IFCはテキストベース(またはXMLベース)の形式であるため、複雑な曲面を多用したモデルや、過剰な属性情報を含んだモデルを変換すると、ファイルサイズが巨大化することがあります。読み込みに時間がかかり、ソフトの動作が重くなる原因となるため、前述のMVD設定や書き出し設定で「必要な要素のみ」を出力するよう調整が必要です。
変換前のマッピング設定の重要性
高品質なIFCデータを作成するためには、書き出す前の準備が重要です。各BIMソフトにはIFC変換設定機能があり、自社のソフト上の「カテゴリ(例:壁、床)」を、IFC上のどの「クラス(例:IfcWall, IfcSlab)」に割り当てるかというマッピング設定を行う必要があります。この設定が適切でない場合、壁が家具として認識されるなどの不具合が生じます。
まとめ:IFCはBIMによる建設DXを支える重要なインフラ
IFCは単なるファイル変換の拡張子ではなく、建設業界全体のデータ連携とデジタル・トランスフォーメーション(DX)を支える重要なインフラです。
- ネイティブデータは「作成・編集」のため、IFCデータは「連携・保存」のためという役割の違いを理解する。
- バージョン(2x3 / 4)やMVDの特性を知り、目的に応じて使い分ける。
- 完全な互換性を過信せず、マッピング設定などでデータの品質管理を行う。
これらのポイントを押さえ、適材適所でIFCを活用することが、BIMプロジェクト成功の鍵となります。今後、Open BIMの概念が浸透するにつれ、IFCの重要性はさらに増していくでしょう。
よくある質問(FAQ)
IFCに関して、実務現場や導入検討時によく寄せられる質問をまとめました。
Q1. IFCファイルは無料のビューアーで見られますか?
はい、可能です。「Solibri Anywhere」や「BIMvision」など、多くの高機能な無料IFCビューアーが存在します。専用のBIMソフト(オーサリングツール)を持っていなくても、発注者や施工管理者が建物の形状や属性情報を確認することができます。
Q2. IFCデータがあれば、他のBIMソフトで修正・編集はできますか?
基本的には参照用としての性質が強く、編集には向きません。他のBIMソフトで読み込む(インポートする)ことは可能ですが、壁や窓といったパラメトリックな属性が崩れたり、単なる3D形状の塊として認識されたりすることが多いため、大幅な修正が必要な場合は元のネイティブデータで行うのが一般的です。
Q3. 最新のIFC4を使えば間違いありませんか?
必ずしもそうではありません。IFC4は機能的に優れていますが、データを受け取る相手側のソフトがIFC4に完全対応していない場合、形状が表示されなかったり、情報が欠落したりする恐れがあります。現状の実務では、最も互換性が高く安定しているIFC2x3が指定されるケースが多くあります。事前に受け渡し相手と対応バージョンを確認することをお勧めします。
[出典:buildingSMART International Technical Site]
[出典:ISO 16739-1:2018 Industry Foundation Classes (IFC) for data sharing in the construction and facility management industries]





