「BIM」の基本知識

LODとは?BIM設計における精度の考え方を解説


更新日: 2025/11/11
LODとは?BIM設計における精度の考え方を解説

この記事の要約

  • LOD(情報モデル詳細度)の基本概念を解説
  • BIMで用いるLOD 100~500の5段階を比較
  • LOD設定のメリットと失敗しないための注意点
目次
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LODとは?BIM設計に不可欠な「情報モデル詳細度」の概念

LOD(Level of Development)とは、BIMモデルに含まれる情報の「詳細度」と「信頼度」を定義する尺度です。単なる見た目の細かさではなく、その情報に基づいて信頼できる意思決定が可能かを示します。BIMプロジェクトの関係者が共通認識を持つ基盤として不可欠であり、このセクションでは、LODの基本的な定義と、なぜ現代のBIM設計において重要視されているのかを解説します。

そもそもLOD(Level of Development)とは

LODは「Level of Development」の略語で、日本語では「情報モデル詳細度」や「達成度レベル」と訳されます。これは、BIM(Building Information Modeling)モデルに含まれる形状情報や属性情報が、プロジェクトの各段階においてどの程度詳細で、信頼できるものであるかを示す尺度です。

ここで重要なのは、LODが単なる「見た目の細かさ(Level of Detail)」だけを指すのではない点です。その情報に基づいて「どれだけ信頼できる意思決定ができるか」という「情報の信頼度」も含む、より広範な概念です。例えば、LOD 300の柱は、正確な寸法でモデリングされているだけでなく、その情報(寸法、材質など)が積算や干渉チェックに使用できるレベルにあることを意味します。

なぜ今、BIM設計でLODが重要視されるのか

BIMプロジェクトにおいてLODが重要視される最大の理由は、関係者間の認識のズレを防ぎ、作業の過不足をなくすためです。BIMは、企画・設計から施工、維持管理に至るまで、建築プロジェクトのライフサイクル全体で情報を一元管理するプロセスです。しかし、関係者全員が最初から最後まで同じ詳細度の情報を必要とするわけではありません。

  • 初期段階(企画・設計):全体のボリュームやコスト検討のため、大まかな情報(LOD 100〜200)が必要。
  • 施工段階:部材の製作や干渉チェックのため、非常に詳細な情報(LOD 350〜400)が必要。
  • 維持管理段階:修繕履歴や点検情報など、運用に必要な属性情報(LOD 500)が必要。

LODを定義することで、「どの段階で、どの程度の情報が必要か」を明確にし、BIMモデル作成の過不足を防ぎ、関係者間のスムーズな合意形成を促すために不可欠な指標となっています。

LODと「LODn」「LOI」との違い

LODを理解する上で、しばしば混同される「LODn」と「LOI」という用語との違いを明確にすることが重要です。LOD (Level of Development) は、これら二つの側面(形状と情報)を総合した「信頼度」を示す指標です。

以下に、3つの用語の違いをまとめます。

用語 正式名称 指標の焦点 具体例
LOD Level of Development 開発(達成)レベル 形状と情報の両方を含めた「総合的な信頼度」。積算や施工に使えるか。
LODn Level of Detail 形状の詳細度 見た目の細かさ。3Dモデルのポリゴン数やディテールの作り込み。
LOI Level of Information 情報の詳細度 属性情報(非形状情報)。材質、コスト、メーカー名、耐火性能など。

近年、BIMの活用が維持管理フェーズにも拡大するにつれ、形状(LODn)と情報(LOI)を分けて定義する考え方も重要視されています。

BIMにおけるLODの5段階レベル(LOD 100~500)

LODは一般的に、米国のAIA(米国建築家協会)が定義した基準に基づき、100から500までの5段階(または施工詳細度を示すLOD 350を含む6段階)で分類されます。各レベルがどのような状態を示し、どのプロジェクトフェーズで活用されるのかを具体的に解説します。

LOD 100:概念設計レベル

モデル要素は、概念的なマス(塊)やシンボルとして表現されます。まだ具体的な形状、サイズ、位置は定義されていません。あくまで「そこに何かがある」ことを示すレベルです。

  • 主な用途:プロジェクトの初期段階(企画・基本構想)での配置検討、ゾーニング(用途別の色分け)、超概算のコスト算出など。

LOD 200:概略設計レベル

モデル要素は、概略的な形状、サイズ、位置、向きを持つ「一般的な」オブジェクトとして表現されます。例えば、「幅900mmの一般的なドア」や「断面積が●●の一般的な柱」といったレベルです。まだ特定のメーカー製品ではありません。

  • 主な用途:基本設計の初期段階でのボリュームスタディ、システム間の大まかな調整、デザインの方向性の確認、概算積算など。

LOD 300:基本設計・実施設計レベル

モデル要素は、設計意図に基づき、正確な形状、サイズ、位置、向き、および数量が定義されます。特定のメーカー製品に依存しない、設計図書として成立するレベルの詳細度です。

  • 主な用途:実施設計、各種申請業務(建築確認など)、施工者への設計意図の伝達、詳細積算、基本的な干渉チェックなど。実務上のBIM設計では、このLOD 300が基準となることが多いです。

LOD 400:製作・施工レベル

モデル要素は、部材の製作(Fabrication)や組み立て、現場での施工に必要な詳細情報(接合部のディテール、製造情報、アンカーボルトの位置など)を含みます。特定のメーカー製品の製作情報が反映されます。

  • 主な用途:施工図の作成、プレファブ部材の製作図、詳細な干渉チェック(施工誤差も考慮)、施工シミュレーションなど。主に施工者が担当するレベルです。

LOD 100の概念的なブロックからLOD 500の詳細なBIMモデルへと段階的に詳細化されていく様子を示す図

LOD 500:竣工・維持管理レベル

モデル要素は、実際に施工され、竣工した状態を正確に反映(As-Builtモデル)しています。LOD 400との違いは、製作情報ではなく「完成形」の情報である点です。さらに、維持管理に必要な属性情報(メーカー名、型番、保証期間、点検履歴、マニュアルへのリンクなど)が付加されます。

  • 主な用途:竣工図書の代替、ファシリティマネジメント(FM)、長期修繕計画の策定、設備の保守点検管理など。

【一覧表】各LODレベルの定義と活用フェーズ

以下は、LOD 100から500までの定義と主な活用フェーズをまとめた一覧表です。

LODレベル 名称(目安) モデル要素の定義 主な活用フェーズ
LOD 100 概念設計レベル 要素が概念的に存在することを示すシンボルやマス(塊) 企画、基本構想
LOD 200 概略設計レベル 要素の概略的な形状、サイズ、位置が分かる(汎用オブジェクト) 概略設計、基本設計(初期)
LOD 300 基本設計・実施設計レベル 要素の正確な形状、サイズ、位置、向きが分かる(設計意図) 基本設計(詳細)、実施設計
LOD 400 製作・施工レベル 製作や施工に必要な詳細情報(部材の接合部、製造情報)を含む 施工図、製作図作成
LOD 500 竣工・維持管理レベル 竣工時の状態が正確に反映され、維持管理情報が付加されている 竣工、維持管理
[出典:AIA Document G202™–2013, Project BIM Protocol Form に基づく一般的な分類]

BIMプロジェクトでLODを設定するメリット

LODをプロジェクトの初期段階で明確に定義し、関係者間で合意することは、BIMプロジェクトの成功に直結します。LODを設定することで得られる具体的なメリットは、主に「合意形成」「効率化」「品質向上」の3点に集約されます。

プロジェクト関係者間の認識ズレを防止

LODを設定する最大のメリットは、関係者間の共通言語として機能し、期待値のズレを防ぐことです。設計者、ゼネコン、サブコン、発注者など、多くの関係者が関わるBIMプロジェクトでは、「どの程度の情報がモデルに入っているべきか」という認識が食い違いがちです。LODを共通言語として用いることで、「このフェーズでは、この部材はLOD 300まで作成する」といった具体的な合意が可能になり、トラブルを未然に防ぎます。

BIMモデル作成の作業効率化と手戻りの削減

LODは、作業の「やりすぎ」と「やらなさすぎ」を防ぎ、コストと工数を最適化します。目的が不明確なまま、必要以上に詳細なモデル(オーバースペックなLOD)を作成してしまうと、膨大な工数がかかります。逆に、必要な情報(LOD)が不足していれば、後工程で「情報がないから使えない」となり、追加作業や手戻りが発生します。LODを適切に設定することで、各段階で必要な情報だけを効率的に作成できます。

データ活用の目的が明確化される

LODを設定するプロセスは、「何のためにBIMモデルを使うのか」という目的を明確化することに繋がります。「干渉チェックのため」「積算のため」「施工シミュレーションのため」といった目的が明確になれば、その目的を達成するために必要なLODも自ずと決まります。これにより、目的志向でBIMデータ活用の精度が向上します。

コストと精度のバランスを最適化

一般的に、LODが高くなる(詳細になる)ほど、モデル作成にかかるコスト(人件費、時間)は増加します。LODは、プロジェクトの予算やスケジュールの中で、コストと精度のバランスを取るための重要な判断基準となります。どの部分にコストをかけて詳細なモデルを作り、どの部分は概略(低いLOD)で留めるか、戦略的なリソース配分が可能になります。

BIM運用でLODを設定する際の注意点とよくある課題

LODはBIMプロジェクトを円滑に進めるための便利な指標ですが、その定義や運用方法を誤ると、逆にプロジェクトの混乱を招く可能性もあります。LODを設定する際に陥りがちな失敗や、運用上の注意点を理解しておくことが重要です。

目的を定めずにLODを設定してしまう

最も多い失敗が、「とりあえずLOD 300で」といったように、BIMモデル活用の目的を明確にしないまま、慣例的にLODを決めてしまうことです。「LOD 300のモデルを作ったのに、積算に使えなかった」という事態は、積算に必要な属性情報がLOD 300の定義に含まれていなかったために起こります。必ず「何に使うか」を先に決める必要があります。

すべての要素に一律のLODを適用しようとする

プロジェクトのフェーズが同じでも、すべての部材(柱、梁、壁、設備配管、家具など)に同じLODが必要とは限りません。例えば、実施設計段階であっても、構造躯体はLOD 300、内装の可動家具はLOD 200で十分、といった場合があります。要素ごと(または部位ごと)に適切なLODを設定する柔軟さが求められます。

必要以上に高いLODを目指してしまうリスク

LOD 400(製作・施工レベル)やLOD 500(維持管理レベル)は非常に詳細ですが、その作成には高度なBIMスキルと多大な工数が必要です。特にLOD 500(竣工モデル)は、維持管理に不要な情報まで含めると、データが重くなりすぎて実務で使えない「重いだけのデータ」になるリスクがあります。どの情報を残すかを厳選する必要があります。

LODの定義が関係者間で共有されていない

「LOD 300」という言葉を使っていても、A社(設計事務所)とB社(ゼネコン)でその解釈(どこまでの情報を含むか)が異なる場合があります。AIAの定義をベースにしつつも、プロジェクト固有のルールとして「今回のLOD 300では、具体的にどの属性情報まで入力するか」を文書化し、関係者全員で共有することが不可欠です。

BIMの成果を最大化するLODの効果的な活用法

LODの注意点を踏まえ、BIMプロジェクトの成果を最大化するためにLODを効果的に活用する手順と考え方を解説します。重要なのは、「目的の明確化」と「ルールの文書化」です。

1. プロジェクトの目的とフェーズに応じてLODを定義する

まず最初に行うべきは、「何のためにBIMを使うのか」という目的(発注者が要求するEIR:発注者情報要件)を明確にすることです。

  • 目的の例:「意匠の確認」「コストの算出」「施工時の干渉チェック」「竣工後の維持管理」など。
その上で、プロジェクトの各フェーズ(企画、基本設計、実施設計、施工、維持管理)ごとに、その目的を達成するために「どの部材が」「どのLODに」達している必要があるかを定めます。

2. 「いつ」「誰が」「どの情報を」「どの程度」入力するか明確にする

LODの定義には、形状の詳細度だけでなく、「情報」の定義も含まれます。以下の点を明確にし、責任分担を定めます。

  • いつまでに(どのフェーズで)
  • 誰が(設計者、施工者、専門工事業者)
  • どの情報(部材の寸法、材質、メーカー名、コストなどの属性)
  • どの程度(LOD 300レベル、LOD 400レベル)
上記を入力するのか、という情報入力のルールを明確にすることで、後工程での情報不足や責任の押し付け合いを防ぎます。

3. BEP(BIM実行計画書)でLODを文書化・合意する

LODの定義や運用ルールは、口頭や曖昧な認識のまま進めるのではなく、BEP(BIM Execution Plan:BIM実行計画書)に明記します。

BEP(BIM実行計画書)とは?

BEPは、プロジェクト関係者全員が参照する「BIM運用の憲法」のようなものです。このBEPに、LODの定義表(どの部材をLODいくつにするか)、各フェーズでの達成目標、データの受け渡し方法などを具体的に文書化します。

プロジェクトのキックオフミーティングなどでBEPの内容を関係者全員で共有し、合意形成を図ることが、プロジェクト成功の鍵となります。

BIM実行計画書(BEP)を囲み、LOD(情報モデル詳細度)について議論するプロジェクト関係者たち

まとめ:LODの理解がBIM設計の精度と効率を左右する

この記事では、BIM設計におけるLOD(情報モデル詳細度)の概念について、その定義から具体的な活用法、注意点までを網羅的に解説しました。

LOD活用の重要ポイント
  • LODは、BIMモデルの形状情報の信頼度を示す尺度です。
  • LODは一般的にLOD 100(概念)からLOD 500(維持管理)まで、プロジェクトのフェーズに応じて段階的に定義されます。
  • LODを適切に設定・運用することで、関係者間の認識ズレを防ぎ作業の効率化手戻りの削減に繋がります。
  • 成功の鍵は、目的を明確にし(何に使うか)、そのルールをBEP(BIM実行計画書)で文書化・共有することです。

LODは、単なるBIMの専門用語ではなく、プロジェクトの品質、コスト、スケジュールを管理し、BIMのメリットを最大限に引き出すための実践的なコミュニケーションツールです。LODを正しく理解し活用することが、これからのBIM設計においてますます重要になるでしょう。

BIMとLODに関するよくある質問

Q. LODは法的に定められた基準ですか?

A. いいえ、LODは法的な拘束力を持つ基準ではありません。米国のAIA(米国建築家協会)や英国のBSI(英国規格協会)などがガイドラインを示していますが、あくまでプロジェクト関係者間の「合意」の尺度として使われます。
ただし、国や地域によっては、公共事業などで特定のLODを要求する基準(例:日本の国土交通省が示すBIMガイドライン)が定められている場合があります。

Q. 日本独自のLOD基準はありますか?

A. 日本国内で統一された単一のLOD基準はまだ確立されていませんが、国土交通省の「BIMガイドライン」や、J-BIM(日本BIM標準)などで、実務に即したLODの考え方や参照すべき基準が示されています。多くのプロジェクトでは、米国のAIA定義を参考にしつつ、日本の商慣行やプロジェクトの特性に合わせてカスタマイズして運用されているのが実情です。

Q. 小規模なプロジェクトでもLODは必要ですか?

A. はい、必要です。プロジェクトの規模に関わらず、BIMモデルを「どの程度まで作り込むか」という合意は必ず発生します。LODという共通言語を使うことで、小規模なプロジェクトであっても、発注者と設計・施工者間の認識のズレを減らし、効率的にBIMを活用できます。大規模プロジェクトのように厳密な5段階でなくても、「概略レベル」「実施設計レベル」「施工レベル」といった形でLODの考え方を取り入れることが有効です。

[出典:AIA Document G202™–2013, Project BIM Protocol Form]
[出典:国土交通省 建築BIM推進会議 関連資料]

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