CCUSと建設業法改正の関係とは?制度背景をわかりやすく解説

この記事の要約
- 建設業法改正とCCUSの深い関係性
- CCUS(建設キャリアアップシステム)の基本
- 建設業者がCCUSに対応すべき理由
- 目次
- 建設業法改正で注目されるCCUSとは?まず基本を解説
- CCUS(建設キャリアアップシステム)の概要
- CCUS導入の目的とメリット
- なぜ今?建設業法改正の背景と主なポイント
- 建設業が抱える深刻な課題
- 2020年(令和2年)改正建設業法の概要
- CCUSと建設業法改正の具体的な関係性
- 法改正がCCUSの普及を後押しする理由
- 改正法におけるCCUSの位置づけ
- 【比較】CCUS導入企業と未導入企業の影響
- 建設業者がCCUSに対応するために必要なこと
- CCUS導入の基本的な流れ(HowTo)
- 導入時の注意点とよくある疑問(読者の不安解消)
- CCUS未登録の場合のデメリット
- まとめ:建設業法改正とCCUS対応で目指す未来
- CCUSと建設業法改正に関するよくある質問
建設業法改正で注目されるCCUSとは?まず基本を解説
建設業界で急速に普及が進むCCUS(建設キャリアアップシステム)は、建設業法改正の動向とも密接に関連しています。このセクションでは、まずCCUSがどのような制度であり、なぜ導入が進められているのか、その基本的な仕組みと目的を解説します。
CCUS(建設キャリアアップシステム)の概要
CCUSとは「Construction Career Up System」の略称で、日本語では「建設キャリアアップシステム」と呼ばれます。
これは、建設業界で働く技能者(職人)一人ひとりの就業履歴や保有資格、受講した研修などの情報を、業界統一のルールに基づいて電子的に蓄積・管理するデータベースシステムです。
技能者はICチップが内蔵された「CCUSカード」を現場で提示し、専用のカードリーダーで読み取ることで、日々の就業履歴が自動的に記録されます。これにより、個々の技能者が「いつ、どの現場で、どのような作業に従事したか」という客観的なデータが蓄積されていきます。

CCUS導入の目的とメリット
CCUSが国土交通省主導で推進されている背景には、建設業界の構造的な課題を解決し、将来にわたって持続可能な産業にするという強い目的があります。導入によるメリットは、技能者側と事業者側の双方に存在します。
- CCUS導入による主なメリット
・技能者(労働者)側のメリット
・客観的なスキル証明:経験や資格がデータとして蓄積されるため、転職や応援の際にも自身の能力を客観的に証明できます。
・キャリアパスの明確化:経験レベル(レベル1~4)が明確になり、目指すべきキャリアパスが見えやすくなります。
・適正な評価・処遇の実現:蓄積されたデータに基づき、能力や経験に応じた適正な評価や賃金(処遇)を受けやすくなる環境が整備されます。・事業者(企業)側のメリット
・技能者の能力把握:自社の技能者だけでなく、下請け企業の技能者の保有資格や経験レベルを正確に把握できます。
・施工体制の透明化:現場に入場する作業員の情報を正確に管理でき、施工体制台帳の作成など事務作業の効率化にも繋がります。
・人材育成の効率化:個々の技能者の経験や不足している資格が可視化されるため、計画的な人材育成が可能になります。
・社会保険加入促進:CCUSの登録には社会保険の加入が原則として必要となるため、業界全体の社会保険加入を促進する効果があります。
なぜ今?建設業法改正の背景と主なポイント
CCUSの普及と時を同じくして、建設業法も大きな改正が行われました。この法改正は、建設業界が直面する喫緊の課題に対応するために実施されたものです。ここでは、法改正が必要となった背景と、その主な改正点について解説します。
建設業が抱える深刻な課題
建設業法改正が急がれた背景には、建設業界が抱える以下のような深刻な課題があります。
・深刻な人手不足と高齢化:建設技能者の数はピーク時から大きく減少しており、特に若年層の入職者が少ない一方で、既存の技能者の高齢化が急速に進んでいます。
・長時間労働の常態化:他の産業と比較して長時間労働の傾向が依然として強く、週休2日の確保が難しい現場も多いことが課題とされてきました。
・若年層の入職者減少と定着率の低さ:労働環境の厳しさやキャリアパスの不透明さから、若者が建設業を魅力的な職業として選択しづらい状況がありました。
・社会保険の未加入問題:一部の事業者や労働者において社会保険への加入が徹底されておらず、労働者のセーフティネットとして問題視されていました。
これらの課題を放置すれば、将来的に社会インフラの維持・更新や災害対応が困難になる恐れがあり、持続可能な産業構造への転換が急務とされていました。
2020年(令和2年)改正建設業法の概要
こうした課題に対応するため、2020年(令和2年)10月1日に施行されたのが改正建設業法です。(一部段階的に施行)
この改正は、建設業の「働き方改革の推進」「生産性の向上」「持続可能な事業環境の整備」を三本柱としています。
- 改正建設業法の主要ポイント
・1. 働き方改革の促進
・工期の適正化:著しく短い工期による請負契約の締結を禁止し、適正な工期設定を義務化。
・下請代金へのしわ寄せ防止:元請負人に対し、工期に影響を及ぼす事象に関する情報提供を義務化。・2. 施工技術の確保
・技術者配置要件の緩和:一定の要件を満たす「技士補」を配置することで、監理技術者の兼務を容認。
・下請け企業の施工能力の活用:一定の要件下で、下請企業の主任技術者の配置を不要とする(特定専門工事)。・3. 社会保険への加入徹底
・建設業許可の基準として、社会保険への加入を必須化。(経過措置あり)・4. 経営業務の管理責任体制の整備
・従来の「経営業務の管理責任者(経管)」の設置要件を緩和し、組織として経営管理能力を有することを求める体制に変更。
[出典:国土交通省「建設業法改正の概要」]
CCUSと建設業法改正の具体的な関係性
改正建設業法とCCUSは、一見すると別々の制度のように思えますが、実は深く連動しています。法改正が目指す「建設業界の健全化」を実現するための重要なツールとして、CCUSが位置づけられているのです。
法改正がCCUSの普及を後押しする理由
改正建設業法が目指す方向性は、「技能者の労働環境を改善し、その能力を適正に評価することで、将来の担い手を確保・育成する」という点にあります。
この目的を達成するためには、まず「誰が、どのようなスキルを持ち、どのように働いているか」を客観的に把握する必要があります。
・適正な評価の土台:CCUSは、技能者の経験や資格を「見える化」します。これにより、改正法が目指す「適正な評価に基づく処遇改善」の土台が整います。
・働き方改革の裏付け:CCUSで就業履歴を記録することは、労働時間や休日の実態把握にも繋がります。これは「工期の適正化」や「長時間労働の是正」といった法改正の趣旨を現場レベルで担保するために役立ちます。
・社会保険加入の確認:改正法で厳格化された「社会保険への加入徹底」において、CCUSの登録情報が社会保険の加入状況を確認する手段の一つとして機能します。
このように、建設業法改正の理念を現場で具体的に実行・管理するためのインフラ(基盤)として、CCUSの導入と活用が実質的に促進されています。
改正法におけるCCUSの位置づけ
法改正とCCUSの連動性は、具体的な国の施策にも表れています。最も代表的なものが「経営事項審査(経審)」における扱いです。
経営事項審査(経審)とは、公共工事を発注者(国や地方公共団体)から直接請け負おうとする建設業者が必ず受けなければならない審査です。この審査結果(点数)が、入札参加資格の格付けに大きく影響します。
2023年(令和5年)1月の経審改正により、CCUSの活用状況が「W点(その他社会性等)」の評価項目として新たに追加されました。
・CCUSレベル別評価:CCUSに登録された技能者のうち、一定の経験を積んだ「レベル2以上」の技能者の割合に応じて加点されます。
・就業履歴の蓄積:CCUSの現場での就業履歴(レベルアップに必要な経験)が蓄積されていることが評価の前提となります。
これは、「CCUSを導入し、技能者の育成・レベルアップに積極的に取り組んでいる企業」を国が公的に評価し、公共工事の受注において優遇するという明確なメッセージです。法改正と連動し、CCUSの活用が企業の競争力に直結する仕組みが導入されたのです。
[出典:国土交通省「経営事項審査の主な改正事項(令和5年1月)」]
【比較】CCUS導入企業と未導入企業の影響
建設業法改正への対応という観点から、CCUSを導入している企業と未導入の企業では、以下のような違いが生じる可能性があります。
建設業法改正への対応における影響比較表
| 比較項目 | CCUS導入企業 | CCUS未導入企業 |
|---|---|---|
| 技能者の評価 | 客観的なデータ(保有資格・就業履歴)に基づき、適正な評価が可能。キャリアパスも示しやすい。 | 経験や能力の把握が難しく、評価が現場の管理者の主観的判断になりがち。 |
| 法改正対応 | 施工体制台帳や作業員名簿の作成が効率化される。社会保険加入状況の確認もデータで容易。 | 各種書類作成や、下請けを含む作業員の状況把握(社会保険加入等)に手間がかかる可能性。 |
| 経営事項審査 | 加点対象となり、公共工事の受注において有利になる可能性が高い。 | 加点が得られず、CCUS導入企業と比較して相対的に不利になる可能性。 |
| 人材確保 | スキルが適正に評価される「魅力ある職場」として、若年層や技能者へのアピールがしやすい。 | 人材確保や若手の定着において、キャリアパスや評価基準の明示が難しく、課題が残る可能性。 |
建設業者がCCUSに対応するために必要なこと
建設業法改正の趣旨に対応し、経審での加点や人材確保といったメリットを享受するためには、CCUSへの対応が不可欠です。ここでは、事業者がCCUSを導入するための基本的な流れと、導入時の注意点を解説します。

CCUS導入の基本的な流れ(HowTo)
事業者がCCUSを導入する手順は、大きく3つのステップに分けられます。
・ステップ1:事業者情報の登録
・目的:自社(元請け・下請け問わず)の企業情報をシステムに登録し、事業者IDを取得します。
・手順:CCUS公式ポータルサイトからオンラインで申請します。建設業許可番号、社会保険の加入状況、資本金などの情報を入力し、所定の登録料を支払います。
・ステップ2:技能者情報の登録
・目的:自社に所属する技能者や契約する一人親方の情報を登録し、ICカード(CCUSカード)の発行を受けます。
・手順:技能者本人の同意に基づき、氏名、住所、社会保険加入状況、保有資格証明書などを登録します。事業者が代行申請することも可能です。登録料とカード発行手数料が必要です。
・ステップ3:現場での就業履歴蓄積
・目的:現場での作業実績を日々記録し、技能者の経験として蓄積します。
・手順:元請け事業者が現場に専用のICカードリーダーを設置します。技能者は現場への入退場時、自身のCCUSカードをカードリーダーにかざします。これにより就業履歴データが自動的にシステムへ蓄積されます。
[出典:建設キャリアアップシステム ポータルサイト]
導入時の注意点とよくある疑問(読者の不安解消)
CCUS導入にあたっては、以下のような疑問や不安点が挙げられます。
・登録費用はどれくらいか?
・事業者登録料(資本金により変動)、技能者登録料(有効期限により変動)、現場利用料(就業履歴の蓄積数に応じて元請けが負担)などが発生します。初期費用だけでなく、ランニングコストも考慮する必要があります。
・運用に手間がかかるのでは?
・導入初期は、事業者や技能者の情報登録、カードリーダーの設置・管理、下請け業者への説明など、一定の事務コストが発生します。
・個人情報の扱いは大丈夫か?
・多くの個人情報を取り扱うため、登録にあたっては必ず技能者本人の同意を取り、情報が厳格に管理されていることを説明し、不安を取り除く必要があります。
・下請け業者への周知はどうする?
・元請け企業として現場を管理する場合、下請け企業の事業者・技能者にもCCUSの登録と現場でのカードタッチを徹底してもらう必要があります。なぜ必要なのか(法改正との関連、業界全体の取り組みであること)を丁寧に説明し、協力を得ることが重要です。
CCUS未登録の場合のデメリット
今後、CCUSへの登録・活用を進めない場合、以下のようなデメリットが顕在化する可能性があります。
・公共工事受注での不利(経審):経営事項審査での加点が得られないため、CCUSを導入している競合他社と比較して、入札で不利になるリスクが高まります。
・元請け企業からの要請:大手ゼネコンをはじめとする元請け企業の多くが、CCUSの登録を現場入場の条件としたり、登録状況を取引先の選定基準に加えたりする動きを強めています。未登録の場合、受注機会を失う可能性があります。
・人材確保・育成の困難:CCUSによるキャリアパスの明示や適正な評価ができない企業は、若年層や優秀な技能者から選ばれにくくなり、人材の確保・定着がより困難になる恐れがあります。
まとめ:建設業法改正とCCUS対応で目指す未来
本記事では、CCUS(建設キャリアアップシステム)と建設業法改正の関係性、そしてその背景にある制度の目的について解説しました。
建設業法改正は、人手不足や長時間労働といった建設業界の構造的な課題を解決し、持続可能な産業構造へと転換するために行われました。そして、CCUSは、その法改正が目指す「技能者の適正な評価」「労働環境の改善」「生産性の向上」を実現するための重要な社会インフラとして位置づけられています。
CCUSへの対応は、単に経営事項審査(経審)で加点を得るためだけのものではありません。客観的なデータに基づいて技能者を適正に評価・処遇し、キャリアパスを明確にすることは、若年層の入職促進と定着に不可欠です。
CCUSの導入・活用は、法改正という大きな変化に適応すると同時に、自社の競争力を高め、ひいては建設業界全体の魅力向上に貢献する、未来に向けた不可欠な取り組みと整理できます。
CCUSと建設業法改正に関するよくある質問
CCUSと建設業法改正に関して、事業者の皆様から寄せられることの多い質問とその回答をまとめます。
Q. CCUSの登録は法律上の義務ですか?
A. いいえ、法律上の義務ではありません(2025年10月現在)。
しかし、建設業法改正の趣旨や、経営事項審査(経審)における加点措置、国土交通省の推進姿勢、元請企業の動向(現場入場の条件化など)を踏まえると、事実上、建設事業者として登録と活用が強く推奨されている状況です。
Q. 改正建設業法はいつから全面的に適用されていますか?
A. 主要な部分は2020年(令和2年)10月1日に施行されました。
ただし、技術者配置要件の緩和に関する一部規定や、社会保険加入を許可要件とする経過措置の終了時期など、内容によって段階的に適用・完全施行されているものもあります。
Q. 小規模な事業者や一人親方でもCCUSに登録すべきですか?
A. はい、登録を強く推奨します。
小規模事業者や一人親方であっても、CCUSに登録するメリットは大きいです。自らの技能や経験を客観的に証明できるため、元請け企業や新たな取引先に対して信頼性を高めることができます。また、適正な評価に基づく単価交渉や、仕事の確保に繋がる可能性も期待できます。




