「CIM」の基本知識

CIM導入で業務効率化とコスト削減は可能か?具体策を紹介


更新日: 2025/12/09
CIM導入で業務効率化とコスト削減は可能か?具体策を紹介

この記事の要約

  • CIMは土木現場の全工程を3Dデータで一元管理する手法
  • 手戻り削減と情報共有で業務効率化とコスト削減を実現
  • 導入はツール選定と人材育成の計画的なステップが鍵
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CIMとは何か?建設業界における定義と重要性

CIM(Construction Information Modeling/Management)は、建設現場の生産性向上における重要な手法として注目されています。本セクションでは、CIMの定義と、混同されがちなBIMとの違いについて、国土交通省の定義に基づき明確に解説します。

CIM(Construction Information Modeling/Management)の基本概念

CIM(シム)とは、土木工事の調査・設計・施工・維持管理という建設生産システムの全フェーズにおいて、3次元モデルとそれに関連する属性情報を連携・活用する仕組みのことです。

単に図面を3D化するだけでなく、モデル一つひとつに「部材の材質」「強度」「施工年月日」などの情報(属性情報)を付与することが最大の特徴です。これにより、関係者間での情報共有を容易にし、一連の建設生産システムの効率化・高度化を図ることを目的としています。

CIM活用の主なフェーズと目的
  • 調査・設計段階
    地形や構造物を3次元で再現し、複雑な形状を視覚化して設計品質を向上させる。

  • 施工段階
    ICT建機とのデータ連携や、施工手順の4Dシミュレーションにより安全性を確保する。

  • 維持管理段階
    施工時の履歴データを参照し、点検や補修計画の策定を効率化する。

CIMとBIMの違い

CIMとBIMは、どちらも3次元モデルとデータベースを活用する点では共通していますが、対象とする分野重視される要素に明確な違いがあります。

一般的に、BIM(Building Information Modeling)はビルや住宅などの「建築分野」を対象とし、CIMはダム、トンネル、橋梁などの「土木分野」を対象とします。土木分野では自然の地形や地質という不確定要素を扱うため、CIMでは地形モデルとの整合性がより重要視されます。

以下の表は、CIMとBIMの主な違いを整理したものです。

項目 CIM (Construction Information Modeling) BIM (Building Information Modeling)
主な対象 土木構造物(ダム、橋梁、道路、トンネル等) 建築物(ビル、住宅、商業施設等)
特徴 地形や地質など、不確定要素への対応が重要 規格化された部材の組み合わせが中心
管轄 主に国土交通省(土木分野) 主に国土交通省(建築分野)
主な目的 インフラのライフサイクル全体管理 建物の設計・施工・管理の効率化

[出典:国土交通省「CIM導入ガイドライン」等の資料に基づく整理]

CIM導入で実現する業務効率化とコスト削減のメリット

CIM導入には初期投資が必要ですが、プロジェクト全体で見れば業務効率化とコスト削減は十分に可能です。ここでは、なぜCIMがコスト削減につながるのか、その構造的な理由を「フロントローディング」「情報共有」「維持管理」の3つの観点から解説します。

タブレットで3Dモデルを確認しながら打ち合わせをする建設現場の作業員

フロントローディングによる手戻りの削減

CIM導入による最大のコスト削減効果は、フロントローディング(業務の前倒し)によって生まれます。

従来の2次元図面では、施工段階になって初めて「配管と構造物が干渉している」「複雑な配筋が納まらない」といった問題が発覚することが多くありました。これによる設計変更や手戻り工事は、工期の遅延と追加コストの主因となります。

CIMを用いて設計段階で精緻な3次元モデルを作成し、コンピューター上で干渉チェックを行うことで、これらの問題を未然に解決できます。施工段階でのトラブルを設計段階で潰しておくことで、結果としてトータルの工期短縮とコスト圧縮が実現します。

情報共有の迅速化と合意形成の円滑化

3次元モデルによる視覚化は、専門知識を持たない関係者とのコミュニケーションコストを大幅に削減します。

3D可視化による具体的な効果
  • 発注者・住民への説明
    平面図や断面図では理解しにくい完成イメージを、3Dモデルやウォークスルー動画で提示することで、事業説明会などでの理解度が向上し、合意形成までの時間を短縮できます。

  • 現場間の共有
    クラウドシステムを利用して最新のCIMデータを共有することで、「古い図面で施工してしまった」といった連絡ミスを防ぎます。また、遠隔地からでも現場の状況を把握できるため、移動コストや会議時間の削減にも寄与します。

属性情報の活用による維持管理の効率化

CIMの真価は、構造物が完成した後の維持管理フェーズでも発揮されます。

CIMモデルには、使用されたコンクリートの配合、鉄筋のメーカー、施工時の天候や担当者などの属性情報が記録されています。数十年後の点検や補修の際、膨大な紙の資料から情報を探す必要がなくなり、モデルをクリックするだけで必要な情報にアクセスできます。これにより、インフラの長寿命化計画の策定やメンテナンス業務の効率化が進み、ライフサイクル全体でのコスト削減が可能となります。

失敗しないCIM導入の3ステップ手順

CIMの効果を最大化し、コスト削減を実現するためには、無計画なツール導入は禁物です。ここでは、導入を成功させるための具体的な手順を3つのステップに分けて解説します。自社の状況に合わせ、段階的に進めることが重要です。

オフィスで3次元CADソフトを使用してCIMモデルを作成するエンジニア

STEP1:自社に適したソフトウェア・ハードウェアの選定

最初のステップは、自社の業務内容(設計中心か、施工管理中心か)に合わせた環境構築です。CIMソフトは高機能ですが、PCにも高い処理能力が求められます。

  • ソフトウェアの選定
    3次元CAD、点群処理ソフト、統合管理ソフトなど、データ互換性(IFC形式対応など)を確認して選定します。

  • ハードウェアの選定
    3Dモデルをスムーズに動かすため、GPU(グラフィックボード)を搭載したワークステーションクラスのPCが必要です。

以下の表は、主なCIMツールの種類と用途を整理したものです。

ツールカテゴリ 主な用途・機能 選定のポイント
3次元CAD 設計、モデリング、図面作成 操作性、ファイル互換性(IFC形式等)
統合管理ソフト 各種データの統合、干渉チェック 他ソフトとの連携のスムーズさ
点群処理ソフト ドローン測量データの処理、地形モデル化 処理速度、精度の高さ

STEP2:社内体制の整備と人材育成

ツールを導入しても、それを操作できる人材がいなければ業務効率化は進みません。以下の役割を明確にし、育成計画を立てます。

  • CIMマネージャーの配置
    データの運用ルール策定や、フォルダ構成の管理など、プロジェクト全体の情報を統括する責任者を決めます。

  • オペレーターの育成
    外部の講習会やベンダーのトレーニングを活用し、3Dモデリングスキルを習得させます。国土交通省が推奨するカリキュラムなどを参考にするのも有効です。

STEP3:モデル事業による段階的な導入と検証

いきなり全現場でフル活用しようとすると、現場の混乱を招きます。「スモールスタート」が成功の鍵です。

  • 1. 対象現場の選定
    比較的小規模な工事や、地形変化の少ない現場をパイロット現場として選びます。

  • 2. 部分的な活用
    最初は「土量計算のみ」「完成イメージの共有のみ」など、CIMの機能を限定して使用します。

  • 3. 効果測定と横展開
    従来手法と比べて「何時間短縮できたか」「ミスが何件減ったか」を定量的に評価し、そのノウハウをマニュアル化して他現場へ展開します。

CIM導入における「よくある不安」と解決策

新たなシステムを導入する際には、コストやスキル面での不安がつきものです。ここでは、多くの建設企業が抱える代表的な不安と、それに対する現実的な解決策を提示します。

初期投資コスト(導入費用)への懸念

高額なライセンス料やハイスペックPCの導入費用は大きなハードルです。しかし、これらはIT導入補助金や、国土交通省の人材開発支援助成金などを活用することで負担を軽減できる可能性があります。

また、長期的には手戻りの削減や生産性向上による利益率の改善が見込めるため、目先の費用だけでなく、ROI(投資対効果)の観点で経営判断を行うことが重要です。

現場のデジタルスキル不足への対応

「現場のベテラン職人がデジタルツールを使いこなせるか」という不安もよく聞かれます。

すべての作業員がCADを操作する必要はありません。現場では、直感的に操作できる無料のビューワーソフトや、タブレット端末を活用することで、複雑な操作なしに3Dモデルを閲覧・確認できる環境を整えるのが解決策となります。操作説明会を実施し、心理的なハードルを下げることも有効です。

データ互換性と標準化の課題

異なるメーカーのソフト間ではデータが正しく読み込めない等の互換性の問題が発生することがあります。

これに対応するため、国土交通省は国際標準規格である「IFC形式」「LandXML」でのデータ受け渡しを推奨しています。「CIM導入ガイドライン」等の公的な基準に準拠した運用ルールを定めることで、データの互換性を保つことができます。

まとめ

CIMの導入は、単なる新しいツールの採用ではなく、建設生産プロセスそのものの変革です。

CIM導入の重要ポイントまとめ
  • プロセス全体の最適化
    フロントローディングによる施工トラブルの回避が最大のコスト削減効果を生む。

  • 情報の可視化
    3Dモデルによる合意形成のスピードアップがプロジェクトを円滑にする。

  • 長期的視点
    情報一元化により、将来的な維持管理コストの低減に寄与する。

初期コストや学習コストは発生しますが、これらを乗り越えた先には、業務効率化とコスト削減、そして人手不足時代を生き抜くための競争力が手に入ります。まずは補助金等を活用しつつ、小規模なモデル事業からCIMへの第一歩を踏み出すことをお勧めします。

よくある質問(FAQ)

最後に、CIM導入に関してよく寄せられる質問をまとめました。中小企業でのメリットや、関連する制度との関係性について回答します。

Q1. CIM導入は中小企業でもメリットがありますか?

はい、大きなメリットがあります。大規模な構造物に限らず、小規模な土木工事であっても、ドローン測量と連携した土量計算の自動化や、発注者へのわかりやすいプレゼンテーションによる信頼獲得など、業務効率化の恩恵は十分に得られます。

Q2. CIMとi-Constructionの関係は?

i-Construction(アイ・コンストラクション)は、建設現場の生産性を向上させることを目指す国土交通省の取り組み全体の名称です。CIMは、その取り組みの中核となる「ICTの全面的な活用」を支える重要な技術要素の一つと位置づけられています。

Q3. 導入にかかる費用の目安は?

導入するソフトウェアの種類、ライセンス数、必要なPCのスペックにより大きく異なりますが、一般的には数十万円から数百万円規模の初期投資が必要です。ただし、前述の通り国や自治体の補助金を活用することで、実質的な負担を大幅に抑えることが可能です。

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