CIM推進担当の役割とは?社内調整のポイントを解説

この記事の要約
- CIMとBIMの違いや定義を明確に解説
- 推進担当者の役割と導入計画の策定手順
- 社内調整を成功させる目的設定と現場連携
- 目次
- CIMとは?建設業界における定義と導入の背景
- CIM(Construction Information Modeling/Management)の基本概念
- CIMとBIMの違い
- なぜ今CIMが必要なのか(2023年度原則適用の影響)
- CIM推進担当に求められる3つの主要な役割
- 導入計画の策定とガイドラインの整備
- ソフトウェア・ハードウェア環境の選定と構築
- 社内教育と人材育成
- 社内調整を成功させるCIM導入のポイント
- 導入目的とメリットの可視化(KGI・KPIの設定)
- スモールスタートによる成功体験の積み上げ
- 現場技術者との連携と抵抗感の払拭
- CIM導入において比較検討すべき運用体制
- 内製化(自社運用)のメリットとデメリット
- アウトソーシング活用との比較
- CIM推進時によくある不安とその解決策
- 「コストが高すぎて導入できない」という不安
- 「現場の負担が増えるのではないか」という不安
- まとめ
- よくある質問(FAQ)
- Q1. CIMとBIMは全く別のものですか?
- Q2. CIM導入にはどのような資格が必要ですか?
- Q3. CIM推進担当は専任である必要がありますか?
CIMとは?建設業界における定義と導入の背景
建設業界で急速に導入が進むCIMですが、その本質は単なる3Dモデル化だけではありません。建設生産システム全体の効率化を目指す手法であり、正しい理解が社内調整の第一歩となります。ここではCIMの正確な定義とBIMとの違い、そして2023年度の原則適用がもたらす影響について、基礎から解説します。
CIM(Construction Information Modeling/Management)の基本概念
CIM(シム)とは、土木工事の調査・設計・施工・維持管理という一連の建設生産プロセスにおいて、3次元モデルとそれに関連付いた属性情報を一元的に管理・活用する手法です。
従来の2次元図面では、各プロセスで情報の分断が発生しやすく、手戻りやミスコミュニケーションの原因となっていました。CIMでは、地形や構造物を3次元で可視化するだけにとどまりません。材料の強度、寸法、施工時期、品質管理記録などのデータをモデルに付与することで、関係者間での情報共有を円滑にし、一連の建設プロセスの効率化・高度化を図ることがCIMの核心です。
CIMとBIMの違い
CIMとBIM(Building Information Modeling)は、概念としては非常に近しいものですが、適用される対象や特性に違いがあります。両者の違いを理解することは、適切なソフト選定や運用ルールの策定に不可欠です。
表:CIMとBIMの比較
| 比較項目 | CIM(シム) | BIM(ビム) |
|---|---|---|
| 主な対象分野 | 土木(橋梁、ダム、トンネル、道路、河川など) | 建築(ビル、住宅、商業施設、学校など) |
| 扱うオブジェクト | 地形や地盤など、自然の不定形な要素を多く含む | 柱、梁、窓など、工業化・規格化された部材が中心 |
| 座標系 | 測地座標系(地球上の緯度経度・標高)を重視 | 建物ごとのローカル座標系(通り芯)が中心 |
| 日本での管轄 | 国土交通省(i-Constructionの一環として推進) | 国土交通省(建築BIM推進会議などで推進) |
※現在、国土交通省ではこれらを合わせて「BIM/CIM(ビムシム)」と呼称し、土木・建築の垣根を超えたシームレスな連携を推進しています。
なぜ今CIMが必要なのか(2023年度原則適用の影響)
CIM導入が急務となっている最大の理由は、国土交通省による強力なトップダウン施策です。2023年度(令和5年度)より、BIM/CIMの原則適用が開始されました。これにより、直轄土木業務・工事においては、詳細設計や施工段階での3次元モデル活用が「例外」ではなく「標準」となりました。
また、法令対応以外の側面でも以下の必要性が高まっています。
- CIM導入が求められる実務的背景
- 建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の基盤
ICT施工(情報化施工)や遠隔臨場など、デジタル技術を活用した生産性向上のためには、ベースとなる3次元データが不可欠です。 - 「2024年問題」をはじめとする人手不足の解消
若手入職者の減少や熟練技術者の引退が進む中、少ない人数で高品質な施工を行うための省力化ツールとして機能します。 - 合意形成(コンセンサス)の迅速化
住民説明会や発注者協議において、専門知識がなくても理解できる3次元モデルを用いることで、手戻りを防ぎ、合意形成スピードを向上させます。
- 建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の基盤

CIM推進担当に求められる3つの主要な役割
CIM推進担当者は、単に新しいソフトを購入して配布する係ではありません。組織の業務フローを変革し、新しい働き方を定着させるプロジェクトマネージャーとしての役割が求められます。担当者が担うべき業務は、大きく以下の3つに分類されます。
導入計画の策定とガイドラインの整備
CIM導入を成功させるためには、自社の業務形態に合わせたルール作りが不可欠です。以下のステップで計画を策定します。
- 導入計画策定の3ステップ
- STEP1:現状の業務フローの棚卸し
現状の設計・施工フローを可視化し、どの工程(数量算出、図面作成、干渉チェック等)でCIMを活用するのが最も費用対効果が高いかを分析します。 - STEP2:運用ルール(ガイドライン)の策定
データの作成基準、フォルダ構成、レイヤ名、ファイル命名規則などを標準化します。ここが統一されていないと、後工程でデータ連携ができず、CIMのメリットが半減します。 - STEP3:リクワイアメント(要求事項)の確認
発注者(国や自治体)が求める納品形式(J-LandXMLなど)や、モデルの詳細度(LOD:Level of Detail)を確認し、社内基準に反映させます。
- STEP1:現状の業務フローの棚卸し
ソフトウェア・ハードウェア環境の選定と構築
3次元モデルを快適に扱うためには、一般的な事務用PC(Excelやメール用)とは比較にならないほど高性能な環境が必要です。ここへの投資を惜しむと、作業効率が著しく低下します。
- ハードウェア選定の目安(推奨スペック例)
CPU: Intel Core i7 または i9、Xeonなどの高性能プロセッサ
メモリ: 最低32GB、可能であれば64GB以上(大規模モデルを扱う場合)
GPU: NVIDIA RTX Aシリーズなどのプロフェッショナル向けグラフィックボード
ストレージ: 高速なSSD(NVMe対応)1TB以上 - ソフトウェア選定
3次元設計・モデリング: Autodesk Civil 3D, Revit など
統合・干渉チェック: Navisworks など
モデル作成補助: SketchUp, Rhinoceros など - クラウド環境(CDE)の整備
社内外の関係者間でデータを常に最新の状態で共有するための共通データ環境(CDE:Common Data Environment)を構築します。Autodesk Construction Cloud (ACC) などが代表的です。
社内教育と人材育成
ツール導入後、最も課題となるのが「使える人がいない」という問題です。計画的な人材育成が必要です。
- 階層別教育カリキュラムの作成
実務者向けには具体的な操作方法(モデリング、図面切り出し)の習得を、管理者向けにはモデルのチェック方法や発注者協議での活用法を教育します。 - 社内マニュアルの整備
ベンダーの汎用マニュアルではなく、「自社のルール」や「よくある作業」に特化した独自のマニュアル(動画マニュアルなど)を作成し、属人化を防ぎます。 - ヘルプデスク体制の構築
操作に行き詰まった際に質問できる窓口や、ナレッジベース(FAQ集、チャットツールの活用)を用意し、現場の学習コストを下げます。
社内調整を成功させるCIM導入のポイント
CIM推進担当者が直面する最大の壁は、技術的な問題よりも「人の問題」です。「忙しいから覚えたくない」「今のままで問題ない」という現場や、「コストに見合うのか」と問う経営層に対し、どのように社内調整を進めるべきか解説します。
導入目的とメリットの可視化(KGI・KPIの設定)
「流行りだから」「国が決めたから」という理由だけでは、社内の協力は得られません。相手の立場に合わせ、具体的なメリット(利益)を提示する必要があります。
- ステークホルダー別の説得ポイント
- 経営層への説得ポイント(ROI・競争力)
「入札競争力の強化」:工事成績評定点の加点対象となるため、次回の入札で有利になることを説明します。
「手戻りコストの削減」:過去の現場で発生した設計ミスによる手戻り損失額を試算し、CIMでそれが防げた場合の利益率改善を提示します。
KGI設定例:CIM活用案件の受注数増、利益率の向上 - 現場技術者への説得ポイント(業務効率化)
「残業時間の削減」:土量計算の自動化などで、長時間作業がなくなるメリットを伝えます。
「リスク回避」:現場で配管が干渉するトラブルなどを、着工前にPC上で発見できる安心感を強調します。
KPI設定例:数量算出時間の50%削減、協議回数の削減
- 経営層への説得ポイント(ROI・競争力)
スモールスタートによる成功体験の積み上げ
失敗するパターンの多くは、最初から「全社一斉導入」「全工程フルCIM化」を目指してしまうことです。現場の混乱を招かないよう、スモールスタートを徹底しましょう。
- パイロットプロジェクトの選定
比較的小規模で、かつCIMの効果が出やすい案件(複雑な構造物がある、土量計算が大変、住民説明が必要など)を戦略的に選びます。 - 特定のチームでのモデル運用
ITリテラシーが高く、新しい技術に前向きなメンバーがいる現場をモデルケースにします。 - 成功事例の横展開(社内PR)
「CIMを使ったらこれだけ楽になった」「発注者に褒められた」という実績を作り、社内報や報告会で共有します。現場の抵抗感を解消するには、同僚の成功体験が最も効果的です。
現場技術者との連携と抵抗感の払拭
現場には「新しいことを覚える負担」に対する強い抵抗感があります。これを解消するための具体的なアプローチリストです。
- 現場の抵抗感に対する具体的アプローチ
- 並走サポート(伴走型支援)
最初の案件は推進担当者が現場に入り込み、モデリングや操作を直接代行・サポートします。「やれ」と言うだけでなく「一緒にやる」姿勢が重要です。 - 「見るだけ」から始める
難しいモデリングを現場に強要せず、まずは「推進チームが作ったモデルをタブレットで見る」「寸法を測る」といった、便利さを享受できる体験を先に提供します。 - 評価制度への反映
人事部と連携し、CIM活用に積極的な社員や資格取得者を人事評価で加点・優遇する仕組みを提案します。
- 並走サポート(伴走型支援)
CIM導入において比較検討すべき運用体制
CIM推進において、すべての業務を自社社員だけで行う必要はありません。リソースやフェーズに応じて、アウトソーシングを有効活用することが重要です。
内製化(自社運用)のメリットとデメリット
- メリット
社内に技術ノウハウが蓄積され、企業の技術力が向上します。現場の急な設計変更にも即座にモデルを修正できる柔軟性があり、長期的には外注費を削減できます。 - デメリット
教育に多大な時間とコスト(数ヶ月〜年単位)がかかります。また、担当者が退職するとノウハウが失われるリスクがあり、立ち上げ期は生産性が一時的に低下する可能性があります。
アウトソーシング活用との比較
初期段階ではアウトソーシングを活用し、徐々に内製化へ移行する「ハイブリッド型」も有効な戦略です。
表:内製化とアウトソーシングの比較
| 比較項目 | 内製化(自社運用) | アウトソーシング(外注) |
|---|---|---|
| コスト構造 | 初期教育費+人件費(固定費化) | 案件ごとの外注費(変動費) |
| 立ち上げスピード | 遅い(習得期間が必要) | 速い(即戦力が利用可能) |
| ノウハウ蓄積 | ◎(資産として残る) | △(社内に残りにくい) |
| 品質の安定性 | 個人のスキルに依存しやすい | 専門業者のため一定品質を確保しやすい |
推奨される体制は、「高負荷なモデリング作成は外注」し、「モデルの活用・チェック・修正・属性情報の入力は自社」で行う分担です。これにより、コア業務に集中しながらCIM対応が可能になります。
CIM推進時によくある不安とその解決策
CIM推進担当者が社内から寄せられる典型的な不安の声と、それに対する回答例を整理しました。社内説得の際のQ&Aとして活用してください。
「コストが高すぎて導入できない」という不安
確かに初期投資(ソフト代、PC代、教育費)は高額に見えます。しかし、建設プロジェクト全体で見れば、ライフサイクルコストでの回収が可能です。
- 施工の手戻り防止
設計ミスや干渉の早期発見により、手戻り工事が1件減るだけで、ソフト代以上のコストが浮くケースも多々あります。 - 公的支援制度の活用
IT導入補助金や、人材開発支援助成金などの公的支援制度を活用することで、持ち出し費用を大幅に抑えることも可能です。
「現場の負担が増えるのではないか」という不安
導入初期は学習コストがかかるため、一時的に負担は増えることは事実です。しかし、一度モデルを作成してしまえば、その後の業務は劇的に楽になります。
- 帳票作成・数量算出の自動化
必要なデータを抽出するだけで完了し、複雑な計算も自動化されるため、検算の手間も激減します。 - 協議資料作成の効率化
2次元図面からパースを起こす手間が不要になります。「今だけ少し頑張れば、将来の残業時間や休日出勤が減る」という具体的な未来像を提示することが重要です。

まとめ
CIM推進担当者の役割は、単に3Dソフトを導入することではありません。デジタル技術を活用して、社内の業務プロセスそのものを最適化し、企業の競争力を高める「変革のリーダー」です。
いきなり完璧なCIM運用を目指す必要はありません。まずは以下のステップを意識してください。
- CIM推進担当者のネクストアクション
- 目的の明確化
何のためにCIMをやるのか、言語化する。 - 体制の整備
無理のない範囲でツールとルールを整える。 - 社内調整
小さな成功体験を作り、現場の信頼を勝ち取る。
- 目的の明確化
まずは「一つの現場」「一つの工程」から始め、社内にCIMの有用性を広めていきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. CIMとBIMは全く別のものですか?
基本的な概念(3次元モデル+属性情報)は同じです。対象が「土木(Civil)」か「建築(Building)」かで呼び分けられていますが、現在は国土交通省により「BIM/CIM」として統合的に扱われることが一般的です。
Q2. CIM導入にはどのような資格が必要ですか?
法的に必須の公的資格はありません。しかし、実務能力の証明として、各ソフトベンダーの認定資格(オートデスク認定ユーザーなど)や、「BIM/CIMマネージャー」等の民間資格を取得することが推奨されます。
Q3. CIM推進担当は専任である必要がありますか?
可能であれば専任が望ましいですが、多くの企業では現場技術者や設計担当者との兼任からスタートしています。ただし、CIM推進業務は負荷が高いため、兼任の場合は通常の担当業務量を減らすなどの配慮が不可欠です。
[出典:国土交通省「BIM/CIMポータルサイト」]
[出典:国土交通省「BIM/CIM活用ガイドライン」]





