CIMを扱う技術者に必要なスキルとは?教育の進め方も解説

この記事の要約
- 建設業の原価管理は利益確保と赤字防止に不可欠な経営手法
- 資材高騰や2024年問題により厳格なコスト管理が急務となる
- システム導入でリアルタイムな予実管理と業務効率化を実現する
建設業における原価管理の基礎知識
建設業における原価管理とは、工事にかかる費用を適正に把握し、利益を最大化するためのコントロールプロセスを指します。単に経費を記録するだけでなく、予算と実績の差異を分析し、改善策を講じることが本質的な役割です。ここでは、原価管理の目的と、混同されがちな原価計算との違いについて解説します。

原価管理の目的とは?
原価管理を行う最大の目的は、利益の確保です。建設プロジェクトは工期が長く、その間に資材価格の変動や設計変更など、コストに関わる不確定要素が多く発生します。これらを放置すれば、当初予定していた利益が失われるだけでなく、赤字工事に転落するリスクもあります。
原価管理には、主に以下の3つの目的があります。
- 予算の遵守と利益確保
実行予算と実際にかかった原価(実績原価)を比較し、コスト超過を防ぎます。 - 経営判断のための情報収集
どの工事が利益を出しているか、あるいは赤字なのかを可視化し、今後の受注戦略や価格設定に役立てます。 - 財務諸表の作成
決算書や税務申告に必要な正確な原価データを作成します。
原価管理と原価計算の違い
「原価計算」と「原価管理」は似ていますが、その役割は明確に異なります。原価計算は現状の数字を算出する手段であり、原価管理はその数字を使って利益を改善する活動そのものです。
| 項目 | 原価計算 | 原価管理 |
|---|---|---|
| 主な役割 | コストの集計・算出 | コストの統制・改善 |
| タイミング | 工事終了後や決算時が中心 | 工事の全期間を通じて実施 |
| 目的 | 正しい数値を把握すること | 利益目標を達成すること |
| アクション | 記録、計算 | 比較、分析、対策 |
[出典:建設業振興基金等の資料を基に筆者作成]
- 原価管理の重要ポイント
- 原価計算は「過去の結果」を知るための手段
- 原価管理は「未来の利益」を作るためのアクション
- 両者をセットで運用することで初めて経営改善につながる
建設業で原価管理が重要視される背景と課題
近年、建設業界では原価管理の重要性がかつてないほど高まっています。その背景には、外部環境の急激な変化と、建設業特有の構造的な課題があります。これらを理解せずして、適切な利益管理を行うことは困難です。
資材価格の高騰と労務費の上昇
建設業界を取り巻く経済環境は厳しさを増しています。特に大きな要因がコストの増加です。
- 1.資材価格の高騰
円安や国際情勢の影響により、鋼材、木材、生コンクリートなどの主要資材価格が高止まりしています。見積もり時点の価格と実際の仕入れ価格に乖離が生じやすく、利益を圧迫する主要因となっています。 - 2.労務費の上昇と2024年問題
慢性的な人手不足に加え、働き方改革関連法の適用(2024年問題)により、時間外労働の上限規制が強化されました。これにより、限られた人員と時間で成果を出す必要があり、生産性向上とともに労務単価の上昇への対応が迫られています。
複雑な工種と下請け構造による管理の難しさ
建設工事は、基礎、躯体、内装、設備など多岐にわたる工種があり、それぞれに専門の下請け業者が関わります。この多重下請け構造が、原価管理を複雑にしています。
多くの現場では、発注情報の共有が遅れたり、追加工事の費用負担が曖昧なまま工事が進んだりすることがあります。その結果、工事完了後に請求書を見て初めてコスト超過に気づく「どんぶり勘定」が発生しやすいのです。正確な原価管理を行うには、こうした複雑な情報を一元化し、リアルタイムに把握する仕組みが必要です。
原価管理を効率化する具体的な手順
効果的な原価管理を行うためには、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回すことが重要です。ここでは、着工前から工事完了までに実施すべき具体的な手順を解説します。
実行予算の作成と管理
工事を受注したら、まず行うべきなのが「実行予算」の作成です。これは見積書とは異なり、実際に工事を行うために必要な原価(目標原価)を詳細に割り出したものです。
実行予算を作成する際のポイントは以下の通りです。
- 見積もり原価との比較
受注金額に対してどの程度の利益が見込めるかを再計算し、目標利益率を設定します。 - 要素ごとの詳細化
「材料費」「労務費」「外注費」「経費」の4要素(4大原価)に分類し、具体的に何にいくらかかるかを算出します。
原価計算と差異分析の実施
工事が始まったら、実際に発生した費用を記録し、実行予算とのズレを確認します。これを「予実管理」と呼びます。
- 予実管理のステップ
- 1.実績データの収集
日報、請求書、納品書などから、日々発生するコストを正確に集計します。 - 2.差異の分析
「なぜ予算を超えたのか」を分析します。数量の間違いか、単価の上昇か、工期の遅れかなど、原因を特定します。 - 3.対策の実行
工法の変更や仕入れ先の見直しなど、工事期間中に軌道修正を行います。
- 1.実績データの収集
建設業向け原価管理システム導入のメリット
従来、多くの建設会社ではエクセルや紙の帳票を使って原価管理を行ってきました。しかし、管理項目が膨大になるにつれ、手作業での集計には限界が生じます。原価管理システムを導入することで、これらの課題を解決し、業務効率を劇的に向上させることが可能です。

リアルタイムな予実管理の実現
システム導入の最大のメリットは、原価情報のリアルタイム化です。エクセル管理では、月末に請求書を締め、集計作業を終えるまで正確なコストが分からないというタイムラグが発生しがちです。
システムを活用すれば、発注データや日報データを入力した瞬間に工事台帳へ反映されます。これにより、プロジェクトの進行中に赤字の予兆を察知し、手遅れになる前に対策を打つことができます。「終わってみたら赤字だった」という事態を防げる点は、経営において極めて大きな利点です。
事務作業の削減とペーパーレス化
原価管理システムは、見積書、発注書、請求書、工事台帳などのデータがすべて連携しています。一度入力したデータを転記する必要がないため、入力ミスや転記漏れといったヒューマンエラーが削減されます。
また、クラウド型のシステムであれば、外出先や現場からでもスマホやタブレットで情報の確認・入力が可能です。事務所に戻ってからの事務作業が不要になるため、残業時間の削減にもつながり、2024年問題への対策としても有効です。
よくある質問
Q1. エクセルでの原価管理に限界を感じるタイミングは?
- 工事数が増えてファイル管理が煩雑になったとき
- 最新のファイルがどれか分からず、先祖返りが起きたとき
- 集計作業に時間がかかり、経営判断に必要な数字がすぐに出ないとき
- 担当者しか計算式が分からず、属人化しているとき
Q2. 小規模な工務店でもシステム導入は必要ですか?
小規模であっても導入のメリットは十分にあります。特に近年はクラウド型(SaaS)の安価なシステムが増えており、初期費用を抑えて導入可能です。人数が少ないからこそ、事務作業を効率化して、本業である施工管理や営業活動に時間を割くことが重要です。また、インボイス制度や電子帳簿保存法などの法対応の手間を省くためにも、システムの活用は推奨されます。





