「CIM」の基本知識

i-ConstructionとCIMの関係とは?将来の業界標準を予測


更新日: 2025/10/28
i-ConstructionとCIMの関係とは?将来の業界標準を予測

この記事の要約

  • i-Constructionは建設業の生産性革命を目指す方針です
  • CIMはi-Constructionを実現する中核的な手段(技術)です
  • CIMは将来、BIM/CIM原則適用拡大により業界標準となる見込みです

i-Construction推進の鍵となるCIMとは?

建設業界の変革を目指す「i-Construction」と、その成功に不可欠な「CIM(シム)」は、現在密接な関係にあります。これらは単なる新しい技術用語ではなく、業界の未来を左右する重要な概念です。本章では、まずi-ConstructionとCIMそれぞれの基本的な定義と、なぜ今この2つの関係性が強く注目されているのかを解説します。

i-Constructionの基本概要と目的

i-Construction(アイ・コンストラクション)とは、国土交通省が2016年から推進している、建設現場の生産性向上を目指す総合的な取り組みです。その最大の目的は、建設業界が直面する労働力不足や高齢化といった深刻な課題を克服し、「建設生産システム全体の生産性向上」を図る、いわゆる「生産性革命」を実現することにあります。

具体的には、ICT(情報通信技術)を測量、設計、施工、検査、維持管理といったあらゆるプロセスに導入し、データを活用することで、より安全で効率的な現場を目指すものです。

[出典:国土交通省「i-Construction ~建設現場の生産性革命~」]

CIM(Construction Information Modeling/Management)の基本概要

CIM(シム)とは、Construction Information Modeling/Managementの略称です。これは、計画、調査、設計段階から3次元モデル(3Dモデル)を導入し、その後の施工、維持管理の各段階においても3次元モデルに情報を連携・活用することで、一連の建設生産・管理システムの効率化・高度化を図る取り組みを指します。

重要なのは、単に3Dモデルを作成する「モデリング(Modeling)」だけでなく、そこにコストや工期、部材情報、点検履歴といった属性情報を紐付け、管理する「マネジメント(Management)」までを含む概念である点です。CIMは、情報を一元化するためのデジタルな「器」とも言えます。

なぜ今、i-ConstructionとCIMの関係性が注目されるのか?

i-ConstructionとCIMの関係性が注目される背景には、建設業界の喫緊の課題があります。前述の通り、業界は深刻な人手不足技術者の高齢化に直面しており、従来のやり方だけでは社会インフラの維持・更新が困難になりつつあります。

この課題を解決する「方針」がi-Constructionです。そして、i-Constructionが目指す「ICTの全面的な活用」や「プロセス全体の効率化」を実現するための、最も具体的かつ強力な「実行ツール(手段)」がCIMなのです。i-Constructionという目標を達成するために、CIMによるデジタルデータ活用が不可欠であるため、両者は一体のものとして推進されています。

i-ConstructionにおけるCIMの具体的な役割と関係性

i-Constructionの実現において、CIMは具体的にどのような役割を担っているのでしょうか。i-Constructionが掲げる大きな方針の中で、CIMは情報連携の基盤として機能し、測量から維持管理までの全プロセスを繋ぐ中核的な存在です。ここでは、両者の具体的な連携と、土木分野特有の用語についても解説します。

i-Constructionの3つの柱とCIMの関わり

i-Constructionは、主に以下の3つの柱で構成されています。CIMは、特に「ICTの全面的な活用」において中心的な役割を果たしますが、他の柱とも深く関連しています。

【表:i-Constructionの主要な取り組みとCIMの役割】

i-Constructionの取り組み 概要 CIMが果たす主な役割
1. ICTの全面的な活用 測量、設計、施工、検査、維持管理の全プロセスでICT技術を活用する。 ・3次元モデルを基軸とした設計・施工データの連携
・ICT建機(マシンコントロール)やドローンへのデータ提供
・シミュレーションによる施工計画の最適化
2. 規格の標準化 コンクリート工の規格標準化、プレキャスト化の推進など。 ・3次元モデルによる部材の干渉チェック
・BIM/CIMモデルを活用した部材製作・管理
3. 施工時期の平準化 業務の繁閑をなくし、公共工事の閑散期を減らすことで、効率的なリソース配分を目指す。 CIMによる計画精度の向上とフロントローディング(業務の前倒し)が平準化に寄与

[出典:国土交通省のi-Construction関連資料に基づき作成]

CIMはi-Construction実現のための「エンジン」

i-ConstructionとCIMの関係性を例えるなら、i-Constructionが「建設業界の生産性を向上させる」という大きな方針(目標)であるのに対し、CIMはその目標を達成するための具体的な「手段」であり、プロセス全体を動かす「エンジン」「情報連携の基盤(プラットフォーム)」と言えます。

i-Constructionが目指すICT施工や効率化は、正確な3次元データと、それに紐づく情報(=CIM)がなければ実現できません。両者は、目標と手段という表裏一体の関係にあるのです。

「BIM/CIM」表記の意味と建設分野(BIM)との違い

近年、国土交通省の資料などでは「BIM/CIM(ビムシム)」という表記が一般的に用いられています。

BIM(Building Information Modeling): 主に建築分野(ビル、商業施設など)で利用される3次元モデルと情報管理の手法です。
CIM(Construction Information Modeling/Management): 主に土木分野(道路、橋梁、ダム、トンネルなど)で利用されます。

基本的な概念は同じですが、CIMは土木分野特有の広範な地形や地盤データなども扱う点に特徴があります。日本では、建築と土木の垣根を越えて情報連携技術の活用を推進するため、両者を併記した「BIM/CIM」という呼称が統一的に使われています。

i-Construction推進に向けたCIM導入のメリットと課題

i-Constructionの方針のもとでCIMを導入することは、建設プロセスに大きな変革をもたらします。これにより多くのメリットが期待できる一方で、導入にあたってはいくつかの現実的な課題(読者の不安)も存在します。ここでは、メリットと課題を具体的に整理します。

建設現場でCIMデータが映ったタブレットを見ながら協議する技術者たち

CIM導入がもたらす主なメリット

CIMを活用することで、従来の2次元図面ベースの業務と比較して、飛躍的な効率化と品質向上が期待できます。

生産性の向上: 3次元モデルによる関係者間のスムーズな合意形成が可能となり、設計変更や手戻りが大幅に削減されます。また、ICT建機へのデータ連携により、施工も自動化・高速化します。
品質の確保: コンピュータ上で事前に施工シミュレーションを行うことで、部材同士の干渉チェックや施工手順の不具合を早期に発見でき、施工品質が向上します。
情報共有の円滑化: 測量・設計・施工・維持管理の各段階で、一貫した最新のデジタルデータを共有できます。これにより、情報伝達のミスやタイムラグを防ぎます。
安全性の向上: 危険箇所や重機の稼働範囲を3次元モデルで可視化することで、作業員への安全教育や危険予知活動が具体的になり、現場の安全性が向上します。
維持管理の効率化: 竣工後(完成後)の点検・補修履歴といった維持管理情報をCIMモデルに蓄積できます。これにより、将来的なメンテナンス計画の策定や迅速な対応が可能になります。

読者のよくある不安:CIM導入の課題と障壁

多くのメリットがある一方で、特に中小企業や従来の手法に慣れた現場からは、CIM導入に対する以下のような不安や懸念が聞かれます。これらは導入を進める上での現実的な障壁となります。

課題1: 初期導入コストの負担
CIMを扱うための高性能なワークステーション(PC)や、専用の3D-CADソフトウェア、データ共有システムなどの導入には、相応の初期投資が必要です。

課題2: CIMを扱える技術者の不足と育成
3次元モデルを作成・操作できる専門技術者はまだ不足しており、既存の技術者への教育や新たな人材の確保、育成に時間とコストがかかります。

課題3: 従来の業務フローからの変革
長年慣れ親しんだ2次元図面での業務プロセスや思考様式を、3次元モデルベース(CIMベース)へと転換することには、組織的な抵抗や業務の一時的な混乱が伴う場合があります。

課題4: データ連携ルールの複雑さ
発注者側と受注者側、または元請けと下請け企業間などで、使用するソフトウェアやデータの形式、詳細度(LOD)などのルールを統一しないと、円滑なデータ連携が困難になります。

CIMは将来の業界標準となるか?i-Constructionの未来予測

i-Constructionの推進とCIMの導入メリット・課題を踏まえた上で、CIMは今後の建設業界でどのような位置付けになっていくのでしょうか。結論から言えば、CIM(BIM/CIM)は将来の業界標準となる可能性が極めて高いと考えられます。その根拠と今後の展望を考察します。

CIM原則適用の流れと今後の展望

CIMの普及を強力に後押ししているのが、国土交通省の「BIM/CIM原則適用」の方針です。国土交通省は、2023年度(令和5年度)から、小規模工事等を除く全ての公共事業においてBIM/CIMを原則適用する方針を打ち出しました。

[出典:国土交通省「BIM/CIMポータルサイト」]

これは、公共事業を受注するためにはCIMへの対応が必須になることを意味します。この「原則適用」の流れは今後さらに加速・拡大すると予想され、民間工事への波及も時間の問題と見られています。この政策的な後押しが、CIMを業界標準へと押し上げる最大の要因です。

i-ConstructionのネクストステージとCIMの役割拡大

i-Constructionの取り組みは、単なる施工のICT化に留まりません。その先に見据えているのは、現実空間の情報をデジタル空間に再現する「デジタルツイン」の実現や、収集したデータをAIで分析し、都市計画や防災、インフラの維持管理に活用する「Society 5.0」の実現です。

この壮大な構想において、CIMは単なる設計・施工ツールではなく、都市やインフラのライフサイクル全体の情報を蓄積・活用するための「中核データ基盤」としての役割を担うことになります。CIMの重要性は、i-Constructionが進化するにつれて、ますます高まっていくでしょう。

CIMが「当たり前」の業界標準となるために必要なこと

CIMが真の業界標準として定着するためには、前述した導入の障壁を乗り越える必要があります。
具体的には、以下の点が今後の課題となります。

継続的な人材育成の仕組みづくり: 大学などの教育機関でのカリキュラム導入や、企業向けの研修プログラムの充実。
中小企業への普及支援: 導入コストを補助する助成金制度の拡充や、比較的安価なクラウド型CIMツールの普及。
データフォーマットの更なる標準化: 異なるソフトウェア間でも円滑にデータを受け渡せるための国際的な基準(IFCなど)の整備と浸透。
成功体験の共有: CIM導入によって明確なコスト削減や生産性向上を実現した情報の積極的な横展開。

まとめ:i-ConstructionとCIMは建設業界の未来を築く両輪

この記事では、i-Constructionの目的と、その実現に不可欠なCIMの役割、そして両者の密接な関係性について解説しました。

i-Constructionが目指す「生産性の高い、魅力ある建設業界」という目標(方針)に対し、CIMは3次元モデルと情報を活用して全プロセスを革新する具体的な手段(中核技術)です。

i-ConstructionとCIMの関係性のまとめ

i-Construction は、業界全体の変革を目指す「方針
CIM は、その方針を実現するための「中核的な技術・手法

両者は切り離すことのできない「両輪」の関係にあります。CIMの活用と普及こそが、i-Constructionの成功、ひいては建設業界の未来を切り開く鍵を握っていると言えます。

導入にはコストや人材育成といった課題も残されていますが、公共事業における「BIM/CIM原則適用」の流れや、技術革新によるツールの低コスト化により、CIMが将来の業界標準となっていくことは確実視されています。この変革の波に対応するため、今後の動向を引き続き注視し、積極的に情報収集と技術習得を進めていくことが重要です。

i-ConstructionとCIMに関するよくある質問

Q. CIMとBIMの違いは具体的に何ですか?

A. 根本的な「3次元モデルに情報を持たせる」という概念は同じです。主な違いは対象分野で、BIM(Building Information Modeling)は主に建築物(ビルなど)を対象とし、CIM(Construction Information Modeling/Management)は主に土木構造物(道路、橋、ダムなど)や地形を対象とします。土木分野では地形や地盤といった広範なデータも扱うため、CIMはそうした点に特化している側面があります。現在、日本では両者を併記した「BIM/CIM」という呼称が国土交通省によって推進されています。

Q. 中小企業でもCIMを導入すべきですか?

A. i-ConstructionやBIM/CIM原則適用の流れは、大手ゼネコンだけでなく、サプライチェーン全体(協力会社や専門工事業者)に及びます。将来的にはCIMデータの扱いや提出が標準となる可能性が非常に高いため、中小企業においても、まずは情報収集や小規模な導入(例:簡易な3Dモデリング、無料のビューアソフトの活用など)から始め、段階的に対応準備を進めることが推奨されます。

Q. i-Constructionはどの程度進んでいますか?

A. 国土交通省の発表によれば、i-Constructionの取り組み(特にICT施工の導入件数)は年々着実に増加しています。また、2023年度からの「BIM/CIM原則適用」も開始され、公共事業を中心にCIMの活用が急速に広がっています。ただし、企業規模や地域、工事の種類によって普及の度合いに差があるのも実情であり、業界全体への完全な浸透には、もうしばらく時間がかかると見られています。

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