国交省のCIM推進施策とは?制度の概要と狙いを解説

この記事の要約
- 国交省が推進するCIM施策の概要と目的
- CIM(BIM/CIM)の基本概念とBIMとの明確な違い
- CIM導入が建設業界にもたらすメリットと今後の課題
- 目次
- CIMとは?基本概念とBIMとの違い
- CIMの基本的な定義
- BIM/CIMとは?国交省の定義
- CIMとBIMの主な違い(比較検討)
- 国土交通省がCIM(BIM/CIM)を推進する背景と狙い
- なぜ今、CIMの推進が必要なのか?
- 国交省が目指すCIM推進の主な目的
- 国交省によるCIM推進施策の具体的な概要
- CIM導入に関する主な施策とロードマップ
- 対象となる事業・工事の範囲
- CIM原則適用で求められる具体的な取り組み
- CIM(BIM/CIM)導入のメリットと課題
- 導入によって期待されるメリット
- 導入にあたっての主な課題と懸念点
- まとめ:国交省のCIM施策を理解し、今後の動向に備えよう
- CIMに関するよくある質問
- Q. CIMを導入しないと、国交省の仕事は受注できなくなりますか?
- Q. 中小企業や下請け業者にもCIMへの対応は求められますか?
- Q. CIM導入に関して、国からの補助金や支援制度はありますか?
CIMとは?基本概念とBIMとの違い
国土交通省のCIM推進施策を理解する上で、まず「CIM」とは何か、その基本的な概念を把握することが不可欠です。建設分野で類似する「BIM」との違いも混同されがちなため、ここで両者の定義とそれぞれの特徴を明確に整理し、国交省が用いる「BIM/CIM」という呼称の意図についても解説します。
CIMの基本的な定義
CIM(シム)とは、Construction Information Modeling/Management の略称です。
この取り組みは、単に3次元データを作成するだけではありません。公共事業における計画、調査、設計段階から3次元モデルを導入し、そのモデルにコストや仕様、部材情報などの「属性情報」を付加します。さらに、その情報を施工段階、さらには竣工後の維持管理段階に至るまで、建設生産プロセス全体で一貫して連携・活用していくことを指します。
この情報連携により、従来は各プロセスで分断されがちだった情報を統合管理し、業務の効率化、品質の向上、そしてライフサイクル全体でのコスト最適化を図ることを目的としています。
BIM/CIMとは?国交省の定義
国土交通省の関連資料や施策においては、「BIM/CIM(ビムシム)」という呼称が一般的に用いられています。
これは、建築分野で先行して普及が進んでいたBIM(Building Information Modeling)の概念と、土木分野におけるCIMを、実質的に同じ目的を持つものとして統合的に扱う考え方に基づいています。
建築(Building)と土木(Construction)では対象とする構造物やプロセスに違いがありますが、「3次元モデルを基軸として情報を一元化し、生産性向上と高度化を図る」という中核的な概念は共通しています。そのため、国土交通省は両分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)を一体のものとして強力に推進しています。
CIMとBIMの主な違い(比較検討)
CIMとBIMは、3次元モデルを活用する点では共通していますが、その主な対象分野やモデル化する際の特性に違いがあります。両者の特徴を以下の表に整理します。
表:CIMとBIMの主な比較
| 比較項目 | CIM (Construction Information Modeling) | BIM (Building Information Modeling) |
|---|---|---|
| 主な対象分野 | 土木工事(道路、橋梁、ダム、河川、トンネルなど) | 建築物(ビル、住宅、商業施設、プラントなど) |
| モデルの特徴 | 広範囲な地形データとの統合、線形構造物(道路・河川など)の扱いに強みを持つ | 建物内部の意匠、構造、設備(配管・ダクト等)の複雑な情報の表現に強みを持つ |
| 国交省の扱い | 「BIM/CIM」としてBIMと統合的に推進 | 「BIM/CIM」としてCIMと統合的に推進 |
このように、CIMは広大な地形やインフラ構造物を、BIMは複雑な建築内部の情報を扱うことにそれぞれ重点が置かれていますが、国交省の施策上は「BIM/CIM」として包括的に扱われていると理解することが重要です。
国土交通省がCIM(BIM/CIM)を推進する背景と狙い
国土交通省が、なぜこれほど強力にCIM(BIM/CIM)の導入を推進しているのでしょうか。その背景には、現在の日本、特に建設業界が直面している深刻な構造的課題があります。ここでは、CIM推進が急務とされる理由と、それによって国交省が達成しようとしている具体的な目的(狙い)を解説します。
なぜ今、CIMの推進が必要なのか?
現在の日本の建設業界は、持続可能性を脅かすほどの大きな課題に直面しています。
- 建設業界が抱える主な構造的課題
- 深刻な担い手不足: 就業者の高齢化(高齢層の大量退職)と若年層の入職者減少が同時に進行し、現場を支える人材が慢性的に不足しています。
- 技術継承の困難: 熟練技術者が持つ高度なノウハウや現場対応力が、若手に十分に継承されないまま失われつつあるという危機感があります。
- 生産性の伸び悩み: 他の全産業と比較して、建設業の生産性向上は長らく停滞傾向にあると指摘されています。
- インフラの老朽化対策: 高度経済成長期に集中的に整備された道路、橋梁、トンネルなどの社会インフラの多くが、一斉に更新・補修時期を迎えており、効率的な維持管理が急務となっています。

これらの複雑かつ深刻な課題を解決し、建設産業を将来にわたって持続可能なものとするための抜本的な改革が求められています。そのための最も強力な手段が、デジタル技術を活用した業務プロセス全体の変革、すなわち CIMの導入によるDX(デジタルトランスフォーメーション) であると期待されているのです。
国交省が目指すCIM推進の主な目的
CIM(BIM/CIM)の推進は、国土交通省が2016年から掲げている建設現場の生産性向上を目指す取り組み「i-Construction(アイ・コンストラクション)」の、3本の柱(「ICTの全面的な活用」「規格の標準化」「施工時期の平準化」)のうち、「ICTの全面的な活用」の中核をなす施策です。
国交省は、CIMの活用を拡大することで、以下の実現を強く目指しています。
- CIM(BIM/CIM)推進の主な目的
- 建設生産プロセス全体の生産性向上: 3次元モデル活用による手戻り(ミスによる再設計)の防止、関係者間のスムーズな合意形成、施工シミュレーションによる効率化。
- 品質の確保・向上: 3次元モデルによる可視化で、設計ミスや施工エラーを早期に発見・防止。
- 効率的な維持管理の実現: 施工時の正確なデータを維持管理段階で活用し、点検・補修の効率化と高度化を図る。
- 働き方改革の推進: ICT活用による現場作業の効率化、遠隔臨場などを通じた働きやすい環境の整備。
- 担い手の確保・育成: デジタル技術を活用した魅力ある建設現場を実現し、若年層や多様な人材の入職を促進。
国交省によるCIM推進施策の具体的な概要
国土交通省は、CIM(BIM/CIM)の導入・活用を現場に定着させるため、公式のガイドラインやロードマップに基づき、段階的かつ具体的な施策を展開しています。単なる推奨にとどまらず、公共事業のルールとして組み込むことで、業界全体の変革を強力に後押ししています。ここでは、施策のロードマップと現在の状況、そして原則適用に伴い具体的に求められる取り組みを解説します。
CIM導入に関する主な施策とロードマップ
国交省は、CIMの導入をスモールスタートから段階的に拡大させてきました。
- 初期段階(試行期): まずは「試行工事」や「モデル事業」といった形で、実際の公共工事においてCIMを活用する取り組みを開始しました。これにより、CIM活用の具体的な効果や、実運用上の課題(コスト、技術、データ連携など)を検証しました。
- 普及・拡大期: 試行の結果を踏まえ、CIM活用のための詳細なルールを定めた「BIM/CIM活用ガイドライン」や各種の「要領・基準類」を整備しました。これにより、発注者(国交省)と受注者(建設会社)双方が参照すべき標準的な手順が明確化され、対象となる工事の範囲も徐々に拡大されました。
- 原則適用(現在): そして大きな転換点として、2023年度(令和5年度)からは、小規模な工事等を除き、国土交通省が発注する全ての直轄公共工事(土木・建築)においてBIM/CIMを原則適用する方針が打ち出されました。
この「原則適用」への移行により、CIMの活用は一部の先進的な取り組み(任意)から、国交省の事業に携わる上で必須の業務(必須)へと大きくシフトしました。
対象となる事業・工事の範囲
前述の通り、2023年度からの「原則適用」が対象としているのは、まず国土交通省が直接発注者となる「直轄工事」(国の予算で実施される大規模な河川、道路、ダム、官庁施設などの工事)です。
しかし、この動きは直轄工事だけにとどまりません。国が主導して基準や成功事例を示すことで、今後は都道府県や市区町村といった地方公共団体が発注する公共工事や、さらには民間の建設プロジェクトにおいても、CIM(BIM/CIM)の活用が波及し、標準的な手法となっていくことが強く予想されます。
CIM原則適用で求められる具体的な取り組み
CIMの原則適用に伴い、公共工事の受注者(建設会社やコンサルタント)には、従来の2次元図面ベースの業務に加え、以下のような具体的なステップ(取り組み)が求められます。
- 3次元モデルの作成: 調査・設計段階において、地形や構造物の3次元モデルを作成することが求められます。
- 属性情報の付与: 作成した3次元モデルを構成する部材(例えば、橋の主桁や床版、トンネルのセグメントなど)に、名称、規格、材料、数量といった「属性情報」をテキストデータとして正確に付与する必要があります。
- 受発注者間の情報共有: 工事の各段階で行われる協議や検査、確認の場において、従来の図面だけでなく3次元モデルを活用することが求められます。これにより、関係者間の認識齟齬を防ぎ、迅速な合意形成を図ります。
- 成果品としての納品: 工事が完了した際、最終的な成果品として、紙の図面や電子データ(PDFなど)に加え、定められた要件やデータ形式(例:LandXML、IFCなど)を満たしたBIM/CIMモデルを納品する必要があります。
CIM(BIM/CIM)導入のメリットと課題
CIM(BIM/CIM)の導入は、建設プロセス全体に大きな変革をもたらし、多くのメリットが期待されます。しかし同時に、特にこれから導入を進める企業にとっては、乗り越えるべきいくつかの課題や懸念点も存在します。ここでは、導入によるメリットと直面しがちな課題を整理します。
導入によって期待されるメリット
CIMの導入により、従来の2次元図面では難しかった多くのことが可能になり、建設プロセスの各段階で以下のような具体的なメリットが期待されます。
計画・設計段階
- 合意形成の円滑化: 3次元モデルによるリアルな可視化は、専門家でない地域住民や関係機関に対しても完成イメージを直感的に伝えることができ、説明や協議がスムーズに進みます。
- 手戻りの削減: 複雑な構造物や、異なる部材が取り合う(交差・接続する)箇所の事前検討が3次元上で容易になります。これにより、設計ミスや不整合を早期に発見し、後の工程での大幅な手戻りを削減できます。

施工段階
- 安全性と工程の最適化: 施工ステップ(作業手順)を3次元でシミュレーションすることで、危険な作業箇所や重機の動線を事前に洗い出し、安全性を高めるとともに、効率的な工期短縮につなげられます。
- 施工精度の向上: 3次元設計データとICT建設機械(情報通信技術を搭載したブルドーザやバックホウなど)を連携させることで、高精度で効率的な施工(情報化施工)が可能になります。
- 不具合の防止: 鉄筋の配置(配筋)や、建築・土木・設備工事間の干渉(ぶつかり)を3次元モデルで事前にチェックすることで、現場での施工エラーや手直しを防ぎます。
維持管理段階
- 効率的なアセットマネジメント: 竣工時に納品された正確な3次元モデルと属性情報(「どこに」「どのような」部材が使われているか)は、そのままインフラのデジタル台帳となります。これを活用し、効率的な点検・診断・補修計画の立案(アセットマネジメント)が可能になります。
- 迅速な災害対応: 災害発生時にも、被災前の正確な3次元データを活用することで、迅速な状況把握や復旧計画の策定に役立てることが期待されます。
導入にあたっての主な課題と懸念点
一方で、CIMの導入を新たに、あるいは本格的に進める企業、特にリソースに限りがある中小企業などにとっては、以下のような課題が現実的な障壁となる場合があります。
- CIM導入時の主な課題
- 初期コストの負担: CIMに対応した高機能な3次元CADソフトウェアや、大容量のデータを快適に扱える高性能なコンピュータ(ワークステーション)など、ハードウェアの導入に相応の初期投資が必要となります。
- 人材の育成・確保: 単にソフトウェアを操作できるだけでなく、CIMの概念を理解し、3次元モデルを適切に作成・管理できる技術者(モデラーやBIM/CIMマネージャー)の育成には、時間と教育コストがかかります。スキルを持つ人材の確保も困難な場合があります。
- 運用ルールの整備: 社内でのデータ作成ルール(モデリングの詳細度、属性情報の入力規則など)や、情報共有プロセスを標準化する必要があります。また、発注者や協力会社(下請け業者)とのデータ連携ルールの標準化も課題となります。
- 発注者側の体制: 受注者側だけでなく、発注者(国や自治体)側にも、納品されたCIMデータを適切に評価し、その後の維持管理などに活用できる体制やスキルが求められます。
まとめ:国交省のCIM施策を理解し、今後の動向に備えよう
この記事では、国土交通省が推進するCIM(BIM/CIM)施策について、その概要と狙い、背景にある課題や導入のメリット・デメリットを解説しました。全体を改めてまとめます。
- 国交省CIM(BIM/CIM)施策のまとめ
- 国交省が進めるCIM(BIM/CIM)は、人手不足や生産性の課題を抱える建設業界の変革(DX)を目指す、「i-Construction」の中核的な取り組みです。
- 3次元モデルを設計から施工、維持管理まで一貫して活用することで、生産性の向上、品質確保、働き方改革など、多くの目的の達成を目指しています。
- 2023年度からは直轄工事で原則適用が開始され、CIMへの対応は建設業界にとって「待ったなし」の状況となりつつあります。
- 導入にはコストや人材育成といった課題もありますが、そのメリットは大きく、今後は地方自治体や民間工事への波及も加速すると予想されます。
まずは自社の状況を把握し、情報収集や小規模な試行導入からでも、CIMへの対応準備を着実に進めていくことが、これからの建設業界で事業を継続・発展させていく上で極めて重要です。
CIMに関するよくある質問
CIM導入に関して、事業者から頻繁に寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q. CIMを導入しないと、国交省の仕事は受注できなくなりますか?
A. 2023年度から国土交通省の直轄工事(小規模工事等を除く)においてBIM/CIMが原則適用となりました。これは、発注される工事の仕様書や特記仕様書等において、BIM/CIMの活用が業務の実施要件として求められることを意味します。したがって、これらの工事を入札・受注するためには、CIMに対応できる体制(必要な技術、ソフトウェア、人材)を整えていることが実質的に必須となりつつあります。将来的に対象範囲がさらに拡大する可能性も高いため、早期の対応が推奨されます。
Q. 中小企業や下請け業者にもCIMへの対応は求められますか?
A. 現状、原則適用の対象は主に元請け企業(ゼネコンや大手建設コンサルタント)が中心となる国交省の直轄工事です。しかし、元請け企業が作成したCIMモデルを、実際の施工を担当する協力会社(下請け業者)と共有し、施工管理や打ち合わせに活用するケースが急速に増えています。将来的には、サプライチェーン全体でのCIMデータ活用が一般化すると予想されるため、中小企業や専門工事業者であっても、少なくとも3次元モデルを閲覧・確認できる環境や、自社の担当工種に関するモデル作成スキルが求められるようになる可能性が高いです。
Q. CIM導入に関して、国からの補助金や支援制度はありますか?
A. 国土交通省自体がCIM導入に特化した補助金制度を常設しているわけではありませんが、経済産業省や中小企業庁、あるいは都道府県などが、中小企業のIT導入支援、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進、生産性向上を目的とした各種の補助金・助成金制度(例:「IT導入補助金」や「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」など)を設けている場合があります。これらの制度が、CIM導入に必要な高機能ソフトウェアの購入費用や、社員向けの研修費用などに適用できるケースがあります。制度は時期や公募要件によって内容が大きく変わるため、最新の情報を各省庁や自治体、商工会議所などのウェブサイトで確認することをおすすめします。
[出典:国土交通省「BIM/CIMポータルサイト」]
[出典:国土交通省「i-Constructionの推進」関連資料]
[出典:国土交通省「BIM/CIM活用ガイドライン(案)」及び各種要領・基準類]





