「積算」の基本知識

実行予算と積算の違いとは?建設現場での関係性を整理


更新日: 2025/11/04
実行予算と積算の違いとは?建設現場での関係性を整理

この記事の要約

  • 積算と実行予算の目的・タイミングの違い
  • 建設業における積算の重要性と役割
  • 積算から実行予算作成への業務フロー
目次

実行予算と積算の基本的な違い【比較表】

「実行予算」と「積算」は、建設業の会計や現場管理において非常に重要な用語ですが、その目的や作成タイミングは全く異なります。積算は「受注前」に「発注者」へ提示する見積額の根拠であり、実行予算は「受注後」に「社内」で利益を確保するための原価目標です。まずは、この両者の根本的な違いを比較表で整理します。

「積算」とは?(発注者への提示額の根拠)

積算(せきさん)とは、工事を受注するために、その工事に必要な費用を構成要素ごとに一つひとつ積み上げて計算する作業を指します。設計図書や仕様書に基づき、必要な「材料費」「労務費」「機械経費」などの直接工事費や、現場運営に必要な「間接工事費(共通仮設費など)」を詳細に拾い出します。

この積算額が、発注者に提示する見積書のベースとなります。

「実行予算」とは?(社内の利益確保の指標)

実行予算(じっこうよさん)とは、受注が決定した工事に対して、「実際にいくらの原価(コスト)で完成させるか」という社内目標値です。積算額(発注者への提示額)から、自社の利益や一般管理費などを除いた「原価部分」を基準に、より現実に即したコストダウンの工夫や仕入れ努力を反映させて作成されます。

現場監督は、この実行予算内で工事を収める(予実管理する)ことで、会社の利益確保に責任を持ちます。

比較一覧表:目的・タイミング・作成者

実行予算と積算の主な違いを以下の表にまとめます。

比較項目 積算 実行予算
主な目的 工事価格(見積額)の算出 社内の原価管理・利益確保
作成タイミング 受注前(入札・見積時) 受注後(着工前)
作成者(主体) 積算担当者、営業担当者 現場監督(所長)、工務担当
金額の構成 直接工事費+間接工事費+一般管理費+利益 実行(目標)原価(直接工事費+間接工事費)
対象(誰向け) 発注者(クライアント) 社内(経営層、現場担当者)

建設業における「積算」の重要性と役割

建設業において積算は、受注活動の起点となる極めて重要な業務です。積算の精度が、受注の可否や工事の収益性を左右すると言っても過言ではありません。ここでは、対策キーワードでもある「積算」の具体的な役割と、その重要性について深掘りします。

積算の主な目的:工事費用の算出と見積作成

積算の最大の目的は、客観的な根拠に基づいた工事価格(見積額)を算出することです。発注者から提示された設計図書(図面)や仕様書を読み解き、工事に必要な以下の要素をすべて洗い出します。

積算で算出する主な費用

材料費:コンクリート、鉄筋、内装材など、使用する資材の数量と単価
労務費:職人(作業員)の人数と作業日数(人工=にんく)
機械経費:クレーンや掘削機などのレンタル・リース費用や燃料費
その他:足場や仮設事務所などの共通仮設費(間接工事費の一部)

これらの費用を一つひとつ積み上げることで、工事原価を予測し、そこに会社の一般管理費や利益を加えて、最終的な「見積書」が作成されます。

積算を行うタイミング:入札・見積提出前

積算は、必ず工事を受注する「前」に行われます。公共工事の「入札」や、民間工事の「見積提出」の段階で必要となります。この積算額が、発注者に対する契約金額のベースとなるため、非常に責任の重い作業です。工事が始まってから「あの費用を計上し忘れた」となっても、原則として発注者への追加請求は困難です。

積算が不正確だとどうなる?(読者の不安)

「もし積算が間違っていたら?」という不安は当然です。積算の精度が低い場合、企業に深刻な影響を与えます。

受注機会の損失(高すぎる見積)
必要以上に費用を高く見積もりすぎると、他社との価格競争に負け、受注そのものができなくなります。

赤字工事のリスク(安すぎる見積)
必要な材料や人件費の拾い漏れがあると、受注はできても、実際の工事費用が見積額を上回り、結果として赤字工事(利益が出ない工事)になるリスクが直結します。

実行予算作成時の混乱
積算の根拠が曖昧だと、受注後に実行予算を組む際、何が原価で何が利益なのかが不明確になり、現場が混乱する原因となります。

現場の生命線「実行予算」の重要性と役割

積算が「受注のための計算」であるのに対し、実行予算は「利益を出すための計画」です。受注が決まった瞬間から、現場の焦点は積算から実行予算に移ります。ここでは、積算と対比させながら、建設現場の運営に不可欠な実行予算の役割を解説します。

実行予算の主な目的:原価管理と利益確保

実行予算の唯一かつ最大の目的は、受注した工事で確実に利益を確保するための「原価(コスト)管理」を行うことです。受注金額(積算に基づく見積額)はすでに決まっています。その範囲内で、いかに安く、安全に、品質良く工事を完成させるか。そのための具体的な原価目標額が実行予算です。

いわば、工事現場における「社内の作戦書」であり、利益を生み出すための設計図とも言えます。

実行予算を作成するタイミング:受注後・着工前

実行予算は、工事の受注が正式に決定し、着工する「前」の段階で作成されます。積算時よりも時間的な余裕があるため、現場監督(現場代理人)が中心となり、積算時の内訳を精査します。実際の仕入れ先となる専門工事業者(サブコン)や資材屋に見積を依頼し、より現実に即した、かつコストダウン努力を反映させた目標原価を設定します。

実行予算が重要な理由:現場監督の「羅針盤」

実行予算は、現場監督にとって日々の業務判断を行うための「羅針盤」として機能します。

例えば、ある資材を発注する際、A社は100万円、B社は95万円だったとします。実行予算でその資材の予算が98万円と組まれていれば、迷わずB社を選ぶことができます。もし実行予算がなければ、「安い気はするが、これが会社にとって得なのか損なのか」が判断できません。

実行予算は、現場監督に与えられた「使えるコストの上限」を示す、極めて重要な指標なのです。

実行予算と積算の関係性|建設現場での業務フロー

「積算」と「実行予算」は別々のものではなく、建設業の業務フローの中で密接に関連しています。簡単に言えば、「積算」という受注前の計算結果をインプットとして、「実行予算」という受注後の原価目標がアウトプットされる関係にあります。ここでは、その一連の流れを4つのステップで解説します。

設計図面と実行予算のPC画面を見比べる現場監督

STEP1: 積算(設計図書から工事費を算出)

業務のスタート地点です。発注者から提示された設計図書・仕様書を基に、積算担当者が工事に必要な費用(直接工事費、間接工事費)を詳細に拾い出し、積み上げます。この段階では、まだ受注できるか分かりません。

STEP2: 見積提出・受注

STEP1で算出した積算額(予想される原価)に、本社経費(一般管理費)や会社の利益(利潤)を上乗せして、「見積額」を決定します。この見積額を発注者に提示し、無事に契約が成立すると「受注」となります。

STEP3: 実行予算の作成(積算額から利益を確保)

受注が決定したら、現場監督の出番です。STEP1の積算で使用した内訳(原価部分)をベースに、「本当にこの金額でできるか?」「もっとコストを抑えられないか?」という現場目線で内容を精査し、現実的な原価目標=実行予算を作成します。

この時、「受注金額(見積額) - 実行予算額」の差額が、その工事で生み出すべき「計画上の粗利益」となります。

STEP4: 着工・原価管理(実行予算との比較)

工事が開始されると、現場監督は日々発生する原価(材料の発注、業者への支払いなど)を管理します。この時、常に「実行予算」と「実際にかかった費用(実績)」を比較し続けます。これを予実管理(よじつかんり)と呼びます。予算を超えそうな項目があれば、他の項目でコストダウンを図るなど、工事完了まで利益確保のための調整を続けます。

なぜ?積算(見積額)と実行予算に差額が生まれる主な理由

実務において、「積算額(原価部分)」と「実行予算額」は、多くの場合一致しません。これはミスではなく、両者の目的が異なるために生じる必然的な差です。ここでは、積算と実行予算の間に差額が生まれる主な3つの理由を解説します。

理由1:計上する「利益」と「経費」の違い

最も大きな理由は、金額を構成する要素の違いです。

積算(最終的な見積額)には、工事原価(直接工事費+間接工事費)に加え、発注者に見積書として提示するために、本社の運営費などを含む「一般管理費」「会社の利益(利潤)」が上乗せされています。

一方、実行予算は、純粋に現場で発生する「原価(コスト)」のみを対象とします。そのため、積算額から利益や一般管理費を除いた金額が、実行予算のベースとなります。

理由2:積算時と実行予算作成時の「仕入れ価格」の変動

積算は受注の数ヶ月前に行われることも珍しくありません。しかし、実行予算を作成するのは受注が決まった着工直前です。この間に、社会情勢や需給バランスによって、資材の単価や職人の労務費が変動している可能性があります。

積算時はAという資材を1万円と見ていても、実行予算作成時には9千円で仕入れられる目処が立ったり、逆に1万1千円に値上がりしたりします。この現実の単価を反映させるため、差額が生じます。

理由3:安全対策費や予備費の計上方針

積算の段階では、現場の詳細な状況が見えにくいため、安全対策費や細かな仮設費、あるいは不測の事態に備える予備費などを「概算(おおよそ)」や「一定の比率」で計上することがあります。

しかし、実行予算を作成する段階では、現場監督が実際の現場状況(隣地との境界、搬入経路など)を把握しているため、より具体的かつ現実的な安全計画に基づいて費用を組み直します。これにより、積算時の概算額と実行予算額に差が出ることがあります。

精度の高い「積算」と「実行予算」を作成・管理するコツ

精度の高い積算は適正な受注に繋がり、厳格な実行予算管理は確実な利益に繋がります。これらは建設業の収益性を支える両輪です。ここでは、それぞれの精度を高め、適切に管理するための実務的なポイントを解説します。

正確な積算を行うためのポイント

積算は「拾い漏れ」や「単価間違い」が命取りになります。以下の点を意識することが重要です。

設計図書・仕様書の徹底的な読み込み
図面に書かれていることだけでなく、仕様書に記載された材料のグレードや工法、特記事項を見落とさないことが最も重要です。

最新の単価データ(資材・労務)の収集
過去の単価に頼らず、常に最新の仕入れ単価や市場の労務単価を把握し、積算に反映させることが不可欠です。

積算基準(公共工事の場合など)の理解
特に公共工事では、詳細な「公共工事標準積算基準」に準拠する必要があります。こうしたルールを正しく理解し、適用することが求められます。

過去の類似工事データの活用
過去に施工した類似工事の積算データや、実際にかかった原価(実績)データを参照することで、積算の精度を高めることができます。

利益を生む実行予算を組むためのポイント

実行予算は、積算をそのまま流用するのではなく、「利益を出す」という強い意志を持って作成する必要があります。

積算時の内訳を流用せず、現場目線で見直す
積算時の内訳はあくまで「受注用」です。現場監督の目で、「この工法ならもっと安くできる」「この業者は高い」など、現実的なコストダウンを検討します。

複数の仕入れ先から見積(相見積)を取る
資材や専門工事業者の選定において、必ず複数の業者から見積(相見積)を取り、価格交渉を行うことで、実行予算を圧縮します。

無理のない範囲でのコストダウン(VE/CD提案)を検討する
品質や安全性を低下させない範囲で、より安価な材料や効率的な工法(VE/CD提案 ※Value Engineering / Cost Down)を検討し、実行予算に織り込みます。

リスクに備えた予備費を適切に設定する
コストダウンばかりを追求すると、不測の事態(天候不順、追加作業など)に対応できず、赤字になるリスクがあります。一定の予備費を確保することも重要です。

実行予算と実績の「予実管理」の重要性

実行予算は「作って終わり」の計画書ではありません

工事が始まったら、完了するまで「実行予算(計画)」と「実際にかかった費用(実績)」を比較・分析し続ける「予実管理」こそが、利益確保の最大の鍵です。予算を超過しそうな兆候があればすぐに対策を打ち、予算内で工事を完了させるための継続的な活動が求められます。

まとめ:積算は「見積」、実行予算は「原価管理」の要

この記事では、建設業における「積算」と「実行予算」の違い、そしてその関係性について解説しました。

本記事のまとめ

積算は「発注者に対し、いくらで工事ができるか」を提示するための見積の根拠(受注のための計算)です。

実行予算は「受注した工事を、社内でいくらの原価で完成させるか」という利益確保のための目標値(原価管理の羅針盤)です。

建設業において、精度の高い「積算」によって適正な価格で受注を獲得し、その受注した工事を厳格な「実行予算」管理によって確実に利益あるものにすることは、企業経営を支える両輪と言えます。

積算と実行予算に関するよくある質問

Q. 積算と見積は同じものですか?
A. 厳密には異なります。「積算」は、見積金額を算出するための「計算過程・根拠」そのものを指します。具体的には、材料費や労務費を積み上げる行為や、その結果としての工事原価を指します。一方、「見積」は、その積算結果(工事原価)に、会社の一般管理費や利益を加えて、発注者に提示する「最終的な契約希望金額(見積書)」を指すことが一般的です。

Q. 実行予算は誰が承認するものですか?
A. 一般的には、その工事の責任者である現場監督(現場代理人や所長)が作成し、所属する部署の上長(例:工事部長、工務部長)や役員、あるいは社長が承認します。企業の規模や体制によって承認フローは異なりますが、実行予算は「会社として、その原価で工事を完了させ、利益を確保する」という重要なコミットメント(約束)であるため、必ず組織的な承認プロセスを経ます。

Q. 積算ソフトや原価管理システムは導入すべきですか?
A. 必須ではありませんが、導入することで業務の大幅な効率化と精度の向上が期待できます。特に積算業務は、拾い漏れや計算ミスといったヒューマンエラーが赤字に直結するため、ソフトの導入効果は高いです。また、実行予算の管理(予実管理)も、システム化することでリアルタイムな原価把握が可能になり、迅速なコスト対策が打てるようになります。

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