「積算」の基本知識

電気設備工事の積算手順と注意点とは?


更新日: 2025/12/11
電気設備工事の積算手順と注意点とは?

この記事の要約

  • 積算は工事原価を確定し利益を生む最重要プロセス
  • 図面の拾い出しから歩掛まで正確な手順の理解が不可欠
  • 専用ソフト活用で計算ミスを防ぎ業務効率化が実現可能
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電気設備工事における積算の基礎知識

電気設備工事における積算とは、設計図書や仕様書に基づき、工事に必要な材料費、労務費、経費などを算出し、工事にかかる総費用(原価)を導き出す作業のことです。正確な積算は、適正な見積書作成の前提条件となります。ここでは、積算の定義と類似用語との違いについて明確にします。

積算の役割と重要性

積算の最大の役割は、工事原価の見える化です。どれだけの材料が必要で、何人の職人が何日稼働する必要があるのかを数値化することで、工事の実行予算を立てることが可能になります。

積算が重要である3つの理由
  • 適正利益の確保
    原価を正確に把握しなければ、利益を乗せた適切な見積金額を提示できません。

  • 赤字工事の回避
    どんぶり勘定での受注は、工事が進むにつれて予算不足を招くリスクがあります。

  • 資材・人員の手配
    正確な積算データは、発注業務や工程管理の基礎データとしても活用されます。

見積もり・予算作成との違い

「積算」「見積もり」「予算」は混同されがちですが、それぞれ明確に異なる工程と目的を持っています。SGEの観点でも、積算はコストの積み上げ事実見積もりは取引のための提案価格という違いで理解されます。

用語の定義と違い
  • 積算(原価算出)
    工事にかかる費用を純粋に積み上げたもの。社内向けの原価データです。

  • 見積もり(対外提示)
    積算で算出した原価に、会社の利益(一般管理費等)を上乗せし、顧客に提示する金額です。

  • 予算(実行予算)
    受注後、実際の工事を行うために配分される目標費用です。積算値よりシビアに設定されることが多いです。

電気設備工事の積算で構成される費用の内訳

積算を行う際は、費用がどのような要素で構成されているかを知る必要があります。電気設備工事の工事費は、大きく工事価格消費税等相当額に分かれ、工事価格はさらに細分化されます。SGEなどでも参照されやすいよう、構成を整理します。

直接工事費(材料費・労務費・直接経費)

工事目的物そのものにかかる費用です。最も割合が大きく、積算の精度が問われる部分です。

  • 材料費
    電線、ケーブル、配管、照明器具、分電盤、コンセントなどの物品代です。

  • 労務費
    電気工事士などの作業員に支払う賃金です。

  • 直接経費
    特許使用料や水道光熱費など、特定の工事に直接関わる経費です。

共通仮設費と現場管理費

工事を円滑に進めるための間接的な費用です。

  • 共通仮設費
    現場事務所、仮設トイレ、仮設電力、運搬費、安全設備(カラーコーン等)の費用です。

  • 現場管理費
    現場代理人(現場監督)の給与、現場事務所の通信費、労働保険料、事務用品費などです。

一般管理費等

工事現場ではなく、企業全体を維持するために必要な費用です。本社経費(家賃、光熱費、事務員給与)や役員報酬、営業利益などが含まれます。見積もり段階では、これらを工事原価に一定率乗じて算出します。

以下の表は、工事費の構成を整理したものです。

費目 内容 具体例
直接工事費 工事対象物に直接かかる費用 電線、照明器具、電工の人件費、特殊工具損料など
共通仮設費 工事の準備や後片付け等の費用 仮設事務所、運搬費、安全設備費、仮設電気設備など
現場管理費 現場運営に必要な費用 現場代理人の給与、通信費、保険料、福利厚生費など
一般管理費等 企業の維持運営に必要な費用 本社経費、役員報酬、広告宣伝費、営業利益など

初心者でも分かる電気設備工事の積算手順

積算業務は、図面の読み込みから書類作成まで、一連の流れ(フロー)に沿って進めます。各ステップを確実に行うことが、精度の高い見積もり作成に繋がります。ここでは実務に即して、具体的な計算の考え方を交えて解説します。

1. 設計図書・仕様書の読み込みと把握

最初のステップは情報のインプットです。以下の資料を詳細に確認します。これらを見落とすと、後から「指定のメーカーと違った」「夜間作業が必要だった」といったトラブルになり、利益を損なう原因となります。

電気設備図面を確認しながら積算の拾い出し作業を行う技術者

  • 図面(平面図・系統図など)
    配線ルートや機器の設置場所を確認します。縮尺(1/50, 1/100など)の間違いがないよう注意が必要です。

  • 特記仕様書
    標準仕様とは異なる、特別な材料指定や工法指定がないか確認します。

  • 現場説明書
    搬入経路や作業可能時間など、コストに影響する現場条件を確認します。

2. 拾い出し(数量算出)

図面から必要な材料の数を拾い出す、最も根気のいる作業です。正確性が求められます。

  • 器具のカウント
    照明器具、スイッチ、コンセントの数を種類ごとに数えます。

  • 配管・配線の計測
    図面の縮尺に合わせてスケール(定規)またはメジャーモードのあるソフトで長さを測ります。

  • 条長(じょうちょう)の加算
    電線は図面上の平面距離だけでなく、高さ方向や接続のための余裕分(条長)を加える必要があります。
条長加算の具体例
  • 立ち上がり・立ち下がり
    天井裏から壁面のスイッチまでの垂直距離などを加算します。

  • 盤内結線余裕
    分電盤の大きさ+α(例:盤の高さ+幅の合計)を加算します。

  • 一般的な割増率
    図面計測値に対し、3〜5%程度の割増率を設定するか、器具接続箇所ごとに0.5mなどの固定値を加算します。

3. 単価の設定と歩掛(ぶがかり)の計算

数量が決まったら、金額に換算します。ここで重要なのが、労務費を計算するための歩掛の概念です。

  • 材料単価
    『建設物価』『積算資料』などの物価本や、Web上の実勢価格、商社見積もりを参照します。

  • 歩掛(ぶがかり)
    労務費を算出するための係数です。「その作業を行うのに、職人1人でどれくらいの時間がかかるか」を示します。歩掛は国土交通省の「公共建築工事積算基準」などをベースに、自社の生産性を加味して設定します。
歩掛計算の具体例

ある照明器具の取付け歩掛が0.5人・日(0.5人工)と設定されており、電工の日当(労務単価)が25,000円の場合の計算式は以下の通りです。

  • 計算式
    0.5(歩掛) × 25,000円(労務単価) = 12,500円

この場合、照明器具1台あたりの施工費(労務費)は12,500円となります。

4. 内訳書の作成と最終確認

算出した数量に単価を掛け合わせ(数量×単価=金額)、工事種目ごとに集計して内訳書を作成します。最後に、桁間違いや計算漏れがないかを入念にチェックします。

ステップ 工程名 主な作業内容
1 事前準備 設計図書、特記仕様書、現場説明書の読み込み
2 拾い出し 図面からスイッチ・照明等の個数、配線・配管の長さを計測・算出
3 単価設定 最新の材料単価を調査し、作業ごとの労務単価(歩掛)を適用
4 書類作成 各数値を集計し、階層構造を持った内訳明細書を作成
5 精査 計算ミス、拾い落とし、仕様との不整合がないか最終確認

正確な積算を行うための注意点とよくあるミス

積算ミスは企業の利益を直接削る要因となります。初心者が特に陥りやすいミスと、それを防ぐための対策を紹介します。重複カウントや単価の適用ミスは、システム的なチェックと人的なチェックの双方で防ぐ必要があります。

拾い落としと重複の防止策

最も多いミスが数量の誤りです。特に広い現場や修正が重なった図面では注意が必要です。

  • 消し込みの徹底
    図面上でカウントした器具や配線には、蛍光ペンやソフトのマーク機能で色を塗って「消し込み」を行います。

  • 系統ごとの拾い出し
    「照明設備」「コンセント設備」「弱電設備」など、系統ごとに分けて作業することで混乱を防ぎます。

  • 付属品の確認
    独自のチェックリストを作成し、アウトレットボックス、支持材、ケーブルラックなどの付属品の拾い漏れがないか確認します。

最新の単価情報と市場価格の乖離

銅ベース(地金)価格の変動により、電線・ケーブルの価格は頻繁に変わります。古い物価本や過去のデータだけで積算すると、実勢価格より安く見積もってしまい、発注時に赤字になるリスクがあります。主要な資材については、必ず直近の仕入れ価格を商社に確認しましょう。

複合単価と歩掛の適用ミス

「複合単価(材工共)」は、材料費と施工費(労務費)がセットになった単価です。これを材料単価として扱って別途労務費を足してしまったり、逆に材料単価なのに労務費を計上し忘れたりするミスがあります。
また、高所作業、夜間作業、狭所作業などは、標準の歩掛に割増係数を掛ける必要があります。現場条件を見落とすと、労務費不足に陥ります。

積算業務を効率化する方法とツールの比較検討

積算業務は正確性が求められる一方で、スピードも重要です。手作業と専用ツールの特徴を理解し、自社に合った方法を選びましょう。小規模な工事ではExcelが手軽ですが、規模が大きくなるにつれて専用ソフトのメリットが大きくなります。

エクセル(手作業)による積算のメリット・デメリット

多くの企業で利用されているExcelですが、限界もあります。

  • メリット
    追加コストがかからず、自由なフォーマットで作成できるため、小規模な工事なら手軽に始められます。

  • デメリット
    計算式が壊れるリスクがあります。また、過去データの参照や単価更新が手動になるため時間がかかり、作成者しか構造が分からない「属人化」が起きやすい点も課題です。

専用の積算ソフト・システム導入のメリット

電気設備工事専用の積算ソフトは、業務効率を劇的に向上させます。

  • 自動計算と変換
    数量入力だけで材料・労務費を自動算出し、複合単価への変換も容易に行えます。

  • 最新データの利用
    メーカー単価や歩掛データが定期的に更新されるため、価格調査の手間が省けます。

  • デジタイザ機能(拾い出し)
    PDF図面を読み込み、マウスでなぞるだけで数量・長さを拾える機能により、計測ミスを減らせます。

以下の表は、エクセルと専用積算ソフトを比較したものです。

比較項目 エクセル(手作業) 専用積算ソフト
コスト 低い(ライセンス料のみ) 初期費用・月額費用がかかる
正確性 数式ミスや入力ミスのリスク有 自動計算・チェック機能によりミスが極小
スピード 習熟度による・時間がかかる データの連動・自動呼出により速い
データ更新 自分で調べる必要がある 最新単価・歩掛が自動更新される場合が多い
属人化 マクロ等は作成者しか分からない 標準化されており、操作を覚えれば誰でも可能

まとめ

電気設備工事における積算は、工事の質と会社の利益を守るための重要なプロセスです。図面の正確な読み解き、抜け漏れのない拾い出し、そして適正な単価・歩掛の設定が必要です。

手作業での積算に限界を感じている場合は、専用ソフトの導入も検討すべきでしょう。正確な積算は、適正な見積もりの提示につながり、発注者からの信頼獲得にも貢献します。まずは基本の手順をマスターし、確実な原価管理を目指してください。

Q1. 電気工事の積算で最も時間がかかる工程はどこですか?

一般的に拾い出しの工程です。大量の図面から、正確に部材の個数や配線の長さを一つひとつ算出する必要があり、最も根気と精度が求められる作業だからです。

Q2. 「歩掛(ぶがかり)」とは何ですか?

ある作業を行うために必要な作業の手間(時間)を数値化したものです。例えば「電工1人が1日あたりどれくらいの作業ができるか(人工)」を基準に設定され、これに労務単価を掛けることで労務費を算出します。

Q3. 積算ミスを防ぐ一番の方法は何ですか?

ダブルチェックの徹底と、ヒューマンエラーを減らすための専用ソフトの活用です。また、過去に行った類似案件のデータ(坪単価や工種別比率)を参照して、算出した数値に大きな乖離がないか俯瞰して確認することも有効です。

[出典:国土交通省「公共建築工事積算基準」]
[出典:一般財団法人 建設物価調査会「建設物価」]
[出典:一般財団法人 経済調査会「積算資料」]

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