「積算」の基本知識

積算の役割とは?発注者・施工者別に解説


更新日: 2025/10/28
積算の役割とは?発注者・施工者別に解説

この記事の要約

  • 積算とは工事費用(原価)を算出する作業
  • 発注者は予算把握、施工者は利益確保が目的
  • 積算と見積、原価計算との違いも明確化

積算とは?建設プロジェクトにおける基本的な定義と重要性

建設プロジェクトにおいて「積算」は、コストを管理し事業の成否を左右する極めて重要な業務です。このセクションでは、積算が具体的に何を計算するものなのか、その基本的な定義と、なぜプロジェクトに不可欠とされるのか、その重要性を解説します。

積算の基本的な意味

積算とは、建設プロジェクトにかかる工事費用、すなわち工事原価を算出する作業全般を指します。

具体的には、設計図書(図面や仕様書)に基づき、工事を完成させるために必要な「材料費」「労務費(人件費)」「機械経費」などの費用を項目ごとに洗い出します。

それぞれの項目について、必要な「数量」(例:コンクリートの体積、壁紙の面積など)を算出し、その数量に「単価」(例:コンクリート1立方メートルあたりの価格)を掛け合わせます。最後に、それらすべての費用を文字通り「積み上げて」合計することで、工事全体の費用を導き出します。この「積み上げる」という行為が、「積算」という言葉の由来となっています。

なぜ積算は建設プロジェクトに不可欠なのか

建設プロジェクトは、非常に多くの資材と人手が動く大規模な事業であり、莫大なコストが発生します。もし着工前に正確な積算が行われなければ、発注者はどれだけの予算を準備すべきか分からず、施工者は利益を確保できるか不明なまま工事を進めることになります。

正確な積算は、プロジェクトの予算計画、資金調達、入札価格の決定、そして最終的な採算性の判断まで、あらゆる意思決定の基礎となる「羅針盤」の役割を果たします。コストを可視化し、プロジェクトに関わるすべての関係者(発注者、設計者、施工者)が共通の認識を持つために、積算は不可欠なプロセスなのです。

「積算」と「見積」「原価計算」の違いは?

積算と似た言葉に「見積」や「原価計算」があります。これらは密接に関連しますが、目的、算出内容、実施するタイミングが明確に異なります。読者が混同しやすいこれらの違いを整理し、積算の正確な立ち位置を理解することで、業務への理解が深まります。

積算 vs 見積:目的と算出内容の違い

積算の目的は、前述の通り「工事にかかる費用(工事原価)を算出すること」です。これは、施工者が工事を完成させるために最低限必要なコストの予測値と言えます。

一方、見積の目的は、積算で算出した工事原価を基に、施工会社の「利益(利潤)」や「一般管理費(本社の経費など)」を加えて、発注者に提示する契約金額を決定することです。

つまり、積算が「内部的なコスト計算」であるのに対し、見積は「外部(発注者)への提示金額」という側面が強くなります。一般的に「見積金額 = 積算金額(工事原価)+ 一般管理費 + 利益」という関係になります。

積算 vs 原価計算:タイミングと焦点の違い

積算は、工事が始まる「」、つまり設計段階や入札段階で行われる「費用の予測」です。

対して原価計算は、工事が始まった「」(施工中または施工完了後)に、実際にどれだけの費用が発生したのかを集計・分析する作業です。

積算は「未来のコスト(予定原価)」に焦点を当て、原価計算は「過去のコスト(実際原価)」に焦点を当てます。施工者は、この積算(実行予算)と原価計算(実際原価)を比較することで、プロジェクトが計画通りに進んだか、利益が確保できたかを評価・分析します。

積算・見積・原価計算の比較表

項目 積算 見積 原価計算
目的 工事にかかる費用(原価)を算出する 発注者への提示金額(契約金額)を決定する 実際にかかった費用(原価)を把握・分析する
算出内容 必要な材料・労務費等の数量×単価=工事原価 積算額+一般管理費+利益 実際に発生した材料費・労務費・外注費など
タイミング 設計段階~入札前 積算完了後~入札・契約時 施工中~施工完了後
主な利用者 発注者、施工者 発注者(提示先)、施工者 施工者

【立場別】積算の重要な役割とは?

積算は、プロジェクトに関わる「発注者(施主)」と「施工者(建設会社)」の両方にとって重要な役割を持ちます。しかし、その立場によって積算に求める目的や活用方法が異なります。ここでは、それぞれの立場から見た積算の具体的な役割を詳しく解説します。

発注者(施主)側から見た積算の役割

発注者が積算を理解し、活用することには大きなメリットがあります。単に施工者から提示される金額を受け入れるだけでなく、主体的にコストを管理するために積算は機能します。

適切な予算計画の立案:
プロジェクトの初期段階(企画・基本設計段階)で概算の積算を行うことで、事業全体の予算規模を正確に把握できます。これにより、無謀な計画を防ぎ、必要な資金調達などを具体的に進めることが可能になります。

入札・契約時の適正価格の判断:
施工者から提示された複数の見積書を比較検討する際、発注者側でも積算(または積算に基づいた予定価格)を持つことで、その金額が市場価格とかけ離れていないか、妥当かどうかを判断する客観的な基準となります。不当に高い金額での契約を防ぎ、コストの最適化を図れます。

設計変更時のコスト管理:
工事の途中で仕様変更や設計変更が必要になった場合、変更内容に応じた積算を再度行うことで、工事費がどれだけ増減するのか(増減額)を迅速かつ正確に把握できます。これにより、予算オーバーを未然に防ぐためのコストコントロールが可能になります。

建設プロジェクトの会議で図面を囲んで協議する発注者と施工者

施工者(建設会社)側から見た積算の役割

施工者にとって、積算は会社の利益に直結する、経営の根幹をなす業務の一つです。正確な積算なくして、安定した企業経営は成り立ちません。

実行予算の作成:
積算で算出した工事原価は、受注後に現場が工事を遂行するための「実行予算」の基礎となります。現場監督は、この実行予算内で工事を完了させ、利益を生み出すことが求められます。

見積書作成の基礎:
発注者に提示する見積書は、この積算額がなければ作成できません。積算の精度が低い(=原価の予測が甘い)と、不正確な見積となり、受注機会を逃したり、仮に受注できても赤字になったりするリスクがあります。

資材発注・人員計画の策定:
積算の過程で、必要な資材の「数量」や、必要な職人の「工数(人工)」が具体的に算出されます。これは、どのタイミングでどれだけの資材を発注し、何人の作業員を手配するかの具体的な計画(=工程管理)を立てるための重要な情報となります。

利益確保のためのコスト管理:
施工者にとって、積算は「赤字工事」を防ぐための生命線です。必要な原価を漏れなく把握することで、その上で適正な利益を乗せた見積を作成し、会社としての利益を確保する土台となります。

積算業務の基本的な流れと手順

積算業務は、単に電卓を叩くだけの作業ではありません。図面の読解から始まり、膨大な量の数値を拾い出し、最新の単価を反映させる、緻密で体系的なプロセスです。ここでは、積算が具体的にどのような手順で進められるのか、その基本的な流れを4つのステップで解説します。

1. 図面・仕様書の読み込みと理解
最初のステップは、設計者から提供された設計図書(意匠図、構造図、設備図、電気図など)や仕様書を徹底的に読み込むことです。ここに、使用する材料、工法、仕上げ、品質、施工条件など、積算に必要なすべての情報が記載されています。図面の意図を正確に把握することが、積算の精度を左右する第一歩です。

2. 数量の拾い出し(数量算出)
次に、図面に基づき、工事に必要な各項目の「数量」を算出します。例えば、「コンクリートの体積(立方メートル)」「壁紙の面積(平方メートル)」「鉄骨の重量(トン)」「配管の長さ(メートル)」などです。この作業は「拾い出し」と呼ばれ、非常に地道で根気のいる作業であり、積算業務の中核となります。拾い漏れや重複がないよう、細心の注意が必要です。

3. 単価の設定と内訳書の作成
拾い出した数量に、それぞれの「単価」を掛け合わせて金額を算出します。単価には、資材の市場価格(材料単価)や、作業員の賃金(労務単価)、建設機械の使用料(機械経費)などが含まれます。これらの単価は、自社の購買データ、取引先からの見積、または専門の物価資料(「建設物価」「積算資料」など)を基に設定します。各項目の「数量×単価=金額」を一覧にしたものが「(工事費)内訳書」です。

4. 積算金額の集計と確認
最後に、作成した内訳書を工種ごと(例:仮設工事、土工事、鉄筋工事、内装工事…)に集計し、それらを積み上げて工事原価の総額(積算金額)を算出します。集計が完了したら、計算ミスや数量の拾い漏れがないか、単価の設定は適切か、仕様書の要求を満たしているかなどを厳しくチェック(検算)し、積算業務は完了となります。

正確な積算を行うために必要なスキルと知識

精度の高い積算を行うには、専門的なスキルと幅広い知識が要求されます。「積算は誰でもできる」というものではなく、専門職としての能力が不可欠です。ここでは、積算担当者に求められる主要なスキルや知識について解説し、どのような能力が必要なのかを明らかにします。

図面読解力と建築・土木知識

積算のスタートは図面を理解することです。設計図面から、建物の形状や寸法だけでなく、構造、使用される材料、施工方法(工法)を正確に読み取る能力が必須です。
単に図面が読めるだけでなく、なぜその工法が採用されているのか、実際の施工手順はどうなるのかといった、建築や土木に関する広範な専門知識がなければ、図面に明記されていない必要な仮設費用や手間(労務費)を正確に拾い出すことはできません。

数量算出の正確性と忍耐力

積算業務の多くは、図面から細かい数量を一つひとつ拾い出す地道な作業です。特に大規模なプロジェクトでは、拾い出す項目は数万点に及ぶこともあります。
小さな見落としや計算ミスが、最終的に大きな金額の誤差につながるため、細部にまで注意を払う「正確性」が何よりも求められます。また、膨大な量の拾い出し作業をミスなくやり遂げる「忍耐力」や「集中力」も、積算担当者にとって重要な資質です。

最新の単価・市場動向の把握

資材価格や労務費は、社会情勢、燃料費、需給バランスによって常に変動しています。
古い単価や実勢と異なる単価で積算してしまうと、実際の原価と大きな乖離が生まれ、赤字工事の原因となります。物価資料の定期的な確認や、取引先(サプライヤーや専門工事業者)からの情報収集などを通じて、常に最新の市場動向を把握し、適切な単価を設定する情報収集能力が求められます。

積算ソフトの操作スキル

現代の積算業務は、専用の「積算ソフト(積算システム)」を使用して行われるのが主流です。手作業に比べて圧倒的に効率的かつ正確に作業を進めることができます。
そのため、これらのソフトウェアを使いこなし、機能を最大限に活用するためのITスキルが必須となります。図面データを読み込ませたり、単価データベースを更新・管理したりと、システムを適切に操作する能力も重要なスキルです。
[出典:一般社団法人日本建築積算協会「積算とは」]

積算業務における課題と今後の展望

建設業界において不可欠な積算業務ですが、その専門性の高さゆえの課題も抱えています。一方で、業界全体で進むDX(デジタルトランスフォーメーション)の波は、積算業務の未来を大きく変えようとしています。ここでは、積算の現状の課題と今後の展望について解説します。

読者のよくある不安:積算は難しい?人手不足?

これまで見てきたように、積算業務は図面読解、建築・土木の専門知識、緻密な計算能力、市場動向の把握など、多岐にわたる能力が求められる「専門職」であり、習得は容易ではありません。
この専門性の高さや業務の負荷から、建設業界全体の人手不足と相まって、積算の担い手(積算担当者)が慢性的に不足していることが大きな課題となっています。特に、経験豊富なベテランの積算担当者の高齢化も進んでおり、若手への技術継承が急務とされています。

IT化・BIM/CIM導入による積算業務の変化

積算業務の属人化や人手不足といった課題を解決する切り札として、IT化が急速に進んでいます。
特に注目されているのが BIM/CIM(Building / Construction Information Modeling)の導入です。これは、コンピューター上に作成した3次元のデジタルモデルに、部材の仕様、数量、コストなどの情報を付加して管理する手法です。
BIM/CIMを活用すれば、3Dモデルから自動的に数量を算出(自動拾い出し)できるため、従来の手作業による「拾い出し」業務の大幅な効率化と精度向上が期待されています。積算ソフトも日々進化しており、AIによる単価予測や図面認識機能なども登場しています。

コンピューターでBIMの3Dモデルを確認しながら積算業務を行う技術者

積算の重要性と将来性

たとえBIM/CIMやAIが導入され、数量算出が自動化されたとしても、「コストを管理する」という積算の根本的な役割がなくなることはありません。
自動算出された数量が正しいかの最終判断、市況を反映した適切な単価の設定、そしてリスクを考慮した最終的なコスト判断を下すのは、依然として専門知識と経験を持った人間の役割です。
技術の進化に伴い、積算担当者の役割は、単純な「作業者」から、ITやデータを活用してプロジェクト全体のコストを最適化する「コストマネージャー」へと、より高度化していくと考えられます。そのため、積算の重要性は今後ますます高まるでしょう。

まとめ:積算はプロジェクト成功の鍵を握る重要な役割

この記事では、積算の基本的な定義から、見積との違い、立場別の役割、業務フロー、そして未来の展望までを解説しました。建設プロジェクトにおける積算の重要性を、改めて簡潔にまとめます。

積算の役割と重要性のまとめ

積算とは、建設工事にかかる費用(工事原価)を、図面や仕様書に基づき、必要な数量と単価から正確に算出する重要な業務です。
・「見積」(利益を含めた提示金額)や「原価計算」(施工後の実績費用)とは、目的とタイミングが明確に異なります。
発注者にとっては「適切な予算計画」や「見積金額の妥当性判断」の基準となり、施工者にとっては「実行予算の作成」や「適正な利益確保」の土台となります。
・正確な積算は、プロジェクト全体のコストを可視化し、関係者の意思決定を支える「羅針盤」であり、プロジェクトを成功に導くための鍵を握っています。

積算に関するよくある質問

最後に、積算業務に関して読者から寄せられることの多い、代表的な質問とその回答をまとめました。資格の有無、積算ソフトの具体的な機能、公共工事と民間工事の違いなど、さらに理解を深めるためにお役立てください。

Q. 積算の仕事に役立つ資格はありますか?
A. はい、あります。代表的な資格として、一般社団法人日本建築積算協会が認定する「建築積算士」や、一般社団法人日本土木積算協会が認定する「土木積算技術者」などがあります。これらは積算に関する専門知識と技術を証明する資格であり、キャリアアップにも役立ちます。ただし、これらは民間資格であり、業務を行う上で必須の独占資格ではありません。実務経験が最も重視される傾向にあります。
[出典:一般社団法人日本建築積算協会「資格制度」]
[出典:一般社団法人日本土木積算協会「資格試験」]

Q. 積算ソフトとはどのようなものですか?
A. 積算業務を効率化・高精度化するための専用ソフトウェアです。主な機能として、PDFやCADの図面データを読み込んで画面上でなぞるだけで数量を拾い出せる機能、物価資料と連動した単価データベース機能、拾い出した数量と単価を自動で掛け合わせて内訳書を自動作成する機能などがあります。手作業による計算ミスや拾い漏れを劇的に減らし、作業時間を大幅に短縮することができます。

Q. 公共工事と民間工事で積算の方法は違いますか?
A. 工事原価を算出するという基本的な考え方は同じですが、準拠するルールが大きく異なります。特に公共工事の場合は、入札の公平性や透明性、税金の使途としての説明責任を確保するため、国や地方自治体が定めた統一の「公共工事積算基準」に基づき、厳密なルールに従って積算を行う必要があります。
一方、民間工事は、発注者と施工者の間の契約内容や、施工者独自の積算基準、あるいは過去の実績データ(実勢価格)に基づいて積算されることが一般的です。
[出典:国土交通省「公共工事の積算」]

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