「人事」の基本知識

建設業の中途採用とは?人事がすべき工夫を解説


更新日: 2025/12/09
建設業の中途採用とは?人事がすべき工夫を解説

この記事の要約

  • 建設業の求人倍率は全産業比で高く採用難が続く
  • 人事はターゲット緩和と選考スピード向上が必須
  • 定着には評価制度と教育体制の整備が不可欠
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建設業の人事が知っておくべき中途採用の市場と現状

建設業界における人材不足は深刻化しており、人事担当者は単なる欠員補充ではなく、市場構造を理解した戦略的な採用活動が求められています。ここでは、公的な統計データや法改正の影響を基に、なぜ今、建設業の人事が採用難に直面しているのか、その背景にある構造的な課題を解説します。

有効求人倍率から見る建設業界の採用難易度

厚生労働省が発表する一般職業紹介状況(職業安定業務統計)において、建設業の有効求人倍率は全産業平均と比較しても顕著に高い水準で推移しています。これは求職者1人に対して複数の企業がオファーを出している状態であり、超売り手市場であることを意味します。

建設業の採用難易度が高い要因
  • 全産業との比較
    全産業の有効求人倍率が1倍台前半で推移する中、建設躯体工事や土木などの職種は、その数倍(5〜8倍近くになるケースも)の倍率となることが多く、人材獲得競争が極めて激しい状態です。

  • 専門技術者の不足
    施工管理技士(1級・2級)や熟練職人は、どの現場でも引く手あまたであり、即戦力人材の採用ハードルは年々上昇しています。特にハローワーク経由だけでなく、民間媒体でも獲得競争が過熱しています。

[出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」]

2024年問題と人手不足が加速する背景

建設業界の人事が直面する最大の課題の一つが、「2024年問題」です。働き方改革関連法に基づき、建設業に対しても時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間)が適用されました。

  • 時間外労働の上限規制の影響
    一人当たりの労働時間が制限されるため、同じ工期・品質を維持するには、これまで以上に多くの人員が必要となります。これにより、各社が一斉に増員へ動いています。

  • 労働人口の高齢化と若手入職者の減少
    日本建設業連合会などのデータによれば、建設就業者の約3割が55歳以上である一方、29歳以下の若手は全体の1割程度にとどまっています。高齢層の引退に伴う自然減に対し、若手の入職が追いついていない構造的な問題があります。

[出典:日本建設業連合会「建設業ハンドブック」]

建設業の人事が直面している「採用の壁」

建設業の人事が採用活動を行う際、業界特有のネガティブなイメージや競合との競争が大きな壁となります。これらを直視し、対策を練ることがスタートラインです。

  • 「きつい・汚い・危険(3K)」イメージの払拭
    近年は「新3K(給与が良い・休暇が取れる・希望が持てる)」への転換が進んでいますが、求職者(特に未経験層やその家族)の中には旧態依然としたイメージを持つ層も多く、応募への心理的ハードルとなっています。

  • 同業他社との激しい人材獲得競争
    大手ゼネコンから地場工務店まで、あらゆる企業が同じ人材プール(有資格者・経験者)を奪い合っています。単なる給与競争だけでなく、福利厚生や働き方の柔軟性で差別化できなければ、中小企業は埋没してしまいます。

建設業の中途採用を成功させるために人事がすべき工夫

市場環境が厳しい中、従来通りの待ちの採用手法では人材は集まりません。ここでは、建設業の人事が主体となって取り組むべき、具体的な採用要件の見直しやブランディング、選考プロセスの最適化について解説します。

建設会社のオフィスで若手社員と面談を行い、採用要件やキャリアについて話し合う人事担当者

ターゲット(ペルソナ)の明確化と要件緩和の検討

「即戦力の有資格者」のみをターゲットにすると、採用活動は長期化し、採用コスト(CPA)も増大します。人事は現場部門と連携し、現実的な採用要件を再定義する必要があります。以下のリストを参考に、必須条件(MUST)の見直しを行ってください。

採用要件緩和の具体例
  • 資格要件の緩和
    (変更前)1級施工管理技士 必須
    (変更後)2級保持者、または無資格でも現場経験3年以上なら可(入社後の資格取得を会社が全額支援)

  • 年齢・経験の緩和
    (変更前)35歳までの経験者
    (変更後)年齢不問。他業界(不動産営業、物流管理など)でのマネジメント経験や調整業務経験があれば「施工管理見習い」として採用

このように、入り口を広げつつ「自社で育てる」教育体制をセットにすることで、母集団を大幅に拡大できます。

求職者に響く自社の魅力(採用ブランディング)の再定義

自社の強みを言語化し、求職者のニーズに合わせて発信することが重要です。「うちには何もない」と諦めず、現場のリアルなメリットを掘り下げましょう。

建設業における採用訴求ポイントの整理

訴求カテゴリ 具体的なアピール内容の例 ターゲットとなる層
給与・待遇 残業代の1分単位支給、賞与実績(○ヶ月分)の公開、家族手当・住宅手当の充実、退職金制度の有無 安定志向、家族を持つ層
働きやすさ・DX 現場管理アプリ導入による直行直帰可、空調服・最新工具の支給、ペーパーレス化 効率重視、若手層
キャリアパス 資格取得費用の全額負担、独立支援制度、職人から施工管理への職種転換(キャリアチェンジ)制度 向上心が高い層、未経験者
社風 社長や上司との距離の近さ、社用車の貸与、社員寮の完備、地域イベントへの参加 コミュニケーション重視層

選考スピードの向上と面接プロセスの見直し

売り手市場においては、「連絡が遅い」だけで他社に人材を奪われます。人事は選考フローのボトルネックを解消し、スピード感を高める必要があります。

  • 応募から内定までのリードタイム短縮
    応募受付から24時間以内の返信を徹底し、一次面接から内定までを「1週間〜10日以内」に完了させる目標設定が推奨されます。

  • 土日面接やオンライン面接の導入
    現職中の求職者は平日の日中に時間を取ることが困難です。夜間(19時以降)や土日の面接対応、あるいは一次面接のオンライン化(ZoomやTeams等の活用)は、応募者の離脱を防ぐ最も有効な手段の一つです。

ミスマッチを防ぐ面接での質問例
単にスピードを上げるだけでなく、質を見極めるために以下の観点で質問を行います。

  • 現場適性の確認
    「夏場の屋外作業や早朝の出勤について、体力的な不安はありますか?」

  • チームワーク
    「これまで年代の違う方(職人さんなど)と協力して仕事をした経験はありますか?」

  • 学習意欲(未経験の場合)
    「入社後に取得したい資格や、身につけたいスキルはありますか?」

建設業の人事が活用すべき中途採用の母集団形成チャネル

求職者の属性によって、利用する媒体や経路は異なります。人事は各チャネルの特性を理解し、自社の採用ターゲットに最適な手法を組み合わせるポートフォリオ採用が求められます。

転職サイト(求人媒体)と人材紹介(エージェント)の使い分け

最も一般的な2つの手法について、それぞれの特徴と使い分けのポイントを整理します。

転職サイトと人材紹介の比較表

比較項目 転職サイト(求人広告媒体) 人材紹介(転職エージェント)
主なメリット 多くの求職者に広く認知させることが可能。コストが掲載課金型で固定化しやすい。 成功報酬型のため、採用できるまで費用がかからない。要件に合う人を推薦してくれる。
デメリット 応募がなくても掲載費がかかる。スクリーニングの手間が発生する。 採用単価(理論年収の30〜35%程度)が高額になりやすい。紹介数が確約されない。
コスト感 数十万円〜(プランによる) 1名あたり100万円〜数百万円
向いている職種 未経験者、若手層、営業職 有資格者、即戦力の施工管理、専門職

リファラル採用(縁故採用)の強化

建設業界は横のつながりが強いため、社員からの紹介(リファラル採用)は非常に有効です。

  • インセンティブ設計
    紹介した社員に対して「紹介手当」を支給する制度を整えます。ただし、金銭だけでなく「信頼できる仲間と働ける」という心理的メリットも訴求します。

  • 協力体制の構築
    現場の協力会社や職人ネットワークに対しても、求人情報をオープンにし、広く情報を拡散してもらうことが人脈活用(ネットワーキング)の鍵となります。

ダイレクトリクルーティングとSNS活用

待っているだけでは応募が来ない層に対し、企業から直接アプローチする「攻めの採用」が必要です。

  • ダイレクトリクルーティング
    スカウト型サイトに登録し、自社の要件に合う人材に個別にメッセージを送ります。「なぜあなたに興味を持ったか」を具体的に伝えることで、返信率を高めます。

  • 若手層へのSNS発信
    InstagramやTikTok、X(旧Twitter)を活用し、現場の雰囲気や完成した建物の美しさ、社員の日常を発信します。動画コンテンツは、文字だけでは伝わらない「現場のリアル」を伝えるのに効果的です。

採用後のミスマッチを防ぎ定着率を上げる人事の役割

苦労して採用しても、早期離職されては意味がありません。人事は「採用して終わり」ではなく、入社後のオンボーディング(定着支援)や労働環境の改善にコミットし、定着率向上を目指す必要があります。

建設現場でタブレットを活用し、ベテラン社員から指導を受ける若手社員

入社後のオンボーディングと教育体制の整備

入社直後の不安を解消するため、人事が主導して計画的なフォローを行います。

オンボーディングのスケジュール例
  • 入社初日〜1週間
    オリエンテーション実施、現場ルールの説明、メンター(相談役)の紹介。安全教育の徹底。

  • 入社1ヶ月目
    人事担当者による面談。「困っていることはないか」「イメージとのギャップはないか」をヒアリングし、早期に芽を摘む。

  • 入社3ヶ月〜半年
    試用期間の振り返り面談。資格取得に向けた学習計画の策定。

評価制度の透明性とキャリアパスの可視化

建設業では「現場での頑張り」が見えにくい場合があります。公平な評価制度は、社員のモチベーション維持に不可欠です。

  • 公平な評価基準の策定
    完工高や利益率といった定量評価だけでなく、安全管理への取り組み、後輩指導、チームワークといった定性評価も項目に組み込みます。

  • ステップアップの提示
    「現場作業員から現場監督へ」「現場監督から工事部長へ」といった将来のキャリアマップを可視化し、長く働くイメージを持たせます。

労働環境の改善とワークライフバランスの推進

長時間労働の是正は、採用競争力および定着率に直結する経営課題です。

  • DX導入による業務効率化
    施工管理アプリ(写真整理や日報作成の自動化など)やドローン測量などを導入し、事務作業時間を削減します。

  • 完全週休2日制への取り組み
    「4週8休」の推進や、交代制による休暇取得をアピールします。休める環境は、家族を持つ求職者にとって最大の魅力となります。

まとめ:建設業の未来を支えるのは戦略的な人事の動き

建設業の中途採用市場は依然として厳しい状況が続きますが、市場構造を理解し、適切な工夫を行えば採用は可能です。

  • 工夫次第で採用は可能
    ターゲットの見直し、スピード対応、チャネルの多角化により、競合他社との差別化を図ることができます。

  • 経営戦略としての採用
    人事は単なる事務手続き屋ではなく、会社の未来を作る人材を確保する「経営のパートナー」です。

  • リーダーシップの発揮
    現場の理解を得ながら、新しいツールや制度を導入し、選ばれる企業へと変革していくために、人事担当者のリーダーシップが今こそ求められています。

よくある質問

Q1. 建設業未経験者を採用する場合、人事はまず何を見るべきですか?

まずは「意欲」と「ポテンシャル」を確認してください。具体的には、体力面への不安がないか、チームでのコミュニケーションに抵抗がないか、そして「手に職をつけたい」という学習意欲があるかを重視します。同時に、受け入れる自社側に未経験者を育てる教育カリキュラムやOJT体制が整っているかを確認することも人事の重要な役割です。

Q2. 中小建設業の人事ですが、大手のような高い給与が出せません。どう戦えばいいですか?

「給与以外の価値」を言語化し、ターゲットを絞って訴求しましょう。例えば、「転勤がなく地元で腰を据えて働ける」「社長との距離が近く裁量が大きい」「独自の特殊技術が学べる」「アットホームで人間関係のストレスが少ない」といった点は、大手にはない魅力となります。これらの価値観に共感する層(安定志向、地元志向など)にアプローチすることで勝機が見出せます。

Q3. 応募が来ても面接辞退が多いです。人事が改善できる点はありますか?

応募者対応の「スピード」と「丁寧さ」を徹底的に見直してください。応募から連絡までの時間が空くと、求職者の熱意は冷め、他社に流れてしまいます。即日連絡を心がけるとともに、面接日程の選択肢を複数提示する(平日夜間やオンラインも含める)、メールの文面を事務的なものから歓迎の意が伝わるものに変えるなど、候補者体験(UX)を向上させることが辞退防止につながります。

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