「人事」の基本知識

建設業の働き方改革とは?人事の実務対応を解説


更新日: 2026/01/22
建設業の働き方改革とは?人事の実務対応を解説

この記事の要約

  • 2024年4月からの残業規制適用に伴う人事実務の要点。
  • 36協定の再締結や有休取得義務化への具体的な対応手順。
  • 現場の反発を防ぎ生産性を高めるための組織体制の構築法。
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2024年4月より、建設業においても時間外労働の上限規制が全面的に適用されました。これまでの猶予期間が終了し、人事担当者には法的リスクを回避するための厳格な労働時間管理が求められています。ここでは、改正の背景と実務への影響を客観的事実に基づいて整理します。

働き方改革関連法が建設業に適用された経緯

日本の建設業は、工期の厳守や天候による業務の変動、慢性的な人手不足といった特殊な事情から、時間外労働上限規制の適用が5年間猶予されてきました。しかし、2026年現在の労働市場において、長時間労働の反映は若手人材の確保と産業の持続可能性のために避けて通れない課題となっています。法改正の主眼は、全産業で一貫した労働基準を適用することで、働く側の心身の健康を守り、労働環境を底上げすることにあります。人事は、この法改正を単なる規制としてではなく、組織を近代化させるための契機として捉える必要があります

2024年問題が建設現場と人事管理に与える影響

上限規制が適用されたことで、従来の「現場任せ」の労働時間管理は通用しなくなりました。罰則規定の導入により、企業の社会的信用への影響も増大しています。人事の管理業務における変化を以下の表にまとめました。

【表:法改正に伴う人事管理の変化】

項目 2024年3月以前(猶予期間中) 2024年4月以降(上限規制適用後) 人事担当者の対応
残業時間の上限 特別条項があれば実質無制限 原則月45時間・年360時間 リアルタイムな残業予測と是正勧告
罰則規定 行政指導が中心 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 コンプライアンス違反の未然防止
36協定の運用 従来の旧様式で運用可能 新様式(特別条項付き)での締結必須 協定内容の精査と労基署への届出
時間外割増賃金 中小企業への適用猶予あり 月60時間超に対して50%の割増 人件費計算ロジックの変更・管理

[出典:厚生労働省 時間外労働の上限規制 わかりやすい解説(建設業編)]

建設業の働き方改革における人事の具体的な実務対応

法改正に完全準拠し、労働基準監督署の調査にも耐えうる体制を築くためには、人事による制度設計と運用の徹底が不可欠です。36協定の適正な運用から、有給休暇の管理、デジタル化による効率化まで、具体的に取り組むべき実務ステップを解説します。

36協定の再締結と労働時間の上限管理

建設業の人事が最も優先すべきは、改正法に適合した36協定の締結と、上限を超えないためのモニタリング体制の構築です。特に、特別条項を適用する場合でも、以下の制限を遵守しなければなりません。

36協定運用における法的上限の基準
  • 1.原則的な上限
    時間外労働は月45時間、年360時間以内とする必要があります。

  • 2.特別条項適用時の絶対上限
    臨時的な事情があっても、時間外労働は年720時間以内(休日労働を含まず)に収めなければなりません。

  • 3.月間上限(休日労働を含む)
    単月では100時間未満、2〜6ヶ月平均ですべて80時間以内を維持する義務があります。

これらの数値を管理するためには、現場監督が報告する「自己申告」だけでなく、客観的な記録(入退場管理やPCのログ等)に基づいた管理体制が、人事に求められる実務の要です。

有給休暇の取得義務化と管理簿の作成

建設業では工期が優先され、有給休暇の取得が後回しになる傾向があります。しかし、年10日以上の有給が付与される労働者に対しては、年5日の取得が義務化されています。人事は以下のフローで管理を徹底します。

  • 1.個別管理簿の作成と保存
    労働者ごとに「基準日」「日数」「時季」を記録した管理簿を作成し、5年間の保存義務を果たします。

  • 2.計画的付与制度の検討
    現場全体を一斉に休ませる「一斉閉所日」を設定し、会社主導で有給を消化させる仕組みを構築します。

勤怠管理システムの導入・刷新による人事の工数削減

手書きの日報やExcelでの管理は、複数月平均の算出やアラート機能の欠如により、人事が法令違反を未然に防ぐことを困難にします。最新の勤怠管理システムを導入することで、上限時間に近づいた際、本人と上長へ自動的に警告を送ることが可能になります。2026年現在の実務において、デジタルツールの活用は「業務効率化」ではなく「法的リスク回避の必須要件」です

建設現場でタブレットを使用して勤怠入力を行う作業員のイメージ

現場の反発を抑え人事が社内体制を構築するためのポイント

制度を導入しても、現場の理解が得られなければ実効性は上がりません。人事側から現場の不安に寄り添いつつ、生産性を向上させるための組織的なアプローチが重要となります。

読者のよくある不安:現場の工期遵守と残業規制は両立できるのか?

現場担当者からは「人手不足の中で残業を制限されたら、納期に間に合わない」という切実な声が上がります。この不安に対し、人事は以下の施策を提示し、現場と経営層の橋渡しを行うべきです。

工期遵守と残業規制を両立させる施策
  • 適正な工期設定の推進
    営業部門と連携し、著しく短い工期での受注を制限する社内ガイドラインを策定する。

  • 移動・待機時間の削減
    現場事務所への移動を最小化する「直行直帰」のルール化や、リモート会議の導入による移動コストの削減。

評価制度の見直し(労働時間から生産性・効率重視へ)

「長時間働いている人間が優秀である」という価値観は、働き方改革の最大の障壁です。人事は、評価軸を「労働量」から「時間あたりの成果(生産性)」へシフトさせる必要があります。

  • 1.工程管理の評価指標化
    予定通りの工期内で、かつ残業を抑制してプロジェクトを完遂したリーダーを高く評価する仕組みを作ります。

  • 2.スキルアップの支援
    マルチスキル化(多能工化)を評価項目に加え、一人の社員が複数の工程に対応できるようにすることで、現場全体の効率を高めます。

採用力の強化と定着率の向上に向けた福利厚生の充実

働き方改革は、人材獲得競争における強力な武器になり得ます。人事は「働きやすい建設会社」としてのブランディングを強化することで、若手や経験者の入社意欲を高める実務を遂行します。

  • 週休2日制(4週8閉所)の完全実施
    給与水準を維持しながら休日を増やすため、DX化による利益率向上と連動した賃金体系を構築します。

  • キャリアパスの明示
    資格取得支援や技能実習生のキャリア支援など、将来の成長が見える福利厚生を充実させ、定着率を高めます。

人事が比較検討すべき働き方改革を推進するITツール

働き方改革の実効性を高めるには、人事の管理工数を最小化し、現場の入力負担も軽減できるITツールの選定が重要です。主な管理手法の比較を以下の表で行います。

管理手法の比較検討

【表:勤怠・業務管理手法のメリット・デメリット比較】

管理手法 導入メリット 主な懸念点 人事の業務負荷
紙の日報・Excel 初期費用が不要、誰でも扱える リアルタイム性に欠ける、集計ミスが多い 非常に高い(転記・修正作業)
クラウド勤怠システム 36協定アラート、法改正への自動対応 毎月のランニングコストが発生 低い(自動集計・異常値のチェックのみ)
施工管理アプリ一元化 写真・図面・勤怠を一つで管理可能 操作教育が必要、現場の初期反発 中(現場状況と紐づいた分析が可能)

[出典:国土交通省 建設業の働き方改革の推進について]

オフィスでクラウドシステムを活用して労働環境を管理する人事担当者のイメージ

まとめ:建設業の働き方改革を成功させる人事の役割

建設業の働き方改革は、一時的な規制対応ではなく、企業の持続性を高めるための「経営戦略」そのものです。人事担当者は、法的な枠組みを遵守しつつ、現場が効率的に動ける環境を整える「変革のリーダー」としての役割が求められています。

人事が取り組むべき最終チェックリスト
  • 1.現状の可視化
    客観的なデータに基づき、自社の労働実態を正しく把握しているか。

  • 2.ルールの再定義
    36協定や就業規則、評価制度が現在の法改正と整合しているか。

  • 3.現場との対話
    現場の負担を減らすためのITツール活用や工程改善を提案できているか。

  • 4.意識改革の継続
    「効率よく働くことが正義である」という文化が醸成されているか。

働き方改革の成功は、優秀な人材の獲得と定着に直結し、結果として企業の競争力を高めることになります。人事が主導して一歩ずつ実務を進めることが、建設業界の未来を切り拓く鍵となります。

Q1. 下請け企業に対しても、働き方改革の指導を行う必要はありますか?

法的には、各企業が自社の従業員の労働時間を管理する責任がありますが、元請企業には「著しく短い工期を強いない」という建設業法上の義務があります。無理な工期設定が下請企業の長時間労働を招いた場合、元請も行政指導の対象となるリスクがあるため、人事は現場監督を通じて適正な発注・管理を促す必要があります。

Q2. 現場監督が自分の意思で残業している場合も、制限の対象になりますか?

対象になります。労働基準法における労働時間は、労働者の意思ではなく「使用者の指揮命令下にある時間」を客観的に判断します。本人が「やりたいから残っている」と主張しても、会社がそれを黙認していれば労働時間とみなされ、上限規制のカウントに含まれます。人事は「自己研鑽」と「業務」の境界を明確にし、不要な居残りを禁止する徹底した指導が必要です。

Q3. 休日出勤を平日の振替休日で対応すれば、残業時間は減りますか?

同一週内で振替休日を実施できれば、その週の労働時間は40時間以内に収まるため、残業時間の発生を抑制できます。ただし、翌週以降に振り替える場合は、その週の労働時間が40時間を超えるため残業代が発生します。また、月45時間を超える「回数制限」や「複数月平均80時間」の計算には、休日労働の時間も関わってくるため、人事は振替休日と代休の違いを正しく運用管理しなければなりません。

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