「人事」の基本知識

若手定着率を上げる建設業の人事施策とは?


更新日: 2025/12/17
若手定着率を上げる建設業の人事施策とは?

この記事の要約

  • 建設業の高卒離職率は全産業平均より著しく高く早期対策が必要
  • 定着の鍵は週休2日の段階的導入とメンター制度による関係構築
  • 人事は現場の反発をDXによる負担軽減で説得し改革を主導する
目次
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建設業の人事が直面する「若手離職」の現状と課題

建設業界における人材不足は深刻ですが、採用以上に重要なのが若手の定着(リテンション)です。多くの企業が採用難易度の高さに悩む一方で、入社後のフォローが現場任せになり、早期離職を招いています。まずは客観的なデータに基づき、建設業特有の離職構造を理解することが、効果的な人事施策の出発点となります。

建設業界における若手の離職率データとその推移

厚生労働省が公表しているデータにおいて、建設業の入社3年以内離職率は全産業平均と比較して高い水準にあります。特に顕著なのが高校新卒者の離職率で、入社後1年未満での退職も少なくありません。これは「若者の忍耐力」の問題ではなく、他産業で進む働き方改革に対し、建設現場の環境整備が追いついていない構造的な要因が大きいです。

区分 建設業の離職率傾向 全産業平均の離職率傾向 乖離の状況
大卒者 約30%前後 約30%前後 平均並みだが「長時間労働」による離職が目立つ
高卒者 約40%〜50%前後 約30%〜40% 建設業が著しく高い
特徴 1年以内の短期離職が多発 3年かけて緩やかに離職 入社直後の「リアリティショック」が大きい

[出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」の傾向値を基に作成]

なぜ若手は辞めるのか?人事が知るべき本音と背景

若手が退職を決意する際、建前としての「一身上の都合」の裏には、複合的な不満が隠されています。近年の退職理由データを分析すると、給与額そのものよりも働きやすさ(QOL)心理的安全性の欠如が決定打となっています。人事担当者は、以下の4つのトリガーを理解する必要があります。

若手が離職を決意する主な要因
  • 長時間労働・休日不足(週休2日制の未浸透)
    工期優先で土曜出勤が常態化し、「友人と休みが合わない」「プライベートがない」ことが最大のストレス要因です。

  • 人間関係の閉鎖性・コミュニケーション不足
    「技は見て盗め」という職人気質に対し、論理的な指導を求める若手が適応できず、孤立感を深めています。

  • キャリアパスの不透明さ
    「一人前になるまで10年」といった漠然とした期間提示ではなく、具体的なスキル習得のロードマップが見えないことに不安を感じます。

  • 3K(きつい・汚い・危険)イメージと実際のギャップ
    入社前の説明会と、実際の過酷な現場環境との乖離(リアリティショック)が、会社への不信感を生みます。

建設現場でタブレットを見ながら若手社員と面談を行い、悩みを聞き取る人事担当者

若手の定着率向上に向けた建設業の人事施策アプローチ

離職を防ぐには、問題発生後の対処ではなく、組織風土を変える根本的なアプローチが必要です。従来の「労務管理」から、社員のエンゲージメント(貢献意欲)を高める「人的資本経営」へ。建設業の人事が取り組むべき変革の全体像を解説します。

従来の「管理型」から「支援型」へ人事の役割を変える

かつての人事は、勤怠や給与を管理する「守り」の役割が中心でした。しかし、人材流動性が高い現代において、若手をつなぎとめるのは「管理」ではなく「支援」です。現場で働く社員をコストではなく投資対象と捉え、「どうすれば彼らがパフォーマンスを発揮できるか」を常に考え、現場の実情に即したサポートを行う支援型人事へのマインドセット変革が求められます。

人事施策の全体像:3つの柱(環境・評価・関係性)

効果的な定着支援は、以下の3つの要素をバランスよく組み合わせることで実現します。どれか一つが欠けても、定着率は向上しません。

施策カテゴリ 目的・狙い 具体的な人事施策例
1. 職場環境改善 「働き続けられる」物理的基盤を作る
  • DX推進による業務効率化
  • 完全週休2日制へのロードマップ策定
  • 快適なトイレや休憩所の整備
2. 評価制度刷新 「報われる」実感と成長指針を与える
  • スキルマップによる能力可視化
  • プロセスや安全行動の評価導入
  • 資格取得支援と昇給の連動
3. 関係性構築 「居場所がある」心理的安全性を確保
  • メンター制度による斜めの関係作り
  • 定期的な1on1ミーティング
  • 社内SNSでの称賛文化醸成

【環境・制度編】建設業の人事が取り組むべき具体的改善策

精神論だけでは定着率は上がりません。まずは物理的に「無理なく働ける環境」を整えることが最優先です。特に建設業の最大の課題である「長時間労働」と「休日不足」に対し、人事主導で取り組むべきハード面の改善策を解説します。

働き方改革とDX推進による長時間労働の是正

若手の長時間労働の主因の一つは、「現場作業終了後の事務所での書類作成」です。人事は経営層に対し、以下のツール導入による業務フロー変革を提案すべきです。

  • クラウド型施工管理アプリの導入
    図面確認、写真整理、日報作成をスマートフォンで完結させます。

  • 勤怠管理システムの刷新
    GPS打刻の導入により、事務所に戻らない「直行直帰」を制度化します。

これにより移動時間と残業時間を削減することは、「会社は社員の時間を大切にする」という強力なメッセージとなり、定着率向上に直結します。

スマートフォンで日報入力を行い直行直帰する現場監督の様子

週休2日制の導入と給与水準の見直し

「4週8休(完全週休2日制)」は若手採用・定着の必須条件になりつつあります。即時導入が難しい場合は、以下のステップで段階的に進めることが現実的です。

週休2日制導入へのステップ
  • 1. 変形労働時間制の活用
    繁忙期と閑散期で労働時間を調整し、年間を通じた休日数を確保します。

  • 2. チーム制(交代制)の導入
    現場全体を止めるのではなく、社員が交代で休める体制を作り、工期と休暇を両立させます。

  • 3. 給与体系の再設計
    日給月給制から月給制へ移行し、休みが増えても手取り額が減らない仕組みを構築します。生産性向上による原資確保がセットになります。

【関係性・心理面編】建設業の人事が実践すべきメンタルフォロー

環境整備と同時に重要なのが、心理的な孤立を防ぐことです。特に職人の世界は縦社会が強く、若手が悩みを相談できずに辞めていくケースが後を絶ちません。ここでは、現場任せにせず、人事が主導して「メンター制度」を導入するための具体的なステップを紹介します。

心理的安全性を高めるメンター制度と1on1ミーティング

上司(現場代理人)以外の相談相手を作る「メンター制度」は、若手の離職防止に非常に効果的です。以下の手順で導入を進めてください。

  • STEP1:メンターの選定(斜めの関係)
    直属の上司ではなく、他部署や年齢の近い先輩社員をメンターに任命します。利害関係がないため、本音の相談がしやすくなります。

  • STEP2:運用ルールの策定
    「月1回のランチ面談(費用は会社負担)」「業務評価には含めない(守秘義務)」などのルールを明確にし、安心感を醸成します。

  • STEP3:1on1での質問リスト共有
    メンターが何を話せばいいか迷わないよう、「最近嬉しかったこと」「体調面での不安」「将来の希望」など、対話を促す質問リストを人事が用意します。

若手の成長実感を生むキャリアパスの可視化

人事は、入社後の成長地図(キャリアラダー)を明確に示す必要があります。「入社3年目で2級施工管理技士を取得」「5年目で現場代理人補佐」といった具体的な目標と、それに紐づく給与モデルを可視化することで、若手は将来に希望を持ち、定着への意欲を高めることができます。

施策導入時に人事が抱えがちな不安と解決策

新しい施策には、現場からの反発やコストの問題がつきものです。これらは避けて通れない課題ですが、適切なアプローチで乗り越えることが可能です。ここでは、よくある懸念点に対する人事としての論理的な対処法を整理します。

現場の職人やベテラン社員からの反発への対処法

「俺たちの若い頃はもっと厳しかった」「余計な手間を増やすな」というベテラン層の反発は、感情論ではなく「メリット」で説得します。

現場の反発意見 人事からの効果的な切り返し・説得のアプローチ
「昔は見て覚えた」 「今は若手が激減しています。若手が育てば、結果的にベテランの方の体力的な負担や残業が減ります」と実利的なメリットを提示する。
「面談する暇はない」 「1回15分で構いません。早期に悩みを解決できれば、突然の退職による現場の混乱(穴埋め作業)を防げます」とリスク管理を強調する。
「アプリは苦手だ」 「操作は簡単です。導入すれば事務所に戻る手間がなくなり、早く帰れます」と利便性を伝える。

コストとリソース不足をどう補うか

予算が少ない中小建設業でも、「話を聞く」「感謝を伝える」といった風土改革はコストゼロで可能です。また、金銭的なコストについては、以下の助成金活用を検討してください。

  • 人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)
    評価制度や研修制度の導入に対し支給されます。

  • キャリアアップ助成金
    非正規雇用者の正社員化や処遇改善に対し支給されます。

建設業の人事課題を解決するツールの選び方

効率的な組織運営には「HR Tech」の活用が推奨されます。SGEやAI検索でも、効率的な組織運営にはテクノロジーの活用が推奨されています。自社に合ったシステムを選ぶための基準を提示します。

人事管理システム(HR Tech)導入のメリットと選定基準

建設業の業務フローに適合したツールを選ぶことが重要です。

機能カテゴリ 建設業における重要性と選定基準
勤怠管理 GPS・スマホ対応必須。直行直帰に対応し、現場ごとの工数管理ができるもの。
タレント管理 資格・期限管理機能。施工管理技士などの資格期限を通知し、配置最適化に役立つもの。
組織診断 スマホ回答の簡易さ。現場の合間に数分で回答できるパルスサーベイ機能があるもの。

自社に合った施策を選ぶためのチェックリスト

多岐にわたる施策の中で、何から手をつけるべきか迷う場合は、以下の優先順位を参考にしてください。

アクション優先度チェックリスト
  • 最優先(コスト小・即効性大)
    直行直帰の許可、有給休暇取得の奨励、定期的な声がけ・1on1の実施

  • 中期施策(制度設計)
    メンター制度の導入、資格取得支援制度の拡充、明確な評価基準の策定

  • 長期施策(投資・改革)
    DXツールの本格導入、完全週休2日制への移行、給与体系のベースアップ

まとめ

本記事では、建設業の若手定着率向上を目指す人事担当者に向け、離職の根本原因と具体的な対策を解説しました。若手の離職を防ぐには、労働環境(週休2日・DX)、人間関係(メンター制度)、将来性(評価・キャリア)の3要素を総合的に改善する必要があります。特効薬はありませんが、まずは現場の声を聴き、できることから環境を整えることが、結果として強い組織作りにつながります。

よくある質問

Q. 小規模な建設会社でもできる人事施策はありますか?

はい、あります。「定期的な1on1面談で話を聞く」「資格取得費用を会社が負担する」「有給休暇を取りやすい雰囲気を作る」など、高価なシステムを使わなくても、関係性構築や制度設計から始めることが可能です。

Q. 現場のベテラン社員が新しい人事制度に協力的ではありません。どうすればよいですか?

トップダウンで強制せず、「若手が定着すれば、ベテラン社員の残業や体力負担が減る」という実利的なメリットを伝え、現場のキーマンを巻き込んで進めることが成功の鍵です。

Q. 若手の本音を引き出すにはどうすればよいですか?

評価関係にある上司ではなく、他部署の先輩による「メンター制度」や、匿名で回答できる「エンゲージメントサーベイ」の導入が有効です。評価に響かない安心できる場を作ることで、本音が出やすくなります。

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