「人事」の基本知識

建設業の採用活動とは?流れと注意点を解説


更新日: 2025/11/20
建設業の採用活動とは?流れと注意点を解説

この記事の要約

  • 建設業の人手不足解消には現場と連携した要件定義と計画的な活動が不可欠
  • 採用フローは計画から定着まで4ステップで行い各段階で離脱防止策を実施
  • 求職者の不安を払拭し定着率を高めるには入社前後の丁寧なフォローが鍵
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建設業における人事の役割と採用市場の現状

建設業界は長年にわたる人手不足と就業者の高齢化という構造的な課題に直面しており、人事担当者の役割は単なる事務手続きから戦略的な人材確保へと変化しています。有効求人倍率の高止まりや2024年問題といった外部環境の変化を正しく理解し、経営層や現場と連携して組織的な採用戦略を立案することが、企業の存続と成長において極めて重要です。ここでは、客観的なデータに基づいた市場の現状と、現代の建設業人事に求められる役割について解説します。

建設業界の有効求人倍率と人手不足の背景

建設業における人材獲得競争は、全産業の中でも特に激しい状況が続いています。厚生労働省の統計によれば、建設業の有効求人倍率は常に高い水準で推移しており、特に技術者や技能工の不足は深刻です。この背景には、若年層の入職者減少と、団塊世代の引退によるベテラン層の離脱が同時に進行している構造的な要因があります。

建設業の人手不足を加速させる主な要因
  • 就業者数の長期的な減少傾向
    ピーク時と比較して建設業の就業者数は大幅に減少しており、労働力不足が常態化しています。

  • 就業者の高齢化と若手不足
    55歳以上の就業者が高い割合を占める一方で、29歳以下の若手入職者が少なく、技術継承が危機的な状況です。

  • 他産業との獲得競争
    労働条件や処遇面で他産業と比較されることが多く、人材が流出しやすい環境にあります。

2024年問題が建設業の人事戦略に与える影響

2024年4月から建設業にも適用された時間外労働の上限規制(いわゆる2024年問題)は、採用活動にも直接的な影響を及ぼしています。労働時間の上限が厳格化されたことで、従来のように長時間労働で工期をカバーすることが困難になり、適正な人員配置と生産性向上が必須となりました。企業は法令遵守(コンプライアンス)を前提とした採用計画を立てる必要があり、これが守られない企業は採用市場に参入することすら難しくなっています。

採用担当者に求められる役割の変化

かつての建設業の人事は、応募者の管理や面接日程の調整といったオペレーション業務が中心でした。しかし現在は、自社の魅力を発掘して発信するマーケティング視点や、現場の生産性を考慮した人員配置の提案など、経営戦略に直結する役割が求められています。特に、求職者に対して「働き方改革にどう取り組んでいるか」を具体的に説明し、安心感醸成を図ることが採用担当者の重要な責務となっています。

建設業の人事担当者が実践する採用活動の基本的な流れ

採用活動を成功させるためには、行き当たりばったりの対応ではなく、明確なフェーズごとの目標設定とタスク管理が必要です。現場の工期に合わせた逆算スケジュールを組み、各工程で発生しうるリスクを事前に想定しておくことで、スムーズな採用が可能になります。ここでは、計画立案から入社後の定着支援まで、人事がリードすべき具体的な実務フローをステップ形式で解説します。

人事担当者と現場監督が採用計画について打ち合わせをしている様子

STEP1:採用計画の立案とターゲット設定

採用活動の成否は、準備段階での「要件定義」の精度で決まります。現場が欲しい人材と、実際に採用可能な市場の人材とのバランスを見極める必要があります。

  • 現場ニーズのヒアリング
    現場責任者に対し、必要な資格(施工管理技士の級や種別)、経験工事の種類(RC造、S造、木造など)、求める人物像を詳細に確認します。

  • ペルソナの設定
    「30代で1級施工管理技士を持つ即戦力」なのか、「未経験だが意欲のある20代」なのか、ターゲットを具体化し、訴求メッセージを決定します。

  • スケジュールの策定
    現場配属が必要な時期から逆算し、募集開始、面接、内定出しの期限を設定します。通常、募集から入社までには2〜3ヶ月程度のリードタイムを見込みます。

STEP2:母集団形成から選考・面接の実施

ターゲットに対して求人情報を届け、自社への興味を喚起するフェーズです。応募があった際の迅速な対応が、他社への流出を防ぐ鍵となります。

  • 求人原稿の作成と媒体選定
    ターゲットに合わせて、ハローワーク、求人サイト、SNS、エージェントなどを使い分けます。原稿には具体的な仕事内容や、残業時間の実態などを正直に記載します。

  • 書類選考と面接調整
    応募があれば即座に連絡を取り、面接日程を確定させます。建設業界ではスピード感が信頼に直結するため、可能な限り早い対応を心がけます。

  • 現場視点を取り入れた面接
    面接には現場責任者を同席させ、技術的なスキルチェックと、現場の雰囲気に馴染めるかどうかの適性判断を行います。

STEP3:内定出しと入社後の定着フォロー

内定を出した後も、求職者は不安を抱えています。入社までのフォローと、入社直後のケアが早期離職防止(リテンション)につながります。

フェーズ 具体的なタスク 期間の目安 担当者の工数負荷
計画立案 ・現場責任者へのヒアリング
・必須/歓迎スキルの定義
・採用予算の確保
入社希望日の
3〜4ヶ月前

(調整業務が主)
母集団形成 ・求人票/原稿の作成
・エージェントへの説明会
・Webサイト更新
入社希望日の
2〜3ヶ月前

(制作・発信業務)
選考・面接 ・応募者対応(メール/電話)
・面接日程調整
・合否連絡
随時
(スピード重視)

(突発的な対応多)
内定・定着 ・労働条件通知書の作成
・入社受け入れ備品手配
・入社後定期面談
決定次第
〜入社後3ヶ月

(事務・フォロー)

建設業の人事が採用成功のために意識すべき注意点

建設業の採用には、他業界とは異なる特有の商習慣やリスクが存在します。これらを無視して採用活動を進めると、入社後のミスマッチや早期離職、最悪の場合は労務トラブルに発展する可能性があります。ここでは、特に人事が注意すべき3つのポイントについて、リスク回避の観点から解説します。

現場と人事の認識ズレを防ぐ要件定義

採用における最大の失敗要因は、人事と現場の認識のズレです。「有資格者なら誰でも良い」と人事が判断して採用したものの、現場からは「現場管理の経験がなく使えない」と評価されるケースが後を絶ちません。これを防ぐためには、求人票を作成する前に「必須要件(MUST)」と「歓迎要件(BETTER)」を現場と合意形成し、言語化しておくプロセスが不可欠です。

資格要件(施工管理技士等)と実務経験の確認

建設業の業務は資格と経験に強く依存します。応募書類や面接では、以下の点を詳細に確認する必要があります。

  • 保有資格の正確な確認
    施工管理技士などの資格証の写しを確認し、有効期限や種別(建築、土木、電気など)に誤りがないかチェックします。

  • 実務経験の具体性
    「経験あり」という言葉だけで判断せず、「新築工事か改修工事か」「S造かRC造か」「元請けとしての管理か、下請けとしての管理か」など、経験の内容を深く掘り下げて確認します。

労働条件や福利厚生の透明性確保

「ブラック企業」というイメージを持たれやすい業界だからこそ、労働条件の透明性は信頼獲得の生命線です。固定残業代の有無、休日出勤時の振替休日の取得ルール、現場手当の詳細などを曖昧にせず、労働条件通知書等で明確に提示することが求められます。隠し事のない誠実な対応が、結果として求職者の志望度を高めます。

建設業の人事におすすめの採用手法比較

採用手法にはそれぞれ特徴があり、求める人材層や予算によって最適な手段は異なります。一つの手法に依存するのではなく、複数のチャネルを組み合わせる「採用ミックス」の考え方が有効です。ここでは主要な4つの手法について、コスト感や特徴を整理します。

ハローワークと求人媒体の特徴

  • ハローワーク
    無料で利用でき、地元志向の強い求職者やベテラン層にアプローチできます。ただし、若手やハイスキル層の利用は限定的であるため、待ちの姿勢では応募獲得が難しい側面があります。

  • 求人媒体(Web・紙)
    多くの求職者に情報を届けられ、写真や動画で自社の雰囲気を伝えやすいのが特徴です。掲載課金型が多く、採用に至らなくてもコストが発生するリスクがあります。

人材紹介(エージェント)の活用メリット

建設業界に特化した人材紹介会社を利用することで、自力では出会えない有資格者や即戦力層にアプローチできます。成功報酬型が一般的で採用単価は高くなりますが、事前のスクリーニングにより要件に合致した人材のみと面接できるため、人事の工数削減と確実な採用が期待できます。

リファラル採用やダイレクトリクルーティングの有効性

攻めの採用手法の特徴
  • リファラル採用(社員紹介)
    社員の人脈を活用して採用する手法です。マッチング精度が高く、採用コストを低く抑えられますが、社員への周知やインセンティブ設計が必要です。

  • ダイレクトリクルーティング(スカウト)
    企業から求職者へ直接アプローチする手法です。転職潜在層にも声をかけられますが、スカウトメールの作成や送信など、人事の実務工数は増加します。
手法 コスト 採用スピード 向いているターゲット デメリット
ハローワーク 無料 遅め 地元志向・ベテラン 若手が少ない
求人媒体 掲載課金 普通 幅広い層・未経験者 応募がないリスク
人材紹介 成果報酬(高) 早い 即戦力・有資格者 コストが高い
リファラル 低コスト 普通 信頼できる人材 人脈に限界がある

求職者の不安を解消するために人事ができること

応募数を増やし、入社後の定着率を高めるためには、求職者が抱くネガティブなイメージや不安を先回りして解消するアプローチが効果的です。企業の魅力付け(ブランディング)の一環として、以下の取り組みを発信することが推奨されます。

建設現場でタブレットを活用し笑顔で働く女性技術者と男性作業員

業界特有のマイナスイメージ(3K)への対策

建設業の「きつい・汚い・危険」という旧来のイメージを払拭するため、自社の具体的な改善事例をアピールします。ICT建機の導入による身体的負担の軽減、空調服の支給、完全週休2日制への取り組みなど、「新3K(給与・休暇・希望)」への転換を訴求することで、現代的な働き方を求める層に響きます。

キャリアパスと教育体制の明確化

将来への不安を解消するため、入社後のキャリアステップを可視化します。「資格取得支援制度」の内容(費用負担や報奨金)や、未経験から施工管理技士になるまでのロードマップを提示することで、長く働けるイメージを持ってもらうことができます。

未経験者や女性が働きやすい環境のアピール

人手不足解消には、ターゲットの拡大が不可欠です。女性専用の更衣室やトイレ(快適トイレ)の設置、産休・育休制度の取得実績などを紹介し、多様な人材が活躍できる環境であることを伝えます。また、未経験者に対してはOJTだけでなく、外部研修やメンター制度などのサポート体制が整っていることを強調します。

まとめ

建設業の採用活動は、慢性的な人手不足や法改正への対応など、多くの課題に直面しています。しかし、現場と連携した明確な要件定義、ターゲットに合わせた適切な手法の選択、そして求職者の不安に寄り添った環境整備を行うことで、優秀な人材を確保することは十分に可能です。まずは自社の採用課題を整理し、戦略的な採用計画の立案から着手してください。

よくある質問

Q1. 建設業の人事がまず取り組むべきことは何ですか?

まずは現場責任者とのすり合わせを行い、「本当に必要なスキル・資格・経験」を明確にする要件定義から始めてください。現場が求めている人物像と求人内容のズレをなくすことが、ミスマッチ防止の第一歩です。

Q2. 中小建設業でも若手を採用するにはどうすれば良いですか?

給与条件の改善だけでなく、資格取得支援制度の充実や休日数の確保、ICT活用による業務効率化など、働きやすい環境をアピールすることが重要です。また、SNSや動画を活用して、社内の雰囲気や技術力を視覚的に伝える情報発信も有効です。

Q3. 採用コストを抑える方法はありますか?

ハローワークの活用や、社員からの紹介によるリファラル採用を強化することで、外部コストを抑えることが可能です。また、人材確保等支援助成金などの公的な助成金制度の活用も検討し、コスト負担を軽減させる策を講じましょう。

[出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」]
[出典:厚生労働省「建設業における雇用管理の現状」]

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