「人事」の基本知識

建設業における人材配置とは?考え方と実践法を紹介


更新日: 2025/12/02
建設業における人材配置とは?考え方と実践法を紹介

この記事の要約

  • 建設業の利益最大化に不可欠な戦略的人材配置の重要性を解説
  • エクセル管理の限界と専用システム導入のメリットを比較
  • 現場の不満を解消し定着率を高めるコミュニケーション術
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建設業の人事戦略における「人材配置」の定義と重要性

建設業における人材配置とは、単に空いている現場に人を埋める作業ではありません。企業の利益確保、施工品質の維持、そして従業員のキャリア形成を同時に実現するための高度な経営戦略です。特に労働力不足が深刻化する現在、適切なリソース配分は企業の存続を左右する最重要課題となっています。ここでは、なぜ今、戦略的な配置が必要なのか、その背景と組織へのメリットを定義します。

なぜ今、建設業で戦略的な配置が求められるのか

建設業界は今、かつてないほど「リソースの最適化」を迫られています。その主たる背景には以下の社会的・法的要因が挙げられます。

建設業を取り巻く環境変化
  • 2024年問題と労働時間規制の適用
    時間外労働の上限規制適用により、長時間労働で現場を回す従来の手法が通用しなくなりました。限られた人員と時間の中で工期を遵守するためには、無駄のない配置が不可欠です。

  • 熟練技術者の高齢化と大量引退
    団塊世代の引退に伴い、高度なスキルを持つ人材が減少しています。若手や中堅社員を効率的に配置し、OJTを通じて技術継承を行う必要があります。

  • 慢性的な有効求人倍率の高止まり
    新規採用が極めて困難な状況です。既存社員の能力を最大限に引き出す配置を行わなければ、受注機会の損失につながります。

タブレット端末で工程表を確認しながら人員配置を調整する現場監督と作業員

適切な配置がもたらす組織へのメリット

「誰を・どこに・いつ配置するか」を戦略的に行うことで、組織は多角的なメリットを享受できます。経営視点での主な効果は以下の通りです。

  • 生産性の向上と工期の遵守
    現場の難易度と作業員のスキルが合致することで手戻りが減り、スムーズな施工管理が可能になります。

  • 従業員エンゲージメントの向上
    自身の能力が活かせる現場や、希望するキャリアに沿った配置は、社員のモチベーションを高め、離職率低下に寄与します。

  • 若手技術者の育成スピードアップ
    指導力のあるベテランと若手をセットで配置することで、教育効果を高め、早期戦力化を実現します。

  • 外注費の削減と利益率の改善
    自社社員の稼働率を最大化し、適切なタイミングで配置することで、突発的な外部応援要請(外注費)を抑制し、工事利益率を改善します。

建設業の人事担当者が直面しやすい配置の課題

建設業の人材配置は、他業界と比較しても難易度が高いとされています。その理由は、現場ごとに異なる条件や、天候などの外部要因に左右されやすいという業界特有の事情があるためです。ここでは、多くの人事担当者や工事部長が頭を悩ませる「配置の壁」について、具体的に解説します。

現場ごとの特殊性と資格要件の複雑さ

建設現場は一つとして同じ条件の案件が存在しません。そのため、単純な人数合わせではなく、以下のような複雑な要件をパズルのように組み合わせる必要があります。

考慮すべき現場の個別要件
  • 必須資格の有無
    工事規模や種類に応じた「施工管理技士(1級・2級)」や「主任技術者」「監理技術者」の配置義務を満たす必要があります。

  • 求められるスキルセット
    RC造、S造、木造といった構造の違いや、新築か改修かによって、監督や職人に求められる経験値が異なります。

  • 通勤・移動の制約
    現場への直行直帰が基本となるため、自宅からの通勤距離や宿泊の可否も配置の重要な決定要因となります。

工期の変動と突発的なトラブルへの対応

計画通りに進まないことが建設プロジェクトの常であり、これが人材配置をさらに困難にさせています。

  • 天候や資材による遅延
    雨天による作業中止や資材納入の遅れにより、工期が後ろ倒しになれば、次に予定していた現場への乗り込みが遅れ、玉突き事故的に配置計画が崩れます。

  • 設計変更や追加工事
    工事途中での仕様変更により、想定以上の人工(にんく)が必要になった場合、急遽他の現場から人員を融通しなければならない事態が発生します。

適正な配置を実現するための人事評価と判断基準

効果的な人材配置を行うためには、担当者の「記憶」や「勘」に頼るのではなく、客観的なデータと定性的な情報の両面から判断するプロセスが必要です。ここでは、建設業の人事担当者が適正な配置案を策定するために実践すべき、具体的な3つのステップと判断基準を解説します。

手順1:スキルと資格の可視化(スキルマップ作成)

配置の第一歩は、全技術者の能力を客観的に「見える化」することです。以下の項目を網羅したスキルマップを作成し、データベース化します。

  • 保有資格の棚卸し
    一級・二級建築施工管理技士、建築士、監理技術者資格者証など、法的に配置が必要な資格に加え、玉掛けや足場組立などの技能講習修了証も記録します。

  • 施工経験の細分化
    構造(RC造、S造など)、用途(マンション、オフィスビルなど)、工種(新築、改修、解体など)ごとに経験現場数を可視化します。

  • 得意分野のタグ付け
    「工程管理が得意」「安全管理に強い」「若手指導に定評がある」といった定性的な強みを付記します。

これにより、「この難易度の現場には、誰が配置可能か」を瞬時に検索・抽出できる人事基盤を整えます。

手順2:現場特性と人間関係のマッチング

スキル要件を満たしていても、現場の特性や人間関係が合わなければトラブルの原因となります。数値化しにくい以下の要素を考慮し、配置の精度を高めます。

  • 所長と部下の相性
    トップダウン型の所長には指示を忠実に実行するタイプを、放任・育成型の所長には自律的に動けるタイプや成長意欲の高い若手を配置するなど、リーダーシップとフォロワーシップの相性を考慮します。

  • 協力会社・職人とのリレーション
    特定の専門工事業者(鳶、鉄筋、型枠など)と顔なじみで、連携が取りやすい社員を配置することで、現場の生産性は大きく向上します。

手順3:本人のキャリアプランとのすり合わせ

会社の都合だけで配置を決定せず、本人の意思をプロセスに組み込むことが重要です。

  • 将来の希望のヒアリング
    「将来は現場所長として大規模案件を指揮したい」のか、「専門技術を極めたい」のか、本人の志向を確認します。

  • 育成視点でのストレッチ配置
    現在の能力で容易にこなせる現場ばかりではなく、本人の成長段階に合わせて「少し背伸びが必要な現場(ストレッチ目標)」を意図的に割り当てます。

効率化に向けた人事管理手法の比較:エクセルと専用システム

人材配置業務を効率化するためには、適切なツールの選定が重要です。多くの企業で使われているエクセル(スプレッドシート)管理と、近年導入が進む専用の「人材配置システム」について、それぞれの特徴と適性を比較します。

エクセル管理の限界とリスク

小規模な組織であればエクセルでも管理可能ですが、組織が拡大するにつれて以下の課題が顕著になります。

  • 属人化のリスク
    「このファイルは〇〇さんしか触れない」「計算式が複雑で誰も修正できない」といった状態になりがちです。

  • 情報の更新ラグ
    現場の状況が変わるたびに手動で修正する必要があり、最新情報が反映されていない「タイムラグ」により、ダブルブッキングなどのミスが発生します。

オフィスで人材配置システムを活用し稼働状況を確認する人事担当者

人材配置システム導入による効率化

専用システムを導入することで、配置業務は劇的に効率化されます。

  • 視覚的な操作とシミュレーション
    ガントチャート上でドラッグ&ドロップするだけで配置調整ができ、全体の稼働状況を俯瞰できます。

  • アラート機能によるコンプライアンス遵守
    資格の有効期限切れや、配置基準(専任要件など)の違反をシステムが自動検知し、法的なリスクを防ぎます。

  • 稼働率の可視化と予測
    「誰がいつ空くか」が一目でわかるため、先々の受注計画が立てやすくなります。

管理手法の比較表

以下は、エクセル管理と専用システムを主要な項目で比較した表です。

比較項目 エクセル・スプレッドシート 人材配置・管理システム
導入コスト 低い(既存ソフトで対応可) 中〜高い(月額費用など)
情報のリアルタイム性 更新ラグが発生しやすい 常に最新情報を共有可能
資格・期限管理 手動チェックが必要 自動アラート機能あり
配置シミュレーション 困難・手間がかかる 容易(稼働率も可視化)
セキュリティ ファイル破損・流出リスクあり クラウド等で堅牢に管理

[出典:各社サービス仕様に基づく一般的な機能比較]

現場の不満を解消する人事コミュニケーションのポイント

最適な配置案を作成しても、本人への伝え方が不十分であれば不満が残ります。トップダウンで決定事項を通達するのではなく、対話を通じた合意形成プロセスが重要です。ここでは、現場の納得感を高めるためのコミュニケーション手法を解説します。

配置転換時の「納得感」を高める説明

辞令一つで済ませるのではなく、事前の面談を通じて「配置の意図」を伝えることが重要です。

  • 「なぜこの現場なのか」の理由付け
    「〇〇さんのRC造の経験が必要だから」「この規模の現場を経験することが、次の昇格要件につながるから」といった具体的な理由を伝えます。

  • キャリアメリットの提示
    その現場を完遂することで、どのようなスキルが身につき、今後のキャリアにどうプラスになるかを明示します。これにより、大変な現場であっても「成長の機会」として前向きに捉えてもらえる可能性が高まります。

現場監督・所長からのヒアリング体制

配置後のフォローアップも欠かせません。人事担当者は定期的に現場を訪問、あるいは連絡を取り、状況を確認します。

  • 業務負荷の偏りチェック
    特定の人物に残業や負担が集中していないか、所長や本人からヒアリングします。

  • SOSの吸い上げ
    人間関係のトラブルや体調不良など、日報には書かれない小さなサインを早期にキャッチし、必要であれば配置換えや応援要請などの手を打ちます。

まとめ

建設業における人材配置は、パズルを埋める作業ではなく、企業の利益を最大化し、社員の成長を支える重要な経営戦略です。

本記事の重要ポイント
  • 戦略性
    2024年問題や人手不足に対応するため、生産性と育成を両立させる配置が不可欠です。

  • 客観性
    スキルマップやシステムを活用し、資格要件や適性をデータに基づいて判断することが求められます。

  • 納得感
    システムによる効率化と並行して、丁寧なコミュニケーションで社員の意欲を引き出すことが定着率向上につながります。

よくある質問

Q1. 小規模な建設会社でもシステム導入は必要ですか?

従業員数や現場数によりますが、一般的に管理対象が10名~20名を超え、現場の掛け持ちが発生し始めた段階で検討することをお勧めします。早期に導入することで、データ蓄積による将来的な業務効率化や、ミスのない資格管理体制を構築できます。

Q2. 若手の離職を防ぐための配置のコツはありますか?

若手技術者には「成長実感」と「心理的安全性」を持たせる配置が有効です。過度な責任や負担がかからないよう、指導力のあるベテラン社員と組ませる(メンター制度的な配置)、あるいは本人が希望する工種やエリアを優先的に割り当てるなど、配慮を見せることが重要です。

Q3. 急な工期変更で人が足りない時はどうすべきですか?

事前の対策と事後の対応の両方が必要です。平時から全社の稼働状況を可視化しておき、「どの現場なら一時的に人を抜けるか」を把握しておくことが重要です。また、自社リソースだけで解決しようとせず、信頼できる協力会社との連携ネットワーク(応援体制)を構築しておくこともリスクヘッジとなります。

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