「法律」の基本知識

建設業の契約で押さえるべき法律知識とは?


更新日: 2025/12/02
建設業の契約で押さえるべき法律知識とは?

この記事の要約

  • 建設業法と民法の優先順位や第19条の書面交付義務を解説
  • 電子契約の導入要件や民法改正後の契約不適合責任を整理
  • 追加工事や工期遅延など実務トラブルを防ぐ法的知識を網羅
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建設業の契約実務は、主に「建設業法」と「民法」という2つの法律によって規律されています。一般の商取引とは異なり、建設業には発注者保護や工事の適正な施工確保という観点から、より厳格なルールが課せられているのが特徴です。本セクションでは、これら2つの法律の関係性と、その他関連する法規について解説します。

建設業法と民法の優先順位と関係性

建設工事請負契約において最も基本的かつ重要な原則は、「建設業法は民法の特別法である」という点です。法律の世界には「特別法は一般法に優先する」という原則が存在し、これにより適用の優先順位が決定されます。

法律適用の優先順位
  • 建設業法(特別法)
    建設業という特定の分野に限定して適用されるルール。契約内容に関して建設業法と民法の両方に規定がある場合、建設業法の規定が優先して適用されます。

  • 民法(一般法)
    私人間の契約全般に適用される基本的なルール。建設業法に定めのない事項については、民法の原則が適用されます。

例えば、契約締結の方法について、民法では口頭での合意も契約として有効とされますが、建設業法では契約書面の交付が義務付けられています。この場合、建設業法のルールに従わなければ法令遵守(コンプライアンス)違反となります。実務担当者は、まず建設業法の規定を押さえ、そこに定めのない事項について民法の原則を参照するという姿勢が必要です。

その他、建設業の契約に関わる関連法規

建設業の契約実務では、上記の2法以外にも複数の法律が関わってきます。特に下請契約においては、立場の弱い受注者を保護するための法律が重要になります。

主な関連法規としては、労働者の安全や労働条件を守る労働基準法、廃棄物の処理責任を定める廃棄物処理法、そして公正な取引を担保するための独占禁止法下請法(下請代金支払遅延等防止法)が挙げられます。これらの法律は、契約条項の作成時だけでなく、実際の現場管理や支払い業務においても遵守が求められます。

以下に、主要な法律の役割と影響度を整理しました。

法律名 主な目的・役割 契約業務への影響度
建設業法 建設工事の適正な施工と発注者の保護。許可、契約、施工体制等を規制。 極めて高い(最優先)
民法 契約の成立、効力、債務不履行責任などの基本ルールを定めた一般法。 高い(ベースとなる法律)
労働基準法 労働条件の最低基準を定める。働き方改革関連法により時間外労働の上限規制等も適用。 高い(労務管理・工期設定)
下請法 親事業者の優越的地位の濫用を規制し、下請事業者の利益を保護する。 中〜高い(資本金区分による)
独占禁止法 公正かつ自由な競争を促進。優越的地位の濫用や談合の禁止など。 (取引全般)

建設現場事務所で契約書と図面を確認しながら打ち合わせをする現場監督と担当者

建設業法で定められた契約のルールと法律上の義務

建設業法は、契約当事者が対等な立場で公正な契約を結ぶことを求めています。そのため、契約の形式や記載すべき内容について具体的な法的義務を課しています。ここでは、実務上特に重要となる第19条の規定や法定記載事項、そして近年普及が進む電子契約について解説します。

契約書面の交付義務と「建設業法第19条」

建設業法第19条では、建設工事の請負契約において「契約書面の作成と交付」を義務付けています。

建設業法第19条(抜粋・要約)

建設工事の請負契約の当事者は、契約の締結に際して法定事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。

一般的に民法上では「口約束」でも契約は成立しますが、建設業においては口頭契約のみで工事を進めることは建設業法違反となります。これは、工事内容や金額、工期などが曖昧なまま着工することで生じる「言った言わない」のトラブルを防ぐためです。必ず工事着手前に契約書を取り交わす必要があります。

契約書に必ず記載しなければならない15項目の法定記載事項

建設業法第19条第1項には、契約書に必ず記載しなければならない事項(法定記載事項)が定められています。これらが欠けていると、適正な契約書として認められない可能性があります。実務では、これらの項目を網羅した契約書、または注文書・請書(約款付き)を使用します。

建設業法第19条に基づく主な法定記載事項
  • 工事内容
    工事の名称、場所、具体的な施工内容を明確にします。

  • 請負代金の額
    消費税等の扱いも明確にする必要があります。

  • 工事着手の時期及び工事完成の時期
    具体的な年月日を記載します。

  • 請負代金の支払時期及び方法
    前払金や出来高払いの有無、支払手段等を定めます。

  • 契約変更時や損害負担の定め
    設計変更、工事延期、天災(不可抗力)、物価変動などが発生した場合の、工期・金額変更や損害負担のルールを記載します。

  • 契約不適合責任に関する定め
    目的物が契約内容と適合しない場合の責任内容や保証期間を定めます。

  • 紛争の解決方法
    第三者機関による調停・仲裁等の利用について記載します。

[出典:国土交通省「建設業法」]

電子契約の導入に関する法律の規定

かつては紙の契約書に押印することが必須でしたが、建設業法第19条第3項および建設業法施行規則第13条の2により、一定の要件を満たせば電子契約(電磁的措置)も認められるようになりました。

電子契約を導入する際は、以下のステップで法的要件を満たす必要があります。

  • 1. 相手方の承諾を得る
    事前に発注者等の承諾を得ることが必須です。通常は「電磁的措置利用承諾書」などを取り交わします。

  • 2. 見読性を確保する
    書面に記載すべき事項が、パソコンやタブレット等の画面で明瞭に表示できるシステムを使用します。

  • 3. 原本性を確保する
    改変が行われていないことを確認できる措置(電子署名やタイムスタンプなど)が講じられているサービスを選定します。

電子契約は、印紙税の削減や契約業務のスピードアップにつながるため、法律の要件を理解した上で積極的に導入が進められています。

民法改正が建設業の契約に与える法律上の影響

2020年(令和2年)4月1日に施行された改正民法は、建設業の契約実務に多大な影響を与えました。特に「瑕疵(かし)」という概念が見直され、責任の所在や対応方法が整理されたことは、契約書の内容やトラブル対応において極めて重要です。ここでは、改正のポイントを解説します。

「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」への変更点

旧民法では、目的物に隠れた欠陥がある場合について「瑕疵担保責任」と呼んでいましたが、改正民法では「契約不適合責任」という名称に変更されました。

責任概念の変更点
  • 旧民法:瑕疵担保責任
    「隠れた」瑕疵(欠陥)がある場合に責任を負うとされていました。

  • 改正民法:契約不適合責任
    「種類、品質又は数量に関して契約の内容と適合しない」場合に責任が生じると定義されました。隠れているかどうかは要件ではなくなり、「契約書(図面・仕様書含む)にどう記載されているか」が最大の判断基準となります。

契約不適合責任における4つの請求権

契約不適合責任において、発注者が受注者に対して行使できる権利(救済手段)が整理・拡充されました。以下の4つの権利は、実務上のトラブル対応においても頻出するため、正確に理解しておく必要があります。

  • 1. 追完請求権(修補請求)
    目的物の修補、代替物の引渡し、または不足分の引渡しを請求する権利です。まずはこれを請求するのが原則的な対応となります。

  • 2. 代金減額請求権
    追完請求をしても履行されない場合などに、不適合の程度に応じて請負代金の減額を請求する権利です。

  • 3. 契約解除権
    契約の目的を達しない重大な不適合がある場合、または追完がなされない場合に契約を解除する権利です。

  • 4. 損害賠償請求権
    契約不適合により損害が生じた場合に金銭的な賠償を請求する権利です。ただし、受注者に帰責事由がある場合に限られます。
比較項目 旧民法(瑕疵担保責任)の内容 新民法(契約不適合責任)の内容
名称 瑕疵担保責任 契約不適合責任
対象範囲 「隠れた」瑕疵(欠陥) 契約の内容と適合しないもの(隠れているかは問わない)
請求できる権利 ・契約解除
・損害賠償
履行の追完請求(修補など)
代金減額請求
・契約解除
・損害賠償
権利行使期間 引渡しから1年以内(原則) 不適合を知った時から1年以内に通知(原則)

[出典:法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」]

契約書の条項をペンで指し示しながら確認するビジネスパーソン

建設業では、工期の遅れや追加工事の発生など、予期せぬトラブルがつきものです。こうした事態に直面した際、法律知識があるかないかで自社の利益を守れるかが決まります。ここでは、実務で頻発するトラブルに関連する法的注意点を解説します。

追加工事における契約変更と法律上の取り扱い

現場では「ついでにここも直してほしい」といった口頭での追加依頼が発生しがちです。しかし、これを口頭のまま施工することは非常に危険です。

法律上、当初の契約に含まれていない工事は「新たな契約」または「契約変更」とみなされます。書面を交わさずに追加工事を行い、後から「頼んでいない」「金額が高すぎる」と言われて代金が回収できないトラブルは後を絶ちません。
建設業法第19条第2項では、契約内容の変更があった場合も変更契約書(または変更覚書)の作成と交付を義務付けています。軽微な変更であっても、必ず書面または電子契約で記録を残すことが重要です。

工期遅延や損害賠償に関わる法律知識

工期遅延が発生した場合、その原因が「誰の責任か(帰責事由)」によって法律上の扱いが異なります。

  • 1. 受注者の責任(手配ミス、施工不良など)
    債務不履行となり、発注者から遅延損害金を請求される可能性があります。

  • 2. 発注者の責任(図面遅延、指示変更など)
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