建設業法とは?概要と遵守ポイントを解説

この記事の要約
- 事業者なら知るべき建設業法の目的と全体像がわかる
- 自社に建設業許可が必要か、具体的な金額基準で判断できる
- 許可取得の5要件と、違反した場合の罰則まで解説
- 目次
- 建設業法という法律が定められた目的
- ① 工事の適正な施工を確保するため
- ② 発注者を保護するため
- ③ 建設業の健全な発達を促進するため
- あなたの事業に建設業許可は必要?法律で定められた基準
- 許可が必要となる工事の基準
- 許可が不要な「軽微な工事」とは?
- 建設業許可の主な種類と法律上の区分
- ① 営業所の所在地による区分(大臣許可と知事許可)
- ② 下請契約の規模による区分(特定建設業と一般建設業)
- 建設業許可を得るための5つの要件【法律のポイント】
- ① 経営業務の管理を適正に行うに足りる能力
- ② 専任技術者の設置
- ③ 誠実性
- ④ 財産的基礎
- ⑤ 欠格要件に該当しないこと
- 許可取得後に遵守すべき法律上の義務と罰則
- 建設工事請負契約の適正化
- 主任技術者・監理技術者の設置
- 一括下負の禁止(丸投げの禁止)
- 法律に違反した場合の罰則
- まとめ
- よくある質問
建設業法という法律が定められた目的
建設業法は、建設業界の秩序を保ち、関係者を保護するために存在する重要な法律です。単なる規制ではなく、その背景には明確な3つの目的があります。なぜこの法律が定められたのかを理解することは、コンプライアンス遵守の第一歩です。ここでは、法律が果たすべき3つの大きな役割について掘り下げていきます。
① 工事の適正な施工を確保するため
建設工事は、人々の生活や安全に直結する社会インフラを形成するものです。そのため、一つ一つの工事には高い品質と安全性が求められます。もし技術力や経験の乏しい業者が施工すれば、手抜き工事や構造上の欠陥につながり、重大な事故を引き起こすリスクがあります。
この法律は、建設業を営む者に一定の技術力や経営基盤を求める許可制度を設けることで、不良不適格な業者の参入を防ぎます。これにより、工事の品質を担保し、完成した建築物やインフラの安全性を確保することが、最も重要な目的の一つです。
② 発注者を保護するため
建設工事を依頼する発注者は、必ずしも建築に関する専門知識を持っているわけではありません。この情報格差を利用し、業者側が一方的に有利な契約を結んだり、契約内容を曖昧にしたまま工事を進めたりすると、後々「追加費用を請求された」「聞いていた仕様と違う」といったトラブルに発展しかねません。
建設業法は、請負契約における書面の交付を義務付け、工事内容や請負代金、工期といった重要事項を明確にすることを定めています。このように契約関係のルールを整備することで、専門知識のない発注者が不当な不利益を被ることを防ぎ、公正な取引を促進する役割を担っています。
③ 建設業の健全な発達を促進するため
業界全体の信頼性は、個々の事業者の信頼性によって成り立っています。不正行為を働く業者や、経営基盤が脆弱な業者が増えると、業界全体のイメージダウンにつながり、公正な競争も阻害されます。
この法律は、許可制度を通じて参入障壁を設けるとともに、違反行為に対する監督処分や罰則を定めています。これにより、業界内の不正を排除し、すべての事業者が公正なルールのもとで競争できる環境を整えます。その結果として、技術力と経営力に優れた優良な企業が成長し、建設業界全体の持続的かつ健全な発達を促進することを目指しています。
あなたの事業に建設業許可は必要?法律で定められた基準
建設工事を請負うすべての事業者に、建設業許可が必要というわけではありません。この法律では、比較的小規模な工事を「軽微な工事」と定義しており、これに該当する場合に限り、許可なく請け負うことが認められています。自社の事業内容が許可を必要とするのか、まずはこの明確な基準を正しく理解しましょう。

許可が必要となる工事の基準
建設工事の完成を請け負う営業を行う場合、その工事が後述の「軽微な工事」に該当しない限り、元請・下請や法人・個人の別を問わず、原則として建設業許可が必要です。「請け負う」とは、発注者から直接仕事を受ける元請はもちろん、元請業者から工事の一部を受注する下請も含まれます。したがって、下請専門の事業者であっても、軽微な工事を超える規模の工事を受注する際は、事前に許可を取得しなければなりません。
許可が不要な「軽微な工事」とは?
建設業法で定められる「軽微な工事」とは、請負代金が一定額未満の比較的小規模な工事を指します。具体的な基準は、工事の種類と請負代金によって、以下の通り明確に定められています。
- 「軽微な工事」の定義
工事の品質確保に支障がないと認められる小規模な工事のこと。この範囲内の工事のみを請け負う場合は、建設業許可は不要です。
表:建設業許可が不要な「軽微な工事」の基準
| 工事の種類 | 請負代金の条件(消費税込み) | 備考 |
|---|---|---|
| 建築一式工事 | 1,500万円未満の工事 | ※総合的な企画、指導、調整のもとに建築物を建設する工事。 請負代金にかかわらず、木造住宅の場合は延べ面積が150㎡未満の工事。 |
| 建築一式工事以外の専門工事 | 500万円未満の工事 | 大工工事、塗装工事、内装仕上げ工事など、27種類の専門工事が該当します。 |
[出典:国土交通省「建設業の許可とは」]
建設業許可の主な種類と法律上の区分
建設業許可は、すべての業者に同じものが交付されるわけではありません。事業の規模や営業所の設置場所、元請として下請に出す金額などに応じて、取得すべき許可の種類が異なります。大きく「大臣許可と知事許可」の区分と、「特定建設業と一般建設業」の区分があり、自社の事業形態に合わせて適切な許可を選択する必要があります。
① 営業所の所在地による区分(大臣許可と知事許可)
この区分は、建設業を営む営業所をどこに設置するかによって決まります。複数の都道府県で事業展開するか、単一の都道府県内で事業を行うかによって、許可を与える行政機関(許可権者)が異なります。
表:営業所の所在地による許可区分
| 区分 | 許可権者 | 営業所の設置要件 |
|---|---|---|
| 大臣許可 | 国土交通大臣 | 2つ以上の異なる都道府県に営業所を設置する場合 |
| 知事許可 | 都道府県知事 | 1つの都道府県のみに営業所を設置する場合 |
② 下請契約の規模による区分(特定建設業と一般建設業)
この区分は、発注者から直接請け負う元請業者が、1件の工事において下請に出す代金の総額によって決まります。大規模な工事で多くの下請業者を管理する必要があるかどうかで、求められる許可の種類が変わります。
表:下請契約の規模による許可区分
| 区分 | 許可が必要となるケース |
|---|---|
| 特定建設業 | 発注者から直接請け負った1件の工事につき、下請代金の総額が4,500万円以上(建築一式工事の場合は7,000万円以上)となる下請契約を締結する場合 |
| 一般建設業 | 上記の特定建設業に該当しない場合(下請契約の金額に制限がない、または軽微な工事のみを請け負う場合) |
特定建設業許可は、下請業者を保護する観点から、より厳しい財産要件などが課せられます。下請としてのみ営業する場合や、元請でも下請に出す金額が上記の基準未満であれば、一般建設業許可を取得します。
建設業許可を得るための5つの要件【法律のポイント】
建設業許可は、申請すれば誰でも取得できるものではありません。工事の適正な施工や発注者の保護といった法律の目的を達成するため、申請者には5つの厳格な要件が定められています。これらの要件をすべてクリアして初めて、許可が与えられます。ここでは、許可取得に不可欠な5つのポイントを解説します。
① 経営業務の管理を適正に行うに足りる能力
建設業の経営は、他の事業とは異なる特殊性を持つため、許可を受けるには建設業に関する経営経験が求められます。2020年の法改正により要件が緩和され、個人だけでなく組織としての管理体制も評価されるようになりました。具体的には、常勤役員等が以下のいずれかを満たす必要があります。
・建設業に関し5年以上の経営業務の管理責任者としての経験を有する
・経営業務の管理責任者に準ずる地位にあって、経営業務を補佐した経験を6年以上有する
② 専任技術者の設置
建設工事の品質を技術的な側面から担保するため、許可を受けようとする業種について、専門知識や実務経験を持つ専任の技術者をすべての営業所に配置することが義務付けられています。専任技術者になるには、以下のいずれかを満たす必要があります。
・1. 国家資格の保有:施工管理技士や建築士など、業種ごとに定められた国家資格を持っていること。
・2. 一定期間の実務経験:学歴に応じて3年〜10年以上の、許可を受けようとする業種に関する実務経験があること。
③ 誠実性
請負契約は、発注者と受注者の信頼関係に基づいて成立します。そのため、許可申請者(法人役員や個人事業主など)には、契約の締結や履行において不正または不誠実な行為をするおそれがないことが求められます。過去に詐欺、脅迫、横領といった法律に触れる行為や、業務停止処分などを受けたことがある場合は、この要件を満たさないと判断される可能性があります。
④ 財産的基礎
建設工事は、着工から完成までに長い期間と多額の資金を要します。途中で資金繰りが悪化して工事が中断するような事態を防ぐため、申請者には安定した財産的基礎または金銭的信用があることが求められます。
・一般建設業の場合:自己資本の額が500万円以上ある、または500万円以上の資金調達能力があること。
・特定建設業の場合:欠損の額が資本金の20%を超えない、流動比率が75%以上である、資本金が2,000万円以上かつ自己資本が4,000万円以上である、というすべての基準を満たすこと。
⑤ 欠格要件に該当しないこと
最後に、申請者(役員等を含む)が、建設業法で定められた欠格要件に一つも該当しないことが必要です。例えば、許可申請書に虚偽の記載をしたり、破産者であったり、過去に建設業法違反で罰金刑を受け、その執行が終わってから5年を経過しない者などが該当します。
許可取得後に遵守すべき法律上の義務と罰則
建設業許可は、一度取得すれば終わりというわけではありません。許可業者には、建設業法に基づき、適正な事業運営を行うための様々な義務が課せられます。これらの義務を怠ると、指示処分や営業停止といった厳しい行政処分、さらには罰則の対象となる可能性があります。許可を維持し、信頼される事業者であり続けるための重要事項を解説します。
- 許可業者の主な義務
・契約の適正化:必ず書面で契約を締結し、法定の事項を記載する。
・技術者の配置:工事現場ごとに、主任技術者または監理技術者を配置する。
・一括下請負の禁止:請け負った工事を実質的に関与せず丸投げしない。
建設工事請負契約の適正化
口約束による契約は「言った、言わない」のトラブルの元です。建設業法では、契約の当事者が対等な立場で公正な契約を締結できるよう、書面による契約締結を義務付けています。契約書には、工事内容、請負代金の額、工期など、法律で定められた16項目を記載しなければなりません。
主任技術者・監理技術者の設置
工事の品質と安全を確保するため、建設業者は請け負った工事現場に、工事施工の技術上の管理をつかさどる技術者を配置しなければなりません。
・主任技術者:すべての工事現場に配置が必要な技術者。
・監理技術者:元請業者が、総額4,500万円以上(建築一式工事は7,000万円以上)の下請契約を締結した場合に、主任技術者に代えて配置が必要な、より高度な管理能力を持つ技術者。
一括下負の禁止(丸投げの禁止)
一括下請負(丸投げ)とは、発注者から請け負った建設工事を、自社が実質的に関与することなく、そのまま他の業者に請け負わせる行為です。この行為は、責任の所在が曖昧になったり、中間搾取による品質低下を招いたりするため、法律で原則として禁止されています。
法律に違反した場合の罰則
建設業法に違反した場合、行政処分(指示、営業停止、許可の取消し)の対象となるだけでなく、厳しい罰則が科されることがあります。特に、無許可営業や営業停止命令違反などは重い罰則の対象となります。
・無許可営業など:3年以下の懲役または300万円以下の罰金
・営業停止命令違反など:6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金
健全な事業運営のためにも、法律の遵守は絶対条件です。
まとめ
この記事では、建設業法の目的から許可制度の概要、事業者が遵守すべきポイントまでを網羅的に解説しました。
- この記事の要点
・建設業法は、工事の品質確保、発注者の保護、業界の健全な発達を目的とした重要な法律である。
・請負金額が500万円(建築一式は1,500万円)以上の工事を請け負うには、原則として建設業許可が必要である。
・許可取得には、経営能力、技術者、誠実性、財産、欠格要件の5つの要件をすべて満たす必要がある。
・許可取得後も、契約の適正化や技術者の配置などの義務があり、違反した場合は厳しい罰則が科される。
コンプライアンスを遵守し、適正な事業運営を行うためには、この法律への深い理解が不可欠です。自社の事業が許可を必要とするかを確認し、要件を満たした上で適切な許可を取得・維持することが、企業の信頼性と成長につながります。
よくある質問
Q1. 建設業許可の有効期間はどれくらいですか?
A1. 建設業許可の有効期間は5年間です。有効期間の満了後も引き続き建設業を営む場合は、期間が満了する日の30日前までに更新手続きを行う必要があります。
Q2. 許可を取得せずに基準以上の工事を請け負うとどうなりますか?
A2. 許可を受けずに法律で定められた金額以上の工事を請け負った場合、建設業法違反となります。厳しい罰則(3年以下の懲役または300万円以下の罰金)が科される可能性があるほか、将来的に許可を取得する際の欠格要件に該当する恐れもあります。
Q3. 複数の業種の許可を同時に取得することは可能ですか?
A3. はい、可能です。建設工事は29の業種に分類されており、事業内容に応じて複数の業種の許可を同時に申請・取得することができます。ただし、業種ごと(建築一式、土木一式、内装仕上げ等)に専任技術者の要件を満たす必要があります。




