「法律」の基本知識

建設業で注意すべき法律違反とその対策とは?


更新日: 2025/10/28
建設業で注意すべき法律違反とその対策とは?

この記事の要約

  • 建設業で遵守すべき主要な法律を解説
  • よくある法律違反の具体例とリスクを一覧化
  • 法律違反を防ぐための具体的な対策ステップ

建設業の経営には、国土交通省や厚生労働省などが管轄する、多岐にわたる法律の知識が不可欠です。事業の根幹となる「建設業法」をはじめ、従業員の安全や労働環境、さらには環境保全に至るまで、遵守すべきルールが数多く存在します。ここでは、建設業界で事業を行う上で、最低限押さえておくべき主要な法律の概要を解説します。

建設業に関連する主要な法律

・ 建設業法
・ 労働基準法
・ 労働安全衛生法(安衛法)
・ 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)
・ 建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)
・ 下請代金支払遅延等防止法(下請法)

建設業法:許可、契約、施工体制の基本ルール

建設業法は、建設業の健全な発達と建設工事の適正な施工を確保するための根幹となる法律です(所管:国土交通省)。
まず、軽微な建設工事を除き、工事を請け負うには業種ごとに建設業許可を取得しなければなりません(法第3条)。また、元請け・下請けを問わず、すべての建設工事で書面による契約締結が義務付けられています(法第19条)。さらに、施工体制の透明化を図るため、元請け業者には施工体制台帳の作成が義務付けられており、特に公共工事では「丸投げ」と呼ばれる一括下請負が原則禁止されています(法第22条)。

[出典:e-Gov法令検索 建設業法]

労働基準法:労働時間、賃金、休日のルール

労働基準法は、従業員を雇用するすべての事業者に適用される、労働条件の最低基準を定めた法律です(所管:厚生労働省・労働基準監督署)。
建設業においても、法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)の遵守、時間外労働に対する割増賃金(残業代)の正確な支払い、法定休日(週1日または4週4日)の確保が求められます。特に建設業は長時間労働が課題となりやすいため、時間外労働の上限を定める36(サブロク)協定の適切な締結・運用が不可欠です。また、使用者には従業員への年次有給休暇の付与が義務付けられています(法第39条)。

[出典:e-Gov法令検索 労働基準法]
[出典:厚生労働省 労働時間・休日]

労働安全衛生法:作業員の安全と健康を守るルール

労働安全衛生法(安衛法)は、建設現場で働く作業員の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成することを目的とした法律です。事業者には、現場の危険(墜落、転落、機械による挟まれなど)を防止するための具体的な安全措置を講じる義務があります。また、作業員に対する安全衛生教育の実施、一定の規模や業種に応じた安全管理者衛生管理者の選任、作業員の健康診断の実施義務なども定められています。これらの対策を怠ると、重大な労働災害につながる恐れがあります。

建設現場で図面を見ながら打ち合わせる作業員たち

[出典:e-Gov法令検索 労働安全衛生法]

廃棄物処理法・建設リサイクル法:廃棄物の適正処理ルール

建設工事からは様々な廃棄物(産業廃棄物)が発生します。廃棄物処理法は、これらの廃棄物を適正に処理し、生活環境を保全するための法律です。工事の排出事業者は、廃棄物の処理を他社に委託する場合、許可を持つ業者と契約し、マニフェスト(産業廃棄物管理票)を交付して最終処分までを管理する義務を負います。

一方、建設リサイクル法は、コンクリートや木材などの特定建設資材について、現場での分別解体再資源化(リサイクル)を義務付ける法律です。対象となる工事では、事前の届出や分別、リサイクルの実施が求められます。

[出典:e-Gov法令検索 廃棄物の処理及び清掃に関する法律]
[出典:e-Gov法令検索 建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律]

下請法:元請けと下請けの公正な取引ルール

下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、資本金で優位にある元請事業者(親事業者)が、下請事業者(協力会社)に対して優越的地位を濫用することを防ぐための法律です。この法律は、発注書面の交付義務、下請代金の支払期日の設定(受領後60日以内)、支払遅延の禁止などを定めています。また、正当な理由のない不当な減額(値引き)や買いたたき、協賛金の要求といった行為も厳しく禁止されています。

[出典:e-Gov法令検索 下請代金支払遅延等防止法]
[出典:公正取引委員会 下請法の概要]

建設業でよくある法律違反のパターンとリスク

建設業に関連する法律は多岐にわたるため、「知らなかった」では済まされない違反が起こりがちです。軽微な違反が、やがては営業停止や許可取り消しといった重大な経営リスクにつながることも少なくありません。ここでは、建設業で特に発生しやすい典型的な法律違反のパターンと、それに伴う主なリスクを整理します。

法律違反のパターンと主なリスク

以下の表は、前述した主要な法律ごとに、現場や経営で起こりがちな違反パターンと、それによって企業が直面する可能性のあるリスク(罰則や行政処分など)をまとめたものです。

関連する法律 よくある違反パターン 主なリスク(罰則・影響)
建設業法 ・無許可での工事受注(軽微な工事を除く)
・一括下請負(丸投げ)
・不適切な契約書の締結(書面不交付など)
・営業停止処分、許可の取り消し
・罰金、懲役
・公共工事の指名停止
労働基準法 ・残業代の未払い(サービス残業)
・36協定の上限を超える時間外労働
・法定休日の不付与、有給休暇の不取得
・労働基準監督署による是正勧告、指導
・罰金、懲役(悪質な場合)
・従業員からの損害賠償請求
労働安全衛生法 ・必要な安全措置の未実施(足場、開口部など)
・安全教育の不実施
・健康診断の未実施
・作業停止命令、是正勧告
・罰金、懲役
・労働災害発生時の責任追及
廃棄物処理法 ・マニフェストの不交付、不適切な記載、保管義務違反
・無許可業者への処理委託
・措置命令(廃棄物の撤去など)、事業停止命令
・罰金、懲役
・排出事業者としての責任追及
下請法 ・下請代金の支払遅延
・不当な減額、買いたたき
・不当な経済上の利益提供の要求(協賛金など)
・公正取引委員会による勧告、指導
・社名の公表(信用失墜)
・遅延損害金の支払い義務

法律違反を防ぐために建設業者が今すぐやるべき対策

建設業における法律違反のリスクは、日々の管理体制と従業員の意識によって大きく軽減できます。罰則や行政処分を回避し、健全な企業経営を継続するためには、場当たり的な対応ではなく、組織的かつ継続的な対策が不可欠です。ここでは、法律違反を未然に防ぐために建設業者が具体的に取り組むべき対策を4つのステップで解説します。

1. 社内教育とコンプライアンス意識の徹底

まず基本となるのが、経営陣から現場の作業員まで、全従業員が法律遵守の重要性を理解することです。
定期的な研修:建設業法や労働基準法、安全衛生など、関連する法律の知識を学ぶ研修会を定期的に実施します。特に管理職には、下請法など取引に関する教育も必要です。
マニュアルの整備:契約書の取り交わし手順、安全確認の手順、廃棄物処理のフローなど、法律遵守のための具体的な社内ルールを明文化し、マニュアルとして整備・周知します。
報告体制の構築:「法律違反かもしれない」と感じたときに、従業員がためらわずに相談・報告できる窓口(コンプライアンス窓口など)を設置し、早期発見・早期是正につなげます。

2. 契約書・許可・マニフェスト等の管理体制構築

建設業の業務は、許可証や契約書、マニフェストといった重要書類によって成り立っています。これらの管理不備は、直接的な法律違反につながります。
許可の更新管理:建設業許可の有効期限(5年)を台帳やシステムで管理し、期限の半年前にはアラートが鳴るなど、更新手続きが遅滞なく行われるよう管理体制を確立します。決算変更届(事業年度終了報告書)の毎年の提出漏れにも注意が必要です。
契約書のチェック体制:請負契約を締結する際は、必ず建設業法第19条に基づく書面を交付します。内容が法律(建設業法や下請法)に違反していないか(例:不当に短い工期、不当な特約がないか)を確認するリーガルチェックのフローを定めます。
マニフェストの管理徹底:廃棄物処理法に基づき、マニフェストの発行、回収、照合、保管(5年間)が確実に行われるよう、管理台帳や電子マニフェストシステムを導入して一元管理します。

オフィスで法律の研修を受ける管理職たち

3. 労働環境の整備と安全パトロールの実施

従業員の労働環境と現場の安全は、労働基準法や労働安全衛生法遵守の核心です。
勤怠管理の適正化:タイムカードや勤怠管理システムを導入し、従業員の労働時間を1分単位で正確に把握します。これにより、サービス残業や36協定違反の防止につなげます。
安全委員会の設置:一定規模以上の事業場では、労働安全衛生法に基づき安全委員会(または衛生委員会)を設置し、労使で現場のリスクについて話し合い、改善策を実行します。
定期的な安全パトロール:経営陣や安全管理者が定期的に建設現場を巡回(パトロール)し、危険箇所の洗い出しと、その場での是正指導を徹底します。

4. 顧問弁護士など外部専門家との連携

法律は頻繁に改正されます。また、自社の対応が法律に抵触しないか判断に迷う「グレーゾーン」なケースも発生します。
法改正への迅速な対応:建設業に詳しい顧問弁護士や社会保険労務士、行政書士といった専門家と契約し、最新の法改正情報を入手し、自社の体制見直しに役立てます。
専門的なアドバイス:契約書のリーガルチェックや、労働時間管理の具体的な方法、行政機関の調査(立ち入り検査)への対応など、専門的な知見が必要な場合にすぐに相談できる体制を整えておくことで、リスクを最小限に抑えられます。

法律違反を防ぐための4つの対策
  1. 社内教育の徹底:全従業員のコンプライアンス意識を向上させる。
  2. 管理体制の構築:許可更新や契約書チェックのフローを確立する。
  3. 労働・安全環境の整備:勤怠管理を徹底し、現場パトロールを実施する。
  4. 外部専門家との連携:法改正やグレーゾーンに迅速に対応する。

法律遵守(最低限)と積極的なコンプライアンス(比較検討)

建設業において法律を守る(法令遵守)ことは、事業を継続する上での最低限の義務です。しかし、現代の企業経営では、単に「法律違反をしない」という受け身の姿勢だけでは不十分とされています。ここでは、最低限の法律遵守と、より積極的な「コンプライアンス」活動の違いについて比較検討します。

法律遵守とコンプライアンスの違い

法律遵守(法令遵守)とは、文字通り、国が定めた法律や条例などのルールを守ることを指します。これは企業活動の「守り」の側面であり、違反すれば罰則や行政処分を受けることになります。

一方で、コンプライアンスは、法令遵守を包含しつつ、さらに広い概念を指します。法律だけでなく、社会的な規範、企業倫理、社内規程など、ステークホルダー(顧客、従業員、取引先、地域社会)からの期待に応える行動を取ることを意味します。これは、企業の信頼を築く「攻め」の側面も持ち合わせています。

なぜ「法律さえ守ればよい」ではダメなのか?

「法律には違反していない」という状態であっても、社会的な常識や倫理観から逸脱した行為は、企業の信用を大きく損なうリスク(レピュテーション・リスク)をはらんでいます。

例えば、法律の上限ギリギリの長時間労働を常態化させたり、下請法には抵触しない範囲で下請け業者に無理な要求をしたりする行為は、法律違反ではなくとも、社会的な非難の対象となり得ます。

結果として、「ブラック企業」といったネガティブな評判が広がり、人材の採用難離職率の悪化取引先からの敬遠などにつながる可能性があります。
積極的なコンプライアンス(安全管理の徹底、労働環境の改善、公正な取引の推進など)に取り組むことは、企業の競争力と持続可能性を高める重要な経営戦略となります。

まとめ:建設業の法律を理解し、クリーンな経営を目指そう

本記事では、建設業者が特に注意すべき主要な法律、よくある違反パターンとリスク、そして具体的な対策について解説しました。

建設業は、建設業法、労働基準法、労働安全衛生法、廃棄物処理法、下請法など、非常に多くの法律によって厳しく規制されている業界です。これらの法律は、建設工事の品質確保、労働者の安全、環境保全、公正な取引秩序の維持といった、社会的に重要な目的のために存在します。

「知らなかった」「うっかりしていた」という理由での法律違反は、営業停止、罰金、許可取り消しといった直接的なペナルティだけでなく、企業の信用失墜という取り返しのつかないダメージにつながります。

自社と従業員、そして取引先や社会全体を守るために、まずは自社が関連する法律を正しく理解することが第一歩です。その上で、日頃からの社内教育、管理体制の整備、そして必要に応じた専門家の活用を通じて、法律違反のリスクを徹底的に回避し、社会から信頼されるクリーンな企業経営を目指しましょう。

建設業の法律に関するよくある質問

Q. 法律違反の疑いがある場合、どこに相談すればよいですか?
A. まずは、社内に設置されているコンプライアンス窓口や、直属の上司への報告・相談が第一です。社内での解決が難しい場合や、会社組織全体での違反が疑われる場合は、管轄の行政機関(例:建設業許可関連であれば都道府県の建設業担当課、労働問題であれば労働基準監督署、下請取引であれば公正取引委員会や中小企業庁)や、弁護士などの外部専門家への相談を検討してください。

Q. 建設業の法律は改正が多いと聞きますが、どう対応すればよいですか?
A. 顧問契約を結んでいる弁護士、社会保険労務士、行政書士などの専門家から、最新の法改正情報を定期的に提供してもらう体制を整えるのが最も確実です。また、国土交通省や厚生労働省といった監督官庁のウェブサイト、建設業界団体が発信する情報を定期的にチェックする習慣をつけることも重要です。

Q. 小規模な工務店でも、すべての法律を守る必要がありますか?
A. はい、企業の規模に関わらず、事業を行う上で関連する法律はすべて遵守する義務があります。ただし、法律によっては、事業場の規模や労働者数に応じて適用されるルールが異なる場合があります(例:労働安全衛生法における安全管理者や衛生管理者の選任義務など)。自社の規模で適用される義務・免除される規定を正しく把握することが重要です。

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