請負と派遣の違いとは?建設業の適法な契約形態

この記事の要約
- 建設業法と派遣法の違いを明確化
- 偽装請負の判断基準と罰則を解説
- 適法な契約運用のための対策提示
- 目次
- 建設業における請負と派遣の法律上の違い
- 請負契約の法的定義と特徴
- 派遣契約の法的定義と特徴
- 【比較表】請負と派遣の法律上の主要な違い
- 建設業法と労働者派遣法に関わる禁止事項
- 建設業務における労働者派遣の禁止ルール
- 法律で認められている例外的なケース
- 偽装請負にならないための法律知識と判断基準
- 偽装請負とは何か?法律上の問題点
- 厚生労働省のガイドラインに基づく判断基準
- 違法派遣や偽装請負に対する法律上の罰則
- 企業(発注者・受注者)に科される罰則
- 労働者への影響と法的リスク
- 【実践】建設現場で適法に契約するための具体的な手順
- STEP1:契約締結前の書類リーガルチェック
- STEP2:現場代理人(職長)の選任と周知
- STEP3:現場運用における指揮命令ルールの徹底
- まとめ
- よくある質問(FAQ)
- Q1. 応援(常用)で職人が来る場合、法律上は請負ですか?派遣ですか?
- Q2. 一人親方との契約は請負契約になりますか?
- Q3. 施工管理業務の派遣であれば、どのような契約でも適法ですか?
建設業における請負と派遣の法律上の違い
建設業の現場で頻繁に交わされる「請負」と「派遣」ですが、この2つは適用される法律や責任の所在が根本的に異なります。契約形態を誤ると重大な法令違反となるため、まずはそれぞれの定義と法的な違いを明確にし、正しい契約形態を理解しましょう。
請負契約の法的定義と特徴
請負契約(うけおいけいやく)とは、民法第632条において定義される契約形態です。建設業における請負の最大の特徴は、仕事の完成が目的である点です。法律上、以下の要件を満たす必要があります。
- 指揮命令権の所在
発注者(注文者)から請負企業の労働者に対して、直接的な業務指示(指揮命令)を行うことはできません。指揮命令は、請負企業の責任者(現場代理人や職長など)が行います。 - 報酬の対価
労働時間ではなく、完成した「成果物」に対して報酬が支払われます。
[出典:e-Gov法令検索 民法]
派遣契約の法的定義と特徴
派遣契約(はけんけいやく)とは、労働者派遣法に基づき、派遣元企業が雇用する労働者を、派遣先企業の指揮命令下で労働させる契約です。派遣の目的は労働力の提供であり、請負とは以下の点で異なります。
- 指揮命令権の所在
派遣先企業(現場の発注者など)が、派遣労働者に対して直接指揮命令を行うことができます。 - 報酬の対価
成果物ではなく、提供された「労働時間」に対して対価が発生します。
[出典:e-Gov法令検索 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律]
【比較表】請負と派遣の法律上の主要な違い
以下の表は、法的な観点から両者の違いを整理したものです。違いを正しく理解し、自社の契約が適正か確認してください。
| 項目 | 請負契約 | 派遣契約 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 仕事の完成(成果物) | 労働力の提供 |
| 適用される主な法律 | 民法、建設業法 | 労働者派遣法 |
| 指揮命令権 | 請負業者(雇用主) | 派遣先企業(発注者) |
| 労務管理の責任 | 請負業者(雇用主) | 派遣元および派遣先 |
| 契約の当事者 | 発注者 ⇔ 請負業者 | 派遣元 ⇔ 派遣先 |
| 道具・資材の負担 | 原則として請負業者が負担 | 派遣先が用意することが多い |
建設業法と労働者派遣法に関わる禁止事項
建設業界には他の産業とは異なる厳しい法的規制が存在します。特に「建設業務への労働者派遣」は法律で原則として禁止されています。ここでは、なぜ禁止されているのかという理由と、例外的に派遣が認められる特定のケースについて解説します。
建設業務における労働者派遣の禁止ルール
労働者派遣法第4条では、建設業務(土木、建築、その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体の作業)への労働者派遣を禁止しています。
この禁止ルールの背景には、建設現場特有の労働災害リスクがあります。建設現場は複数の企業が混在して作業を行うため、指揮命令系統が曖昧になると安全管理が疎かになり、重大事故につながる危険性が高まります。そのため、責任の所在を明確にするために、現場作業員への指揮命令権を持つ「請負」形態が原則とされています。
[出典:厚生労働省 労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド]
法律で認められている例外的なケース
すべての建設関連業務で派遣が禁止されているわけではありません。「建設業務」に該当しない業務については、派遣契約が適法となる場合があります。
- 事務職・CADオペレーター
現場事務所での事務処理や図面作成業務は「建設業務」に含まれないため、派遣が可能です。 - 施工管理業務(現場監督)
工程管理、品質管理、安全管理などの「施工管理」そのものは、肉体的な建設作業ではないため、技術者派遣(施工管理技士の派遣)として認められています。
- 注意点:実態判断の重要性
施工管理の名目で派遣された技術者が、実際には現場で資材運びや清掃などの肉体労働を行っている場合、違法派遣とみなされる可能性があるため注意が必要です。

偽装請負にならないための法律知識と判断基準
契約書等の形式上は「請負」となっていても、実態が「派遣」である状態を偽装請負と呼びます。偽装請負は、労働者の権利を侵害するだけでなく、法的な罰則対象となります。厚生労働省のガイドラインに基づき、違法となる具体的な判断基準を詳しく解説します。
偽装請負とは何か?法律上の問題点
偽装請負とは、「注文者が、請負業者の労働者に対して直接指揮命令を行っている」にもかかわらず、「請負契約」を装っている状態を指します。法律上、偽装請負が厳しく規制される主な理由は以下の通りです。
- 中間搾取の温床になる
労働者派遣法の規制を逃れつつ、実質的な労働力供給を行うことで、労働条件が悪化する恐れがあります。 - 責任の所在が不明確
労災事故が発生した際、安全配慮義務や補償の責任が発注者にあるのか受注者にあるのかが曖昧になります。
厚生労働省のガイドラインに基づく判断基準
「請負」と適正に認められるためには、昭和61年労働省告示第37号に基づく区分基準を満たす必要があります。主に以下の4つの要件が、発注者から独立して行われているかが判断の鍵となります。
- 適正な請負と判断されるための4要件
- 1.業務の遂行方法に関する指示がないこと
発注者が、労働者に対して直接、仕事の手順や方法を指示していないか。 - 2.労働時間・休日等の管理を発注者が行っていないか
始業・終業時刻の決定や、残業・休日出勤の命令を発注者が行っていないか。 - 3.秩序の維持・規律に関する指示を発注者が行っていないか
服務規律の通達や、配置決定を発注者が行っていないか。 - 4.請負事業者が自らの責任で業務を処理しているか
必要な資金、機械、資材等を請負事業者が自らの責任と負担で準備しているか(単に身体だけを提供していないか)。
- 1.業務の遂行方法に関する指示がないこと
[出典:厚生労働省 労働者派遣事業と請負により行われる事業の区分に関する基準]
違法派遣や偽装請負に対する法律上の罰則
コンプライアンス違反は企業経営に甚大なダメージを与えます。違法派遣や偽装請負が発覚した場合、発注者と受注者の双方に科される重い罰則や、労働者への法的な影響について把握し、リスク管理を徹底しましょう。
企業(発注者・受注者)に科される罰則
偽装請負や禁止されている建設業務への派遣を行った場合、労働者派遣法、職業安定法、建設業法などの違反として、以下の罰則が科される可能性があります。
- 刑事罰
「1年以下の懲役」または「100万円以下の罰金」(労働者派遣法違反)
労働者供給事業の禁止違反として「1年以下の懲役」または「100万円以下の罰金」(職業安定法違反) - 行政処分
建設業許可の取り消し、期間を定めての営業停止処分、企業名の公表(社会的信用の失墜)などが行われます。
労働者への影響と法的リスク
違法な契約形態は、企業だけでなく労働者や現場全体に以下のようなリスクをもたらします。
- 労災保険適用の複雑化
指揮命令者と雇用主が異なる実態があるため、労災発生時に責任の所在が争点となり、迅速な救済が妨げられる可能性があります。 - 労働契約申込みみなし制度の適用
違法派遣(偽装請負を含む)を受け入れた場合、発注者がその労働者に対して、直接雇用の申し込みをしたとみなされる制度です。労働者がこの申し込みを承諾すれば、発注者との間に直接の雇用契約が成立することになります。
【実践】建設現場で適法に契約するための具体的な手順
違法派遣や偽装請負を未然に防ぐためには、契約締結前から現場運用に至るまで、以下のステップで管理を徹底する必要があります。ここでは、実務担当者が実行すべきフローを解説します。
STEP1:契約締結前の書類リーガルチェック
まず、契約書類が「建設業法」および「実態」に即しているかを確認します。単に契約書の名称を変えるだけでは不十分です。
- 契約名称の確認
「工事請負契約書」となっているか(「労働者派遣契約」ではないか)を確認します。 - 法定記載事項の網羅
建設業法第19条で定められた「工事内容」「請負代金」「工期」「支払い方法」などが注文書・請書に明記されているか確認します。 - 完成責任の所在
仕事の完成に対し、請負業者が責任を負う条項(瑕疵担保責任など)が含まれているかをチェックします。
STEP2:現場代理人(職長)の選任と周知
適法な請負には、指揮命令系統の確立が不可欠です。
- 現場代理人の配置
請負業者は、現場に自社の責任者(現場代理人や職長)を必ず配置します。 - 役割の明確化
発注者は、請負業者の作業員へ直接指示を出さず、必ずこの現場代理人を通して指示を出すことを現場全体に周知します。
STEP3:現場運用における指揮命令ルールの徹底
日々の現場作業において、偽装請負にならないための運用ルールを実行します。
- 指示ルートの厳守
発注者(元請け監督) ⇒ 請負業者(現場代理人) ⇒ 作業員
※このルートを飛ばして、監督が作業員に直接「あそこを片付けて」と指示することは違法です。 - 混在作業の整理
元請け社員と下請け作業員が混在するエリアでは、作業分担を明確にし、指揮命令系統が混ざらないように注意します。 - 朝礼・会議での発言
全体工程の説明は元請けが行っても問題ありませんが、個別の作業割り当てや具体的な作業方法の指示は、各社の現場代理人が行います。

まとめ
建設業における「請負」と「派遣」の適法な運用について解説しました。最も重要なのは、契約形式だけでなく「実態」が法律に適合しているかどうかです。
- 記事のまとめ
- 請負と派遣の定義
請負は「仕事の完成」、派遣は「労働力の提供」が目的。 - 建設業のルール
建設現場への労働者派遣は法律で禁止されている(施工管理等は例外)。 - 偽装請負のリスク
実態が派遣であれば、契約名義に関わらず処罰対象となり、「労働契約申込みみなし制度」のリスクも発生する。 - 適正化の鍵
契約書だけでなく、現場での指揮命令系統(発注者→現場代理人→作業員)を徹底する。
- 請負と派遣の定義
建設業のコンプライアンスは年々厳格化されています。判断に迷うグレーゾーンがある場合は、独断で進めず、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談し、リスクのない契約形態を選択してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 応援(常用)で職人が来る場合、法律上は請負ですか?派遣ですか?
建設業界の慣習である「応援」は、実態として元請けが指揮命令を行うケースが多く、法律上は「労働者供給事業」や「違法派遣」とみなされる可能性が高い形態です。適法に行うためには、請負契約の要件(自社での指揮命令、道具の持ち込み等)を満たすか、適正な「出向」契約を結ぶ必要があります。
Q2. 一人親方との契約は請負契約になりますか?
基本的には請負契約です。しかし、特定の会社専属で働き、勤務時間管理を受け、道具も支給されている場合は「偽装一人親方(実質的な労働者)」とみなされるリスクがあります。実態に合わせて雇用契約への切り替えが必要です。
Q3. 施工管理業務の派遣であれば、どのような契約でも適法ですか?
契約名目が「施工管理」でも、実態が伴わなければ違法です。派遣された技術者が、現場の清掃、資材運搬、単純な壁塗りなどの「建設業務」のみに従事している場合は、違法派遣と判断されます。





