建設業で偽装請負と見なされるケースとリスクとは?

この記事の要約
- 偽装請負は実態が派遣でありながら請負を装う重大な法律違反です。
- 発注者が作業員に直接指揮命令を行うと法律違反と判定されます。
- 違反時は懲役や罰金に加え建設業許可の取消リスクが生じます。
- 目次
- 建設業における偽装請負とは?法律上の定義と基本構造
- 偽装請負の定義と労働者派遣との違い(表で整理)
- 建設業特有の多重下請け構造と偽装請負の関係
- 法律違反となる偽装請負の具体的な判定基準
- 指揮命令系統が発注者側にある場合
- 勤怠管理や勤務規律の指示が行われている場合
- 現場の設備・備品や経費の負担状況(表で整理)
- 法律違反と見なされた場合に課される法律上のペナルティとリスク
- 労働者派遣法および職業安定法違反による刑事罰
- 建設業法に基づく行政処分と指名停止
- 労働災害発生時の責任追及と社会的信用失墜
- 建設業における法律を遵守した適切な請負体制の構築方法
- 現場責任者(作業主任者)の配置と役割の明確化
- 契約書と実態の整合性を保つためのセルフチェック
- 一人親方との契約において法律上注意すべきこと
- 偽装請負の不安を解消し法律を遵守するためのポイント
- 「打ち合わせ」と「指揮命令」の境界線
- 混在作業現場での適切なコミュニケーション
- まとめ:法律を遵守し持続可能な建設現場を目指すために
- Q1. 現場で危険を回避するために直接声をかけるのも法律違反ですか?
- Q2. 下請け業者が用意した作業員が足りない場合、元請の社員が手伝っても良いですか?
- Q3. 法律違反かどうか不安な場合、どこに相談すれば良いですか?
建設業における偽装請負とは?法律上の定義と基本構造
建設業界において偽装請負は、コンプライアンスの根幹を揺るがす重大な問題です。契約形式が適正な「請負」であっても、実態として指揮命令権の所在が曖昧であれば、それは不適切な労働形態とみなされます。ここでは、基本となる法律上の定義を解説します。
偽装請負の定義と労働者派遣との違い(表で整理)
偽装請負とは、形式上は請負契約を結んでいるものの、その実態が労働者派遣である状態を指します。最大の違いは、作業員への「指揮命令」を誰が行うかという点にあります。請負であれば受注者が、派遣であれば派遣先(発注者)がその権限を持ちます。
【表:請負契約と労働者派遣の主な相違点】
| 比較項目 | 請負契約(適正) | 労働者派遣(偽装請負の疑い) |
|---|---|---|
| 法律上の根拠 | 民法、建設業法 | 労働者派遣法 |
| 指揮命令権の主体 | 受託企業(請負人)の責任者 | 派遣先(発注者・元請) |
| 労務管理責任 | 受託企業(請負人) | 派遣元企業 |
| 報酬の対象 | 完成した成果物・仕事の結果 | 提供された労働力(時間) |
[出典:厚生労働省「労働者派遣・請負を適正に運用するために」]
建設業特有の多重下請け構造と偽装請負の関係
建設業界では、元請から一次下請、二次下請へと続く重層的な下請構造が一般的です。この環境下では、現場の効率化を優先するあまり、元請の現場監督が直接下請の作業員へ指示を出してしまう「実態」が生じやすくなります。しかし、中間の業者が単に労働力を提供し、指揮命令を発注者に委ねている状態は、法律で禁止されている「労働者供給事業」への抵触リスクを伴います。

法律違反となる偽装請負の具体的な判定基準
偽装請負か否かの境界線は、単なる契約書の文言ではなく、現場での具体的な関わり方にあります。厚生労働省が示す「告示第37号」に基づき、どのような介入が法律違反にあたるのか、客観的な判定指標を確認していきましょう。
指揮命令系統が発注者側にある場合
発注者が作業員に対して直接的な指示を行うことは、請負の独立性を著しく損なう行為です。具体的には、以下のような行動が厳しくチェックされます。
- 作業の具体的な順序や方法の指定
「この壁から先に塗れ」「この工具を使ってこの角度で固定しろ」といった詳細な手順を、請負人の責任者を介さず直接命令すること。 - 労働者の配置決定
「Aさんはこっちの現場へ、Bさんはあっちへ」というように、個々の作業員の配置を実質的に発注者が決めること。
勤怠管理や勤務規律の指示が行われている場合
作業員の労働環境をコントロールする権限は、雇用主である請負人が保持していなければなりません。発注者が以下の項目に介入することは、法律上認められません。
- 始業・終業時刻の管理
発注者が個々の作業員の出退勤を記録したり、遅刻や早退の承認を行ったりすること。 - 残業や休日出勤の強制
請負人の意思を確認せず、発注者が直接「今日は21時まで残れ」と作業員に指示すること。
現場の設備・備品や経費の負担状況(表で整理)
請負事業主は、自らの責任と負担で業務を遂行する「経済的独立性」が必要です。道具や資材の提供関係においても、法律に則った適切な処理が求められます。
【表:事業の独立性を判定するチェックリスト】
| 判定要素 | 適正な請負(白) | 偽装請負の疑い(赤) |
|---|---|---|
| 主要な重機・工具 | 自社で用意、または有償で借用 | 発注者から無償で提供されている |
| 作業服・ヘルメット | 自社のものを着用し区分が明確 | 発注者の社名入りを無償支給されている |
| 材料費の決済 | 請負代金に含まれ自ら調達 | 全て発注者負担で、管理権もない |
[出典:厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」]
法律違反と見なされた場合に課される法律上のペナルティとリスク
ひとたび偽装請負と認定されれば、企業はその社会的基盤を失うほどの大きな代償を支払うことになります。刑事罰、行政処分、そしてビジネス上の損失という三つの側面から、法律が定めるペナルティの重さを明らかにします。
労働者派遣法および職業安定法違反による刑事罰
意図的な偽装請負は、重大な犯罪行為とみなされる場合があります。特に、職業安定法第44条が禁じる「労働者供給事業」に抵触した場合、以下の罰則が科される可能性があります。
- 刑事罰の内容
・1年以下の懲役または100万円以下の罰金
・法人だけでなく、実際に指示を出した担当者個人も処罰の対象
・警察の捜査対象となり、逮捕・起訴の可能性がある
建設業法に基づく行政処分と指名停止
法律違反が確定すると、建設業許可を所管する行政庁から厳しい処分が下されます。
- 指示処分および営業停止
違反の是正を命じられるだけでなく、一定期間(数日から1年以内)の営業停止処分を受ける。この間、新規契約は一切禁じられる。 - 建設業許可の取消し
極めて悪質なケースや、処分に従わない場合は、建設業許可そのものが取り消される。 - 公共事業からの指名停止
行政処分に伴い、一定期間、国や自治体の公共工事への入札参加資格を失う。
労働災害発生時の責任追及と社会的信用失墜
偽装請負の状態で労災事故が発生すると、事態はさらに深刻化します。雇用主ではないはずの発注者が指揮命令を行っていた場合、発注者側も「安全配慮義務違反」を直接問われ、多額の賠償責任を負うリスクがあります。また、法令違反を犯した企業として企業名が公表されれば、取引先からの契約解除や融資の引き揚げなど、再起不能なダメージを受けることになります。

建設業における法律を遵守した適切な請負体制の構築方法
リスクを回避するためには、現場の管理体制を再構築し、契約と実務を完全に一致させる必要があります。責任者の明確化や一人親方への対応など、法律を遵守した健全な運営を実現するための具体的な手法を提示します。
現場責任者(作業主任者)の配置と役割の明確化
適正な請負を維持するための鉄則は、「指示のルートを一本化すること」です。
- 適正な連絡体制のステップ
- 発注者は、必ず請負人の「現場責任者」に対してのみ、業務の仕様や納期を伝える。
2. 請負人の「現場責任者」が、自社の作業員に対して具体的な作業手順を指示する。
3. 発注者が作業員に直接声をかけたい場合は、必ず現場責任者の承諾を得るか、責任者を介して行う。
契約書と実態の整合性を保つためのセルフチェック
形式的な書類だけでなく、日々の現場運用が法律に適合しているかを定期的に確認しましょう。
- 作業指示書の宛先
指示書は「会社名」または「現場責任者名」宛になっており、個々の作業員名になっていないか。 - 機材管理の明確化
発注者の機材を借りる場合、その賃貸借契約書が存在し、適正な料金が発生しているか。
一人親方との契約において法律上注意すべきこと
建設業界で多い「一人親方」との契約は、偽装請負と判定されやすい非常にデリケートな領域です。一人親方は「労働者」ではなく「個人事業主」であるため、時間的な拘束や細かな作業指示を行ってしまうと、実態として雇用関係にあるとみなされ、法律違反を問われます。あくまで「仕事の完成」を目的とした対等なパートナーシップを保つ必要があります。
偽装請負の不安を解消し法律を遵守するためのポイント
現場の円滑な進行と適正な管理は決して相反するものではありません。読者が抱きやすい「どこまでが許されるのか」という疑念に対し、実務上の線引きを明確にすることで、法律を恐れずに正しく守るための指針を示します。
「打ち合わせ」と「指揮命令」の境界線
「指示を出してはいけない」と過剰に反応し、コミュニケーションが途絶えては現場が回りません。法律が禁じているのは「労働力の直接管理」であり、「仕様の確認」ではありません。
- 「打ち合わせ」として認められる行為
・工程会議での進捗状況の確認と、それに伴う納期調整の依頼
・図面に基づいた完成イメージや品質基準の共有
・安全確保のために必要な一般的ルールの周知徹底
混在作業現場での適切なコミュニケーション
複数の業者が入り混じる建設現場では、安全確保のために元請が全体を統制する必要があります。これは労働安全衛生法上の義務であり、偽装請負にはあたりません。「事故を防ぐための安全指示」と「仕事をさせるための業務指示」を明確に区別し、安全に関する指示は躊躇せず、業務に関する指示はルールを守るというバランスが重要です。
まとめ:法律を遵守し持続可能な建設現場を目指すために
偽装請負を未然に防ぐことは、建設業に携わるすべての企業にとって持続可能な経営の第一歩です。これまでの議論を整理し、法律に基づいた透明性の高い現場作りへのステップを総括します。
法律違反としての偽装請負は、単なる事務的なミスではなく、労働者の権利を奪い、企業の存続を危うくする重大なリスクです。現場監督や管理職一人ひとりが正しい知識を持ち、「指示は責任者を介して」という基本を徹底することが、企業を守る最大の防御となります。コンプライアンスを遵守し、信頼される建設現場を築き上げましょう。
[出典:国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」]
Q1. 現場で危険を回避するために直接声をかけるのも法律違反ですか?
A1. いいえ、法律違反にはあたりません。労働安全衛生法に基づき、労働者の命を守るための緊急的な指示や安全確保のための注意喚起は、元請の義務として認められています。ただし、これが常態化して作業内容への指示に発展しないよう注意が必要です。
Q2. 下請け業者が用意した作業員が足りない場合、元請の社員が手伝っても良いですか?
A2. 非常にリスクが高い行為です。元請の社員が下請けの作業員と混ざって作業を行い、実質的に指揮を執る形になると、偽装請負とみなされる可能性が極めて高くなります。応援が必要な場合は、適切な契約変更や体制の見直しを検討してください。
Q3. 法律違反かどうか不安な場合、どこに相談すれば良いですか?
A3. まずは各都道府県の労働局(需給調整事業部)の相談窓口を利用することをお勧めします。また、建設業界の慣習と法律の両面に精通した弁護士や社会保険労務士などの専門家へ相談し、監査を受けることも有効な手段です。





