建設業で偽装請負と見なされるケースとリスクとは?

この記事の要約
- 偽装請負の定義と労働者派遣法・建設業法との関係を詳しく解説。
- 罰則や建設業許可取消など企業が負うべき深刻な法的リスクを提示。
- 指揮命令系統の適正化手順と現場で使える実務チェックリストを網羅。
- 目次
- 1. 建設業における偽装請負の定義と関連する法律の基礎知識
- 偽装請負とは何か?「労働者派遣」との決定的な違い
- 建設業法や労働者派遣法における位置づけ
- 2. 建設現場で偽装請負と判断される具体的な基準と法律違反のポイント
- 指揮命令系統の所在が判断の分かれ目
- 偽装請負の4つの類型(区分基準)
- 3. 偽装請負が発覚した際に課される法律上の罰則と企業リスク
- 懲役や罰金などの刑事罰および行政処分
- 建設業許可の取り消しや社会的信用の失墜
- 4. 建設業の現場で法律を守り健全な契約を維持するための対策
- 適切な作業指示と管理体制の構築
- 契約書の整備と実態の乖離を防ぐチェックリスト
- 5. 請負契約と派遣契約の法律的な違いを比較検討
- まとめ:建設業界におけるコンプライアンスの重要性
- よくある質問(FAQ)
- Q1. 下請けの作業員に「危ないからそこをどいて」と言うのも偽装請負になりますか?
- Q2. 一人親方に直接指示を出すのは問題ないですか?
- Q3. なぜ建設業務には労働者派遣が禁止されているのですか?
- Q4. 施工管理派遣の人が下請の人に指示を出すのはOKですか?
1. 建設業における偽装請負の定義と関連する法律の基礎知識
建設業における偽装請負は、形式上は請負契約でありながら、実態が労働者派遣となっている違法な状態を指します。人手不足を背景とした安易な人貸しは、労働者保護を目的とした複数の法律に抵触し、企業の存続を危うくします。この章では、法的定義と建設業界特有の制限について整理します。
偽装請負とは何か?「労働者派遣」との決定的な違い
偽装請負とは、書類上は業務委託(請負)契約を結んでいるものの、その実態は発注者が下請業者の労働者に対して直接的な指揮命令を行っている状態です。
- 請負と派遣の根本的な相違点
- 指揮命令権の所在
請負は受注者が自ら指示を行い、派遣は派遣先(発注者)が指示を行う。 - 契約の目的
請負は「仕事の完成(成果物)」を目的とし、派遣は「労働力の提供」を目的とする。
- 指揮命令権の所在
建設業においてこれらが厳格に区別されるのは、現場の安全管理責任を明確にするためです。実態が派遣であるにもかかわらず請負を装うことは、派遣法が課す労働者保護の責任を免れる行為とみなされます。
建設業法や労働者派遣法における位置づけ
建設業界には法律による強力な制限が存在します。最も重要なのは、労働者派遣法第4条第1項により、土木・建築等の「建設業務」への労働者派遣が原則として禁止されている点です。
- 建設業務派遣の禁止
現場での直接的な作業(躯体工事、内装工事等)に派遣労働者を使用することはできない。 - 職業安定法第44条
他人の指揮命令下で労働させる「労働力供給事業」を原則禁止している。
したがって、建設現場で発注者が下請の作業員に直接指示を出している状態は、単なる契約違反ではなく、法律で禁止されている建設派遣を潜脱して行っていると判断されます。
[出典:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(厚生労働省告示第37号)]
2. 建設現場で偽装請負と判断される具体的な基準と法律違反のポイント
偽装請負の判定は、現場での実態に基づいて行われます。行政当局は、発注者が労働者の管理にどの程度介入しているかを詳細に調査します。意図的な脱法行為だけでなく、現場監督の無知による「直接指示」も法律違反の対象となるため、具体的な判断基準の把握が不可欠です。
指揮命令系統の所在が判断の分かれ目
行政(労働局等)が偽装請負と認定する最大のポイントは、「誰が具体的な作業の指示を出しているか」です。以下の行為は、請負の範囲を逸脱しているとみなされる可能性が極めて高いものです。
- 具体的な作業の指示
発注者が下請作業員に対し、「この場所を先に塗って」「その釘はこう打って」と直接指示を出す。 - 勤務時間の管理
発注者が下請作業員の出勤・退勤を確認し、残業や休憩時間の決定を直接行う。 - 服務規律の適用
下請業者が自ら定めるべき身だしなみや規律を、発注者が直接強制する。

偽装請負の4つの類型(区分基準)
偽装請負は、その実態により大きく4つのパターンに分類されます。いずれも法律の目をかいくぐる構成となっており、厳しく取り締まられています。
| 型式 | 概要 | 法律上の主な問題点 |
|---|---|---|
| 実質派遣型 | 契約は請負だが、発注者が直接指示を出す | 建設業務派遣禁止違反(労働者派遣法) |
| 中抜き型 | A社がB社に発注し、B社がC社の労働者をA社現場で使う | 労働力供給事業の禁止違反(職業安定法) |
| 一人親方型 | 個人を請負とするが、実態は元請の従業員扱い | 社会保険未加入や残業代未払い等の労働法違反 |
| 転貸(二重派遣)型 | 受け入れた派遣労働者をさらに別会社へ貸し出す | 派遣法で厳禁されている「二重派遣」 |
[出典:建設業法令遵守ガイドライン(国土交通省)]
3. 偽装請負が発覚した際に課される法律上の罰則と企業リスク
偽装請負は、労働基準監督署や労働局の調査対象となります。ひとたび違反が認められれば、刑事罰だけでなく、建設業者にとって最も致命的な「営業停止」や「許可取消」といった行政処分に発展するリスクがあります。ここでは、法律が定める罰則の重さを解説します。
懲役や罰金などの刑事罰および行政処分
偽装請負が認定された場合、発注者・受注者双方が罰則の対象となり得ます。特に関係が深いのは「職業安定法」と「労働者派遣法」です。
| 項目 | 具体的な内容 | 根拠となる法律 |
|---|---|---|
| 刑事罰 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 職業安定法第64条 |
| 行政処分 | 業務改善命令、事業廃止命令、業務停止命令 | 労働者派遣法 |
| 社名公表 | 厚生労働省による社名の公表措置 | 労働者派遣法 |
| 直接雇用義務 | 派遣先が労働者へ雇用契約の申し込みをしたとみなす | 労働契約申込み適用制度 |
刑事罰だけでなく、社名が公表されることによるレピュテーションリスク(評判低下)も、企業の採用活動や既存の取引に甚大な影響を与えます。
建設業許可の取り消しや社会的信用の失墜
建設業者にとって最大の脅威は、建設業法に基づく処分です。
- 営業停止・許可取消のリスク
他法令(労働法関連)の違反を理由に、建設業法に基づき営業停止や許可取消処分を受ける可能性がある。 - 指名停止処分
公共工事の入札参加資格を一定期間失い、収益源が断たれる。 - 社会的信頼の崩壊
コンプライアンス意識の低い企業として、大手ゼネコンからの取引を停止される。
一度失った信頼を回復するには数年単位の時間を要し、その間の減収は計り知れません。

4. 建設業の現場で法律を守り健全な契約を維持するための対策
偽装請負のリスクを回避し、適正な運営を行うためには、現場レベルでの徹底した管理体制の構築が必要です。単に契約書の文言を整えるだけでなく、毎日の指示系統が法律に準拠しているかを継続的にチェックする仕組み作りが求められます。
適切な作業指示と管理体制の構築
現場での「直接指示」を防ぐためには、以下の手順で組織的な対策を講じる必要があります。
1.下請責任者の選任と周知
下請業者は必ず「現場責任者」を選任し、その人物を元請に対して明確に通知します。作業員はこの責任者以外の指示に従わない体制を徹底します。
2.指示ルートの完全固定
元請の監督が伝えたい事項(作業の変更や進捗確認)がある場合は、必ず「元請監督→下請責任者→下請作業員」というルートを経由させます。
3.安全管理と指揮命令の分離
緊急時の危険回避など「安全管理上の指示」は直接行っても問題ありませんが、それ以外の日常作業に関する指示とは明確に区別して運用します。
契約書の整備と実態の乖離を防ぐチェックリスト
- 適正な請負関係を維持するための実務チェックリスト
- 指示系統の確認
現場での具体的な作業指示を、下請業者の責任者が自ら行っているか。 - 労働時間の把握
作業員の勤怠管理、休憩の付与を下請業者が独自に行っているか。 - 機材・資材の負担
作業に必要な消耗品や機材の費用を、受注者が適切に負担しているか。 - 専門性と独立性
受注者が独自のノウハウや技術を用いて「仕事の完成」に責任を持っているか。
- 指示系統の確認
これらの項目を定期的にセルフチェックし、実態が形骸化していないかを確認することが、不意の調査から自社を守る最善の策となります。
5. 請負契約と派遣契約の法律的な違いを比較検討
読者の不安を解消するために、混同されやすい契約形態の違いを法律の観点から改めて整理します。特に建設現場では「施工管理」などの事務的業務において一部派遣が認められるケースがあるため、その境界線を理解することが重要です。
| 比較項目 | 請負契約(適法な運用) | 労働者派遣契約(建設現場は制限あり) |
|---|---|---|
| 指揮命令者 | 受注者(下請業者)の責任者 | 派遣先(元請・発注者)の担当者 |
| 雇用関係 | 受注者と作業員の間 | 派遣元と作業員の間 |
| 完了責任 | 受注者が負う(瑕疵担保等) | 派遣先が負う(労働力の消費) |
| 建設現場作業 | 可能 | 原則禁止 |
| 施工管理業務 | 可能 | 可能(直接作業を含まない場合) |
[出典:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(告示第37号)]
建設業においては、現場での「直接作業」には派遣を利用できず、請負の形を取るしかありません。しかし、その「請負」の中で発注者が指示を出してしまうと、瞬時に「違法な派遣(偽装請負)」へと反転してしまう点に最大の注意が必要です。
まとめ:建設業界におけるコンプライアンスの重要性
建設業における偽装請負は、深刻な人手不足という背景があるにせよ、決して許容されるものではありません。法律を軽視した運用は、刑事罰や行政処分を引き起こすだけでなく、建設業許可の取り消しという、会社そのものの命脈を絶つ結果を招きかねません。
コンプライアンス遵守の鍵は、現場監督一人ひとりが「誰が指揮命令を行っているか」という基本に立ち返ることです。適切な指示系統の確立と、定期的な自己点検を継続することで、社会的信頼の高い健全な企業経営を目指しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 下請けの作業員に「危ないからそこをどいて」と言うのも偽装請負になりますか?
いいえ、それは偽装請負には該当しません。労働安全衛生法に基づき、元請には現場全体の安全を管理する義務があります。人命に関わる緊急の指示や安全確保のための合図などは、適正な管理業務の一環とみなされます。ただし、これに乗じて日常的な作業の手順まで細かく指示することは避けなければなりません。
Q2. 一人親方に直接指示を出すのは問題ないですか?
非常にリスクが高い行為です。一人親方は形式上「独立した事業主」ですが、実態として発注者の細かな指揮命令下で働いている場合、法律上は「労働者」とみなされます。この場合、偽装請負(労働者性の否定)と判断され、社会保険の遡及加入や残業代の支払い義務、さらには偽装請負としての罰則を受ける可能性があります。
Q3. なぜ建設業務には労働者派遣が禁止されているのですか?
建設現場は重層下請構造になりやすく、派遣を認めると「誰が安全に責任を持ち、誰が雇用を守るのか」が極めて曖昧になりやすいためです。過酷で危険を伴う現場だからこそ、雇用と指揮命令を分離させないことで、労働者の安全と雇用環境を守るというのが労働者派遣法の主旨です。
Q4. 施工管理派遣の人が下請の人に指示を出すのはOKですか?
結論から言えば、避けるべきです。施工管理の派遣労働者は「派遣先(元請)」の指揮命令下にある人です。その人が下請業者の作業員に直接指示を出してしまうと、元請が下請に指示を出しているのと同じ構図になり、偽装請負とみなされます。指示は必ず下請の責任者を通して行わなければなりません。





