「法律」の基本知識

建設現場の外注契約で注意すべき法的事項とは?


更新日: 2025/12/04
建設現場の外注契約で注意すべき法的事項とは?

この記事の要約

  • 建設業法や下請法など主要法律の規制と罰則を解説
  • 偽装請負や法令違反を防ぐための具体的なチェック手順
  • 契約書作成時の必須項目と社会保険加入の判断基準
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建設現場の外注契約に関わる主要な法律の種類

建設現場における外注契約は、工期の遵守や品質確保だけでなく、企業の存続に関わる重大なコンプライアンス課題です。単なる「発注」という認識ではなく、建設業法、下請法、労働法規という3つの異なる法的側面から契約内容を精査する必要があります。ここでは、それぞれの法律が現場実務にどう直結しているか、違反時のペナルティを含めて詳しく解説します。

建設業法の基本と外注時のルール

建設業法は、建設工事の適正な施工と発注者保護を目的とした法律であり、外注契約においては最も基本かつ重要なルールブックです。

建設業法における重要遵守事項
  • 建設業許可の確認義務
    軽微な工事(税込500万円未満の工事など)を除き、下請負人も建設業許可を持っている必要があります。無許可業者への発注は、発注者側も監督処分を受ける可能性があります。

  • 一括下請負(丸投げ)の全面禁止
    建設業法第22条により、受注した工事の全部または主たる部分を、一括して第三者に請け負わせることは禁止されています。これに違反した場合、営業停止処分や、最悪の場合は許可の取り消しといった重い行政処分が下されます。

  • 契約の書面化義務
    口約束による契約は建設業法違反です。着工前に必ず契約書(または準ずる電子契約)を取り交わす義務があります。

下請法(下請代金支払遅延等防止法)の適用範囲

下請法は、取引上の立場が弱い下請事業者を守るための法律です。建設業においては、資本金の規模によって適用・不適用が分かれますが、コンプライアンスの観点からはすべての取引で以下の基準を守ることが推奨されます。

  • 3条書面の交付
    発注内容、金額、納期などを記載した書面を直ちに交付する義務があります。

  • 支払期日のルール
    給付を受領した日(工事完了引き渡し日)から60日以内で、かつできる限り短い期間内に支払期日を定める義務があります。

  • 禁止事項の徹底
    正当な理由のない「受領拒否」「下請代金の減額」「不当な返品」「買いたたき」は厳しく禁止されており、違反すると公正取引委員会による勧告や社名公表の対象となります。

労働基準法・労働者派遣法との関係性

形式上は「請負契約」であっても、実態として元請が下請作業員を直接指揮している場合、それは「労働契約」や「労働者派遣」とみなされ、労働法規の適用を受けます。

労働法規上の禁止事項
  • 労働者供給事業の禁止(職業安定法)
    許可なく労働者を供給する行為は禁止されており、1年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑事罰の対象です。

  • 建設業務への派遣禁止(労働者派遣法)
    建設現場の直接作業(土木・建築など)に派遣労働者を受け入れることは法律で禁止されています。

以下の表は、各法律の規制ポイントと違反時のリスクを整理したものです。

表:外注契約に関わる主要法律の比較

法律名 主な目的 外注契約における規制ポイント 違反時の具体的リスク
建設業法 適正施工・発注者保護 ・一括下請負の禁止
・契約書面の交付義務
・営業停止処分
・建設業許可取消
下請法 下請業者の利益保護 ・60日以内の支払い
・不当な減額禁止
・公正取引委員会による勧告
・違反事実と社名の公表
労働基準法
派遣法
労働者の権利保護 ・指揮命令系統の明確化
・建設業務派遣の禁止
・事業停止命令
・1年以下の懲役等の刑事罰

法律で禁止されている「偽装請負」のリスクと判断基準

建設業界で最も警戒すべきリスクの一つが「偽装請負」です。これは契約形式と実態が乖離している状態を指し、摘発されれば企業の社会的信用は失墜します。ここでは、現場で偽装請負にならないための判断プロセスを解説します。

建設現場で監督が作業員に指示を出している様子

偽装請負とは何か?法律上の定義

偽装請負とは、形式的には「請負契約」や「業務委託契約」を結んでいるにもかかわらず、実態は発注者が請負企業の労働者に対して直接指揮命令を行っており、「労働者派遣」と同じ状態になっていることを指します。これは「労働者派遣法」や「職業安定法」の脱法行為とみなされます。

指揮命令権による適法性の判断手順

厚生労働省のガイドラインに基づき、自社の現場が適法な請負であるかを確認する手順は以下の通りです。この手順に沿って現状をチェックしてください。

適法な請負かどうかのチェックフロー
  • STEP1:業務指示の出し方を確認する
    発注者(元請)が、下請作業員に対して直接「あそこの作業をして」「次はこれをして」と指示を出していませんか?指示は必ず下請の責任者を通して行う必要があります。

  • STEP2:勤怠管理の実態を確認する
    発注者が下請作業員の始業・終業時間や休憩時間を決定・管理していませんか?労働時間管理は、請負事業者が自ら行う必要があります。

  • STEP3:資材・機材の負担区分を確認する
    業務に使用する機械や資材を、発注者が無償で提供していませんか?請負契約では、請負事業者が自らの責任と負担で機材を調達するのが原則です(契約による貸与規定がある場合を除く)。

  • STEP4:業務遂行の独立性を確認する
    業務の進め方や技術的な指導について、発注者が細かく介入していませんか?請負業者が専門性を発揮し、独立して業務を完遂できる体制が必要です。

[出典:厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」]

違法派遣とみなされた場合の法的ペナルティ

もし偽装請負(違法派遣)と認定された場合、単なる是正勧告にとどまらず、以下のような甚大なペナルティが課される可能性があります。

  • 労働契約申込みみなし制度の適用
    発注者が違法派遣を受け入れていた時点で、その労働者に対して「直接雇用の申し込み」をしたと法的にみなされます。つまり、望まない直接雇用義務が発生します。

  • 刑事罰の適用
    職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)違反として、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。

  • 企業名の公表
    違法行為を行った企業として厚生労働省から社名が公表され、今後の入札参加資格の停止や銀行融資への悪影響が懸念されます。

建設業法などの法律を遵守した契約書等の作成ポイント

建設工事の請負契約において、後々のトラブルを回避し、かつ法令を遵守するためには、適切な契約書の作成が不可欠です。ここでは、建設業法第19条で定められた必須項目や、近年普及している電子契約の法的効力、印紙税の実務について構造的に解説します。

建設事務所で契約書類や安全書類を確認する担当者

法律で定められた契約書の記載事項(法定記載事項)

建設業法第19条では、建設工事の請負契約を締結する際、以下の事項を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付することを義務付けています。これは小規模な工事であっても適用されます。

建設業法第19条に基づく主な記載事項
  • 工事内容・請負代金の額:消費税等を含んだ金額。
  • 工事着手・完成の時期:具体的な工期。
  • 請負代金の支払時期・方法:前払金、出来高払、竣工払などの条件。
  • 設計変更・工期変更の取り扱い:変更時のルール。
  • 第三者への損害賠償:事故時の責任負担。
  • 契約不適合責任(旧瑕疵担保責任):保証内容と期間。
  • 紛争の解決方法:裁判所や仲裁機関の指定。

電子契約と書面契約の法的効力の違い

建設業法の改正により、現在では紙の契約書に代わり、電子契約サービスを利用することが認められています(建設業法第19条第3項)。

  • 法的効力
    電子署名法に基づき、本人性が確認できる電子署名が付与された契約データは、紙の契約書と同等の法的効力を持ちます。

  • メリット
    収入印紙が不要になる(印紙税法の非課税)、郵送コストや保管スペースの削減、契約締結スピードの向上などが挙げられます。

  • 注意点
    相手方(下請業者)の承諾を得ることが法律上の要件となります。また、見読性(いつでも表示できること)や原本性の確保が必要です。

注文書・請書のみのやり取りに関する法的注意点

実務上、基本契約書を結ばずに「注文書」と「請書」の交換のみで取引を行うケースがありますが、以下の点に注意が必要です。

  • 契約の成立
    注文書と請書の交換でも、双方向の意思表示があれば法律上契約は成立します。

  • 記載事項の不足リスク
    注文書・請書だけでは、前述した法定記載事項をすべて網羅できない場合が多く、建設業法違反となるリスクがあります。

  • 推奨される対策
    「基本取引契約書」を別途締結し、共通事項(支払条件、損害賠償など)を定めた上で、個別の注文書・請書で工事内容や金額を特定する方法が推奨されます。

以下の表は、建設工事請負契約書における印紙税額の一覧です。

表:建設工事請負契約書の印紙税額(軽減税率適用時)

契約金額(税込) 印紙税額(軽減税率) 本則税率(参考)
1万円未満 非課税 非課税
1万円以上 100万円以下 200円 200円
100万円超 200万円以下 200円 400円
200万円超 300万円以下 500円 1,000円
300万円超 500万円以下 1,000円 2,000円
500万円超 1,000万円以下 5,000円 10,000円
1,000万円超 5,000万円以下 10,000円 20,000円

※軽減措置の期間や要件は国税庁の最新情報を確認してください。電子契約の場合は金額に関わらず不要です。

法律に基づく社会保険加入と労災保険の取り扱い

建設産業における社会保険加入対策は、技能労働者の処遇改善と公正な競争環境の確保を目的に、法的枠組みの中で強力に推進されています。外注契約を結ぶ際、保険関係の不備は現場入場制限や指導の対象となるため、正確な理解が必要です。

外注先(下請業者)の社会保険加入義務

国土交通省の指針により、原則として社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険)未加入の建設企業を下請負人とすることは禁止されています。

  • 法定福利費の確保
    元請業者は、下請業者が社会保険料を支払えるよう、必要経費(法定福利費)を内訳明示した見積書の提出を求め、それを踏まえた請負代金で契約する必要があります。

  • 現場入場制限
    特段の理由がない限り、社会保険未加入の作業員は現場への入場が認められない現場が増えています(CCUS:建設キャリアアップシステムの普及などによる)。

労災保険の適用範囲と特別加入制度

労災保険(労働者災害補償保険)は、原則として「労働者」を対象とした保険です。

  • 元請の一括適用
    建設現場の労災保険は、元請業者が現場全体の保険料をまとめて納付し、下請業者の労働者も対象となります。

  • 一人親方・事業主の扱い
    一人親方や中小事業主は「労働者」ではないため、元請の労災保険の対象外となります。自身の身を守るためには、労災保険の特別加入制度への加入が必須です。元請としては、外注先の一人親方が特別加入しているかを契約時に確認する義務があります。

安全書類(グリーンファイル)と法律の関係

建設業法および労働安全衛生法に基づき、元請業者は施工体制台帳や作業員名簿などの安全書類(グリーンファイル)を作成・管理しなければなりません。

  • 施工体制台帳
    特定建設業者が一定金額以上の下請契約を結ぶ場合に作成義務があり、現場の役割分担を明確にします。

  • 作業員名簿
    現場に入場する全作業員の氏名、職種、社会保険加入状況、保有資格などを記載します。

[出典:国土交通省「建設業における社会保険加入対策について」]

トラブル防止のために確認すべきその他の法律知識

工事完了後や支払い時など、契約プロセスの後半で発生しやすいトラブルについても、民法や建設業法に基づいた法的知識が不可欠です。「もしも」の事態に備え、以下の権利と義務を確認しておきましょう。

契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)の法的解釈

2020年の民法改正により、「瑕疵担保責任」は契約不適合責任へと名称と内容が変更されました。

  • 定義
    引き渡された目的物が、種類、品質または数量に関して契約の内容と適合しない状態を指します。

  • 発注者の権利
    従来の「損害賠償請求」「契約解除」に加え、「追完請求(修補請求)」「代金減額請求」が可能になりました。

  • 通知期間
    原則として、不適合を知った時から1年以内に通知しなければ権利を失いますが、建設業法等の特約や契約書での取り決めにより期間が延長(例:引渡しから2年など)されることが一般的です。

工事代金の未払い・遅延に対する法的措置

下請法や建設業法では、立場の弱い受注者を守るために支払いに関する規制があります。

  • 支払期日
    建設業法では、元請は出来高払いや竣工払いの支払いを、申し出があった日から1ヶ月以内(特定建設業者が下請負人に支払う場合は50日以内など)に行うよう定めています。

  • 遅延損害金
    支払いが遅れた場合、政府契約の支払遅延防止等に関する法律に基づき、年率2.5%〜の遅延利息を請求する権利が発生します(契約書の定めに従う)。

契約解除ができる法的要件と損害賠償

契約は一度締結すると拘束力を持ちますが、特定の条件下では解除が可能です。

  • 注文者による解除
    民法第641条により、注文者は仕事が完成しない間は、いつでも損害を賠償して契約を解除することができます。

  • 催告解除
    相手方が債務を履行しない(工事が進まない、支払われない)場合、相当の期間を定めて催告し、それでも履行がない場合は解除できます。

  • 無催告解除
    履行不能(工事の継続が不可能)になった場合などは、直ちに解除が可能です。

まとめ

建設現場の外注契約においては、単に「仕事を頼む」だけでなく、建設業法、下請法、労働基準法、民法など多岐にわたる法律の理解と遵守が不可欠です。

本記事の重要ポイント
  • 契約の書面化
    法定記載事項を網羅した契約書または電子契約を必ず締結する。
  • 偽装請負の回避
    指揮命令系統を明確にし、適法な請負関係を維持する。
  • 社会保険と労災
    下請業者の保険加入状況を確認し、現場のリスクを管理する。

これらの法的事項を遵守することは、トラブルを未然に防ぐだけでなく、企業の信頼性を高め、健全な経営を継続するための基盤となります。判断に迷う場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談することを強く推奨します。

よくある質問

建設現場の外注契約に関する、実務担当者からよく寄せられる疑問に回答します。

Q. 口約束での外注契約は法律上有効ですか?

民法上は口頭でも契約は成立しますが、建設業法では契約内容を書面に記載し、交付することが義務付けられています(第19条)。 書面がないと、言った言わないのトラブルになった際に不利になるだけでなく、建設業法違反として行政処分の対象になるリスクがあります。

Q. 一人親方に仕事を依頼する場合、法律上注意すべき点は?

主に以下の2点に注意が必要です。

  • 労働者性の確認
    実態が労働者であるにもかかわらず、個人事業主として扱うと「偽装請負」とみなされる可能性があります。

  • 労災保険の特別加入
    一人親方は元請の労災保険が適用されないため、特別加入をしているか必ず確認してください。

Q. 外注先が社会保険未加入の場合、法律違反になりますか?

取引自体が直ちに違法となるわけではありませんが、国土交通省の指導により、元請業者は下請業者に対して社会保険加入を指導する責任があります。また、未加入の作業員は現場入場を制限されるケースが一般的であり、施工体制に影響が出るため、契約前に加入状況を確認することが重要です。

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