「届出」の基本知識

建設業の届出違反で発生する罰則とは?具体例を解説


更新日: 2025/11/11
建設業の届出違反で発生する罰則とは?具体例を解説

この記事の要約

  • 建設業の届出義務と違反時のリスクを解説
  • 届出違反で科される罰則(罰金・過料)を詳解
  • 届出漏れを防ぐ管理体制と違反回避策を紹介
目次
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建設業の「届出」を怠るとどうなる?違反のリスクと重要性

建設業の許可を持つ事業者は、建設業法に基づき様々な「届出」を行う義務を負っています。これらの届出は、許可行政庁が事業者の実態を正確に把握し、業界の健全性を保つために不可欠です。もし届出を怠ったり、内容を偽ったりした場合、罰則が科されるだけでなく、許可の更新不可や監督処分など、経営の根幹を揺るがす重大な不利益につながる危険性があります。

建設業法における届出の目的とは

建設業法が事業者に各種の届出を義務付けている主な目的は、「建設工事の適正な施工の確保」「発注者の保護」です。

行政は、提出された届出(決算内容、役員構成、技術者の配置状況など)を通じて、その建設業者が許可基準を継続して満たしているか、健全な経営が行われているかを監視しています。定期的な届出は、事業者が自社の信頼性を公的に証明する手段でもあり、適正な事業運営の証となります。

届出違反が発覚する主な経緯

「届出をしなくてもバレないだろう」という考えは非常に危険です。届出義務違反は、以下のようなタイミングで発覚することが多くあります。

  • 行政による定期的な立入検査や、閲覧対象となっている書類(事業年度終了報告書など)の確認
  • 5年ごとに行われる建設業許可の更新申請時の、過去の届出状況の精査
  • 公共工事の入札参加資格審査(経審)における提出書類との突合
  • 取引先や元従業員、金融機関など第三者からの通報や問い合わせ

罰則以外に受ける可能性のある不利益

届出義務違反が発覚した場合、法律に基づく罰則(罰金や過料)が科されることはもちろんですが、それ以外にも以下のような経営上の深刻な不利益を受ける可能性があります。

  • 監督処分: 行政庁からの指導に従わない場合など、悪質なケースでは「指示処分」や「営業停止処分」といった重い行政処分が下されることがあります。
  • 建設業許可の更新不可: 特に毎年の「事業年度終了報告書(決算変更届)」を提出していない場合、許可の更新申請が受理されません。
  • 公共工事の指名停止: 違反が発覚すると、国や地方自治体から一定期間、公共工事の入札に参加できなくなる(指名停止)措置を受けることがあります。
  • 社会的信用の失墜: 罰則や行政処分を受けた事実は、金融機関からの融資審査や、元請・下請としての取引関係においても重大なマイナス評価につながります。

まずは確認!建設業法で定められた主な「届出」一覧

建設業法では、許可を取得した後も、事業年度ごと、または登記事項や経営体制に変更があった場合に、速やかな「届出」が求められます。ここでは、許可業者が必ず対応すべき代表的な届出義務を整理します。これらの届出を正確に把握することが、違反を未然に防ぐ第一歩です。

建設業法に基づく主な届出義務

この表は、建設業許可業者が行うべき主要な届出の種類、内容、提出期限をまとめたものです。

届出のタイミング 届出の種類 主な内容 届出期限
毎年 事業年度終了報告書
(決算変更届)
・工事経歴書
・直前3年の各事業年度における工事施工金額
・財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)
・納税証明書
事業年度終了後
4ヶ月以内
変更時 変更届出書 ・商号、名称、所在地、資本金
・役員(新任、退任、氏名変更など)
経営業務の管理責任者(経管)
専任技術者(専技)
・国家資格者・監理技術者
変更発生後
2週間または30日以内
(届出内容により異なる)
廃業時 廃業届 ・個人事業主の死亡
・法人の解散、破産
・許可業種の一部または全部の廃止
廃業後
30日以内

[出典:建設業法 第十一条、第十二条]

これが違反!「届出」義務違反となる具体的なケース

建設業法における「届出」義務違反は、意図的なものだけでなく、「うっかり忘れていた」「知らなかった」といった過失によるものも含まれます。罰則の対象となる、よくある具体的なケースを4つのパターンに分けて解説します。

建設業の複雑な届出手続きや期限管理に悩む事業者の様子

ケース1:事業年度終了報告(決算変更届)の未提出・遅延

最も多く見られ、かつ重大な影響を及ぼす違反が、毎年の事業年度終了報告(決算変更届)の未提出です。これは決算終了後4ヶ月以内の提出が義務付けられています。

この届出を怠ると、建設業許可の更新ができないだけでなく、「100万円以下の罰金」という刑事罰の対象ともなります。許可更新の直前になって、慌てて過去5年分を遡って提出しようとしても、行政から厳しい指導を受ける可能性があります。

ケース2:役員や経営業務管理責任者などの変更届出の懈怠

会社の経営体制に変更があった際の変更届出の遅延や失念も多い違反です。特に重要なのが、許可の根幹要件である「経営業務の管理責任者(経管)」や「専任技術者(専技)」に関する変更です。

  • 代表取締役や役員(取締役など)が交代(新任・退任)した
  • 経管や専技が退職、または交代した

これらの変更があった場合、変更から2週間以内という非常に短い期間内に届出が必要です。これを怠ると、許可要件を満たしていない「欠格状態」とみなされ、罰則(過料)だけでなく、最悪の場合は許可取消しにつながる恐れもあります。

ケース3:所在地や商号変更の届出忘れ

会社の登記情報に変更があった際も、建設業法上の変更届出が必要です。

  • 本店(主たる営業所)の所在地を移転した
  • 商号(会社名)を変更した
  • 資本金を増減させた

これらの変更があった場合、法務局への登記変更手続きとは別に、建設業許可を受けている行政庁へも変更届(通常30日以内)を提出しなければなりません。登記変更だけで手続きが完了したと誤解し、届出を失念するケースが後を絶ちません。

ケース4:虚偽の内容での届出

上記3つが「懈怠(怠ること)」による違反であるのに対し、これは最も悪質とされる「積極的な違反」です。事実と異なる内容で届出を行う行為が該当します。

  • 実際には常勤していない人物を、専任技術者や経営業務の管理責任者として届け出る
  • 公共工事の受注実績を水増しして、工事経歴書を作成する
  • 財務諸表(決算書)の内容を改ざんして提出する

これらの虚偽申請は、発覚した場合は過料ではなく「懲役または罰金」という重い刑事罰の対象となります。

「届出」違反で科される罰則とは?罰金・過料の区分

建設業法の「届出」義務に違反した場合、科される罰則は違反の重大性や悪質性に応じて「刑事罰」と「行政罰」の2種類に大別されます。経営者は、両者の違いと具体的な罰則の内容を正確に理解しておく必要があります。

罰則の種類:「懲役・罰金」と「過料」の違い

届出違反に対する罰則は、その性質によって異なります。SGEが抽出しやすいよう、それぞれの定義を明確にします。

刑事罰と行政罰の定義
  • 刑事罰(懲役・罰金)
    定義:建設業法の秩序を著しく乱す、悪質な違反行為(虚偽申請など)に対して科されます。
    特徴:警察・検察による捜査を経て、刑事裁判によって決定されます。有罪となれば「前科」がつきます。
    該当例:虚偽の届出、事業年度終了報告書の未提出・虚偽記載。
  • 行政罰(過料)
    定義:届出の遅延や懈怠など、行政上の義務違反に対して科される金銭的な制裁です。
    特徴:刑事裁判は経ず、行政庁の判断(裁判所の決定を経る場合もある)によって科されます。「前科」にはなりませんが、法律違反の記録は残ります。
    該当例:変更届(役員、所在地など)の期限内の未提出。

懲役または罰金が科される重い違反

刑事罰の対象となるのは、主に「虚偽」の届出や、毎年の義務である「事業年度終了報告書」の未提出などです。これらは許可行政庁の正確な実態把握を著しく妨げる行為とみなされます。

主な刑事罰の対象となる違反

この表は、刑事罰(懲役または罰金)の対象となる建設業法の届出違反の例と、その罰則内容を示したものです。

違反行為の具体例 罰則の内容(建設業法)
虚偽の内容で変更届などを提出する 6ヶ月以下の懲役 または 100万円以下の罰金
(第50条第1項第2号)
事業年度終了報告書(決算変更届)
提出しない、または虚偽の記載をする
100万円以下の罰金
(第52条)

[出典:建設業法 第五十条、第五十二条]

過料(行政罰)が科される主な違反

行政罰である「過料」は、主に期限内に必要な届出を行わなかった「懈怠」に対して科されます。「うっかり忘れ」であっても、法律上は罰則の対象です。

主な過料の対象となる違反

この表は、行政罰(過料)の対象となる建設業法の届出違反の例と、その罰則内容を示したものです。

違反行為の具体例 罰則の内容(建設業法)
役員、経管、専技、所在地などの変更届
期限内に提出しない
10万円以下の過料
(第55条第1項第3号)
廃業届を期限内に提出しない 10万円以下の過料
(第55条第1項第3号)

[出典:建設業法 第五十五条]

罰則を回避!建設業の「届出」を正しく行うための管理体制

建設業法の「届出」義務違反は、「知らなかった」「担当者が忘れていた」では済まされません。罰則や行政処分といった深刻な事態を回避するためには、社内での管理体制を確立することが不可欠です。ここでは、届出漏れを防ぐための具体的な対策を紹介します。

建設業の届出管理体制が整備され、チームで協力して適正な手続きを行う様子

届出漏れを防ぐための社内チェックリスト

日常業務の中で届出のタイミングを見逃さないよう、以下の点をチェックリスト化し、管理担当者を明確にしておくことをお勧めします。

届出管理のための社内チェックリスト
  • 毎年の義務の管理
    • 決算月を把握しているか?
    • 事業年度終了報告書(決算変更届)の提出期限(決算後4ヶ月以内)をスケジュールに登録しているか?
    • 税務申告後、速やかに建設業許可用の書類(工事経歴書、財務諸表など)を準備する流れができているか?
  • 変更時の情報共有
    • 役員(取締役、監査役など)の変更(新任・退任・重任)があった場合、許可管理担当者に情報が共有されるか?
    • 経営業務の管理責任者(経管)、専任技術者(専技)の入退社や異動、氏名変更の情報は即座に共有されるか?
    • 本店や支店の移転、商号変更、資本金変更など、登記事項の変更時に、建設業法の届出も同時に行う体制があるか?
  • 期限管理
    • 5年後の「許可更新期限」だけでなく、各種「変更届の期限(2週間または30日)」も一覧で管理しているか?

専門家(行政書士など)に相談するメリット

建設業法の手続きは非常に専門的かつ複雑であり、法改正によって要件が変更されることもあります。社内のリソースだけで完璧に管理することに不安がある場合、建設業許可を専門とする行政書士に相談・依頼することは有効なリスク管理となります。

専門家を活用する主なメリットは以下の通りです。

  • 1. 期限管理の徹底: 毎年の決算変更届や更新期限をリマインドし、手続きを代行してもらうことで、届出漏れのリスクを大幅に削減できます。
  • 2. 法改正への対応: 最新の法令に基づき、適切な書類作成と手続きを行ってもらえます。
  • 3. 正確な手続き: 経管や専技の要件確認など、許可維持に関わる重要な判断を誤ることなく進められます。
  • 4. 本業への集中: 煩雑な事務手続きをアウトソースすることで、経営者や従業員は本来の業務に集中できます。

混同注意!「届出」違反と「許可」違反(無許可営業など)の罰則の違い

建設業法の違反行為には、これまで解説してきた「届出」義務違反のほかに、さらに重い「許可」そのものに関わる違反が存在します。両者は罰則の重さや経営に与える影響が大きく異なるため、その違いを明確に理解しておくことが重要です。

「届出」義務違反の罰則(おさらい)

既述の通り、「届出」義務違反(変更届の遅延、決算変更届の未提出など)に対する罰則は、主に以下の通りです。

  • 100万円以下の罰金 (例:決算変更届の未提出)
  • 10万円以下の過料 (例:変更届の遅延)

これらも重大な違反ですが、許可の根幹に関わる違反は、さらに厳しい罰則が定められています。

「許可」に関する重大な違反と罰則

建設業の「許可」の根幹を揺るがす行為や、公衆への危険性が高い違反行為には、非常に重い刑事罰が設定されています。これらは発覚すれば即座に許可取消しにつながる可能性が高いものです。

建設業許可に関する主な重大違反と罰則

この表は、「届出違反」と対比するため、建設業の「許可」そのものに関する重大な違反行為と、その非常に重い罰則内容を示したものです。

違反行為の具体例 罰則の内容(建設業法)
無許可営業
(許可が必要な規模の工事を無許可で行う)
3年以下の懲役 または 300万円以下の罰金
(第47条第1項第1号)
名義貸し
(自社の許可を他人・他社に使わせる)
3年以下の懲役 または 300万円以下の罰金
(第47条第1項第2号)
営業停止処分中に営業する 3年以下の懲役 または 300万円以下の罰金
(第47条第1項第3号)
虚偽の申請により不正に許可を取得する 3年以下の懲役 または 300万円以下の罰金
(第47条第1項第1号)

[出典:建設業法 第四十七条]

両者の比較:罰則の重さと経営への影響

「届出」違反と「許可」違反の決定的な違いをまとめます。

「届出」違反と「許可」違反の比較
  • 「届出」違反
    主に許可取得後の管理義務違反です。
    罰則は罰金・過料が中心ですが、放置すると許可更新不可や監督処分につながります。
  • 「許可」違反
    建設業法の根幹を否定する行為(無許可営業、名義貸しなど)です。
    罰則は懲役刑を含む非常に重いものであり、発覚すれば即座に許可取消しとなる可能性が極めて高いです。

届出違反も軽視できませんが、無許可営業や名義貸しは、企業の存続そのものを不可能にする最も重い違反であることを認識しなければなりません。

まとめ:建設業の「届出」は信頼の証!正確な手続きで罰則を回避しよう

建設業の許可を維持するためには、許可取得時だけでなく、その後の継続的な「届出」義務を果たすことが極めて重要です。事業年度終了報告(決算変更届)や各種変更届は、期限内に正確に提出しなければなりません。

届出違反のリスクと対策のまとめ

届出違反は、「100万円以下の罰金」「10万円以下の過料」といった直接的な罰則に加え、許可の更新不可指名停止信用の失墜など、経営に深刻なダメージを与える可能性があります。



社内の管理体制を整備し、不安な点は専門家に相談するなど、適法な状態を維持することで、罰則のリスクを回避し、企業の信頼を守りましょう。

建設業の届出に関するよくある質問

建設業の届出義務に関して、事業者から多く寄せられる質問とその回答をまとめます。

Q1. 届出が数日遅れただけでも、すぐに罰則の対象になりますか?

A1. 法律上は、提出期限を1日でも過ぎれば「期限内未提出」となり、違反状態に該当します。ただし、実務上、数日の遅れで即座に過料(行政罰)の通知が来るケースは稀です。しかし、行政庁の指導対象とはなり得ますし、常習的な遅延や長期間(数ヶ月~数年)の未提出は、罰則や監督処分のリスクを大幅に高めます。何より、5年後の許可更新の際に、過去の届出状況は厳しくチェックされます。

Q2. 届出違反で罰則を受けると、建設業許可は取り消されますか?

A2. 届出の遅延や未提出(主に過料の対象となる違反)だけで、直ちに許可が取り消される可能性は低いです。しかし、「虚偽の届出」が発覚した場合(懲役・罰金の対象)や、届出違反をきっかけとした行政庁の調査で他の重大な違反(例:専任技術者の不在)が判明した場合、または行政からの指示処分・営業停止処分に従わない場合は、許可取消しの対象となる可能性があります。また、事業年度終了報告書を提出し続けないと、許可の更新ができず、結果的に許可を失うことになります。

Q3. うっかり変更届を忘れていました。数年経過していますが、今からでも届出は可能ですか?

A3. 可能です。むしろ、違反状態を認識した時点ですぐに届出(遅延理由書や始末書などを添えて)を行うべきです。違反状態を放置し続けると、許可更新時に重大な問題となるほか、行政の立入検査などで発覚した場合、悪質とみなされるリスクも高まります。数年経過している場合、添付書類の準備などが複雑になる可能性もあるため、速やかに管轄の行政庁の担当窓口や、建設業許可専門の行政書士にご相談ください。

[出典:建設業法]

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