「届出」の基本知識

建設業の主な届出とは?代表的な6種類とその内容を解説


更新日: 2025/10/21
建設業の主な届出とは?代表的な6種類とその内容を解説

この記事の要約

  • 建設業で必須の「建設工事届」など6つの届出を解説
  • 届出と許可の明確な違いや、手続きを怠った場合のリスク
  • どの届出が必要か迷った際の具体的な確認ステップを紹介

建設業における届出とは?知っておくべき基本

建設業を営む上で、工事の安全確保や周辺環境への配慮は極めて重要です。そのために法律で定められているのが、行政への各種届出です。このセクションでは、数ある手続きの中でも基本となる届出の役割と、しばしば混同される「許可」との明確な違いについて解説します。これらの基本を理解することが、適切な手続きへの第一歩となります。

届出と許可の基本的な違い

建設業における手続きには、大きく分けて「届出」と「許可」の2種類があります。両者は目的も性質も全く異なるため、その違いを正確に理解しておく必要があります。以下の表は、「届出」と「許可」の基本的な違いをまとめたものです。

届出 (とどけで) 許可 (きょか)
目的 行政が特定の事実関係を把握するため 特定の行為を行うために、行政から承認を得るため
性質 事業者から行政への一方的な通知行為(原則として受理される) 事業者からの申請内容を行政が審査し、基準を満たした場合にのみ承認される
効力 届出が受理されれば、その行為に着手できる 許可が下りなければ、その行為は行えない
特定建設作業実施届出、建築物除却届 建設業許可、道路占用許可

簡単に言えば、届出は「これからこういう事をします」と行政に知らせる行為であり、許可は「こういう事をしたいのですが、よろしいでしょうか」とお伺いを立て承認をもらう行為です。

なぜ建設業では多くの届出が必要なのか

建設工事は、その規模や内容によって、公衆の安全、交通、周辺住民の生活環境(騒音・振動など)に大きな影響を与える可能性があります。そのため、行政機関が「どこで」「どのような工事が」「いつからいつまで」行われるのかを事前に把握し、必要に応じて指導や監督を行う必要があります。

法律に基づいて様々な届出が義務付けられているのは、こうした背景があるからです。これらの届出は、単なる事務手続きではなく、安全な事業運営と社会的な信頼を維持し、トラブルを未然に防ぐために不可欠なプロセスなのです。

【一覧】建設業で必要な代表的な6つの届出

建設工事の際には、その内容に応じて様々な届出が必要となります。ここでは、特に提出頻度が高く、多くの事業者に関わる代表的な6つの届出をピックアップして解説します。それぞれの届出が「いつ」「どこに」「何を」提出するものなのか、具体的な内容をしっかりと確認し、手続きの漏れがないようにしましょう。

建設現場で図面を見ながら打ち合わせを行う作業員たち

1. 建設工事届

建設工事届は、建設工事の実態を把握し、国が正確な建設統計を作成するために必要な届出です。公共・民間を問わず、一定規模以上の工事を受注した建設業者が提出します。

建設工事届の概要

概要: 建設工事の統計を作成するために、工事の受注者が発注者(代理者も含む)を経由して提出する書類。
提出が必要な場合: 1件の請負代金額が500万円以上の建設工事。ただし、建築一式工事の場合は請負代金額が1,500万円以上、または延べ面積が150㎡以上の木造住宅工事が対象です。
提出先: 工事現場を管轄する都道府県知事
提出時期: 工事の着手前まで
根拠法: [建設工事統計調査規則]

2. 道路占用許可申請

工事用の足場や仮囲い、資材置場などを道路上に設置する場合、道路は公共の財産であるため、一時的に使用するための「許可」が必要になります。これは厳密には届出ではなく「許可申請」ですが、関連手続きとして非常に重要です。

道路占用許可申請の概要

概要: 工事用の足場や仮囲い、資材置き場などで、公道の一部を継続的に使用する場合に必要な申請。
提出が必要な場合: 道路上に、工事に付随する必要不可欠な施設(足場、仮囲い、現場事務所など)を設置する場合。
提出先: その道路を管理する行政機関(国道事務所、都道府県、市区町村の道路管理担当課など)
提出時期: 占用を開始する前。審査に時間がかかるため、1ヶ月程度の余裕を持って申請するのが望ましいです。
根拠法: [道路法 第三十二条]

3. 道路使用許可申請

道路占用が「場所」の継続的な使用であるのに対し、道路使用許可は、工事車両の駐車や資材の搬出入など、交通に影響を及ぼす「行為」に対して必要な許可です。

道路使用許可申請の概要

概要: 道路上で工事を行ったり、クレーン車などの作業車両を停めて作業したりする場合に必要な申請。
提出が必要な場合: 道路での工事や作業、資材の積み下ろし、高所作業車の使用など、交通の妨げとなる可能性がある行為全般。
提出先: 工事現場を管轄する警察署長
提出時期: 作業を開始する前。これも審査期間があるため、2週間〜1ヶ月前には申請することが推奨されます。
根拠法: [道路交通法 第七十七条]

4. 特定建設作業実施届出

建設工事では、時に大きな騒音や振動が発生します。周辺住民の生活環境を保全するため、特に騒音・振動が著しい作業を行う際には、事前に届出が義務付けられています。

特定建設作業実施届出の概要

概要: 建設工事に伴う騒音や振動が著しい特定の作業(特定建設作業)を行う際に必要な届出
提出が必要な場合: くい打ち機やさく岩機、バックホウなど、騒音規制法振動規制法で定められた重機を使用する作業を行う場合。
提出先: 作業現場の市区町村長(環境担当課など)
提出時期: 作業開始の7日前までに提出する必要があります。
根拠法: [騒音規制法]・[振動規制法]

5. 建設リサイクル法に基づく届出と建築物除却届

解体工事の際には、主に2つの法律に基づく届出が関係します。対象となる工事の規模(床面積)によって必要な届出が異なるため、混同しないよう注意が必要です。

A) 建設リサイクル法に基づく届出
特定建設資材(コンクリート、木材など)を用いた建築物等の解体工事で、対象床面積の合計が80㎡以上の場合、分別解体等の計画について建設リサイクル法に基づき届け出る義務があります。
提出先: 工事現場を管轄する都道府県知事または特定行政庁
提出時期: 工事着手の7日前まで
[出典:e-Gov法令検索「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法) 第十条」]

B) 建築物除却届
上記の建設リサイクル法の届出対象とならない場合でも、解体する部分の床面積の合計が10㎡を超える建築物については、建築基準法に基づき「建築物除却届」の提出が必要です。
提出先: 工事現場を管轄する都道府県知事
提出時期: 除却工事の施工前まで
[出典:e-Gov法令検索「建築基準法 第十五条」]

6. 労災保険関係成立届

建設業で労働者(パート・アルバイト含む)を一人でも雇用した場合、事業主は労働保険徴収法に基づき、労働保険(労災保険・雇用保険)に加入する義務があります。その最初の手続きがこの届出です。

労災保険関係成立届の概要

概要: 労働者を雇用した事業所が、労働保険の適用事業所となるために提出する届出。
提出が必要な場合: 新たに法人を設立した、または個人事業主として初めて労働者を雇用した場合。
提出先: 事業所を管轄する労働基準監督署
提出時期: 労働者を雇用した日の翌日から起算して10日以内
根拠法: [厚生労働省「労働保険関係成立届の提出方法」]

建設業の届出を怠った場合のリスクとは?

「このくらいの工事なら大丈夫だろう」「忙しくて手続きを忘れていた」といった理由で届出を怠ると、事業の存続に関わる深刻な事態を招く可能性があります。ここでは、届出を怠った場合に生じる具体的なリスクについて解説します。コンプライアンス(法令遵守)の重要性を再認識しましょう。

罰則や行政処分の可能性

多くの届出は、建設業法や道路交通法などの法律で義務付けられています。これらの提出を怠ったり、虚偽の記載をして提出したりした場合には、法律に基づき罰則が科される可能性があります。

罰金・懲役: 法律によっては「〇年以下の懲役または〇〇万円以下の罰金」といった刑事罰が規定されています。
過料: 刑事罰ではないものの、行政上の秩序を維持するために科される金銭的な制裁です。
行政処分: 建設業法違反として監督処分の対象となり、最も軽い「指示処分」から、事業の一部または全部の停止を命じられる「営業停止処分」、最悪の場合は「許可の取消処分」といった重い処分を受けるリスクがあります。

事業への影響と信頼の低下

罰則や行政処分以上に深刻なのが、事業そのものへの影響と社会的な信用の失墜です。一度失った信頼を回復するのは容易ではありません。

信用の失墜: 行政処分を受けると、その情報が国土交通省のネガティブ情報等検索サイトに公表されることがあり、会社の社会的信用が大きく損なわれます。
取引への悪影響: 信用の低下は、元請けや協力会社、そして何より施主からの信頼を失うことにつながります。「法令を守れない会社」というレッテルは、新規受注の減少や既存取引の解消に直結します。
経営への打撃: 公共工事の入札参加資格を一定期間停止されたり、金融機関からの融資審査が厳しくなったりするなど、経営に直接的な打撃を与える可能性があります。

どの届出が必要か?迷った際の確認方法【3ステップ】

請け負った工事でどの届出が必要か正確に判断することは、コンプライアンスの基本です。ここでは、手続きの漏れを防ぐための確認方法を、目的やポイントを含めて3つのステップで解説します。この手順を踏むことで、誰でも迷わず適切な届出を特定できます。

専門家である行政書士に相談しながら必要な届出を確認する建設会社の担当者

手順1:工事情報の整理と自己チェック

目的: 届出の要否を判断するために、工事の客観的な情報を洗い出す。
手順:
1. 工事内容の確認: 「新築」「解体」「改修」など、工事の種別を明確にする。
2. 規模の確認: 「請負代金額(税抜)」「延床面積」を正確に把握する。
3. 場所と作業の確認: 「公道に足場を設置するか」「騒音・振動を出す重機を使うか」など、作業内容を具体的にリストアップする。
ポイント: この段階で情報を整理しておくことで、後の行政機関への問い合わせや専門家への相談がスムーズになります。

手順2:行政機関の公式サイトと窓口での確認

目的: 自己チェックで不明だった点や、判断に迷う事項について、公的な回答を得る。
手順:
1. 工事現場を管轄する自治体(都道府県、市区町村)や警察署の公式サイトで、建設関連の届出に関するページを探す。
2. 公式サイトで様式のダウンロードやQ&Aを確認する。
3. 解決しない場合は、サイトに記載されている担当部署(例:建築指導課、環境保全課)に直接電話で問い合わせる。
ポイント: 必ず工事現場の所在地を管轄する行政機関に確認してください。自治体によって条例が異なる場合があります。

手順3:専門家(行政書士など)への相談

目的: 複雑な手続きを正確かつ効率的に処理し、本業に集中する。
手順:
1. 建設業専門の行政書士を探す。
2. 手順1で整理した工事情報を伝え、必要な届出の特定と手続きの代行を依頼する。
ポイント: 専門家への依頼には費用がかかりますが、手続きの漏れによる罰則リスクや、担当者の時間的コストを考慮すると、結果的にメリットが大きくなる場合があります。

まとめ:建設業の届出は、安全と信頼の証

本記事では、建設業における代表的な6つの届出を中心に、その目的や内容、手続きを怠った際のリスクについて網羅的に解説しました。これらの届出は、一見すると手間のかかる面倒な事務手続きに思えるかもしれません。しかし、一つひとつの手続きを法令に則って確実に行うことが、コンプライアンスを遵守する誠実な企業としての姿勢を示し、発注者や地域社会からの信頼を勝ち得るための重要な礎となります。

この記事のポイント

・建設業の届出は、工事の安全確保と周辺環境への配慮のために法律で定められた不可欠な手続きです。
・行政の「承認」を得る許可とは異なり、届出は行政へ事実を「通知」する行為ですが、その重要性に変わりはありません。
・工事の種類や規模、場所に応じて、複数の届出が必要になるため、事前の確認が重要です。
届出を怠ると、罰金や営業停止処分といった厳しい罰則だけでなく、会社の信用を失うなど、事業の根幹を揺るがす重大なリスクにつながります。

自社に必要な届出を正確に把握し、適切な手続きを心がけ、安全で信頼される事業運営を目指しましょう。

よくある質問

Q1. 小規模な内装リフォームでも届出は必要ですか?
A1. 請負金額が500万円未満で、解体する部分の面積が10㎡以下、かつ道路の使用や特定建設作業を伴わないような小規模な内装リフォームであれば、本記事で紹介した主要な届出は不要な場合が多いです。ただし、建物の用途変更を伴う場合や、消防設備の変更がある場合など、消防署への届出が別途必要になるケースもあります。必ず管轄の行政機関や消防署にご確認ください。

Q2. 届出の書類はどこで入手できますか?
A2. ほとんどの届出書類は、提出先となる各行政機関(都道府県の建築指導課、市区町村の環境課、警察署など)の公式ウェブサイトから最新の様式をダウンロードできます。また、各機関の窓口で直接受け取ることも可能です。

Q3. 届出を忘れていたことに気づいた場合、どうすればよいですか?
A3. 届出を忘れていた、または提出期限を過ぎてしまったことに気づいた時点で、速やかに管轄の行政機関に連絡し、正直に状況を説明して指示を仰いでください。自己判断で放置することが最も危険です。誠意をもって対応し、遅延してでも提出する意思を示すことが重要です。

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