建設業の届出は誰がやる?社内での役割分担の考え方とは

この記事の要約
- 建設業の届出は期限管理が重要であり役割分担の明確化が必須
- 自社対応か専門家依頼かはコストとリスクのバランスで判断する
- 属人化を防ぐため業務のマニュアル化と情報共有の徹底が鍵となる
- 目次
- 建設業における重要な届出の種類と全体像
- 許可申請だけではない「届出」の範囲
- 【表で整理】主な届出の種類と提出時期・難易度
- 建設業の届出は誰が担当すべき?社内リソースの適性
- 社長(経営者)が届出を行う場合
- 事務員(総務・経理)が届出を行う場合
- 現場監督・技術者が届出を行う場合
- 届出業務を自社で行うか専門家に依頼するかの判断基準
- 自社対応と行政書士依頼のメリット・デメリット比較
- コストよりも「機会損失」で考える視点
- スムーズな届出完了のための社内役割分担のポイント
- 情報収集と書類作成の分業フロー
- 担当者が退職しても困らない体制づくり
- 届出を怠った場合や虚偽記載をした際のリスク
- 許可の取り消しや営業停止処分の可能性
- 6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金
- まとめ
- よくある質問(FAQ)
- Q1. 建設業の届出を忘れていた場合、後からでも提出できますか?
- Q2. 変更届の提出期限はいつまでですか?
- Q3. 専任技術者が退職した場合の届出はどうすればいいですか?
建設業における重要な届出の種類と全体像
建設業許可を取得した後に多くの事業者が直面するのが、「現場が忙しくて書類作成まで手が回らない」「誰が何をいつまでにやるべきかわからない」という課題です。しかし、建設業法において「届出」は許可の維持に直結する極めて重要な義務であり、放置は許されません。社内の誰が担当するかを決める前に、まずはどのような届出があり、それぞれどの程度の頻度と難易度なのかを、全体像として構造的に把握することが出発点となります。
許可申請だけではない「届出」の範囲
建設業の事務手続きは、5年に1度の「更新許可申請」だけではありません。日々の事業活動に伴って発生する変更事項も、定められた期間内に届け出る必要があります。特に重要視されるのが以下の3点です。
- 重要な3つの届出カテゴリ
- 更新許可申請
5年の有効期間が満了する前に行う手続き。許可を継続するために必須であり、最も大掛かりな事務作業です。 - 決算変更届(事業年度終了届)
毎年の決算終了後に、財務諸表や工事経歴書を提出する手続き。これを怠ると更新申請が受け付けられません。 - 各種変更届
役員、営業所、資本金、技術者などに変更があった場合の手続き。事実発生から短期間での提出が求められます。
- 更新許可申請
これらを怠ると、いざ更新しようとした際に受付がなされなかったり、最悪の場合は許可の取り消し対象となったりする可能性があります。
【表で整理】主な届出の種類と提出時期・難易度
建設業における主要な届出を、提出時期と難易度で分類しました。業務量の見積もりに活用してください。
表:建設業の主な届出一覧
| 届出の種類 | 提出時期(期限) | 難易度 | 内容・備考 |
|---|---|---|---|
| 更新申請 | 許可の有効期間満了日の30日前まで | 高 | 5年間の総まとめ。要件確認や大量の疎明資料が必要。 |
| 決算変更届 | 毎事業年度終了後 4ヶ月以内 | 中 | 決算書(建設業様式)、工事経歴書、納税証明書など。毎年必須。 |
| 各種変更届 | 事実発生後 30日以内 | 低〜中 | 商号、所在地、資本金、役員などの変更。 |
| 経管・専技の変更 | 事実発生後 2週間以内 | 中 | 経営業務の管理責任者、専任技術者の交代。要件確認が複雑。 |
[出典:国土交通省 建設業許可事務ガイドライン]

建設業の届出は誰が担当すべき?社内リソースの適性
「届出は誰がやるのが正解か」という問いに唯一の答えはありませんが、会社の規模や人員体制によって「適任者」は変わります。ここでは、社内の役職(社長、事務員、現場監督)ごとに届出業務を担当した場合のメリットとデメリットを客観的に比較し、自社に最適な配置を検討するための材料を提供します。それぞれの業務特性と届出業務の親和性を理解することが重要です。
社長(経営者)が届出を行う場合
小規模事業者や一人親方に多いパターンです。意思決定と実行が直結している点が特徴です。
- メリットとデメリット
- メリット
会社の経営状況、資金繰り、今後の展望を最も把握しているため、書類作成時の判断が早いこと。また、外部への委託コスト(キャッシュアウト)がかかりません。 - デメリット
本業(営業・現場管理・経営判断)の時間が大幅に削られること。多忙により期限管理が後回しになり、提出忘れのリスクが高まります。
- メリット
事務員(総務・経理)が届出を行う場合
専任の事務スタッフがいる場合の一般的なパターンです。定型業務としての処理能力が期待できます。
- メリット
日頃からパソコン業務や書類作成に慣れており、作業効率が良い点です。また、平日の日中に役所へ出向く時間が確保しやすく、窓口対応がスムーズです。 - デメリット
建設業法特有の専門用語の理解に時間がかかる点です(例:工事種別の振分け、兼業事業の売上除外など)。現場の状況がわからず、技術的な記載内容に不整合が出やすいリスクがあります。
現場監督・技術者が届出を行う場合
工事内容を詳しく知る立場からのアプローチです。技術的要件の把握に強みがあります。
- メリット
工事経歴書の作成において、工事名、配置技術者、工期などのデータが正確である点です。実務経験の証明など、技術的な要件判断がしやすくなります。 - デメリット
現場に出ている時間が長く、物理的にデスクワークの時間が取れない点です。また、事務作業への心理的抵抗感が強い傾向があり、モチベーション低下や離職原因になりかねないため注意が必要です。
届出業務を自社で行うか専門家に依頼するかの判断基準
社内で完結させるか、外部の専門家(行政書士)に依頼するかは、単なる「費用の有無」だけでなく、「時間単価」や「リスクヘッジ」の観点から比較検討する必要があります。目先のコスト削減が、結果として大きな損失を招く可能性もあるためです。以下に、自社の状況と照らし合わせて判断するための比較表と、経営判断としての視点を提示します。
自社対応と行政書士依頼のメリット・デメリット比較
表:自社対応 vs 行政書士依頼の比較
| 比較項目 | 自社対応 | 行政書士へ依頼 |
|---|---|---|
| コスト | 人件費のみ(印紙代等は別途) | 報酬費用が発生(数万円〜十数万円) |
| 時間・手間 | 非常に多い(学習時間、作成、役所への移動) | 最小限(必要書類の準備と押印のみ) |
| 正確性 | 担当者の知識レベルに依存(補正や再提出のリスクあり) | 高い(プロによる法適合性のチェック) |
| リスク回避 | 担当者退職時のノウハウ消失リスクあり | 期限管理や法改正対応も任せられる |
| 向いている会社 | 専任の事務担当がおり、学習意欲が高い。時間に余裕がある。 | 人員不足。社長が現場に出ている。確実性を最優先したい。 |
コストよりも「機会損失」で考える視点
判断に迷う際は、「機会損失(オポチュニティ・コスト)」という視点を持つことが重要です。
- 時間の価値換算
慣れない届出作成に社内スタッフが年間30時間かかるとします。その30時間を本業(営業や施工)に使った場合、いくらの利益を生み出せるでしょうか。 - リスクヘッジとしての費用
もし、本業での利益が行政書士への報酬を上回るのであれば、外部委託したほうが会社全体の利益は大きくなります。また、万が一の書類不備で許可が下りない期間が発生した場合、その間の工事契約ができないという致命的な損失リスクを回避するための「保険」として専門家を活用する考え方も有効です。
スムーズな届出完了のための社内役割分担のポイント
「自社でやる」にせよ「専門家に頼む」にせよ、完全に丸投げではうまくいきません。建設業の届出には、現場情報、経理情報、経営情報のすべてが必要になるからです。各部門が連携し、情報を集約する仕組みが必要です。効率的な運用のためには、以下のようなステップで役割分担を行うことが推奨されます。

情報収集と書類作成の分業フロー
スムーズな連携のための標準的な役割分担フローは以下の通りです。この流れを社内ルールとして定着させましょう。
- 届出業務の標準的フロー(Step形式)
- Step 1:現場担当者によるデータ提供
日々の工事台帳を整理し、決算期末に「工事経歴書」に必要なデータ(工事名、注文者、請負金額、工期、配置技術者)を経理または作成担当へ渡します。 - Step 2:経理担当者による決算確定
決算書を確定させ、建設業様式(財務諸表)への組み替えに必要なデータを準備します。併せて、税務署や都道府県税事務所で納税証明書を取得します。 - Step 3:総務・代表者による証明書類収集
履歴事項全部証明書(登記簿謄本)や身分証明書などの公的書類を収集します。完成した申請書類への押印管理も行います。 - Step 4:作成担当(または行政書士)による作成・提出
集まった情報を元に申請書を作成し、整合性をチェックします。管轄行政庁へ提出(窓口または郵送・電子申請)し、副本を保管します。
- Step 1:現場担当者によるデータ提供
担当者が退職しても困らない体制づくり
特定の担当者に依存(属人化)してしまうと、その人が退職した瞬間に「許可の更新期限がわからない」「書類の場所がわからない」という事態に陥ります。
- マニュアル化
必要な書類リスト、アクセスすべきウェブサイト、パスワード、役所の窓口担当者などを文書化しておきます。 - 副本(控え)の共有
提出した届出の控え(副本)は、担当者の個人デスクではなく、共有のキャビネットやサーバーに保管し、誰もが閲覧できるようにすることが重要です。 - カレンダー共有
Googleカレンダーなどの共有ツールを使い、許可の有効期限や決算変更届の提出期限を全社員(または幹部)で可視化し、アラートを設定します。
届出を怠った場合や虚偽記載をした際のリスク
「忙しかったから」という理由は、建設業法では通用しません。届出義務違反には厳しい罰則が設けられています。単なる事務手続きの不備と捉えず、事業継続に関わるコンプライアンス上の重大リスクとして正しく認識しておく必要があります。
許可の取り消しや営業停止処分の可能性
最も重い処分は建設業許可の取り消しです。
例えば、役員の変更届を出さずに欠格要件に該当する役員が在任していた場合や、専任技術者が不在の期間があった場合などが発覚すると、許可取り消しや営業停止処分となる可能性があります。これらの違反は、次回の更新申請時や、立入検査、あるいは公共工事の入札参加資格審査の過程で発覚することが一般的です。
6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金
建設業法第50条等に基づき、届出を提出しなかったり、虚偽の記載をして提出したりした場合には、「6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金」という刑事罰が科される可能性があります。
また、行政処分を受けると、その事実が公表され(建設業許可業者の検索システム等)、社会的信用を大きく損ないます。これにより、元請業者からの取引停止や、公共工事への入札参加資格の喪失など、事業存続に関わる重大なダメージにつながります。
まとめ
建設業の届出は、会社の信用と許可を維持するための生命線です。
- 届出の種類と期限
更新申請だけでなく、毎年の決算変更届や各種変更届も忘れずに行う必要があります。 - 担当者の決定
社長、事務員、現場監督それぞれの適性を理解し、コストと本業への影響を天秤にかけて判断します。 - 仕組み化
誰が担当する場合でも、情報共有のフローと期限管理のシステム(カレンダー共有など)を構築し、属人化を防ぎます。 - 専門家の活用
不安がある場合やリソース不足の場合は、無理せず行政書士に依頼することが、結果として最も安価で安全な保険となります。
よくある質問(FAQ)
建設業の届出に関して、現場から頻繁に寄せられる疑問とその回答をまとめました。
Q1. 建設業の届出を忘れていた場合、後からでも提出できますか?
はい、可能です。ただし、気付いた時点で速やかに提出する必要があります。長期間放置していた場合は、遅延理由書(始末書)の添付が必要になることが一般的です。また、悪質な場合は行政指導や処分の対象となる可能性もありますので、自己判断せず早急に管轄の土木事務所や行政書士に相談してください。
Q2. 変更届の提出期限はいつまでですか?
変更の内容によって異なりますが、代表的な期限は以下の通りです。
- 2週間以内:経営業務の管理責任者、専任技術者、令3条の使用人(支店長等)の変更。
- 30日以内:商号、所在地、資本金、役員などの変更。
- 4ヶ月以内:毎事業年度終了後の決算変更届。
Q3. 専任技術者が退職した場合の届出はどうすればいいですか?
事実発生から2週間以内に変更届を提出する必要があります。最も注意すべき点は、後任の技術者がすぐに確保できない場合、許可要件を満たさなくなり許可取り消し(廃業届の提出)となるリスクがあることです。退職が決まった時点で、一刻も早く後任の選定と資格要件の確認を行う必要があります。





