「届出」の基本知識

法人化時に必要な建設業の変更届とは?必要書類を一覧で解説


更新日: 2025/11/04
法人化時に必要な建設業の変更届とは?必要書類を一覧で解説

この記事の要約

  • 法人化では建設業許可は引き継げず新規申請が必要
  • 個人の廃業届と法人の新規申請の2つの届出が必須
  • 許可の空白期間を避ける計画的な手続きが重要です

建設業許可:法人化(法人成り)で必要な変更届出とは?

個人事業主から法人成りする際、建設業許可は自動的に引き継がれません。これは、法律上「個人」と「法人」が別人格と見なされるためです。したがって、個人事業主としての許可を廃止し、法人として新たに許可を取得するための届出(手続き)が不可欠となります。この手続きの概要と、万が一怠った場合のリスクについて詳しく解説します。

なぜ法人化で変更届が必要なのか?

建設業許可は、その許可を受ける「人(個人事業主または法人)」に対して与えられます。個人事業主Aさんと、Aさんが設立した株式会社Bは、法律上は全くの別人格として扱われます。

そのため、個人事業主Aさんが持っている許可を、株式会社Bが引き継ぐことはできません。

法人化(法人成り)した後も建設業許可が必要な事業を継続する場合、以下の2つの手続きが原則として必要になります。

  • 1.個人事業主としての建設業許可の廃業
  • 2.法人としての建設業許可の新規取得

つまり、手続き上は「変更」というよりも、「個人の廃業」と「法人の新規申請」の2つの届出を適切なタイミングで行う必要があるのです。

変更届(手続き)を怠った場合のリスク

もし必要な届出や新規申請を行わず、法人が無許可のまま建設工事を請け負った場合、深刻なリスクが発生します。これは建設業法に違反する行為です。

  • 無許可営業による罰則: 建設業法では、許可を受けずに許可が必要な建設工事を営業することを禁止しており(建設業法 第三条第二十八条など)、違反した場合は重い罰則(例:3年以下の懲役または300万円以下の罰金)が科される可能性があります。(同法 第四十七条
  • 一定金額以上の工事が不可に: 建設業許可がないと、軽微な工事(1件の請負代金が500万円未満、建築一式工事の場合は1,500万円未満)しか請け負うことができません。
  • 公共工事への入札不可: 公共工事の入札参加資格(経営事項審査)は、建設業許可が前提となっているため、入札に参加できなくなります。
  • 信用の失墜: 元請企業や取引先、金融機関からのコンプライアンス(法令遵守)意識を問われ、対外的な信用を大きく損なうことになります。

[出典:建設業法(e-Gov法令検索)]

法人化に伴う建設業許可の届出手続きの主な流れ

法人化に伴う建設業許可の手続きは、単純な「変更届出」ではなく、実質的に「個人の廃業」と「法人の新規申請」という2つの手続きをほぼ同時に進める複雑なプロセスです。許可の空白期間(無許可期間)をいかに作らないかが最大のポイントとなります。

ステップ1:個人事業主としての「廃業届」の提出

まず、法人化に伴って個人事業としての建設業を廃業する旨を、許可を受けていた行政庁(都道府県知事または国土交通大臣)に届け出る必要があります。

  • 提出物: 廃業届(各行政庁が定める様式)、許可通知書の原本(または写し)など。
  • 提出タイミング: 法人化(法人設立登記完了)の後、または法人の新規許可申請と同時に行うのが一般的です。ただし、法人の許可が下りる前に個人の許可を廃業してしまうと「空白期間」が生じるため、タイミングは非常に重要です。

ステップ2:法人としての「新規許可申請」

法人設立登記が完了したら、速やかに法人名義で建設業許可の「新規申請」を行います。個人の実績を引き継ぐ形で申請しますが、手続き上はあくまで「新規」扱いです。

  • 申請タイミング: 法人設立後、必要な書類がすべて揃い次第、速やかに申請します。
  • 許可までの標準期間: 申請が受理されてから許可が下りるまで、知事許可で約30日~45日程度、大臣許可では約90日~120日程度(行政庁により異なる)かかります。この審査期間中はまだ許可がありません。

注意点:許可の「空白期間」が発生する可能性

最も注意すべき点が、この「許可の空白期間」です。これは、個人の廃業届出を行ってから(または個人の許可が失効してから)、法人の新規許可が下りるまでのタイムラグを指します。

許可の空白期間を避けるための手順

1.法人を設立し、速やかに法人の新規許可申請の準備を完了させる。
2.法人の新規許可申請を行う。
3.法人の許可が下りる見通しが立った(または許可が下りた)タイミングで、個人の廃業届出を行う。

  • 空白期間のリスク: この期間中は、許可が必要な金額(500万円以上など)の工事を請け負うことができません。
  • 空白期間を作らないための進め方: 上記の通り、個人の廃業タイミングを調整することが重要です。

ただし、行政庁によっては、個人の廃業届出が受理されないと法人の新規申請を受け付けない場合や、異なる運用をしている場合があります。必ず事前に申請先の行政窓口や専門家(行政書士)に最適な手順を確認してください。

法人化に伴う建設業許可申請のスケジュールを、専門家と計画的に打ち合わせしている様子。


法人化(法人成り)の届出に必要な書類一覧

法人化に伴う建設業許可の手続き(個人の廃業届出と法人の新規申請)をスムーズに進めるためには、膨大な必要書類を正確かつ迅速に準備することが鍵となります。ここでは、一般的に必要とされる主な書類を解説します。

個人の廃業届に必要な書類

個人事業の廃業届出に必要な書類は比較的シンプルですが、提出先(許可を受けた行政庁)によって様式が異なるため確認が必要です。

  • 廃業届(届出書): 行政庁所定の様式(例:様式第二十二号の四など)
  • 許可通知書の原本または写し: 許可を受けていたことを証明する書類
  • その他、行政庁が指定する書類: 各都道府県の建設業課の指導に従う必要があります。

法人の新規許可申請に必要な書類

法人の新規申請では、許可の要件(経営経験、技術力、財産的基礎など)を満たしていることを証明するため、非常に多くの書類が必要となります。

法人の新規許可申請に必要な主要書類(一般・知事許可の例)

以下の表は、法人が新規で建設業許可(一般・知事許可)を申請する際に必要となる代表的な書類の一覧です。申請する許可区分や都道府県によって様式名や追加で必要となる書類が異なる場合がありますので、必ず申請先の行政庁の最新の手引きをご確認ください。

書類の種類 主な書類名(例) 入手先・作成者 備考
申請書 建設業許可申請書 申請者(行政書士) 基本となる様式。行政庁の窓口やWebサイトで入手。
添付書類 工事経歴書 申請者 申請する業種の実績を記載。
経営業務の管理責任者(経管)の証明書類 申請者・証明者 法人の常勤役員であること、個人の確定申告書写し(経営経験の証明)など。
専任技術者(専技)の証明書類 申請者・証明者 資格証の写しや実務経験証明書、常勤性の確認資料(健康保険証写しなど)。
財産的基礎の確認書類 金融機関・税理士など 500万円以上の銀行残高証明書(法人口座、発行1ヶ月以内など)または直近の決算書。
営業所の確認書類 法務局・申請者 法人の登記簿謄本、オフィスの賃貸借契約書の写し、営業所の内外の写真など。
法人設立に関する書類 法務局 法人の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)、定款の写し(原本証明付き)。
社会保険の加入状況がわかる書類 年金事務所など 健康保険・厚生年金保険の加入を証明する書類(保険料の領収書写し、または社会保険料納入確認書など)。
誓約書 申請者 申請者(法人の役員など)が欠格要件に該当しない旨を誓約する行政庁所定の書類。

[出典:東京都都市整備局「建設業許可申請の手引き(一般建設業・知事許可)」]

書類準備における一般的な注意点

  • 有効期限の確認: 登記簿謄本、銀行の残高証明書、納税証明書などの各種証明書類には、「発行から〇ヶ月以内」といった有効期限が定められています。
  • 原本と写しの区別: 提出時に原本の提示が必要なもの、原本を提出するもの、写しで良いものを正確に仕分けしてください。
  • 押印(法人実印): 申請書や誓約書などには、法人の実印(法務局に登録したもの)の押印が必要な箇所が多数あります。

法人化の際のよくある不安と届出のポイント

個人事業主としての実績が、法人成りによってリセットされてしまうのではないか、という不安は非常に多く聞かれます。ここでは、法人化の届出(新規申請)における、個人の実績の引き継ぎに関する主要な要件を解説します。

経営業務の管理責任者(経管)の経験は引き継げる?

はい、一定の条件を満たせば、個人事業主時代の経営経験を法人の経営業務の管理責任者(経管)の経験として引き継ぐ(通算する)ことが可能です。

経営経験を引き継ぐための条件

1.法人化する個人事業主本人が、設立した法人の常勤役員(取締役など)に就任すること。
2.個人事業主としての経営経験(通常5年以上)を証明する書類(確定申告書など)を提出できること。
3.経験を証明する確定申告書に、申請業種に関連する工事を行っていた実態が確認できること。

  • 経験の証明方法: 個人事業主としての経営経験を証明するために、過去の確定申告書(第一表および第二表、収支内訳書または青色申告決算書)の写しを必要年数分提出します。

専任技術者(専技)の資格や経験は引き継げる?

経営経験と同様に、個人事業主本人またはその従業員が持つ資格や実務経験も、法人の専任技術者(専技)の要件として引き継ぐことが可能です。

  • 有資格者の場合: 個人事業主本人や従業員が国家資格を持っている場合、その人が法人の常勤の従業員(または役員)になれば、資格証の写しと常勤性を証明する書類で要件を満たせます。
  • 実務経験の場合: 資格がない場合でも、個人事業主時代の実務経験(10年以上など)を通算できます。この場合、個人の確定申告書や、過去の注文書・契約書などでその実務経験を証明する必要があります。
  • 常勤性の確認: 専任技術者は、その営業所に常勤している必要があります。法人の健康保険・厚生年金に加入していることが常勤性の強力な証明となります。

許可番号は変わってしまうのか?

はい、変わります
前述の通り、法人化は「許可の引き継ぎ」ではなく「法人の新規申請」となるため、許可が下りると法人として新しい許可番号が付与されます。個人事業主時代の許可番号は、廃業届出とともに失効します。

また、許可の種類(「国土交通大臣許可」か「都道府県知事許可」か)や、許可区分(「一般建設業」か「特定建設業」か)も、法人の資本金や営業所の状況に基づき、新規申請時に改めて選択し、審査を受けることになります。

手続きの届出:専門家(行政書士)に依頼すべき?

法人化と建設業許可の届出(廃業と新規申請)は、建設業法や会社法、社会保険など複数の法律が絡み合う、行政手続きの中でも特に複雑なものです。自力で行うか、専門家である行政書士に依頼するか、それぞれのメリット・デメリットを比較検討します。

自分で申請(届出)を行うメリット・デメリット

項目 メリット デメリット
費用 専門家への報酬費用を節約できる 書類の不備による差戻しで、間接的なコスト(時間・機会損失)が発生する
時間・労力 - 書類収集や作成に膨大な時間と手間がかかり、本業に集中できなくなる恐れがある
リスク - 許可の空白期間が意図せず長引くリスクがある

行政書士に依頼するメリット・デメリット

項目 メリット デメリット
費用 - 依頼費用(報酬)が発生する
時間・労力 複雑な手続きを任せられるため、本業に集中できる -
リスク 不備なく迅速に許可が取得できる可能性が高い -
専門性 許可の空白期間を最小限にするための最適なアドバイスがもらえる -

建設業許可専門の行政書士の選び方

もし依頼する場合、どの行政書士でも良いわけではありません。以下の点を確認しましょう。

  • 建設業許可(特に法人成り案件)の申請実績が豊富
  • 法人設立(司法書士との連携)や社会保険加入(社労士との連携)も含めてワンストップでサポートしてくれるか
  • 料金体系が明確で、事前に見積もりを提示してくれるか

まとめ:法人化時の建設業許可変更届出は計画的に進めよう

個人事業主から法人化(法人成り)する際の建設業許可の手続きは、単なる「変更届出」ではありません。正しくは、**「個人事業主としての廃業届出」と「法人としての新規許可申請」**という、2つの重要な手続きを適切なタイミングで行う必要があります。

個人の実績(経営経験や技術力)は、法人の役員や従業員が引き継ぐことで法人でも認められますが、許可番号は新しくなります

最も重要なのは、許可のない「空白期間」を作らないことです。そのためには、法人設立前から行政書士などの専門家も活用しつつ、必要書類の準備や申請スケジュールを計画的に進めることが成功の鍵となります。

法人化時の建設業許可に関するよくある質問

Q. 許可の空白期間中も工事はできますか?

A. できません。
許可の空白期間中は「無許可」状態と同じです。建設業許可が必要となる金額(1件の請負代金が500万円以上など)の工事を請け負うことは、建設業法違反となります。空白期間を発生させないよう、個人の廃業と法人の新規申請のタイミングを慎重に調整することが極めて重要です。

Q. 変更届(廃業届・新規申請)の提出先はどこですか?

A. 許可を受けていた(または受ける)行政庁の担当窓口です。
通常、営業所を設置する都道府県の担当部署(例:〇〇県庁 建設業課、〇〇土木事務所など)となります。複数の都道府県に営業所を設置する場合は、国土交通大臣許可となり、窓口は管轄の地方整備局などになります。

Q. 法人化してからどのくらいで申請(届出)すればよいですか?

A. 法人設立の登記が完了したら、速やかに申請準備を進め、可能な限り早く申請(届出)することをお勧めします。
特に重要なのは、個人の許可の有効期間との兼ね合いです。個人の許可が有効なうちに法人の新規許可が下りるように進めるのが理想ですが、実際には法人の審査期間(1~3ヶ月程度)があるため、個人の廃業タイミングを行政窓口や専門家と入念に相談する必要があります。

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