「調達」の基本知識

建設業の調達業務を効率化する方法とは?5つのポイントを解説


更新日: 2025/12/03
建設業の調達業務を効率化する方法とは?5つのポイントを解説

この記事の要約

  • 建設業の調達は戦略的な利益確保の要となる重要プロセス
  • 属人化やアナログ管理の解消が業務効率化の鍵を握る
  • デジタル化と標準化でコスト削減とリスク管理を実現する
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建設業における「調達」業務とは?購買との違い

建設業における調達業務は、単なる資材の購入手続きにとどまらず、プロジェクトの利益や品質を左右する戦略的な活動です。ここでは、混同されやすい「購買」との違いを明確にし、建設業における調達の定義と業務範囲について解説します。

建設業における調達の定義と業務範囲

建設業における調達とは、工事プロジェクトに必要なリソースを最適に確保するための一連の戦略的プロセスを指します。具体的には、資材・機材だけでなく、協力会社や職人といった労務の確保も含まれます。単に物を買うだけでなく、品質(Quality)、原価(Cost)、納期(Delivery)のバランスを考慮し、サプライチェーン全体を管理することが求められます。

調達業務の主な範囲
  • 計画立案
    実行予算に基づき、いつ、何が、どれくらい必要かを算出する所要量計画の策定。

  • サプライヤー選定・交渉
    見積依頼(RFQ)、価格や納期の交渉、取引条件の決定、契約締結。

  • 発注・納期管理
    注文書の発行、納入スケジュールの調整、現場への搬入管理。

  • 検収・支払い
    納品物の品質チェック、数量確認、請求書との照合、支払処理。

  • サプライヤー評価・管理
    取引実績の評価、データベース化、リスク管理。

調達と「購買」の違い

一般的に「調達」と「購買」は同義で使われることがありますが、業務の視点と範囲に明確な違いがあります。購買が「決められたものを発注する」実務処理に焦点を当てるのに対し、調達は「どうすれば最適に確保できるか」を考える戦略的活動を含みます。

項目 購買 (Purchasing) 調達 (Procurement)
主な役割 発注、受入、支払処理 戦略立案、選定、コスト管理、リスク管理
視点 オペレーション(実務)重視 ストラテジー(戦略)重視
目的 必要なものを確実に買う 利益最大化、全体最適化
関与時期 仕様決定後 計画・設計段階から

建設業の調達業務が抱える現状の課題

多くの建設会社では、資材価格の高騰や人手不足といった外部環境の変化に加え、アナログな業務慣習による内部課題を抱えています。ここでは、効率化を阻害し、経営リスクとなり得る代表的な3つの課題について解説します。

業務の属人化とブラックボックス化

建設業の調達において最も深刻な課題の一つが、業務の属人化です。「どこの業者に頼めば安いか」「誰に連絡すれば納期を調整できるか」といった重要な情報が、特定のベテラン社員や現場監督の記憶に依存しているケースが多々あります。

属人化によるリスク
  • 業務の停滞
    担当者が不在や退職した際、発注業務が回らなくなり、工事遅延に直結する。

  • ノウハウの喪失
    価格交渉の経緯やサプライヤーとの信頼関係が継承されず、組織の資産とならない。

  • 不正の温床
    発注プロセスが不透明(ブラックボックス化)であるため、癒着や不正発注のチェックが機能しにくい。

アナログな発注管理によるミスと手間

建設現場では、いまだに電話、FAX、口頭による発注が主流です。デジタル化の遅れは、現場監督や事務担当者の長時間労働の原因となるだけでなく、人為的なミスを誘発します。

  • 言った言わないのトラブル
    電話発注では記録が残らないため、数量や品番の認識違いが発生しやすい。

  • 転記ミスと二度手間
    FAXで送った注文内容を、事務所に戻ってから基幹システムに手入力する必要があり、工数が倍増する。

  • 検索性の低さ
    過去の発注単価や履歴を確認するために、大量の紙ファイルを探索する無駄な時間が発生する。

資材価格変動への対応遅れ

資材価格が乱高下する現代において、リアルタイムな原価管理ができていないことは致命的なリスクとなります。アナログ管理では、請求書が届くまで正確な原価が確定しないため、事後報告になりがちです。

結果として、工事進行中に予算を超過しても気づけず、赤字が確定してから対策を検討することになります。早期に原価状況を把握できれば、代替資材の検討や設計変更(VE)などの対策を打つことができますが、情報の遅れがその機会を奪っています。

建設業の調達業務を効率化する5つのポイント

調達業務の課題を解消し、利益を確保できる体制を作るためには、以下の5つのポイントに取り組むことが有効です。これらは段階的に進めることで、現場の混乱を避けながら着実な効果を上げることができます。

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1. 調達フローの標準化とマニュアル化

システム導入の前段階として、まずはバラバラになっている発注ルールや承認プロセスを統一し、標準化することが不可欠です。

  • 承認ルールの統一
    「誰が」「いくらまで」発注できるかの権限規定を明確にする。

  • 見積取得のルール化
    一定金額以上の発注には相見積もりを必須とし、比較検討の透明性を高める。

  • マニュアルの整備
    業務手順をドキュメント化し、誰が担当しても同じ品質で業務が行える状態を作る。

2. 発注・請求業務のデジタル化(ペーパーレス化)

受発注システムやEDI(電子データ交換)を導入し、紙やFAXを廃止します。スマートフォンやタブレットから発注可能なツールを選定することで、現場の移動時間を削減し、業務効率を劇的に向上させます。

デジタル化のメリット
  • 入力工数の削減
    過去の履歴からの引用発注や、カタログからの選択入力により、手書きの手間をなくす。

  • ペーパーレス化
    注文書や請求書の郵送コスト、印紙代、保管スペースを削減する。

  • コンプライアンス対応
    電子帳簿保存法やインボイス制度への対応がシステム上で完結する。

3. サプライヤー情報の集約と評価(SRM)

取引先情報を全社で共有し、戦略的に管理するSRM(サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント)の視点を導入します。個人の手帳にある情報をデータベース化し、企業の資産として活用します。

  • 優良サプライヤーの選定
    価格、品質、納期順守率などのデータを基に、客観的な評価を行う。

  • 関係強化による安定調達
    主要サプライヤーとのパートナーシップを深め、繁忙期でも優先的に資材を確保できる体制を作る。

4. 原価情報の見える化とリアルタイム管理

調達システムと実行予算を連動させ、発注した時点で原価として計上される仕組みを構築します。「どんぶり勘定」を脱却し、常に最新の予算消化状況を把握します。

  • 予実管理の徹底
    実行予算と発注金額の差異をリアルタイムで可視化し、赤字リスクを早期発見する。

  • アラート機能の活用
    予算超過しそうな場合にシステムが警告を出し、無断でのオーバーランを防ぐ。

5. フロントローディングによる早期検討

設計や施工計画の初期段階から調達部門が関与するフロントローディングを実践します。仕様が固まってから動くのではなく、早期にサプライヤーと情報を共有します。

  • 手戻りの削減
    流通状況を踏まえた資材選定により、後工程での仕様変更を防ぐ。

  • コストダウンと納期確保
    余裕を持った価格交渉や、長納期品の先行手配(早出し)が可能になる。
改善ポイント 実施前(Before) 実施後(After)
フロー標準化 担当者ごとにバラバラ 誰でも同じ手順で処理可能
デジタル化 電話・FAX・手書き Web・システムでの完結
サプライヤー管理 個人の記憶やメモ頼り データに基づく客観的評価
原価管理 工事完了後に判明 リアルタイムで予実確認
早期検討 直前発注で条件不利 余裕を持った有利な交渉

調達システムやツール導入時の比較・検討基準

調達業務の効率化にはITツールの活用が不可欠ですが、自社に合わないシステムを選定してしまうと、現場の定着が進まず失敗に終わります。比較検討時に重視すべき3つの基準を紹介します。

自社の規模と課題に合った機能か

多機能なシステムは魅力的ですが、自社の課題解決に不要な機能まで搭載されていると、コスト高になるだけでなく操作も複雑になります。

  • 課題の優先順位付け
    「ペーパーレス化」が最優先か、「原価管理の高度化」が目的か、自社のニーズを明確にする。

  • 規模感の適合
    大手ゼネコン向けか、中小工務店向けか、自社の年商や従業員数に適したツールを選ぶ。

現場の担当者が使いやすい操作性か(UI/UX)

ITリテラシーが高くない職人や現場担当者でも、マニュアルなしで直感的に操作できるかが最も重要なポイントです。

  • スマホ・タブレット対応
    PCを開かなくても、現場で片手で操作できるか。

  • 画面の視認性
    ボタンが大きく、文字が見やすいか。複雑な階層構造になっていないか。

既存の基幹システムとの連携性

新たに導入する調達システムが、すでに社内で稼働している会計システムや原価管理システムとデータ連携できるかを確認します。

  • API連携・CSV連携
    発注データを会計システムへ自動転送できるか、またはCSVでのインポート/エクスポートがスムーズか。

  • 二重入力の防止
    システム間で同じデータを何度も手入力する必要がない運用フローを構築できるか。

調達業務のデジタル化に伴うよくある不安と対策

新しい仕組みを導入する際には、社内や取引先から不安の声が上がることがあります。あらかじめ対策を用意しておくことで、スムーズな移行が可能になります。

取引先(下請け・資材屋)が対応してくれるか

建設業界ではFAX文化が根強いため、「取引先がWeb発注に対応してくれないのではないか」という懸念は一般的です。

対策:FAX変換機能の活用

発注側はシステムで入力し、取引先には自動的にFAXで注文書が届く機能を持つシステムを選定します。これにより、取引先の業務フローを変えることなく、自社のデジタル化を進めることができます。並行して、Web受注のメリット(履歴確認やミス防止)を説明し、徐々にデジタル移行を促します。

導入コストと費用対効果が見合うか

初期費用や月額利用料といったコストの発生に対し、それに見合う効果が出るか不安視されることがあります。

対策:ROI(投資対効果)の可視化

システム利用料だけでなく、削減できる「隠れコスト」を含めて試算します。

  • 人件費削減:入力作業時間、現場監督の移動時間、残業代。
  • 経費削減:FAX用紙、トナー、郵送代、収入印紙代、保管スペース費用。
これらを合算すると、多くの場合でシステム導入費以上のコスト削減効果が見込めます。

セキュリティリスクへの懸念

クラウド上に取引情報や原価情報を保存することに対し、情報漏洩を心配する声もあります。

対策:信頼できるベンダーの選定

自社サーバー(オンプレミス)よりも、専門企業が管理するクラウドサービスの方が、最新のセキュリティ対策が適用され安全性が高いケースが大半です。選定時は、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証の取得や、バックアップ体制、暗号化通信の有無を確認します。

まとめ

建設業における調達業務の効率化は、単なる事務作業の削減にとどまらず、企業の競争力を高め、利益を最大化するための重要な経営課題です。属人化やアナログ業務からの脱却は容易ではありませんが、現状の課題を整理し、標準化やデジタル化を段階的に進めることで、確実な成果を得ることができます。

まずは自社の優先課題に合ったシステムを選定し、現場が使いやすい環境を整えることから始めましょう。

建設業の調達に関するよくある質問

Q. 小規模な工務店でも調達システムの導入は必要ですか?

規模に関わらず、導入のメリットは大きいです。特にインボイス制度対応や電子帳簿保存法への対応は、手作業では管理負担が大きいため、デジタル化による効率化が推奨されます。現在は、小規模事業者向けに初期費用を抑えた安価なクラウド型サービスも増えています。

Q. 調達業務の効率化はどのくらいの期間で効果が出ますか?

取り組み内容によりますが、ペーパーレス化や発注手間の削減といった業務効率化の効果は、導入直後から実感しやすいです。一方、サプライヤー評価に基づく仕入れ価格の低減や、原価情報の蓄積による見積もり精度の向上といった戦略的な効果は、データを蓄積して分析する必要があるため、半年〜1年程度のスパンで見る必要があります。

[出典:国土交通省「建設業における生産性向上に向けた取組」]
[出典:中小企業庁「インボイス制度の概要と支援策」]

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