建設現場の調達業務とは?進める3ステップを解説

この記事の要約
- 建設現場の調達業務の基礎知識を解説
- 調達業務を3つのステップで具体的に紹介
- 調達の課題と効率化のポイントを整理
- 目次
- 建設現場における「調達」業務とは?
- 調達業務の基本的な定義と目的
- 建設現場特有の調達業務の特徴
- 調達と「購買」の違い
- 建設現場の調達業務で扱う主な対象
- 資材・機材の調達
- 労務・外注先の調達
- 建設現場の調達業務を進める3ステップ
- ステップ1:要求仕様の明確化と市場調査
- ステップ2:サプライヤー選定と価格交渉
- ステップ3:契約締結と発注・納期管理
- 建設現場の調達業務における課題とよくある不安
- 「コスト」に関する課題(予算超過のリスク)
- 「納期」に関する課題(工期遅延への影響)
- 「品質」に関する課題(要求仕様とのズレ)
- 「属人化」に関する課題(担当者依存)
- 効率的な調達業務を実現するためのポイント
- サプライヤーとの良好な関係構築
- 調達プロセスの標準化と見える化
- 調達管理システムの活用
- まとめ
- 建設現場の調達に関するよくある質問(Q&A)
- Q. 未経験でも調達業務は担当できますか?
- Q. 調達コストを削減する具体的なコツはありますか?
- Q. 調達業務で役立つ資格はありますか?
建設現場における「調達」業務とは?
建設プロジェクトの成否に直結する「調達」業務。ここでは、調達の基本的な定義と目的、他業種と異なる建設現場特有の業務内容を解説します。また、混同されがちな「購買」との違いを明確にし、調達の役割を浮き彫りにします。
調達業務の基本的な定義と目的
建設業における調達(Procurement)とは、プロジェクトの実行に必要な「資材」「機材」「労務(労働力)」「サービス(外注)」などを確保するための一連の活動を指します。
その最大の目的は、QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)の最適化です。単に「物を買う」という行為だけでなく、市場を調査し、最適な供給元(サプライヤー)を選定し、交渉・契約・管理までを行う、プロジェクトの収益性と品質を左右する戦略的な業務です。
建設現場特有の調達業務の特徴
建設現場の調達は、製造業などの一般的な調達とは異なる、以下のような特徴を持っています。
・ プロジェクト単位性: 建設プロジェクトは一つひとつが固有であり、現場ごとに必要な資材や工事業者が異なります。そのため、毎回ゼロベースで最適な調達計画を立案・実行する必要があります。
・ 専門性の高さ: 建築基準法や各種仕様書に基づき、鉄筋、コンクリート、専門的な設備機器など、高度な専門知識が求められる資材・サービスを扱います。
・ 納期の厳守(工期との連動): 資材の搬入遅れや専門工事業者の手配遅れは、即座に現場の工程(工期)遅延に直結します。調達の納期管理は、プロジェクト全体のスケジュール管理そのものと言えます。
・ コスト管理の重要性: 建設プロジェクトの原価(実行予算)の大部分は、資材費と外注費(労務費)で占められます。調達コストの管理が、プロジェクトの収益性に直接的な影響を与えます。
調達と「購買」の違い
「調達」と「購買」は、しばしば混同されますが、その業務範囲と目的に明確な違いがあります。「購買」が主に「発注・支払い」といった事務的なプロセスを指すのに対し、「調達」は市場調査やサプライヤー選定といった、より戦略的・上流のプロセスを含みます。
以下に、調達と購買の主な違いを表で整理します。
| 項目 | 調達 (Procurement) | 購買 (Purchasing) |
|---|---|---|
| 目的 | QCDの最適化、戦略的パートナー選定、リスク管理 | 必要なモノの注文、発注処理、支払い |
| 範囲 | 市場調査、サプライヤー開拓・選定、価格交渉、契約、納期管理、検収、品質管理 | 見積依頼、発注、検収、支払い |
| 視点 | 長期的・戦略的(上流工程) | 短期的・事務的(下流工程) |
建設現場の調達業務で扱う主な対象
建設現場の調達対象は、目に見えるモノからサービスまで多岐にわたります。ここでは、調達業務で具体的に扱う対象を「資材・機材」と「労務・外注先」の2つに大別し、それぞれどのようなものが含まれるかを具体的に整理します。
資材・機材の調達
プロジェクトの基盤となる物理的な「モノ」の調達です。これらは品質と納期が厳しく管理されます。
・ 主要資材: プロジェクトの構造や仕上げに直接使用されるものです。
・ 生コンクリート
・ 鉄筋、鉄骨
・ セメント、骨材
・ 木材
・ 内装材(石膏ボード、クロス、床材など)
・ 設備機器(空調、衛生、電気設備など)
・ 仮設資材: 工事を安全かつ効率的に進めるために一時的に使用されるものです。
・ 足場
・ 仮囲い、養生シート
・ 安全設備(保安用品など)
・ 機材・機械: 現場作業で使用する機械類です。購入だけでなく、リースやレンタルも調達の一環です。
・ 重機(クレーン、ショベルカーなど)
・ 電動工具、測定機器
労務・外注先の調達
建設工事は、多様な専門技術を持つ協力会社(サプライヤー)の連携によって成り立っています。これらの「ヒト」や「サービス」の手配も調達の重要な役割です。
・ 専門工事業者(サブコン): 各工種を担当する協力会社を選定し、工事を請け負ってもらう契約(下請契約)を締結します。
・ 基礎工事、躯体工事(鉄筋・型枠・鳶)
・ 電気設備工事、空調・衛生設備工事
・ 内装仕上げ工事
・ 作業員・その他サービス:
・ 一部の作業員や警備員の手配
・ 産業廃棄物処理業者や運送業者の選定
建設現場の調達業務を進める3ステップ
建設現場における調達業務は、体系的な流れに沿って進められます。ここでは、SGE(検索生成体験)での理解を促すため、調達プロセスを「要求仕様の明確化」「サプライヤー選定」「契約と管理」の3つのステップに分けて解説します。
ステップ1:要求仕様の明確化と市場調査
調達の最初のステップは、「何が・いつまでに・どれだけ必要か」を正確に把握することです。
- 要求仕様の確認: 設計図書(図面)や仕様書、現場の施工計画(工程表)に基づき、必要な資材の品質(規格、材質、性能)、数量、必要な時期(納期)を明確にします。
- 市場調査: 該当する資材やサービスを提供できるサプライヤー(メーカー、商社、専門工事業者など)をリストアップします。同時に、おおよその市場価格(相場)や供給状況(リードタイム)を調査します。
ステップ2:サプライヤー選定と価格交渉
次に、調査した情報を基に、プロジェクトにとって最適な取引先を選定します。
- 見積もりの取得: ステップ1で明確化した仕様に基づき、複数の候補先(3社以上が望ましい)にコンタクトを取り、同一条件で見積もりを依頼します。これを「相見積もり」と呼びます。
- 比較・選定: 提出された見積もりを比較検討します。この際、単純な価格(コスト)だけでなく、品質(要求仕様を満たしているか)、納期(工程に間に合うか)、過去の実績、技術力、アフターサービス、企業の信頼性などを総合的に評価します。
- 価格・条件交渉: 最も優位な候補先、あるいは複数の候補先と、価格や支払い条件、納期、納品方法など、より有利な条件を引き出すための交渉を行います。

ステップ3:契約締結と発注・納期管理
取引先が決定したら、法的な拘束力を持つ手続きに進みます。
- 契約締結: 合意した内容(仕様、数量、金額、納期、支払い条件、検収条件など)に基づき、契約書を取り交わします。建設業では、注文書・注文請書(または基本取引契約書)がこれにあたります。特に外注(下請け)契約の場合は、建設業法や下請法(下請代金支払遅延等防止法)を遵守した内容であることが必須です。
- 発注処理: 社内の規定(システムや所定のフォーマット)に従い、正式な発注処理を行います。
- 納期管理(フォローアップ): 発注した資材やサービスが、指定した納期通りに納品・実行されるか、定期的に進捗を確認・管理します。遅延の兆候があれば、すぐにサプライヤーと調整し、現場(工程)への影響を最小限に抑える対策を講じます。
- 関連法規の確認
建設業の調達、特に外注契約においては、以下の法律を遵守する必要があります。
・ 建設業法: 不当に低い請負代金の禁止、書面による契約締結の義務などが定められています。
[出典:e-Gov法令検索 建設業法]
・ 下請代金支払遅延等防止法(下請法): 親事業者の禁止行為(代金の支払遅延、不当な減額など)が定められています。
[出典:e-Gov法令検索 下請代金支払遅延等防止法]
建設現場の調達業務における課題とよくある不安
建設現場の調達業務はプロジェクトの根幹を担うため、多くの課題や不安が伴います。コスト超過、工期遅延、品質問題、そして業務の属人化といった、現場が直面しがちな4つの主要な課題について、その具体的なリスクを解説します。
「コスト」に関する課題(予算超過のリスク)
実行予算内で調達を完了させることは至上命題ですが、多くの課題が存在します。
・ 近年の世界的な資材価格高騰(ウッドショック、アイアンショックなど)により、見積もり取得時と発注時で価格が変動し、予算を超過するリスク。
・ 相見積もりや価格交渉が不十分なまま発注してしまい、割高な調達(高値掴み)になっている。
・ 実行予算(原価)の管理がリアルタイムで行われておらず、プロジェクト終盤になってから予算超過が発覚する。
「納期」に関する課題(工期遅延への影響)
建設現場において、調達の遅れは工期の遅れに直結します。
・ サプライヤーの生産遅れ、輸送トラブル(コンテナ不足など)、物流の混乱により、必要な資材が指定納期に現場へ届かない。
・ 専門工事業者の選定・契約が遅れ、着工が遅延する。
・ 発注漏れや発注タイミングのミスにより、手配が間に合わない。
「品質」に関する課題(要求仕様とのズレ)
コストや納期を優先するあまり、品質が疎かになるケースも散見されます。
・ 納品された資材が、要求した規格や品質(仕様)を満たしていなかった。
・ 発注担当者と現場担当者の連携ミスにより、仕様違いのものや不要なものを調達してしまった。
・ 低コストを追求しすぎた結果、品質の低い専門工事業者を選定してしまい、施工不良(手直し)が発生する。
「属人化」に関する課題(担当者依存)
調達業務は、個人の経験やノウハウ、特定のサプライヤーとの関係性に依存しやすい傾向があります。
・ 特定のベテラン担当者しか、特定の資材の相場感や、特定のサプライヤーとの交渉窓口を知らない。
・ 担当者の急な退職や異動により、調達ノウハウが失われ、業務が停滞する。
・ 過去の取引履歴や価格データが担当者のPC内や個人のファイルにしか残っておらず、組織として共有・活用できない。
効率的な調達業務を実現するためのポイント
調達業務が抱える課題を克服し、効率化を実現するためには、戦略的なアプローチが必要です。ここでは、サプライヤーとの関係構築、業務プロセスの標準化と可視化、そしてITシステムの活用という3つの重要なポイントを解説します。
サプライヤーとの良好な関係構築
調達は「買い叩く」ことではありません。サプライヤー(協力会社)は、プロジェクトを共に遂行する重要なパートナーです。
特定の業者に依存しすぎず、複数のサプライヤーと日頃から密に情報交換を行い、公正な取引を通じて良好な関係を築いておくことが重要です。信頼関係があれば、資材価格の変動や急な納期トラブル時にも、優先的な対応や柔軟な調整を期待しやすくなります。
調達プロセスの標準化と見える化
属人化を防ぎ、組織としての調達力を高めるためには、業務プロセスの標準化が不可欠です。
・ 標準化: 見積もりの取得ルール(例:3社以上の相見積もりを必須とする)、サプライヤーの選定基準(評価シートの作成)、契約書の雛形などを整備し、誰が担当しても一定の品質で業務を遂行できる体制を整えます。
・ 見える化: 過去の取引履歴、見積もりデータ、サプライヤー情報などを一元管理し、組織全体で共有します。これにより、新規担当者でも過去の価格や取引経緯を参照でき、適正な調達判断が可能になります。
調達管理システムの活用
紙、Excel、メールでの管理は、情報が分散しやすく、属人化や転記ミスの温床となります。建設業に特化した調達管理システムや購買システムを導入することで、これらの課題を抜本的に解決できる可能性があります。
以下に、従来の管理方法と調達管理システムの違いを比較します。
| 比較項目 | Excel・紙での管理 | 調達管理システム |
|---|---|---|
| 情報共有 | 困難(ファイルが分散、属人化、最新版が不明確) | 容易(データ一元管理、リアルタイムで共有可能) |
| 業務効率 | 低い(手入力、二重入力、転記ミスが多い) | 高い(プロセス自動化、見積依頼・発注の効率化) |
| データ活用 | 困難(過去データの検索・分析が難しい) | 容易(取引履歴の蓄積・分析によるコスト削減) |
| 内部統制 | 弱い(承認プロセスが曖昧、履歴が残らない) | 強い(承認フローの電子化、操作履歴の管理) |

まとめ
本記事では、建設現場における調達業務について、その重要性から具体的な3つのステップ、直面しがちな課題、そして効率化のためのポイントまでを網羅的に解説しました。
建設現場の調達業務は、単に「物を買う」「業者を手配する」ことではありません。プロジェクトの品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)のすべてに直結する、極めて戦略的かつ重要な業務です。
紹介した「3つのステップ」(①要求明確化・市場調査 → ②選定・交渉 → ③契約・管理)を確実に実行し、属人化を排除するためのプロセス標準化やシステム活用によって業務の効率化・最適化を図ることが、建設プロジェクトを成功に導き、企業の収益性を高める鍵となります。
建設現場の調達に関するよくある質問(Q&A)
最後に、建設現場の調達業務に関して多く寄せられる疑問にQ&A形式でお答えします。
Q. 未経験でも調達業務は担当できますか?
A. 可能です。多くの企業では、まずアシスタントとして、見積書の取得依頼、発注処理、納期確認といった定型的なサポート業務からスタートします。業務を通じて、資材の知識、相場観、交渉の基本、そして建設業法や下請法といった関連法規を継続的に学ぶ意欲が重要です。経験を積むことで、より戦略的なサプライヤー選定や大規模な価格交渉を任されるようになります。
Q. 調達コストを削減する具体的なコツはありますか?
A. 以下の方法が基本的かつ有効です。
- 相見積もりの徹底: 最も基本的なコスト削減策です。必ず複数のサプライヤーから同一条件で見積もりを取り、価格や条件を比較検討します。
- サプライヤーの多角化: 1社に依存(一者購買)すると、価格交渉力が弱まります。常に複数の取引先候補を確保し、健全な競争関係を維持します。
- 発注ロットの集約: 複数の現場やプロジェクトで共通して使用する資材は、発注をまとめる(集中購買)ことで、数量メリットによる価格交渉を有利に進められます。
- VE/CDの検討: VE(Value Engineering)やCD(Cost Down)の視点を持ちます。要求品質を維持しつつ、より安価な代替資材や新しい工法がないか、設計部門や現場と連携して検討することも調達の重要な役割です。
Q. 調達業務で役立つ資格はありますか?
A. 調達業務に必須の国家資格はありません。しかし、以下の資格は、業務に関連する知識を深め、スキルを証明する上で役立ちます。
・ 建設業経理士: 建設業特有の会計処理や原価計算(実行予算管理)を学ぶことができます。コスト管理能力の向上に直結します。
・ 資材管理士: 資材の購買管理、在庫管理、物流管理など、調達に関連する専門知識を体系的に学べます。
・ 日商簿記: 企業の経理やコスト意識を養う上で基本的なスキルであり、取引先との支払い条件交渉などにも役立ちます。




