「調達」の基本知識

建設業の調達トラブル事例とは?未然に防ぐ方法を解説


更新日: 2025/12/18
建設業の調達トラブル事例とは?未然に防ぐ方法を解説

この記事の要約

  • コスト・納期・品質・契約の4大トラブル事例を分類して解説
  • 一社依存のリスクを避けデジタル管理で可視化する重要性を提示
  • 資材高騰や法規制に対応するための具体的なチェックリスト付き
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建設業における「調達」の定義と重要性

建設プロジェクトにおける調達業務は、単にモノを買うだけの行為ではなく、工事の成功を左右する戦略的なプロセスです。ここでは、建設業特有の広範囲な調達の定義と、それがプロジェクト管理の重要指標であるQCDにどのような影響を与えるかを解説します。

資材・労務・重機の調達範囲

建設業における調達とは、設計図書に基づき、工事完成に必要なあらゆるリソースを外部から手配する業務全般を指します。製造業の購買とは異なり、以下の3つの要素を複合的に管理する必要があります。

  • 資材(Material)
    木材、鉄骨、コンクリート、内装材などの物理的な材料。規格や納期の管理が必須です。

  • 労務(Manpower)
    専門工事会社の職人や現場作業員などの人的リソース。技術力や人員数の確保が含まれます。

  • 重機・設備(Machinery)
    クレーン、ショベルカーなどの建設機械や、仮設足場などの設備手配。

プロジェクト管理における調達の役割

調達業務の精度は、建設プロジェクトの管理指標であるQCD(Quality:品質、Cost:原価、Delivery:工期)に直接的な影響を及ぼします。適切な調達が行われない場合、プロジェクト全体が破綻するリスクがあります。

調達がQCDに与える影響
  • Quality(品質)
    適切な規格・仕様の資材や、高い技術力を持つ職人を確保できるかが、最終的な施工品質を決定づけます。

  • Cost(原価)
    資材価格の交渉や適正な予算管理は、工事の利益率に直結します。

  • Delivery(工期)
    資材や人員が工程表通りに現場へ到着しなければ、施工を進めることは不可能です。

建設現場で図面を確認しながら協議する監督と担当者

建設業で頻発する主な調達トラブルのパターン

現場で発生するトラブルは多岐にわたりますが、大きく分けてコスト、納期、品質、契約の4つのパターンに分類できます。それぞれのトラブルが現場運営にどのような悪影響を及ぼすのか、構造的に理解することが対策の第一歩です。

コストに関する調達トラブル

最も経営へのインパクトが大きいのがコストの問題です。見積もり段階での数量拾い出しミス単価設定の甘さにより、実行予算を超過するケースが多く見られます。また、市況の変動による原材料費の高騰により、契約時と発注時で価格が大きく乖離し、追加費用が発生するトラブルも典型的です。

納期・工期に関する調達トラブル

「必要なモノが、必要な時に届かない」というトラブルは、工程全体を麻痺させます。メーカーの生産遅延、物流の停滞、あるいは発注漏れによって資材が未着となり、現場での手待ち時間が発生します。建設業では一つの遅れが後工程へドミノ倒しのように影響するため、甚大な被害となります。

品質・規格に関する調達トラブル

発注内容の伝達ミスや確認不足により、設計図書のスペック(仕様)と異なる資材が納入されるケースです。現場での検品時に発覚すれば再手配による遅延が生じ、施工後に発覚すれば手戻り工事が必要となります。

契約・コンプライアンスに関する調達トラブル

口頭発注や契約書の未締結による「言った言わない」のトラブルです。特に建設業法や下請法(下請代金支払遅延等防止法)に関わる問題は、企業の信用問題に発展します。支払条件の認識相違などは、協力会社との信頼関係を損なう原因となります。

トラブルの種類と現場への影響一覧

以下は、トラブル分類とその具体的な影響を整理した表です。

トラブル分類 具体的な現象例 現場への主な影響
コスト 原材料費の高騰、追加請求 利益率の低下、赤字工事化
納期 資材未着、人員手配ミス 工期延長、後工程への遅延波及
品質 仕様違い、不良品混入 手戻り工事、施主からのクレーム
契約 支払条件の相違、契約書不備 法的紛争、信用失墜、取引停止

調達トラブルが発生してしまう根本的な原因

トラブルの背後には、市場環境という外部要因と、管理体制という内部要因が複雑に絡み合っています。現象に対処するだけでなく、根本的な原因を理解しておくことが重要です。

外部要因による調達の不安定化

自社の努力だけではコントロールできない市場環境の変化が挙げられます。

  • 地政学リスクと資源価格
    海外情勢の変化によるエネルギー価格や原材料費の高騰(ウッドショック、アイアンショックなど)。

  • 物流の2024年問題
    トラックドライバーの時間外労働規制強化による輸送能力の不足と、リードタイムの長期化。

内部要因による調達管理の甘さ

企業内部の体制不備に起因する問題です。

  • 業務の属人化
    特定の担当者しか発注経緯や価格交渉の内容を知らない状態。担当者の不在や退職時に情報が途絶えます。

  • アナログな管理体制
    電話やFAXでの管理は、履歴が残らず、情報のリアルタイム共有を阻害します。

建設業の調達トラブルを未然に防ぐ具体的な方法

調達トラブルのリスクを最小限に抑えるためには、組織的な仕組みづくりが不可欠です。ここでは、サプライチェーンの強化から契約実務の見直しまで、具体的な3つのステップとチェックリストを提示します。

Step1. 複数のサプライヤー確保による調達リスク分散

まず最初に行うべきは、仕入先のマルチベンダー化(複数社購買)です。特定のサプライヤー一社に依存する体制は、相手先の倒産や供給停止が自社の事業停止に直結するため、BCP(事業継続計画)の観点から非常に高リスクです。

  • アクション
    定期的に新規取引先を開拓し、主要資材については常に2社以上のルートを確保しておくこと。

Step2. デジタルツール活用による調達業務の可視化

次に、「言った言わない」のトラブルを根絶するために、受発注システムや施工管理アプリを導入します。電話や口頭でのやり取りを減らし、クラウド上で発注・請負・検収の履歴を残すことで、双方の認識齟齬を防ぎます。

  • アクション
    納期や予算の状況をチーム全員がリアルタイムで確認できる環境を構築し、遅延の予兆を早期に発見する。

Step3. 契約内容の明確化と適正な調達計画の策定

最後に、着工前の準備を徹底します。トラブルの多くは、着工前の準備不足に起因します。

  • アクション
    物流遅延を考慮した余裕のあるリードタイム設定と、仕様・納期・支払条件を明確にした契約書の締結。
すぐに取り組めるトラブル防止チェックリスト
  • 重要資材については、常に2社以上から相見積もりを取り、代替品リストを作成している
  • 発注書・請書は電子化、または必ず書面(PDF含む)で取り交わしている
  • 定期的に主要サプライヤーの経営状況(信用調査)を確認している
  • 現場と購買部門の在庫情報共有ルールが策定されている

オフィスで調達管理システムを操作する建設業の担当者

従来型とシステム化による調達業務の比較検討

業務改善を進める上で、現状のアナログ管理とシステム導入後の姿を比較することは不可欠です。それぞれの特徴、メリット、デメリットを客観的に整理し、自社に適した判断を行う材料とします。

アナログな調達業務の限界

エクセルや紙、FAXベースでの管理は、初期コストが低い反面、事業規模が拡大するにつれて限界を迎えます。ファイルが最新かどうかわからない「先祖返り」、入力ミス、書類の紛失といったヒューマンエラーが避けられません。また、過去の取引履歴を検索するのに時間がかかり、適正価格の把握が困難になります。

調達システム導入によるメリットとデメリット

専用の調達管理システムを導入することで、業務効率は飛躍的に向上します。

  • メリット
    発注ミスの防止、承認フローの厳格化、リアルタイムな原価管理、過去データの瞬時検索が可能になります。

  • デメリット
    導入時の初期費用や月額ランニングコストが発生します。また、操作方法を覚えるための学習コストが必要です。

アナログ管理とデジタル管理の比較

比較項目 アナログ管理(Excel・紙) デジタル管理(専用システム)
情報のリアルタイム性 低い(更新が必要) 高い(常に最新)
ヒューマンエラー 起きやすい(入力ミス・紛失) 防ぎやすい(アラート機能等)
コスト 安価(人件費はかかる) 初期費用・月額費用が発生
検索性・履歴 悪い(探すのに時間がかかる) 良い(瞬時に検索可能)

調達担当者が抱えがちな不安と解消法

日々の業務において、担当者は市場変動や取引先選定など多くの不安を抱えています。ここでは、現場の声として多い悩みを取り上げ、実務的な解決のヒントを解説します。

急激な価格変動にどう調達対応すべきか

資材価格が高騰した際、自社だけでコストを吸収するのは困難です。対策として、契約時にスライド条項(価格エスカレーション条項)を盛り込むことが推奨されます。これは、急激な価格変動があった場合に請負代金を変更できる取り決めであり、施主との早期交渉を可能にします。

信頼できる調達先・協力会社の見極め方

新規取引を行う際、「本当に納期を守ってくれるか」「倒産リスクはないか」は大きな不安要素です。解消法として、帝国データバンクなどの調査機関を利用した与信管理の徹底が挙げられます。また、過去の施工実績や保有機材リストを確認し、実力を客観的に評価するプロセスを設けることが大切です。

まとめ

建設業における調達トラブルは、コスト増、工期遅延、品質低下を招き、経営に深刻なダメージを与えます。しかし、これらの多くは「個人の注意不足」ではなく、「仕組みの不備」から生じています。属人的な管理から脱却し、マルチベンダー化やデジタルツールを活用した組織的な調達体制への移行が、トラブルを未然に防ぐための確実な方法です。

よくある質問(FAQ)

最後に、建設業の調達業務に関してよく検索される疑問とその回答をまとめました。

Q1. 建設業の調達業務で最も多いトラブルは何ですか?

最も頻発しやすいのは納期遅延コスト超過です。特に近年は物流事情の悪化による納品遅れや、資材価格高騰による予算オーバーが顕著です。これらは現場の工程管理や利益確保に直接的な打撃を与えます。

Q2. 小規模な工務店でも調達システムは必要ですか?

はい、規模に関わらず導入効果は期待できます。小規模事業者こそ、事務作業に割ける人員が限られているため、システムによる効率化(受発注の自動化や請求書処理の簡素化)が、本来注力すべき施工管理や営業活動への時間を生み出します。

Q3. 資材が高騰した際、調達コストを抑える工夫はありますか?

主に以下の工夫が考えられます。

  • 設計段階で流通量の多い標準仕様品を採用する(VE/CD提案)
  • 早期発注を行い、価格を確定させる
  • 複数の現場で使う資材を一括購入し、ボリュームディスカウントを狙う
  • 代替資材の検討を積極的に行う
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