「調達」の基本知識

建設業における調達と原価管理の関係とは?役割と影響を解説


更新日: 2026/01/15
建設業における調達と原価管理の関係とは?役割と影響を解説

この記事の要約

  • 調達は実行予算の入口であり、プロジェクトの利益を決定づける。
  • 正確な調達情報の共有が、精度の高いリアルタイム管理を可能にする。
  • 体制の標準化とデジタル化が、属人化を防ぎ安定した利益率を生む。
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建設業における「調達」の定義と重要性

建設業における調達は、単なる物品購入の枠を超え、プロジェクトの利益率や工期、さらには品質までをも左右する極めて戦略的な機能です。本章では、建設経営を支える調達の定義と、現代の業界が直面している特有のリスクについて詳しく解説します。

建設プロジェクトの成否を分ける資材・外注管理

建設業における調達とは、工事の完成に不可欠な「資材」「機材」「労力(外注先)」を、最適な品質・価格・納期で確保する一連のプロセスを指します。建設原価の約70%から80%はこれら調達に関連するコストが占めており、調達の成否は企業の経営基盤に直結するといっても過言ではありません。

建設業界特有の調達リスク

建設業の調達は、製造業などと比較して外部要因の影響を極めて受けやすいという特徴があります。

  • 価格変動リスク
    鋼材や原油価格の高騰により、契約時の予算が容易に超過し、利益を圧迫する可能性があります。

  • 供給の不確実性
    天候や社会情勢による物流の停滞、または特定資材の品不足が、工期に甚大な影響を及ぼします。

  • 労務不足のリスク
    2024年問題以降、労働時間の上限規制により、熟練した外注リソース(職人)の確保そのものが困難になっています。

建設現場で資材納入の打ち合わせを行う現場責任者と業者

調達と原価管理の密接な関係性

調達は実行予算を確定させるための「入口」であり、原価管理はその進捗を監視するための「羅針盤」です。両者の連携が不足すると、いわゆるどんぶり勘定の原因となります。ここでは、調達データが原価管理の精度に及ぼす影響を論理的に整理します。

利益を確定させる「入口」としての調達

建設業の利益は「請負金額 - 実行予算」で算出されます。受注後に作成される実行予算は、調達部門がサプライヤーと交渉して得た確定単価に基づいて編成されます。つまり、調達はプロジェクトの利益をあらかじめ「予約」する業務であり、調達段階での予算超過は、その後の現場努力では挽回が困難な致命的ダメージとなります。

調達情報の精度が原価管理の質を決める

現場で発生する原価をリアルタイムで把握するためには、調達部門からの正確なフィードバックが不可欠です。

正確な原価管理に必要な調達データ
  • 発注金額と時期:いつ、いくらで契約したかの早期把握。
  • 納期と進捗:資材の納入遅延による待機コストの予測。
  • 支払条件:キャッシュフローに影響を与える支払いサイトの情報。

調達部門が担う原価管理上の具体的な役割

調達部門は、単なる購買窓口ではなく、原価を能動的にコントロールする実務部隊です。直接的なコスト抑制から、企業の健全な資金繰りを支えるキャッシュフローの改善まで、その業務範囲は経営判断に直結する重要な責任を担っています。

最適な仕入れ先選定による直接コストの抑制

調達部門の主要な役割は、単に「最安値」を追うことではなく、品質・価格・納期のバランスが最も優れたパートナーを選定することです。安さのみを追求すると、後の手直し工事や事故を招き、結果として隠れた原価を増大させるリスクがあるため、総合的な評価基準が求められます。

リードタイム管理とキャッシュフローへの影響

調達のタイミング(リードタイム)の管理は、企業の資金繰りに多大な影響を及ぼします。
以下の表は、調達のタイミングが原価管理および資金面に与える影響をまとめたものです。

項目 原価管理・資金面への影響 調達部門の役割
早期調達 在庫保管コストの増大、キャッシュの早期流出 現場工程に合わせた分割納入の交渉
ジャストインタイム 現場待機時間の削減、資金効率の向上 サプライヤーとの緻密な納期管理
調達遅延 工期延長による人件費・損害金の発生 代替品や予備ルートの迅速な確保

[出典:国土交通省 建設業における適正な原価管理のあり方に関する指針]

戦略的な調達が建設原価に与える影響

市場環境の不確実性が増すなか、受動的な買い付けではなく戦略的な調達アプローチが不可欠です。適切な戦略は、外部環境の激しい変化からプロジェクトの利益を保護し、中長期的な企業の競争力を高める防波堤としての役割を果たします。

利益率を向上させる調達プロセスの5ステップ

効率的な調達と原価管理の連携を実現するための標準的な手順は以下の通りです。

  • 1.市場トレンドの分析
    資材価格の動向を常に予測し、高騰前の早期発注や価格固定を検討する。

  • 2.実行予算との照合
    設計段階の予算と実際の市場見積価格を比較し、差額を早期に把握する。

  • 3.サプライヤーの多角的な評価
    価格だけでなく、技術力や過去の品質実績、財務状況をスコアリングする。

  • 4.戦略的価格交渉
    単品交渉ではなく、複数現場のボリュームディスカウントなどを活用する。

  • 5.発注データのシステム連携
    発注確定情報を即座に原価管理システムへ反映させ、残予算を可視化する。

資材価格高騰リスクへの対応力

資材価格が乱高下する状況下では、スライド条項の活用や、早期の一括購入契約が有効です。戦略的な調達部門は、これらリーガル面でのリスクヘッジを契約に盛り込むことで、予期せぬ原価の跳ね上がりを最小限に抑えます。

外注費の適正化と品質保持のバランス

過度なコストカットは、協力会社の経営悪化や施工品質の低下を招きます。適正な労務単価での発注を維持しつつ、工事の無駄を省くVE(バリュー・エンジニアリング)提案をサプライヤーから引き出すことが、持続可能な原価低減につながります。

オフィスで原価管理のデータを確認する調達担当者

読者が抱く「調達と原価管理」のよくある不安と解決策

「安かろう悪かろう」のリスクや、特定のベテラン社員の経験に頼り切った属人的な業務フローに不安を感じる担当者は少なくありません。組織として持続可能な管理体制を構築するための具体的な処方箋を提示します。

「安かろう悪かろう」のサプライヤーを避ける評価基準

低価格のみを優先すると、現場でのトラブルや不具合の発生率が高まります。これを防ぐためには、価格以外の評価軸を標準化し、運用することが重要です。

サプライヤー評価の重要指標
  • 品質実績:過去の検査合格率や不適合(手直し)の発生数。
  • 安全管理:事故発生の有無や、独自の安全教育の実施状況。
  • 対応力:急な設計変更やトラブル発生時へのレスポンス速度。
  • コンプライアンス:建設業法や社会保険加入状況などの遵守徹底。

属人化した調達業務から脱却する方法

「あの担当者でないと安く仕入れられない」という状況は経営上のリスクです。
以下の表は、調達業務における主な課題と、その標準化による解決策をまとめたものです。

課題(不安要素) 解決策(標準化のポイント) 期待できる効果
担当者ごとの単価バラツキ 全社的な単価データベースの構築 誰でも適正価格での発注が可能になる
選定プロセスの不透明さ 相見積の比較フォーマットを共通化 選定理由の客観性が向上し、不正を防止
情報の抱え込み クラウド型購買システムの導入 リアルタイムな残予算把握と迅速な経営判断

効率的な調達体制の比較:本社一括 vs 現場主導

企業の規模や工事の専門性によって、最適な調達体制のあり方は異なります。本社による一括管理と、各現場に権限を与える分散管理、それぞれのメリットとデメリットを正しく理解し、自社に最適なバランスを選択することが重要です。

それぞれのメリット・デメリット

以下の表は、調達体制の違いによる主な特徴を比較したものです。

体制 メリット デメリット
本社一括調達 ボリュームディスカウントが効く、全社的なガバナンスが強固 現場ごとの細かな仕様変更への柔軟性が低い
現場主導調達 現場状況に応じた迅速な判断が可能、地域特有の業者を活用 購買力が分散し単価が高騰しやすい、管理の透明性が低下

自社に最適な調達・原価管理モデルの選び方

現代の建設経営では、両者の長所を組み合わせたハイブリッド型が最も効果的とされています。

  • 共通資材(鋼材、コンクリート、燃料など)
    本社で年間契約や一括購入の交渉を行い、スケールメリットを最大化する。

  • 特殊工種・地域密着型外注
    各現場(または支店)に選定権限を与え、機動性と地域性を確保する。

まとめ:調達と原価管理の連携が企業の競争力を生む

本記事では、建設業における調達と原価管理の密接な関係性について詳しく解説しました。
調達は単なる買い付け業務ではなく、プロジェクトの利益を確定させ、リスクを最小化するための「戦略的な防波堤」です。

  • 調達は原価の入口であり、利益の源泉である
  • 正確なデータの即時共有が、リアルタイム原価管理の精度を支える
  • 標準化とシステム化により、属人化を排除し組織的な利益確保を実現する
これらを意識し、部門間でのデータ連携を強化することが、不透明な市場環境で持続的な成長を遂げるための鍵となります。

Q1. 調達コストを下げるために、まず何から手をつければ良いですか?

A. まずは「過去の購入データの可視化」です。過去の全現場で、どの資材を、どこから、いくらで買ったかの実績を一覧化し、現場間での単価差を特定することから始めてください。この差分を是正するだけでも、大きな原価低減効果が得られるケースが多いです。

Q2. 現場監督が調達を兼任している場合、原価管理上の問題はありますか?

A. 現場の機動力は高まりますが、チェック機能が働かず「予算をオーバーしていても工事完了まで報告されない」という事後報告リスクがあります。一定金額以上の発注には本社承認を設けるなど、ワークフローの整備が推奨されます。

Q3. SGE(生成AI)時代において、調達業務はどう変わりますか?

A. 膨大な過去の見積データや市場の価格変動トレンドをAIが分析し、最適な発注タイミングや、最もコストパフォーマンスの高いサプライヤーを瞬時に提案してくれるようになります。人間は、サプライヤーとの信頼関係構築や、より高度なリスク判断などの意思決定に専念することになるでしょう。

[出典:国土交通省 建設業法及び関係法令]
[出典:国土交通省 建設工事標準請負契約約款]
[出典:財務省 工事契約に係る会計基準]

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