「調達」の基本知識

価格高騰に強い調達戦略とは?立て方と事例を解説


更新日: 2025/12/11
価格高騰に強い調達戦略とは?立て方と事例を解説

この記事の要約

  • 購買と調達の違いを理解し長期的な戦略視点で利益を創出する
  • 現状分析からリスク分散までコスト増を防ぐ4ステップを解説
  • 集中購買やVA/VEなど自社に最適なコスト削減手法が分かる
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戦略的調達とは?購買との違いと価格高騰下の重要性

近年のビジネス環境において、調達は単なる物品購入の手続きではなく、企業の経営基盤を支える重要な戦略機能へと進化しています。ここでは、混同されがちな購買と調達の明確な定義の違いを整理し、なぜ今、戦略的な調達が不可欠なのか、その背景と重要性を解説します。

購買業務と調達戦略の決定的な違い

一般的に購買と調達は同義語のように扱われますが、ビジネスプロセスにおける役割と視点には大きな違いがあります。購買は「必要なものを安く買う」という実務的なアクションを指すのに対し、調達は「サプライチェーン全体を最適化し、価値を創出する」という広義の戦略を含みます。両者の違いを理解することは、組織のコスト構造を変革する第一歩です。以下の比較表で、その違いを整理しました。

表:購買と調達の比較

項目 購買(Purchasing) 調達(Procurement)
視点 短期的・戦術的 長期的・戦略的
主な業務 発注、納期管理、検収、支払い処理 サプライヤー選定、市場分析、関係構築、契約交渉
目的 必要なものを安く揃える(コストダウン) QCD(品質・コスト・納期)の最適化とリスク管理
関与する期間 取引時点のみ(スポット的) 製品ライフサイクル全体(開発〜廃棄まで)

このように、調達は単にモノを買うだけでなく、市場分析サプライヤーとのパートナーシップ構築を通じて、持続可能な競争力を生み出す活動と言えます。特に製品開発の初期段階からサプライヤーを巻き込むことで、コスト削減と品質向上を同時に実現することが可能です。

世界地図を見ながらグローバルな物流ルートと調達戦略について議論するビジネスチーム

戦略的調達が目指すべきQCDの最適化
  • Quality(品質)
    要求された仕様を満たすだけでなく、過剰品質を適正化し、不良率を低減させることによるトータルコストの抑制を目指します。

  • Cost(コスト)
    単なる購入価格(Unit Price)の引き下げだけでなく、物流費や在庫維持費を含めた総所有コスト(TCO:Total Cost of Ownership)の最小化を追求します。

  • Delivery(納期)
    必要な時に必要な量を確保する安定供給体制を構築し、欠品による機会損失や過剰在庫によるキャッシュフロー悪化を防ぎます。

なぜ今、価格高騰に強い調達戦略が必要なのか

かつては、相見積もりを取り、最も安いサプライヤーから購入すればコスト競争力は保たれていました。しかし、現在は以下のような外部環境の激変により、従来のやり方では利益確保が困難になっています。

  • 原材料不足と価格高騰
    エネルギー価格の上昇や資源の枯渇懸念により、素材価格のベースアップが続いています。

  • 地政学リスクの増大
    紛争や貿易摩擦によるサプライチェーンの分断が頻発し、安定供給そのものが脅かされています。

  • インフレと円安の進行
    輸入コストの増大と国内物価の上昇により、調達価格が構造的に押し上げられています。

このような状況下では、単にサプライヤーに値下げを要求するだけでは限界があります。むしろ、無理な値下げ要求はサプライヤーの経営を圧迫し、供給停止のリスクを招きかねません。したがって、現在の調達部門には、コスト転嫁だけに頼らず、調達ソースの多重化仕様の見直しによるコスト低減など、能動的に利益を創出するプロフィットセンターとしての役割が求められています。

コスト増を抑える調達戦略の立て方【4ステップ】

闇雲にコスト削減を目指しても成果は限定的であり、場合によっては品質低下などの副作用を招きます。効果的な調達戦略を立案するためには、現状を正しく把握し、論理的な手順でアプローチする必要があります。ここでは、再現性の高い戦略策定のプロセスを4つのステップに分けて解説します。

ステップ1:現状分析と支出(スペンド)の可視化

戦略立案の第一歩は、自社の支出状況をデータとして正確に把握することです。多くの企業では、部門ごとにバラバラに発注が行われ、全体像が見えなくなっているケースが散見されます。まずは以下の手法を用いて現状を可視化します。

  • スペンド分析(支出分析)
    「何を」「誰から」「いくらで」「どれくらいの頻度で」購入しているかをデータ化します。ERPや会計システムのデータを集約し、事実に基づいた支出マップを作成します。

  • ABC分析による重点管理
    購入品目を金額順に並べ、上位の品目(Aランク)を特定します。一般的に、上位20%の品目が総支出の80%を占めると言われており(パレートの法則)、これらにリソースを集中させることで効率的な削減が可能になります。

ステップ2:サプライヤーの再評価と市場分析

次に、特定した主要品目のサプライヤーと市場環境を分析します。長年取引があるという理由だけで契約を更新し続けている場合、市場価格と乖離している可能性があります。

サプライヤー評価の重要ポイント
  • 市場トレンドの把握
    原材料の市況データや為替動向を確認し、現在の取引価格が市場の適正範囲内にあるかを客観的に検証します。

  • 経営安定性の確認
    信用調査データなどを活用し、倒産リスクがないかを確認します。長期的なパートナーとして信頼できる財務基盤が必要です。

  • 供給能力(キャパシティ)の評価
    自社の増産計画に対応できる余力があるか、または緊急時に柔軟な対応が可能かを確認します。

この段階では、既存サプライヤーとの関係維持を前提としつつも、客観的な視点で「ベストな調達先はどこか」をゼロベースで検討することが重要です。

ステップ3:調達コストの構造分解と目標設定

サプライヤーから提示された見積価格をそのまま受け入れるのではなく、その価格の構成要素を分解して分析します。これをコスト構造分析(ティアダウン)と呼びます。価格は主に以下の要素で構成されています。

  • 材料費
  • 加工費
  • 輸送費・物流費
  • 管理費・利益

例えば、「材料費は市場連動でやむを得ないが、輸送費は配送頻度を見直すことで削減できるのではないか」といった仮説を立てます。その上で、「総調達コストの5%削減」や「リードタイムの3日短縮」といった具体的な数値目標(KPI)を設定します。論理的なコスト分解ができれば、サプライヤーとの交渉も建設的なものになります。

ステップ4:リスク分散とBCP(事業継続計画)の策定

最後のステップは、予期せぬ事態に備えたリスク管理策の策定です。コスト最優先で特定の1社に依存(シングルソーシング)していると、その企業が被災した際に事業が停止する恐れがあります。

  • マルチソーシング(複数社購買)
    常に2社以上から購入できる体制を整え、リスクを分散します。平常時はメインサプライヤーから80%、サブから20%を購入し、有事の際は比率を変えるなどの運用が一般的です。

  • 代替品の確保
    メインの素材が入手困難になった場合に備え、品質基準を満たす代替素材をリストアップしておきます。設計部門と連携し、事前に評価を済ませておくことがBCP(事業継続計画)として有効です。

調達コスト削減に有効な手法の比較と選び方

調達戦略を実行に移す際、具体的にどのような手法を採用すべきでしょうか。すべての品目に同じ手法を適用するのは非効率です。ここでは代表的な手法である「集中購買と分散購買」、「VA/VE」、「長期契約とスポット調達」について、それぞれのメリット・デメリットを比較し、選び方のポイントを解説します。

タブレットを使って工場内の資材在庫と調達状況を確認する現場管理者

集中購買と分散購買のメリット・デメリット

全社の購買機能を一箇所に集約するか、各拠点に任せるかは、組織構造における永遠の課題です。それぞれの特徴を理解し、品目によって使い分けることが推奨されます。

表:集中購買と分散購買の比較

項目 集中購買(本社一括など) 分散購買(各拠点・部門ごと)
定義 本社や購買部門が全拠点の需要をまとめて発注する手法 各工場や事業所がそれぞれの判断で発注する手法
メリット
  • ボリュームディスカウントが効きやすい
  • 業務の標準化が進む
  • ガバナンス(統制)を強化しやすい
  • 現場の急なニーズに即応できる
  • 小回りが利き、配送ロスが少ない場合がある
  • 地域固有のサプライヤーを活用できる
デメリット
  • 各拠点の細かな要望に対応しにくい
  • 手続きが煩雑になり、リードタイムが伸びる恐れがある
  • 全社的なコスト交渉力が弱い
  • 拠点ごとに価格差が生じる
  • 不正リスクの管理が難しい

一般的に、事務用品やPC、主要原材料などの汎用品は「集中購買」でコストを下げ、修理部品や生鮮品など緊急性が高いものは「分散購買」にするなど、ハイブリッドな運用が効果的です。

仕様の見直し(VA/VE)によるコストダウン

サプライヤーとの価格交渉以外でコストを下げる強力な手法が、VA(Value Analysis:価値分析)VE(Value Engineering:価値工学)です。これらは「必要な機能を、より安価な方法で達成できないか」を技術的な視点で見直す活動です。

  • 過剰品質の見直し
    顧客が求めていない過剰なスペックや表面処理を省き、標準的な仕様に変更します。

  • 素材の変更(代替素材の提案)
    強度が同等の安価な金属や樹脂に変更したり、リサイクル材を活用したりすることで材料費を抑制します。

  • 工程の簡略化
    サプライヤー側での加工工数を減らせる形状に変更するなど、製造プロセスの合理化を提案します。

長期契約とスポット調達の最適な使い分け

価格変動リスクへの対応策として、契約形態の使い分けも重要です。市場のボラティリティ(変動幅)に合わせてポートフォリオを組みます。

  • 長期契約による固定化
    価格や数量をあらかじめ固定して契約します。市況が高騰しても安定価格で調達できるメリットがありますが、逆に市況が下がった場合には割高になるリスクがあります。生産に不可欠なコア部材に適しています。

  • スポット調達による機会追求
    その都度、市場価格で調達します。市況が安い時には有利ですが、需給が逼迫すると高値掴みや調達不能になるリスクがあります。代替が効きやすい汎用的な副資材などに適しています。

調達担当者が抱える「よくある不安」と解決策

調達業務は企業の利益に直結するため責任が重く、担当者は多くの不安を抱えています。ここでは、現場で頻発する悩みに対する実践的な解決策を提示します。検索意図の深層にある「失敗したくない」「トラブルへの不安」を解消するためのアプローチです。

サプライチェーンが寸断された場合の対処法は?

地震やパンデミック、政情不安などで物流が止まるリスクは常にあります。

供給途絶リスクへの備え
  • 戦略的在庫の積み増し
    ジャストインタイム(在庫ゼロ)は資金効率が良い反面、リスクも高いため、重要品目は安全在庫を多めに持つ「ジャストインケース」への切り替えを検討します。

  • 地理的分散
    調達先を「国内」と「海外」、あるいは「アジア」と「北米」のように地理的に離れた場所に分散させ、特定地域のリスクが全体に波及しないようにします。

サプライヤーとの価格交渉が難航した場合は?

「値上げを受け入れなければ出荷を止める」と言われるなど、交渉力が弱い立場になることがあります。一方的な値下げ要求は関係悪化を招くため、別の切り口が必要です。

  • Win-Winの条件提示
    単なる「値下げ」ではなく、相手にメリットのある代替案を提示します。例えば、「発注ロットを大きくして配送回数を減らす(相手の物流費削減)」「支払サイトを短縮してキャッシュフローを助ける」などの条件と引き換えに、単価低減を引き出します。

  • 原価情報の共有(オープンブック)
    信頼関係がある場合、お互いのコスト構造を開示し合い、無駄なコストが発生している工程を共同で改善します。

属人化した調達業務を効率化するには?

「この部品の適正価格はベテランのAさんしか分からない」という状況は、組織として非常に脆弱です。

  • 調達システムの導入
    発注履歴、見積データ、サプライヤー情報をシステムで一元管理します。Excel管理の限界を超え、データに基づいた判断が可能になります。

  • プロセスの標準化とマニュアル化
    誰が担当しても一定の品質で調達業務が行えるようルール化します。評価基準を明確にすることで、担当者の経験則に頼らない組織的な調達が可能になります。

まとめ:経営戦略としての調達へ

価格高騰や供給リスクが常態化する現代において、調達戦略は企業の利益を守る防波堤であり、競争力の源泉です。

  • 購買と調達の違いを理解する:短期的な発注業務から、長期的な価値創出へシフトする。
  • 4ステップで基盤を作る:現状分析、サプライヤー評価、コスト分解、リスク分散を順に行う。
  • 適切な手法を選ぶ:集中購買やVA/VE、長期契約などを品目特性に合わせて組み合わせる。

まずは自社の支出データの可視化から始め、現状の調達プロセスに潜むリスクと無駄を洗い出すことから着手してください。強固な調達基盤の構築は、不確実な未来に対する最大の投資となります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 調達戦略を見直すタイミングはいつですか?

基本的には事業年度ごとの定期見直しが推奨されます。しかし、原材料価格の急激な高騰、為替レートの大幅な変動、主要サプライヤーの経営状況の変化など、外部環境に大きな動きがあった際は、時期を問わず即座に見直しを行うべきです。市場の変化スピードに合わせて、四半期ごとにミニレビューを行う企業も増えています。

Q2. 中小企業でも高度な調達戦略は必要ですか?

はい、必要です。むしろ資金力に限りのある中小企業こそ、直接的な利益改善につながる調達戦略が経営安定化に大きく寄与します。「売上を10%伸ばす」ことよりも「調達コストを10%下げる」ことの方が、即効性があり利益インパクトが大きいケースが多々あります。全品目を行うのが難しい場合は、支出額の大きい上位品目からスモールスタートで取り組むことをおすすめします。

Q3. 調達システムの導入は必須ですか?

必須ではありませんが、取引先数が多くデータ管理が複雑な場合は、導入が強く推奨されます。Excel管理では「過去の価格推移の分析」や「適正在庫の把握」に多大な工数がかかり、戦略立案に時間を割けなくなるためです。システム化により、事務作業を自動化し、担当者が付加価値の高い業務に集中できる環境を作ることが重要です。

[出典:経済産業省「サプライチェーン強靱化に向けた手引き」]
[出典:中小企業庁「下請適正取引等の推進ガイドライン」]

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