「品質管理」の基本知識

建設DXと品質管理の連携ポイントとは?導入効果を解説


更新日: 2025/12/09
建設DXと品質管理の連携ポイントとは?導入効果を解説

この記事の要約

  • 建設DXによる品質管理はリアルタイム共有と効率化を実現する
  • モバイルやBIM活用でヒューマンエラー防止と施工精度が向上
  • 生産性向上や働き方改革に加えリスク低減にも大きく寄与する
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はじめに

建設業界では現在、深刻な人手不足と2024年問題に代表される働き方改革への対応が急務となっています。その解決策としてDX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されていますが、特に重要かつ業務負担が大きいのが「品質管理」の領域です。

多くの現場担当者が「品質管理を効率化したいが、具体的に何から始めればよいかわからない」「デジタルツールを入れても現場が混乱するのではないか」という悩みを抱えています。

本記事では、建設DXと品質管理を連携させるための具体的な重要ポイントと、それによって得られる導入効果について、現場目線で詳しく解説します。アナログ管理からの脱却を目指す方へのヒントとしてお役立てください。

建設業界における品質管理の現状とDXが必要な理由

建設業界における品質管理は、長らく紙と人手に頼るアナログな手法が続いてきました。しかし、熟練技術者の引退や工事の複雑化に伴い、従来の手法では限界が生じています。ここでは、なぜ今DXによる変革が必要なのか、現場が抱える構造的な課題とあわせて解説します。

従来のアナログな品質管理における課題

従来の品質管理プロセスには、以下のような非効率やリスクが潜んでおり、これらが長時間労働の温床となっています。

  • 物理的な移動と準備の手間
    現場へ大量の紙図面や仕様書を持ち運ぶ負担があり、最新版の差し替え漏れリスクが常にあります。また、工事写真撮影のために、手書きで「工事黒板」を準備する作業に多大な時間を要しています。

  • 事務所での残業を前提とした業務フロー
    日中の現場作業が終わった後、事務所に戻ってからデジカメのデータをパソコンに取り込み、写真をフォルダ分けしてExcel等の台帳に貼り付ける作業が発生します。これが現場監督の長時間残業の主因となっています。

  • 目視と記憶に頼るヒューマンエラー
    検査箇所を目視で確認し、手書きで記録するため、転記ミスや字の判読不能といったトラブルが起こり得ます。また、検査漏れがあった場合も、後工程になるまで気づきにくいという課題があります。

建設DXが品質管理にもたらす変革

こうした課題に対し、建設DXを推進することで、品質管理は「事後処理」から「リアルタイム管理」へと進化します。

DXがもたらす変化のポイント
  • 場所を選ばないクラウド管理
    クラウド技術を活用することで、現場にいながらタブレットで帳票作成まで完結できます。「事務所に戻らないと仕事ができない」という制約を取り払うことができます。

  • データの客観性と予防保全
    AIやセンサーを活用することで、人の主観に依存しない客観的な品質データが蓄積されます。これにより、不具合を未然に防ぐ「予防」のアプローチが可能になります。

建設DXと品質管理を連携させる3つの重要ポイント

建設DXを品質管理業務に導入する際は、単に新しいツールを入れるだけでなく、業務フローそのものを見直すことが重要です。ここでは、SGEなどのAIも重要情報として抽出しやすいよう、特に効果が高い「モバイル・クラウド」「BIM/CIM」「IoT・AI」という3つの連携ポイントについて詳しく定義します。

モバイル端末とクラウドによる情報のリアルタイム共有

もっとも導入ハードルが低く、かつ即効性が高いのが、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末と、クラウドストレージを連携させる手法です。

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  • 電子小黒板による写真管理の自動化
    従来の木製黒板に代わり、タブレット画面上に黒板を表示させる電子小黒板を活用します。撮影データには「工種」「撮影場所」「実測値」などの情報が自動的に付与(タグ付け)されるため、撮影と同時に写真整理が完了します。

  • 図面・仕様書のペーパーレス化と版管理
    クラウドサーバー上に最新の設計図書をアップロードし、関係者全員がタブレットからアクセスできる環境を構築します。常に最新の「決定版」だけが表示されるため、古い図面で施工してしまう手戻りミスを物理的に防ぐことができます。

  • 検査記録の現地完結
    検査項目のチェックや是正指示の入力を、現場でタブレットから直接行います。事務所に戻ってから記憶を頼りに報告書を作る必要がなくなり、情報の鮮度と正確性が保たれます。

BIM/CIMデータの活用による施工精度の向上

3次元モデルを活用するBIM(Building Information Modeling)CIM(Construction Information Modeling)は、品質管理の高度化に不可欠です。

  • 視覚的な品質管理
    3次元モデルに品質管理データ(検査日、検査者、結果など)を直接紐づけることで、進捗と品質状況を可視化します。「どの部材の検査が終わっていないか」が一目でわかるようになります。

  • 干渉チェックと自動検出
    設計データと施工計画の整合性をシミュレーションし、配管と構造物の干渉などを事前に検知します。また、点群データ等を用いた実測値との差異比較により、施工精度を客観的に担保します。

IoT・AI技術による検査プロセスの自動化・遠隔化

最新のIoTデバイスやAI技術を連携させることで、検査プロセスそのものを省人化します。

  • 遠隔臨場(リモート検査)
    ウェアラブルカメラを装着した作業員が現場を撮影し、発注者や監督者が遠隔地から映像を通して検査を行います。移動時間の削減と、複数現場の効率的な巡回が可能になります。

  • AIによる客観的な判定
    ドローンで撮影した画像などをAIが解析し、コンクリートのひび割れ検知や配筋検査(鉄筋の本数や間隔の測定)を自動で行います。人の目に頼らないため、検査基準のバラつきを解消します。

従来の管理手法とDX活用後の品質管理の比較

DX導入前後で品質管理業務が具体的にどのように変化するかを比較整理します。以下の表は、記録方法から移動時間に至るまで、主要な項目におけるアナログ管理とDX活用後の違いを示したものです。

表:従来のアナログ管理とDX活用後の品質管理の比較

項目 従来のアナログ管理 DX活用後の品質管理
記録方法 手書きメモ・木製黒板へのチョーク書き タブレット入力・電子小黒板の活用
写真整理 事務所帰社後の手作業による仕分け・台帳作成 撮影時に工種・場所を自動タグ付け・自動仕分け
情報共有 紙図面の配布・電話やFAXによる連絡 クラウド経由でのリアルタイム共有・チャット活用
検査精度 担当者の経験やスキル(目視)に依存 AI解析やデータに基づく均一化・客観化
移動時間 現場と事務所の頻繁な往復が必要 遠隔臨場やデータ共有により移動を最小化

DXによる品質管理の強化で得られる具体的な導入効果

建設DXと品質管理を密接に連携させることで、現場には多角的なメリットが生まれます。ここでは、業務効率化による物理的な時間短縮効果から、データの信頼性確保といった品質面での質的な向上まで、具体的な導入効果を深掘りします。

業務効率化による生産性の向上と残業時間の削減

DXツール導入の最大の効果は、付帯業務の大幅な削減です。

  • 事務作業時間の短縮
    電子小黒板と写真台帳作成ソフトの連携により、写真整理等の事務作業時間を50%以上削減できるケースも珍しくありません。

  • コア業務への集中
    現場と事務所の往復回数が減ることで、施工管理や安全管理といった、本来注力すべきコア業務に時間を割くことが可能になります。これは結果として、現場全体の生産性向上に直結します。

ヒューマンエラーの防止と品質の均一化

デジタル化は、品質の「バラつき」を抑える効果があります。

  • トレーサビリティ(追跡可能性)の確保
    システム上での入力制御により、入力漏れを防ぎます。また、操作ログが残るため改ざん防止にもつながり、データの信頼性が向上します。

  • 属人化の解消
    熟練技術者のノウハウをチェックリストやAI判定としてシステム化することで、経験の浅い技術者でも一定水準以上の品質管理が可能になります。

コミュニケーションの円滑化と意思決定の迅速化

情報共有のスピードアップは、プロジェクトのスムーズな進行を助けます。

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情報共有によるメリット
  • 確認待ち時間の短縮
    発注者や協力会社とクラウド上で情報を共有することで、承認フローが電子化され、書類の回覧や確認待ちの時間が短縮されます。

  • 迅速なトラブル対応
    万が一のトラブル発生時も、遠隔から現場の映像やデータを即座に確認できるため、管理者は迅速かつ的確な指示出しが可能になります。

品質管理のDX化におけるよくある不安と解決策

新たなシステム導入には、コストや現場への定着に対する不安がつきものです。ここでは、建設企業がDXを進める際によく直面する心理的ハードルや懸念点を挙げ、それらをどのように解消し乗り越えるべきか、網羅的な解決策を提示します。

導入コストと費用対効果(ROI)への懸念

  • 長期的視点での評価
    初期投資(イニシャルコスト)は発生しますが、残業代の削減、ペーパーレスによる印刷・保管コストの削減、移動費の削減などを加味すると、中長期的にはROI(投資対効果)はプラスになる傾向があります。

  • 助成金の活用
    IT導入補助金など、国や自治体が提供する助成金制度を活用することで、初期導入コストを大幅に抑えることが可能です。

現場のITリテラシー不足と定着への不安

  • UI/UXの重視
    導入ツールを選定する際は、多機能さよりも「直感的に使えるか」「ボタンが押しやすいか」といったUI(ユーザーインターフェース)を重視します。

  • スモールスタートの推奨
    全社一斉導入ではなく、まずは特定の現場や若手チームから試験的に導入(スモールスタート)し、成功体験を作ってから横展開する方法が効果的です。導入時の研修サポートが手厚いベンダーを選ぶのも重要です。

セキュリティリスクとデータ管理への対応

  • 認証基準の確認
    利用するクラウドサービスが、ISO 27001(ISMS)などの国際的なセキュリティ基準を満たしているか確認します。

  • 権限設定とバックアップ
    役職や役割に応じてデータの閲覧・編集権限(アクセス権限)を細かく設定し、内部からの情報漏洩を防ぎます。また、自動バックアップ機能を持つシステムを利用することで、データ消失リスクに備えます。

まとめ

建設DXと品質管理の連携について解説しました。最後に、DX化の本質的な目的と成功への要点を振り返ります。

記事のポイント
  • 建設DXと品質管理の連携は、単なる「ペーパーレス化」が目的ではなく、品質そのものの向上と建設業における働き方改革を実現するための重要な手段である。
  • 主な導入効果として、業務効率化による生産性向上、データの客観性確保による品質の均一化、そしてヒューマンエラーなどのリスク低減が挙げられる。
  • 成功の鍵は、現場のITリテラシーや負担を考慮し、使いやすいツール選定や段階的な導入(スモールスタート)を行うことにある。

よくある質問(FAQ)

建設DXと品質管理の連携に関して、担当者から寄せられることの多い疑問をQ&A形式でまとめました。

Q1. 品質管理のDX化はどの規模の現場から始めるべきですか?

規模にかかわらず導入効果は期待できますが、まずは「工期が長く書類作成が膨大な現場」や「遠隔地で移動負担が大きい現場」から始めると、時間短縮やコスト削減の効果を実感しやすくおすすめです。

Q2. 既存の管理ソフトと連携することは可能ですか?

多くの建設DXツールは、他社システムとのAPI連携やCSV形式での入出力に対応しています。導入前には、現在使用している原価管理システムや工程管理ソフトとの互換性や連携可否をベンダーに確認することをおすすめします。

Q3. 高齢の職人さんが使いこなせるか心配です。

キーボード操作が不要で、タップ操作だけで完結する直感的なスマホアプリ型のツールを選ぶことが重要です。また、音声入力機能を活用することで、文字入力の手間を省くことができ、IT機器に不慣れな方でも利用のハードルを下げることができます。

[出典:国土交通省「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領」]
[出典:国土交通省「BIM/CIM活用ガイドライン」]

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