「品質管理」の基本知識

建設の品質を守るために知るべき基本とは?


更新日: 2025/10/16
建設の品質を守るために知るべき基本とは?

この記事の要約

  • 建設プロジェクトの三大要素「QCD」の最適なバランスがわかる
  • 明日から実践できる品質管理の具体的な4ステップ(PDCA)を解説
  • 品質トラブルを未然に防ぎ、企業の信頼性を高めるポイントを網羅
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建設における品質管理の重要性とは?

建設プロジェクトにおいて、品質管理は構造物の安全性や耐久性を保証し、企業の信頼を築く上で不可欠な要素です。適切な品質管理は、手戻りや将来的な欠陥のリスクを減らし、長期的なコスト削減にも繋がります。この章では、なぜ建設業で品質管理がこれほどまでに重要視されるのか、その根本的な理由と、徹底することで得られる多大なメリットについて深く掘り下げていきます。

品質の低下がもたらす3つの重大なリスク

建設物において品質が確保されていない場合、人命、経済、信頼という3つの側面で深刻なリスクを引き起こす可能性があります。これらは独立した問題ではなく、相互に関連し合って企業経営に大きな打撃を与えます。

安全性の欠如
構造的な欠陥は、地震や台風などの災害時に建物の倒壊リスクを高め、利用者の人命を危険に晒します。日々の利用においても、部材の落下や設備の不具合など、予期せぬ事故の原因となり得ます。

経済的な損失
施工不良による手戻り工事や、完成後の大規模な修繕は、当初の予算を大幅に超える予期せぬコスト増に直結します。また、瑕疵担保責任を問われ、損害賠償に発展するケースも少なくありません。

信頼の失墜
品質に関する問題は、企業の社会的評価を大きく損ないます。一度失った信頼を回復するのは非常に困難であり、将来の受注機会の損失や、金融機関からの融資が厳しくなるなど、事業継続そのものを脅かす事態に繋がりかねません。

ヘルメットをかぶった建設技術者が図面を確認している様子

品質管理がもたらすメリット

徹底した品質管理は、前述のリスクを回避するだけでなく、企業にとって多くの積極的なメリットをもたらします。これは単なるコストではなく、未来への投資と捉えるべきです。

顧客満足度の向上
設計図書や仕様書で要求された通りの品質を提供することで、発注者からの高い評価と信頼を得られます。満足した顧客は、リピート発注や優良な紹介に繋がり、安定した経営基盤を築きます。

生産性の向上
正確な品質管理によって手戻りや修正作業が減少するため、作業工程がスムーズに進み、生産性が向上します。これは、無駄な時間や材料費を削減し、利益率の改善にも直接的に貢献します。

企業価値の向上
高品質な施工実績は、企業の技術力や信頼性の何よりの証明となります。競合他社との差別化要因となり、公共事業の入札などで有利に働くなど、企業のブランドイメージと競争力を高めます。

建設業の品質管理で押さえるべき3つの要素「QCD」

建設プロジェクトの成功は、品質(Quality)コスト(Cost)工程(Delivery)の3つの要素のバランスによって決まります。これらは頭文字を取って「QCD」と呼ばれ、建設業における品質管理の根幹をなす考え方です。これらは互いに密接に関連しており、どれか一つだけを追求すると他の要素に悪影響を及ぼすため、三位一体で管理することが極めて重要です。

品質(Quality):要求される仕様と性能の確保

品質(Quality)とは、設計図書や仕様書に定められた材質、強度、寸法、機能といった要求事項を確実に満たすことです。構造物の安全性や耐久性、快適性に直結する最も基本的な要素であり、発注者が期待する価値を実現するための大前提となります。具体的には、使用する材料が基準を満たしているか、施工方法が規定通りかなどを管理します。

コスト(Cost):予算内での最適な品質実現

コスト(Cost)とは、定められた予算内でプロジェクトを完成させるための費用管理です。建設プロジェクトは多額の費用を要するため、実行予算を適切に管理し、利益を確保することが求められます。ただし、単なるコスト削減だけを目指すのではなく、材料の選定や工法の工夫によって、品質を損なわずにコストを最適化する視点が重要です。

工程(Delivery):納期遵守と品質の両立

工程(Delivery)とは、計画された工期内に工事を完了させるための進捗管理です。納期を守ることは、発注者の事業計画や、後続工事への影響を考慮する上で非常に重要です。しかし、無理な工期短縮は作業の省略や確認不足を招き、品質低下の直接的な原因となります。天候など不確定要素も考慮した実現可能な工程計画と、日々の進捗管理が品質との両立の鍵です。

QCDバランスの重要性

QCDは、どれか一つが突出していても良いプロジェクトとは言えません。常に全体のバランスを意識することが成功への道筋です。

・コストだけを追求すると、安価で質の低い材料を使ったり、必要な人員を削減したりすることで、品質や安全性が犠牲になるリスクがあります。
品質ばかりを重視しすぎると、高性能な材料や特殊な工法にこだわり、コスト超過や工程遅延を招く可能性があります。
・納期(工程)を優先するあまり、必要な検査や養生期間を省略すると、最終的な品質に深刻な問題が生じることがあります。

【体系的に理解】建設品質管理の4ステップ(PDCAサイクル)

ここでは、建設の品質管理を体系的に進めるための国際的なフレームワーク「PDCAサイクル」を、4つの明確なステップで解説します。この手法は、継続的な品質向上を実現するための基本であり、建設業法においても、施工技術の確保に関する基本的な考え方として重要視されています。

STEP1: 品質計画(Plan)

目的
プロジェクトで達成すべき品質目標を明確にし、それを実現するための管理方法を具体的に定める段階です。ここで作成する「品質計画書」が、以降の全ての工程の指針となります。

主な手順
1. 品質の目標設定:設計図書や仕様書に基づき、構造物の強度や寸法精度などの目標を「コンクリートの圧縮強度を30N/㎟以上」のように具体的な数値で設定します。
2. 品質計画書の作成:管理項目、管理基準、試験方法、管理頻度、記録様式などを明記した計画書を作成します。

ポイント
計画は、誰が見ても理解できる客観的かつ実現可能な内容にすることが重要です。
[出典:国土交通省「官庁施設の品質確保に関する技術基準(令和4年版)」]
[出典:e-Gov法令検索「建設業法」]

STEP2: 品質管理の実施(Do)

目的
STEP1で作成した品質計画書に基づき施工を行い、そのプロセスを客観的な証拠として正確に記録する段階です。

主な手順
1. 計画に沿った施工:定められた手順、工法、材料で作業を正確に進めます。
2. 施工記録の作成:工程ごとの施工状況がわかる写真や、使用材料が仕様通りかを確認した材料検収記録、各種試験結果などを帳票に残します。

ポイント
記録は、後から第三者が確認しても状況がわかるように、5W1Hを意識して整理・保管することが求められます。

STEP3: 品質検査・評価(Check)

目的
施工されたものが、品質計画書で定めた基準や目標を満たしているかを客観的に確認・評価する段階です。問題の早期発見に繋がります。

主な手順
1. 社内検査:まず施工会社の担当者が自主的に検査を行います。
2. 段階確認・立会検査:特定の工程が完了した節目で、発注者や工事監理者が立ち会いのもと、計画との照合を行います。

ポイント
検査で得られたデータは、次の改善(Act)に繋げるための重要な情報源となります。

STEP4: 品質改善(Act)

目的
検査(Check)で見つかった問題点を是正し、その根本原因を分析して再発防止策を講じる段階です。このステップが、組織全体の品質管理レベルを向上させます。

主な手順
1. 是正措置の実施:指摘された不具合箇所を速やかに修正します。
2. 原因分析と再発防止:なぜその問題が起きたのかを分析し、作業手順の見直しやマニュアルの改訂、関係者への教育といった対策を講じます。

ポイント
改善した内容は次のプロジェクトの品質計画(Plan)にフィードバックすることで、サイクルが一周し、より高いレベルでの品質管理が実現します。

品質管理を成功させるための4つのポイント

効果的な品質管理を実現するためには、PDCAサイクルのような手法を導入するだけでなく、組織全体で品質に対する意識を高め、それを支える仕組みを構築することが重要です。ここでは、建設プロジェクトにおける品質管理を成功に導き、継続的に高い品質を生み出すための特に重要な4つのポイントを紹介します。

1. 明確で具体的な品質基準の設定

品質管理の第一歩は、誰もが同じように判断できる基準を持つことです。「良い品質」や「丁寧に仕上げる」といった曖昧な表現では、担当者によって解釈が異なり、品質にばらつきが生じてしまいます。「コンクリートの圧縮強度は計画供用期間に応じて30N/㎟以上とする」「内壁塗装の色ムラは、3m離れた位置から目視で確認できないこと」のように、誰が見ても判断できる定量的・具体的な基準を設定することが不可欠です。これにより、客観的な評価と的確な指示が可能になります。

2. 関係者間の密な情報共有と連携

建設プロジェクトには、発注者、設計者、施工者、そして多数の専門工事を行う協力会社など、非常に多くの関係者が関わります。これらの関係者間の認識のズレや情報伝達の不足が、品質問題の大きな原因となります。定期的な工程会議や打ち合わせはもちろん、近年ではクラウド型の情報共有ツールなどを活用し、リアルタイムで図面や仕様書、変更点などを共有する体制を築くことが極めて有効です。

建設プロジェクトの関係者が集まり打ち合わせをしている様子

建設プロジェクトにおける関係者別の役割と連携のポイント

関係者 主な役割 連携のポイント
発注者 品質の要求、完成物の検収 要求する品質レベルを具体的に伝え、進捗確認や検査に積極的に協力する。
設計者 設計図書の作成、設計意図の伝達 設計意図が施工者に正確に伝わるよう、図面だけでは伝わりにくい部分を補足説明する。
施工者 品質計画の立案、施工、品質管理全般 設計図書を正しく理解し、計画通りに施工・管理を行う。協力会社への的確な指示と管理を行う。
協力会社 専門工事の実施 担当する工種の品質に責任を持ち、施工者との密な連携(報告・連絡・相談)のもとで作業を進める。

3. 施工プロセスの「見える化」

施工状況を写真や帳票で正確に記録し、整理・保管することは、品質を確保するための重要な活動です。これらの記録は、発注者に対して品質を証明するための客観的な証拠となるだけでなく、万が一問題が発生した際に、迅速に原因を究明するための貴重な手がかりとなります。近年では、専用のアプリやクラウドサービスを活用し、撮影した写真に自動で日時や位置情報を付加するなど、記録作業の効率化と信頼性の向上を図る動きが広がっています。

4. 技術者のスキルアップと継続的な教育

最終的に品質管理を担うのは「人」です。どんなに優れたシステムやマニュアルがあっても、それを使う技術者の知識やスキル、そして品質に対する意識が低ければ、高い品質は実現できません。最新の技術や工法に関する知識を習得するための社内研修や外部講習への参加、そして「施工管理技士」などの資格取得を奨励する制度など、技術者の能力を継続的に高めていく仕組みが、組織全体の技術レベルと品質意識を向上させます。

まとめ

本記事では、建設の品質を守るために知っておくべき品質管理の基本について、その重要性から具体的な手法、成功のポイントまでを網羅的に解説しました。

建設における品質管理とは、単に完成後の検査を行うことだけを指すのではありません。プロジェクトに関わる全員が「安全で良いものをつくる」という共通の意識を持ち、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)のサイクルを確実に回していく組織的な活動そのものです。建設物の品質は、人々の安全な暮らしと社会活動を支える基盤であり、その責任は非常に大きいと言えます。

この記事で解説したQCDのバランス、PDCAサイクルによる体系的な管理手法、そして品質管理を成功に導くための4つのポイントを改めて確認し、自社の品質管理体制を見直すきっかけとしていただければ幸いです。安全で、付加価値の高い建設物を社会に提供し続けるために、日々の品質管理を着実に実践していきましょう。

よくある質問

Q1. 品質管理と品質保証の違いは何ですか?
A1. 品質管理(QC:Quality Control)は、製品やサービスが「品質要求事項を満たす」ようにするための、主に生産・施工段階での検査や工程管理といった活動を指します。一方、品質保証(QA:Quality Assurance)は、製品やサービスが「顧客の要求を満たし、信頼性を確保している」ことを保証するための、企画・設計から製造、販売、アフターサービスまでを含む、より広範で体系的な活動を指します。品質管理は品質保証の一部と位置づけられます。

Q2. 建設業の品質管理に関する資格はありますか?
A2. 直接的に「品質管理」という名称の国家資格はありません。しかし、建設業法に基づく「建築施工管理技士」「土木施工管理技士」といった国家資格の業務には、品質管理が重要な要素として含まれており、試験でも品質管理に関する深い知識が問われます。また、品質マネジメントシステムの国際規格であるISO 9001に関する知識や内部監査員資格なども、品質管理業務に非常に役立ちます。

Q3. 最近の品質管理のトレンドはありますか?
A3. ICT(情報通信技術)の活用が大きなトレンドです。具体的には、以下のような技術が品質管理の効率化と高度化に貢献しています。
ドローン: 広範囲の測量や、人の立ち入りが困難な場所の進捗確認・検査に活用されています。
BIM/CIM: 3次元モデルで建物の情報を一元管理し、設計・施工段階での不整合を事前に防ぎ、関係者間の合意形成を円滑にする手法です。
クラウドサービス: 施工写真や各種帳票をクラウド上で管理・共有することで、リアルタイムな情報連携とペーパーレス化を実現します。

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