品質記録の電子化とは?管理効率の改善方法を紹介

この記事の要約
- 検索性と業務効率が向上し工数削減と品質改善を実現
- 改ざん防止とセキュリティ強化でコンプライアンス遵守
- 段階的導入と自社に合うシステム選定が成功のポイント
- 目次
- 品質管理における「品質記録の電子化」とは
- 品質記録の定義と重要性
- 紙媒体管理と電子化管理の違い
- 品質管理の記録を電子化するメリット
- 検索性の向上と業務効率化
- データの改ざん防止とセキュリティ強化
- 情報の共有とリアルタイムな品質管理
- 品質管理の電子化に向けたよくある不安と対策
- 導入コストと費用対効果の懸念
- 現場のITリテラシーと定着への不安
- 法規制やISO対応への適合性
- 品質管理の効率化を実現する電子化の進め方
- 1. 現状の課題の洗い出しと目的の明確化
- 2. 自社に合ったシステム要件の定義と選定
- 3. 運用ルールの策定とトライアル導入
- 品質管理システムの選び方と比較ポイント
- オンプレミス型とクラウド型の違い
- 汎用ツールか品質管理専用システムか
- まとめ
- よくある質問(FAQ)
- Q1. すべての品質記録を一気に電子化する必要がありますか?
- Q2. 電子化されたデータは原本として認められますか?
- Q3. Excelでの電子化管理にはどのようなリスクがありますか?
品質管理における「品質記録の電子化」とは
製造業や建設業などの品質管理業務において、検査結果や不適合対応などの記録を従来の紙媒体ではなく、デジタルデータとして作成・保存・管理することを品質記録の電子化と呼びます。ここでは、品質記録の定義と、なぜ今、紙から電子への移行が強く求められているのか、その背景と違いについて解説します。
品質記録の定義と重要性
品質記録とは、製品やサービスが要求事項を満たしていることを証明するための客観的な証拠書類を指します。ISO9001(品質マネジメントシステム)などの国際規格においても、これらの記録を適切に管理・維持することは適合性の証拠として極めて重要視されています。
- 主な品質記録の種類
- 検査成績書
受入検査、工程検査、出荷検査などの結果を記録したもの - 不適合報告書
規格外の製品が発生した際の状況、原因、処置内容の記録 - 製造記録(バッチ記録)
製造年月日、使用設備、担当者、製造条件などの履歴 - 是正処置・予防処置報告書
問題の再発防止策や未然防止策の実施記録 - 教育訓練記録
作業者のスキルや資格取得状況の記録
- 検査成績書
これらの記録は、製品事故やクレームが発生した際に原因を究明する**トレーサビリティ(追跡可能性)**を確保するために不可欠です。
紙媒体管理と電子化管理の違い
従来の「紙ベースでの管理」と、システム等を活用した「電子化管理」には、運用面で大きな違いがあります。紙媒体は直感的に閲覧できる反面、物理的な制約がつきまといます。一方、電子化は検索性や共有性に優れています。
両者の主な違いを比較表に整理しました。
表:紙媒体による管理と電子データによる管理の比較
| 比較項目 | 紙媒体による管理 | 電子データによる管理 |
|---|---|---|
| 検索性 | ファイル棚から手作業で探す必要があり、時間を要する | キーワード検索等で、必要なデータを瞬時に抽出可能 |
| 保管スペース | 専用の書庫やキャビネットが必要。年々スペースを圧迫する | サーバーやクラウド上に保存するため、物理スペースは不要 |
| データ共有 | 原本が1箇所にしかないため、同時閲覧や遠隔地共有が困難 | ネットワーク経由で、複数人が同時にどこからでもアクセス可能 |
| セキュリティ | 紛失、盗難、火災による焼失リスクが高い | アクセス権限設定、ログ監視、バックアップによりリスクを低減 |
| 改ざん検知 | 書き換えの痕跡がわかりにくく、防止が難しい | 修正履歴(ログ)が自動保存され、誰がいつ変更したか追跡可能 |

品質管理の記録を電子化するメリット
品質記録を電子化することは、単なるペーパーレス化にとどまりません。現場の負担軽減から経営レベルのリスク管理まで、多岐にわたるメリットがあります。ここでは、社内稟議や関係者への説明に活用できる具体的なメリットを3つの観点で解説します。
検索性の向上と業務効率化
電子化の最大のメリットは、検索スピードの劇的な向上です。紙のファイルの場合、過去の類似トラブルや特定のロット番号の検査記録を探すために、書庫へ行き、大量のバインダーをめくる必要がありました。
電子化システムを導入することで以下の効率化が見込めます。
- 効率化の具体例
- 瞬時のデータ呼び出し
日付、品目、担当者、不適合内容などの属性で検索し、数秒で目的の記録に到達できます。 - 過去データの活用
過去の不具合事例や傾向分析が容易になり、品質改善のPDCAサイクルを高速化できます。 - 入力工数の削減
手書きによる転記ミスや、字の判読にかかる時間を削減し、本来の品質管理業務(分析・改善)に時間を割けるようになります。
- 瞬時のデータ呼び出し
データの改ざん防止とセキュリティ強化
品質コンプライアンスの観点から、データの信頼性確保は急務です。電子化はセキュリティ強化に大きく寄与します。
- アクセス権限の管理
「閲覧のみ」「編集可能」「承認可能」など、役職や担当に応じて細かい権限設定が可能です。 - 監査証跡(オーディットトレイル)
誰が、いつ、どのデータを操作したかがシステムログとして自動的に記録されます。これにより不正や改ざんの抑止力となります。 - 災害対策(BCP)
紙の記録は火災や水害で消失すると復旧不可能ですが、クラウド等にバックアップを持つことで、万が一の際もデータを守ることができます。
情報の共有とリアルタイムな品質管理
電子化は情報の「サイロ化(孤立)」を防ぎ、組織全体でのリアルタイムな連携を実現します。
- 部門間の連携強化
製造現場で入力された検査データを、品質保証部や設計開発部が自席ですぐに確認できます。不適合発生時の初動対応が迅速化します。 - リモート承認の実現
承認者が外出中やテレワーク中であっても、システム上で記録の確認・承認が可能です。これにより、出荷判定のリードタイム短縮につながります。
品質管理の電子化に向けたよくある不安と対策
電子化の必要性は理解していても、導入にはコストや現場の抵抗といったハードルが存在します。ここでは、比較検討フェーズで挙がりやすい「不安要素」とその「対策」について解説します。
導入コストと費用対効果の懸念
「システム導入には高額な費用がかかるのではないか」という不安は一般的です。しかし、長期的な視点で見るとコスト削減効果が上回るケースが多くあります。
- コストの考え方
初期導入費(イニシャルコスト)だけでなく、ランニングコストと、削減できるコスト(人件費、保管スペース代、用紙・印刷代)をトータルで比較します。 - 対策
すべての機能を備えた高額なシステムではなく、必要な機能に絞ったクラウド型サービス(SaaS)を選択することで、初期費用を抑えることが可能です。
現場のITリテラシーと定着への不安
「現場の作業者が使いこなせるか」「タブレット操作に手間取って生産性が落ちないか」という懸念です。
- UI/UXの重要性
選定時には、ITに不慣れな人でも直感的に操作できる画面設計(大きなボタン、選択式入力など)のツールを選ぶことが重要です。 - 対策
導入初期は手厚い教育を行うとともに、マニュアル動画の用意や、現場リーダー(キーマン)を中心とした段階的な定着支援を行います。
法規制やISO対応への適合性
電子データが法的な原本として認められるかどうかの確認が必要です。
- 確認すべき法規制・規格のポイント
- e-文書法(電子文書法)
見読性(ディスプレイ等で明瞭に読めること)、完全性(滅失・毀損・改ざんの防止)、機密性(アクセス制御)、検索性(データの抽出が可能)の要件を満たしているか確認します。 - 電子帳簿保存法
国税関係書類を含む場合の保存要件(タイムスタンプや訂正削除履歴の保存など)への対応が必要です。 - ISO9001
「7.5.3 文書化した情報の管理」に基づき、版数管理や承認フロー、識別・検索性が規格に適合しているかを確認します。
- e-文書法(電子文書法)
品質管理の効率化を実現する電子化の進め方
品質記録の電子化を失敗させないためには、いきなりシステム導入に踏み切るのではなく、正しい順序で計画を立てることが重要です。SGE(検索生成体験)やHow-To構造を意識し、具体的なステップを以下に提示します。

1. 現状の課題の洗い出しと目的の明確化
まずは「なぜ電子化するのか」という目的を定義し、現場が抱えているボトルネックを可視化します。漠然とした導入は、現場の混乱を招く原因となります。
- 実施すべきアクションと課題例
- 実施アクション
現場担当者へのヒアリング、タイムスタディ(記録作業にかかる実時間の計測) - 課題リスト(例)
承認フローの停滞による出荷待ち時間の発生、紙ファイルの検索に平均30分以上かかっている、保管スペース不足による外部倉庫コストの増大、手書き文字の読み間違いによる誤発注
- 実施アクション
2. 自社に合ったシステム要件の定義と選定
すべての記録を一気に電子化する必要はありません。ISO9001の要求事項を満たしつつ、効果が出やすい領域から選定します。
- 優先順位の決定
検索頻度の高い「検査成績書」や、共有スピードが命となる「不適合報告書」を優先します。 - 要件定義のポイント
入力環境(タブレット、PC、ハンディターミナル)、連携性(既存の生産管理システムや測定機器との連携)、法対応(電子帳簿保存法要件など)を明確にします。
3. 運用ルールの策定とトライアル導入
システム導入前に、電子化後の「運用ルール」を策定し、一部のラインで試験運用(スモールスタート)を行います。
- ファイル命名規則
検索性を担保するための統一ルール(例:YYYYMMDD_製品コード_工程名)を定めます。 - フォルダ階層構造
誰もが直感的に辿り着けるディレクトリ構成を設計します。 - トライアルの重要性
全社一斉導入ではなく、特定の1ラインまたは1部署で先行導入し、マニュアルの不備やシステムバグを洗い出してから展開することで、定着率が大幅に向上します。
品質管理システムの選び方と比較ポイント
市場には多くのツールが存在します。自社に最適なツールを選ぶための判断基準を解説します。
オンプレミス型とクラウド型の違い
システムの提供形態には大きく分けて「オンプレミス型(自社サーバー設置)」と「クラウド型(ネット経由利用)」があります。
表:オンプレミス型とクラウド型の比較
| 項目 | オンプレミス型 | クラウド型 |
|---|---|---|
| 導入スピード | ハードウェア調達等で数ヶ月かかる場合がある | 契約後、数日〜数週間ですぐに利用開始可能 |
| 初期費用 | サーバー構築費やライセンス料で高額になりがち | 初期費用は安価で、月額利用料がメインとなる |
| カスタマイズ性 | 自社業務に合わせて柔軟かつ高度な改修が可能 | 基本機能の範囲内での利用が主だが、近年は柔軟性も向上 |
| メンテナンス | 自社でサーバー保守・管理を行う必要がある | ベンダーが管理するため、保守の手間がかからない |
中小規模やスモールスタートを希望する場合は、クラウド型が選ばれる傾向にあります。
汎用ツールか品質管理専用システムか
ExcelやGoogleスプレッドシートなどの「汎用ツール」で電子化するか、「品質管理専用システム(QMS)」を導入するかも重要な分岐点です。
- 汎用ツール(Excel等)
手軽に始められますが、データ量が増えると動作が重くなり、マクロが属人化しやすいリスクがあります。また、排他制御(同時編集)に弱い点も注意が必要です。 - 品質管理専用システム
原材料から出荷までを紐付けできるトレーサビリティ機能や、デジタルノギス等の測定値を自動入力する機器連携機能を備えています。入力ミスをゼロにし、本格的な品質保証体制を構築する場合は、専用システムの導入が推奨されます。
まとめ
品質記録の電子化は、業務効率化だけでなく、データの信頼性確保やリスク管理といった経営課題を解決する重要な施策です。単に「紙をなくす」ことだけを目的にせず、「データを活用して品質を向上させる」ことをゴールに設定しましょう。
まずは現状の紙管理における課題をリストアップし、特定の工程からスモールスタートで電子化を検討してみてはいかがでしょうか。
よくある質問(FAQ)
ここでは、品質記録の電子化に関してよく寄せられる質問とその回答を紹介します。
Q1. すべての品質記録を一気に電子化する必要がありますか?
A. いいえ、すべての記録を一度に電子化する必要はありません。一斉導入は現場の混乱を招くリスクがあります。まずは「検索頻度が高い書類」や「承認スピードが求められる書類」など、優先順位の高いものから段階的に進めることが推奨されます。
Q2. 電子化されたデータは原本として認められますか?
A. はい、認められます。ただし、e-文書法や電子帳簿保存法などの要件(見読性、完全性、機密性、検索性)を満たし、社内で適切な管理規定(アクセス権限やバックアップ運用など)のもとで運用されている必要があります。
Q3. Excelでの電子化管理にはどのようなリスクがありますか?
A. Excelなどの表計算ソフトだけでの管理には、以下のリスクがあります。
- 先祖返り:古いファイルを誤って上書きしてしまう。
- 同時編集不可:誰かが開いていると編集できない。
- 属人化:複雑なマクロや計算式を作成した担当者が不在になると修正できなくなる。
- データ破損:データ量が増加するとファイルが破損しやすくなる。
長期的な管理には、データベース型のシステム導入が安全です。
[出典:JIS Q 9001:2015 (ISO 9001:2015) 品質マネジメントシステム-要求事項]
[出典:厚生労働省・経済産業省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」]
[出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答」]





