「見積もり」の基本知識

見積と実行予算のズレとは?防ぐための管理手法とは


更新日: 2025/12/24
見積と実行予算のズレとは?防ぐための管理手法とは

この記事の要約

  • 見積もりと実行予算の混同が赤字の主因
  • ズレの原因は要件の曖昧さや市場変動
  • 防止策は標準原価設定と予実管理の徹底
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見積もりと実行予算の違いとは?利益確保の基礎知識

プロジェクトの利益を確実に確保するためには、顧客に対して提示する金額と、社内で管理すべき原価の目標額の違いを明確に区別することが第一歩です。ここでは、混同されがちな「見積もり」と「実行予算」の正確な定義、それぞれの役割、そして利益を生み出すための相互関係について、基礎から解説します。

見積もりの定義と役割

見積もりとは、受注前に顧客に対して提示する「契約金額(売価)」のことです。
これは、企業が工事やサービスを請け負う対価として提示するものであり、顧客にとっては発注を判断するための最も重要な根拠資料となります。見積もりは「受注を獲得するための提案書」としての役割と、「契約金額の根拠」としての役割を担っています。

実行予算の定義と役割

実行予算とは、プロジェクトを完了させるために社内で設定する「原価の目標額」のことです。
見積もりが「外向きの数字」であるのに対し、実行予算は「内向きの管理指標」です。実際に工事やプロジェクトを進める現場担当者が、材料費や外注費、人件費などをどの範囲内で収めるべきかを示す指針となります。実行予算を作成する目的は、プロジェクト完了時に予定通りの利益を残すためのコストコントロールにあります。

見積もりと実行予算の関係性

利益確保の仕組みは、以下の基本構造で成り立っています。

利益算出の基本式

見積もり金額(売価) - 実行予算(原価目標) = 予定利益

この数式が示す通り、見積もりが適切であっても、実行予算が超過してしまえば利益は減少します。逆に、実行予算をどれだけ切り詰めても、見積もりの段階で採算が取れていなければ利益は出ません。見積もりと実行予算の乖離(ズレ)こそが、プロジェクトの収支を悪化させる最大の要因です。

以下の表は、見積もりと実行予算の違いを項目別に整理したものです。

項目 見積もり 実行予算
対象 顧客(社外) 社内プロジェクトチーム
金額の性質 売価(収入) 原価(支出目標)
作成タイミング 受注前(提案時) 受注直後(着工前)
目的 契約の締結・受注獲得 利益の確保・コスト管理

[出典:一般財団法人建設業振興基金「建設業の経営分析と管理」等を基に作成]

見積もりと実行予算にズレが生じる主な原因

多くの現場で「終わってみたら赤字だった」という事態が起こるのはなぜでしょうか。その背景には、人為的なミスから外部環境の変化まで、複合的な要因が存在します。ここでは、見積もりと実行予算にズレを生じさせる主な4つの原因について、構造的に解説します。

要件定義の曖昧さと仕様変更

最も多い原因の一つが、見積もり段階での要件定義の甘さです。顧客の要望を詳細まで詰め切れていない状態で「概算見積もり」を提出し、そのまま受注してしまうケースが該当します。
また、プロジェクト進行中の仕様変更も大きなリスク要因です。「ちょっとした変更だから」と現場判断で対応し、追加費用を見積もりに反映しないまま実行予算(原価)だけが積み上がっていくことで、最終的な利益が圧迫されます。

見積もりと実行予算のズレを防ぐために連携して打ち合わせをする現場監督と営業担当者

資材費・人件費の変動(市場価格の影響)

建設業や製造業において無視できないのが、外的要因によるコスト変動です。
見積もりを作成してから実際に工事が始まるまでにはタイムラグがあります。この間に、円安による輸入資材の高騰や、慢性的な人手不足による労務費の上昇が発生すると、当初の実行予算では収まりきらなくなります。市場価格の変動リスクを見積もりに織り込んでいない場合、この差額がそのまま損失となります。

どんぶり勘定とヒューマンエラー

根拠のない予測、いわゆる「どんぶり勘定」もズレの原因です。「過去のあの案件と同じくらいで済むだろう」という担当者の勘に頼った見積もりは、実際の現場状況と乖離するリスクが高くなります。
加えて、単純なヒューマンエラーも見逃せません。

  • 数量の拾い出しミス(桁間違いなど)
  • 入力漏れ
  • 計算式の誤り

これらは基本的なミスですが、大規模なプロジェクトになるほど、一つのミスが数百万円単位のズレにつながることがあります。

現場と営業の連携不足

組織的な問題として、営業部門と現場部門の連携不足が挙げられます。
営業担当者が受注目標を達成するために、現場の状況や適正コストを確認せず、安易な値引きや厳しい納期条件を呑んでしまうケースです。この場合、現場は最初から実現不可能な実行予算を押し付けられる形となり、必然的に予算オーバー(赤字)が発生します。

見積もりの精度を高め、ズレを防ぐ3つの管理ステップ

見積もりと実行予算のズレを防ぎ、確実に利益を出すためには、個人のスキルに依存しない組織的な管理体制が必要です。ここでは、過去データの活用や予実管理の徹底など、今日から取り組める具体的な管理手法を3つのステップで紹介します。

STEP1:過去の実績データを活用した「標準原価」の設定

まずは、見積もりの根拠となる「基準」を作ります。担当者の勘や経験に頼るのではなく、過去の類似プロジェクトの原価データを集計し、「この作業には標準的にこれくらいの費用がかかる」という「標準原価」を社内で設定しましょう。

  • データの蓄積
    完了したプロジェクトの原価情報を詳細に記録・保存します。

  • 標準原価の設定
    蓄積されたデータから、作業単位ごとの平均的な単価や工数を算出します。

  • 属人化の解消
    この標準原価をベースに見積もりを作成することで、誰が作成しても一定の精度を保てるようになります。

STEP2:実行予算の「階層化(WBS)」と精緻な作成

次に、実行予算を大雑把な「一式」ではなく、詳細な階層構造(WBS:Work Breakdown Structure)で作成する必要があります。

  • 大項目の設定
    例:基礎工事、躯体工事、内装工事など

  • 中項目の設定
    例:コンクリート打設、鉄筋組立など

  • 小項目の設定
    例:材料費、人件費、機材費など

このように細分化することで、どの工程でコストが膨らみそうか、具体的なリスク箇所を可視化できます。

STEP3:着工後の「リアルタイム予実管理」と修正

最後に、プロジェクト進行中のモニタリングです。工事が終わってから答え合わせをするのではなく、毎月または工程の区切りごとに「予算」と「実績」を比較(予実対比)します。ズレを早期に発見できれば、以下のような対策が可能になります。

  • 工法の見直し
    コストがかさんでいる工程の作業方法を変更する。

  • 追加費用の交渉
    仕様変更が原因の場合、顧客へ追加費用を請求する。
管理のポイント:承認フローの統一

組織としてミスを防ぐために、見積もり作成のルールと承認フローを厳格化することも重要です。

  • 担当者一人で完結させず、上長や別の担当者が必ずダブルチェックを行う。
  • 一定額以上の値引きや仕様変更時には、責任者の承認を必須とする。

脱エクセル?見積もり管理におけるツール導入の比較検討

多くの中小企業では、依然としてExcel(エクセル)などの表計算ソフトで見積もりや予算管理が行われています。しかし、事業規模が拡大するにつれ、Excel管理の限界が露呈することも少なくありません。ここでは、Excelと専用の管理システムを比較し、どちらを選択すべきかの判断材料を提供します。

エクセル管理のメリットと限界

Excelは導入コストが低く手軽ですが、組織的な管理には不向きな側面があります。

  • メリット
    手軽、導入コストがかからない、自由度が高い。

  • 限界
    データの共有が難しい(先祖返りリスク)、計算式ミスのリスク、過去データの検索・活用が困難、属人化しやすい。

管理システムのメリットとデメリット

専用システムはコストがかかりますが、長期的なデータ資産化に寄与します。

  • メリット
    データの蓄積・共有が容易、計算ミスの防止、承認フローのシステム化、リアルタイムな予実管理。

  • デメリット
    導入コストがかかる、定着までの教育が必要。

以下は、ツール選定の参考となる比較表です。

項目 エクセル(表計算ソフト) 原価・見積管理システム
コスト 低(既存ライセンス) 高(導入・維持費)
共有性 低い(ファイル単位) 高い(リアルタイム共有)
ミス防止 属人的な注意が必要 システムによる制御あり
データ活用 困難 容易(分析機能など)

正確な見積もり管理を怠った場合に生じるリスク

「忙しいから」といって見積もりや実行予算の管理をおろそかにすることは、企業経営にとって致命的なリスクを招く可能性があります。ここでは、管理不足が引き起こす具体的なリスクについて解説します。

赤字プロジェクトの発生とキャッシュフローの悪化

最大のリスクは、プロジェクト完了後に赤字が発覚することです。
工事や制作の過程でコストが膨らんでいることに気づかず、請求段階になって初めて「利益が出ていない」、あるいは「原価割れしている」事実に直面します。建設業などでは支払いが先行することが多いため、一つの赤字案件が資金繰りを急速に悪化させ、最悪の場合、黒字倒産を引き起こす引き金にもなりかねません。

見積もりのズレにより赤字が発覚し頭を抱えるビジネスパーソン

顧客および社内からの信頼低下

管理の甘さは、対外的な信用問題にも発展します。

  • 顧客トラブル
    どんぶり勘定での受注により、後から「想定外の費用がかかった」として追加請求を行えば、顧客とのトラブルは避けられません。

  • 社内評価の低下
    赤字プロジェクトを連発すれば、会社全体の利益を食いつぶすことになります。これは、真面目に利益を出している他部門やチームの士気を下げ、組織全体のパフォーマンス低下を招きます。

参考資料・出典

本記事の執筆にあたり、以下の公的なガイドラインや情報を参照・考慮しています。

  • [出典:国土交通省「公共工事の品質確保の促進に関する法律」]
  • [出典:国土交通省「建設業における適正な工期設定等のためのガイドライン」]
  • [出典:一般財団法人建設業振興基金「建設業の経営分析と管理」]

よくある質問(FAQ)

最後に見積もりと実行予算の管理に関して、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q. 実行予算はどのタイミングで作成すべきですか?

受注が確定した後、着工(プロジェクト開始)前に作成するのが一般的です。可能な限り早い段階で作成することで、目標利益が明確になり、発注先との価格交渉や、工程ごとのコストコントロールが可能になります。着工後に作成していては、コスト削減の打つ手が限られてしまいます。

Q. 見積もりの精度を上げるにはどうすればよいですか?

主に以下の取り組みが有効です。

  • 過去データの参照
    類似案件の実績値をベースにする。

  • 項目の細分化
    作業項目を細かく分解し、抜け漏れを防ぐ(WBSの活用)。

  • 承認フローの徹底
    複数人によるチェック体制を作る。

  • システムの活用
    専用ツールを導入してデータを蓄積し、属人化を排除する。

Q. 小規模な案件でも実行予算は必要ですか?

はい、必要です。
案件の規模に関わらず、「目標となる原価(予算)」が存在しなければ、そのプロジェクトが利益を出しているのか、赤字なのかを判断することができません。特に小規模案件は件数が多くなる傾向があり、一つひとつの管理をおろそかにすると、トータルで大きな損失を生むリスクがあります。

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