「安全管理」の基本知識

建設現場でのヒューマンエラー対策は?要点を解説


更新日: 2025/11/05
建設現場でのヒューマンエラー対策は?要点を解説

この記事の要約

  • 建設現場のヒューマンエラーが起こる3つの原因
  • エラーを防ぐ「人間・環境・管理」の具体的対策
  • 安全管理を継続するためのPDCAと課題解決
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建設現場におけるヒューマンエラーとは?

建設現場におけるヒューマンエラーとは、意図しない作業員の行動や判断ミスが、事故や不具合につながることを指します。これは単に「個人の不注意」だけでなく、作業環境や管理体制など複数の要因が複雑に絡み合って発生します。安全管理の観点からは、このエラーの背景にある根本原因を理解し、対策を講じることが極めて重要です。

ヒューマンエラーが発生する主な原因

ヒューマンエラーは、個人の特性だけでなく、作業を取り巻く環境や管理体制が引き金となって発生します。主な原因は「人間的要因」「環境的要因」「管理的要因」の3つに大別されます。

ヒューマンエラーの3大要因

人間的要因(作業者自身):
 ・ 不注意、思い込み、勘違い
 ・ 知識不足、技能未熟
 ・ 慣れ、油断
 ・ 疲労、体調不良、焦り

環境的要因(作業環境):
 ・ 作業手順が複雑、または不明確
 ・ 工具や設備の不備、使いにくさ
 ・ 照明不足、騒音、悪天候
 ・ 整理整頓(5S)の不徹底

管理的要因(マネジメント):
 ・ 不十分な安全教育や訓練
 ・ 人員不足、不適切な人員配置
 ・ 作業指示の不徹底、コミュニケーション不足
 ・ 危険源の放置、安全ルールの形骸化

[出典:厚生労働省「職場のあんぜんサイト:ヒューマンエラー」に基づく分類]

代表的なヒューマンエラーの分類

ヒューマンエラーは、その発生の仕方によって「実行エラー」と「計画エラー」に分類できます。

表:ヒューマンエラーの代表的な分類

分類 概要 建設現場での例
実行エラー やろうとした事は正しかったが、実行段階で失敗 ・足場を組む際、手順は合っていたが手が滑って部材を落とした(スリップ)
・手順の一部(確認作業)をうっかり忘れた(ラップス)
計画エラー そもそも計画や意図が間違っていた ・危険性を正しく認識せず、誤った作業手順を計画・実行した(ミステイク)
・ルールを知らずに禁止区域に立ち入った(ミステイク)

実行エラーは「うっかりミス」、計画エラーは「勘違い」や「知識不足」によるミスと言い換えられます。

なぜ建設現場の安全管理でヒューマンエラー対策が重要なのか?

建設現場の事故の多くは、何らかのヒューマンエラーが関与しているとされています。そのため、ヒューマンエラーを「仕方ない」と放置することは、重大な労働災害を容認することに他なりません。効果的な安全管理体制を構築する上で、ヒューマンエラー対策は避けて通れない最重要課題です。

ヒューマンエラーが引き起こす重大なリスク

建設現場における一つのヒューマンエラーが、取り返しのつかない事態につながる可能性があります。

・ 墜落・転落、飛来・落下、感電などの労働災害
・ 重機との接触事故
・ 火災、爆発
・ 構造物の品質低下、倒壊
・ 工期の遅延、経済的損失
・ 企業の社会的信用の失墜

対策を怠った場合の潜在的な問題

「ウチは大丈夫」という油断が、将来的な問題を引き起こす可能性があります。ヒューマンエラー対策を怠ることは、目に見えないリスクを蓄積させる行為です。

事故の再発: 原因を分析し対策しなければ、同じようなエラーや事故が繰り返されます。
作業員の士気低下: 危険な職場環境は、作業員の不安や不満を増大させ、モチベーションを低下させます。
法的責任: 安全配慮義務違反などが問われ、企業や管理者が法的な責任を負う可能性があります。

【要点】ヒューマンエラーを防ぐための実践的な安全管理対策

ヒューマンエラーは「ゼロ」にはできませんが、「減らす」ことは可能です。重要なのは、エラーを起こした個人を責めるのではなく、エラーが起きにくい環境や仕組みを作ることです。ここでは、具体的な対策の要点を「人間」「環境」「管理」の3つの側面から解説します。

建設現場のヒューマンエラー対策の3つの柱(人間・環境・管理)を象徴する安全活動の様子の写真

対策1:人間(作業員)へのアプローチ

作業員自身の安全意識とスキルを高めるための対策です。

安全教育とKY(危険予知)活動: 定期的な教育と、日々のKY活動による危険感受性の向上。
指差呼称の徹底: 注意力を高め、確認ミスを防ぐ基本的な動作の習慣化。
技能訓練と資格取得の奨励: 正しい知識と技術の習得をサポート。
健康管理と疲労チェック: 作業員の心身の状態を把握し、無理をさせない体制づくり(朝礼での健康確認など)。

対策2:作業環境(モノ・設備)へのアプローチ

ミスが起こりにくい、またはミスが起きても事故につながらない環境を整備します。

作業手順書の整備と見直し: 誰が見ても分かりやすく、実行可能な手順書を作成・更新。
保護具の正しい着用と点検: 必要な保護具を確実に使用できる環境整備。
整理整頓(5S)の徹底: 作業スペースを安全で効率的な状態に保つ。
標識や警告表示の設置: 視覚的に危険を知らせ、注意を喚起する。

対策3:管理体制(仕組み)へのアプローチ

組織全体として安全に取り組むための仕組みづくりです。

リスクアセスメントの実施: 潜在的な危険源を特定し、リスク低減措置を講じる。
[出典:厚生労働省「リスクアセスメント」]
ヒヤリハット報告の奨励と分析: 小さな気づきを収集・分析し、重大事故の予防に活かす(失敗を責めない文化づくり)。
定期的な安全パトロール: 管理者による現場確認と、その場での指導・改善。
良好なコミュニケーション: 朝礼やミーティングを通じた情報共有と意思疎通の円滑化。

ヒューマンエラー対策アプローチの比較(フェールセーフとフールプルーフ)

安全管理の考え方として重要な「フェールセーフ」と「フールプルーフ」について、その違いと建設現場での活用を比較します。これらは人間の注意力だけに依存せず、工学的な設計によって安全を確保する考え方です。

表:フェールセーフとフールプルーフの比較

アプローチ 考え方 概要 建設現場での例
フェールセーフ 故障しても安全 機器やシステムが故障・停止した場合でも、安全な側に動作するように設計する考え方。 ・停電時に自動でロックがかかるクレーン
・異常検知時に自動停止する機械
フールプルーフ 誤操作を防ぐ 人間が誤った操作をできないように、または誤操作をしても危険が生じないように設計する考え方。 ・決まった順序でないと起動しない重機
・形状が合わないと接続できないコネクタ
・カバーを閉めないと作動しない工具
対策のポイント

人間の注意力だけに頼るのではなく、こうした工学的な対策(環境・モノへのアプローチ)を組み合わせることが、ヒューマンエラー対策の効果を高めます。

効果的な安全管理を継続するためのポイント

対策は一度行ったら終わりではありません。現場の状況や作業内容は日々変化するため、安全管理活動も継続的に見直し、改善していく必要があります。ここでは、対策を形骸化させないための重要なポイントを解説します。

PDCAサイクルを回し続ける

安全管理活動を継続的かつ効果的に進めるためには、マネジメントシステム(PDCAサイクル)を回すことが基本となります。

  1. Plan(計画): リスクアセスメントに基づき、安全目標と対策計画を立てます。
  2. Do(実行): 計画に基づき、安全教育や環境整備を実施します。
  3. Check(評価): パトロールやヒヤリハット報告、事故統計などで対策の効果を評価します。
  4. Action(改善): 評価結果に基づき、計画や対策を見直し、改善します。

[出典:建設業労働災害防止協会「建設業労働安全衛生マネジメントシステム(COHSMS)」関連情報に基づく]

対策実施時のよくある課題と解決のヒント

安全管理対策を継続する上では、いくつかの典型的な課題に直面することがあります。

表:安全管理対策のよくある課題と解決ヒント

よくある課題 解決のヒント
対策が形骸化してしまう ・なぜその対策が必要なのか、背景と目的を作業員に丁寧に説明する。
・ヒヤリハット報告や改善提案を評価するなど、インセンティブを設ける。
作業員が「面倒くさい」と感じてしまう ・手順を必要以上に複雑にせず、分かりやすさ・実行しやすさを重視する。
・対策によって「自分たちが安全になる」というメリットを強調する。
管理者側の負担が大きい ・安全管理を特定の担当者任せにせず、組織全体で取り組む体制を作る。
・ICTツール(安全管理アプリなど)を活用し、業務を効率化する。

まとめ:建設現場のヒューマンエラー対策は「人・環境・管理」の継続的な改善が鍵

建設現場でのヒューマンエラーは、個人の不注意だけでなく、作業環境や管理体制など複数の要因が絡み合って発生します。

ヒューマンエラー対策の要点

・ ヒューマンエラーは、「人間的要因」「環境的要因」「管理的要因」から発生する。
・ エラー対策は、重大な労働災害を防ぐために不可欠な安全管理活動である。
・ 具体的な対策は、「人間(教育、指差呼称など)」「環境(手順書、5Sなど)」「管理(リスクアセスメント、ヒヤリハット分析など)」の3つの側面から総合的にアプローチすることが重要。
・ フェールセーフやフールプルーフといった工学的な考え方も取り入れる。
・ 対策を一時的なもので終わらせず、PDCAサイクルを回して継続的に改善していく仕組みが求められる。

ヒューマンエラーを完全になくすことは困難ですが、これらの対策を粘り強く実行することで、事故のリスクを大幅に低減することは可能です。まずは自社の現場の状況を分析し、優先度の高い対策から取り組んでいきましょう。

ヒューマンエラー対策に関するよくある質問

Q1. ヒューマンエラーをゼロにすることはできますか?
A1. 人間が作業する以上、ミスやエラーを完全に「ゼロ」にすることは現実的に困難です。しかし、エラーが発生する原因を分析し、この記事で紹介したような「人間・環境・管理」の各側面から対策を講じることで、エラーの発生頻度を大幅に減らしたり、エラーが起きても重大な事故につながらないようにしたりすることは可能です。

Q2. 対策を導入する際、何から始めればよいですか?
A2. まずは「現状把握」から始めることをお勧めします。過去のヒヤリハット事例や事故報告を分析し、自社の現場でどのようなヒューマンエラーが起こりやすいのか、その原因はどこにあるのかを特定します(リスクアセスメント)。その上で、最もリスクが高いと判断される問題や、取り組みやすい対策(例:KY活動の活性化、手順書の見直しなど)から優先的に着手するとよいでしょう。

Q3. KY(危険予知)活動がマンネリ化しています。どうすればよいですか?
A3. マンネリ化を防ぐには、いくつかの工夫が考えられます。
テーマを変える: 毎日同じ内容ではなく、その日の作業内容や天候、季節特有の危険(熱中症、凍結など)に合わせたテーマを設定します。
担当者を変える: 司会や発表者を持ち回りにし、全員が参加意識を持てるようにします。
具体的な事例を使う: 他社の事故事例や、自社で発生したヒヤリハットの具体例を取り上げ、どうすれば防げたかを議論します。
短時間で集中して行う: ダラダラと時間をかけるのではなく、ポイントを絞って短時間で集中して行うことも効果的です。

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