「安全管理」の基本知識

労働安全衛生法に基づく建設現場の対応ポイントとは?


更新日: 2025/10/22
労働安全衛生法に基づく建設現場の対応ポイントとは?

この記事の要約

  • 建設現場で必須となる安全管理体制の具体的な構築方法を解説
  • 明日から実践できるリスクアセスメントなど、安全管理の3つの柱
  • 違反時の罰則や現場のよくある疑問をQ&A形式でスッキリ解消

本記事は2025年10月時点の法令情報に基づき執筆しています。

労働安全衛生法の基本と建設業における安全管理の重要性

建設業界で事業を行う上で、労働安全衛生法(以下、安衛法)の理解と遵守は事業の根幹をなす最重要事項です。建設現場には墜落や重機との接触といった多くの危険が潜んでおり、適切な安全管理は従業員の生命を守るために不可欠です。本章では、安衛法の基本的な目的から、なぜ特に建設業でその重要性が強調されるのかについて、具体的に解説します。

そもそも労働安全衛生法(安衛法)とは?

安衛法とは、職場における労働者の安全と健康を守り、快適な職場環境を形成することを目的とした法律です。単に事故を防ぐだけでなく、労働者が心身ともに健康で働ける環境を整えることを目指しています。

安衛法の基本ポイント

法律の目的:職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進すること。

対象者:事業主はもちろん、その事業場で働くすべての労働者が対象です。これには、正社員、契約社員、パート・アルバイトといった雇用形態の区別はありません

建設業における位置づけ:建設業は、高所作業や重機の使用など危険性の高い業務が多いため、安衛法の中でも特に厳しい規制が設けられています。また、元請・下請といった重層的な構造に対応するため、事業者間の責任分担に関する特別な規定が置かれているのが特徴です。

なぜ建設現場で安衛法に基づいた対応が不可欠なのか

建設現場では、安衛法に基づいた安全管理が極めて重要です。なぜなら、現場には以下のような特有のリスクが常に存在するためです。

墜落・転落:足場や開口部からの落下事故
建設機械・クレーン等:重機との接触や転倒、吊り荷の落下事故
飛来・落下物:資材や工具などが上から落ちてくる事故

これらのリスクから労働者を守るため、安衛法では具体的な安全管理の基準が詳細に定められています。法律を遵守することは、労働災害を未然に防ぎ、従業員が安心して働ける環境を提供することに直結します。さらに、徹底した安全管理は、企業の社会的信頼を高め、公共工事の受注機会を増やすなど、結果的に生産性や企業価値の向上にも繋がる重要な経営課題なのです。

建設現場に必須!安衛法が定める安全管理体制の構築

安衛法が定める安全管理とは、個人の注意喚起に頼るものではなく、組織として計画的に安全活動を推進する仕組み作りを指します。その中核となるのが、事業場の規模や業種に応じて専門の管理者を選任する「安全衛生管理体制」の構築です。ここでは、建設現場で必ず整備すべき主要な管理体制と、元請・下請それぞれの重要な役割を明確に解説します。

建設現場の朝礼で安全指示に耳を傾ける作業員たち

必ず整備すべき「安全衛生管理体制」とは

安全衛生管理体制とは、事業場に総括安全衛生管理者や安全管理者などを配置し、安全管理と衛生管理を組織的に実行するための仕組みのことです。事業者は、常時使用する労働者の人数に応じて、以下の表に示す管理者を選任する義務があります。建設業では、これらの管理者に加え、元請事業者が選任する「統括安全衛生責任者」が現場全体の安全を統括するなど、特有の体制が求められます。

表:事業場の規模に応じて選任すべき管理者(建設業の例)

管理者 選任が必要な事業場(常時使用労働者数) 主な職務
総括安全衛生管理者 100人以上 安全衛生に関する方針を決定し、業務全体を統括管理する。
安全管理者 50人以上 現場の巡視や設備・作業方法の改善など、安全に関する技術的な事項を管理する。
衛生管理者 50人以上 労働者の健康障害の防止や作業環境の衛生改善など、衛生に関する技術的な事項を管理する。
産業医 50人以上 専門的な立場から健康診断の結果を確認し、労働者の健康管理について指導・助言を行う。
安全衛生推進者 10人以上50人未満 小規模事業場における安全衛生計画の作成、実行、評価、改善などを担当する。

[出典:e-Gov法令検索 労働安全衛生法 第十条~第十二条の二]

【役割別】元請・下請事業者がそれぞれ果たすべき責任

複数の専門業者が混在する建設現場では、事業者間の連携が安全管理の品質を左右します。安衛法は、現場全体を管理する元請事業者と、専門工事を担当する下請事業者のそれぞれに、明確な責任を定めています。

元請事業者の主な義務:関係請負人(下請事業者)が法令に違反しないよう指導する統括管理が最も重要な責務です。具体的には、関係者で構成される協議組織の設置・運営、クレーン作業などにおける合図の統一、作業間の連絡・調整などを通じて、現場全体の安全を主導します。

下請事業者の主な義務:元請事業者が講じる安全管理上の措置(例:危険箇所への立入禁止措置など)に従い、協力する義務があります。また、自社が雇用する労働者に対して、作業内容に応じた適切な安全衛生教育を実施する責任も負います。

具体的なアクションは?現場で実施すべき安全管理の3つの柱

安全管理体制を構築しただけでは、現場の安全は確保できません。その体制を機能させ、日々の業務に落とし込むための具体的なアクションが不可欠です。安衛法では、事業者が必ず実施すべき安全管理活動として、大きく分けて3つの柱を定めています。これらを継続的に実践することが、労働災害の防止に繋がります。

① 危険性・有害性等の調査(リスクアセスメント)

リスクアセスメントとは、作業に潜む「危険性(ケガの原因)」や「有害性(病気の原因)」を事前に見つけ出し、対策を講じる一連の手順のことです。事故が起きてから対策するのではなく、危険の芽を先回りして摘み取るための科学的な手法であり、安全管理の基本となります。

リスクアセスメントの進め方(HowTo)

1. STEP1:危険性・有害性の特定
作業手順書や過去の災害事例を参考に、現場にどのような危険が潜んでいるかを洗い出します。
(例:足場上での作業における墜落リスク、クレーン作業での吊り荷の落下リスク)

2. STEP2:リスクの見積り
特定した危険が、どのくらいの頻度で、どの程度のケガや病気に繋がるかを客観的に評価します。

3. STEP3:リスク低減措置の優先度の決定・検討
リスクの大きさに応じて対策の優先順位を決め、最も効果的な対策(危険な作業そのものをなくす、より安全な機械に入れ替えるなど)を検討します。

4. STEP4:リスク低減措置の実施
検討した対策を実行に移します。対策後は、その効果があったかを必ず確認し、必要に応じて見直しを行います。

[出典:厚生労働省 危険性又は有害性等の調査等に関する指針]

② 労働者への安全衛生教育

労働者自身が安全に作業するための知識を持っていなければ、どんなに優れた設備やルールも意味をなしません。そのため、安衛法では事業者に対し、労働者への安全衛生教育の実施を義務付けています。

雇入れ時教育:新しく労働者を雇い入れた際に、機械の取り扱いや作業手順の基本など、安全衛生に関する基本的な事項について行う教育です。
作業内容変更時教育:これまでと異なる作業に従事させる際に、その作業に特有の危険性や安全な進め方について行う教育です。
特別教育:クレーンの運転(吊り上げ荷重5トン未満)や足場の組立てなど、法令で定められた特に危険性が高い業務に従事させる前に行う、専門的な知識と技術に関する教育です。
職長等教育:現場で作業員を直接指導・監督する立場にある職長などに対して、リスクアセスメントの進め方や部下の指導方法について行う教育です。

③ 労働者の健康障害を防止するための措置(健康管理)

安全管理には、事故によるケガの防止だけでなく、労働者の健康を維持・増進することも含まれます。心身ともに健康な状態でなければ、注意力が散漫になり、思わぬ事故に繋がる可能性があるからです。事業者は、労働者の健康状態を把握し、必要な措置を講じる義務があります。

健康診断の実施:すべての労働者を対象とする一般健康診断(年1回)や、有害な業務に従事する労働者を対象とする特殊健康診断などを定期的に実施します。
作業環境測定:粉じん、騒音、有機溶剤など、健康に有害な影響を及ぼす恐れのある物質が発生する作業場では、その濃度などを定期的に測定し、環境改善に努めなければなりません。
メンタルヘルス対策:労働者の心の健康を保つため、ストレスチェック制度(労働者数50人以上の事業場に義務)を実施し、高ストレス者への医師による面接指導などを行います。

【読者の不安を解消】安全管理でよくある疑問と罰則

安衛法は非常に広範かつ専門的であり、「関連書類が多くて、何から手をつければいいのか分からない」「もし法律に違反してしまったら、どうなるのだろうか」といった不安や疑問を抱える事業主の方も少なくありません。この章では、そうした実務上の悩みにお答えし、法律を遵守することの重要性について改めて解説します。

事務所で安全管理書類の確認に頭を悩ませる現場管理者

書類が多すぎて何から始めれば…?

確かに、安全管理に関わる書類は作業手順書や点検表、ヒヤリハット報告書など多岐にわたります。すべてを一度に完璧に揃えようとすると、途方に暮れてしまうかもしれません。

最初の一歩として、まずは自社の事業場の労働者数を確認し、前述した「安全衛生管理体制」を法令通りに整備することから始めてください。安全管理者や衛生管理者など、責任者をきちんと選任することが安全管理活動のスタートラインです。

体制が整ったら、次に着手すべきはリスクアセスメントです。現場の危険を洗い出し、優先順位をつけて対策を講じることで、どの作業手順書や点検表が急ぎで必要かが見えてきます。日々の安全管理活動の記録を少しずつ積み重ねていくことが、結果的に必要な書類を整備する最も確実なアプローチです。

もし法律に違反してしまったら?

安衛法に違反した場合、労働基準監督署による是正勧告や指導が行われますが、悪質なケースや重大な災害に繋がった場合には、厳しい罰則が科せられます。罰則は、企業の金銭的な負担になるだけでなく、公共工事の指名停止処分を受けるなど、事業活動そのものに深刻な影響を及ぼす可能性があります。何よりも、労働災害が発生すれば、企業の社会的信用は大きく損なわれます。

表:労働安全衛生法違反の罰則例

違反内容の例 罰則
必要な安全措置を講じずに労働災害(死亡・休業)を発生させた場合 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金
安全管理者や衛生管理者などを選任しなかった場合 50万円以下の罰金
労働者に定期健康診断を実施しなかった場合 50万円以下の罰金
クレーンやボイラーなどの定期性能検査を実施しなかった場合 50万円以下の罰金

まとめ

本記事では、労働安全衛生法に基づき、建設現場で求められる安全管理の対応ポイントを網羅的に解説しました。複雑に見える安衛法ですが、その根幹にある重要なポイントは以下の3点に集約されます。

建設現場における安全管理の最重要ポイント

1. 自社の事業規模に応じた「安全衛生管理体制」を正しく構築し、責任者を明確にすること。

2. 「リスクアセスメント」「安全衛生教育」「健康管理」の3つの柱を日々の業務の中で継続的に実施すること。

3. 元請・下請がそれぞれの責任を理解し、現場に関わる全員で協力して安全意識を高めること。

安衛法への対応は、法律で定められた単なる義務ではありません。それは、現場で働くかけがえのない従業員の命と健康を守り、企業の持続的な発展を支えるための最も重要な「投資」です。この記事をきっかけに、まずは自社の安全管理体制が法令に適合しているか、チェックすることから始めてみてください。

よくある質問

Q. すべての建設工事で、作業届や計画届の提出が必要ですか?
A. いいえ、すべての工事で必要なわけではありません。高さが31メートルを超える建築物の建設や、掘削面の高さが10メートル以上になる地山の掘削工事、あるいは特定の危険な機械(建設用リフトなど)を設置する場合など、法律で定められた一定の規模や種類に該当する工事において、着工の30日前または14日前までに所轄の労働基準監督署長への事前の届出が義務付けられています。

Q. 安全管理者や衛生管理者は、誰でもなれるのでしょうか?
A. いいえ、誰でも選任できるわけではありません。安全管理者・衛生管理者ともに、それぞれ法令で定められた資格を持つ者や、一定期間以上の実務経験を積み、所定の研修を修了した者でなければ選任することはできません。例えば、安全管理者は労働安全コンサルタントの資格を持つ者や、大学で理科系の課程を修了し2年以上の産業安全実務経験がある者などが該当します。

Q. 労働者側が守るべき義務はありますか?
A. はい、あります。安衛法では、事業者だけでなく労働者にも守るべき義務を定めています。労働者には、事業者が行う安全衛生上の措置に協力する義務があります。具体的には、会社が定めた安全基準や作業手順の遵守、ヘルメットや安全帯などの保護具の正しい着用、危険な場所への立ち入り禁止ルールの遵守、そして健康診断の受診などが義務付けられています。安全な職場は、事業者と労働者の双方が協力して初めて実現するものです。

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