「安全管理」の基本知識

安全巡視とは?目的と報告のポイントを解説


更新日: 2025/12/18
安全巡視とは?目的と報告のポイントを解説

この記事の要約

  • 安全巡視と点検の違いや労働災害防止の3つの目的を解説
  • 4Mや5S視点に基づく効果的なチェック項目とリスト
  • 安全管理レベルを向上させる報告書の書き方と是正フロー
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工場内でタブレットを用いて指差し確認を行う安全管理者

安全管理における安全巡視の基礎知識と目的

労働災害を未然に防ぎ、従業員の命と健康を守る安全管理において、安全巡視は現場の実態を把握するための最も基本的かつ重要な活動です。ここでは、混同されがちな「安全点検」との違いを明確にし、なぜ巡視が必要なのか、その根本的な目的と定義について解説します。

安全巡視の定義と安全点検との違い

安全巡視とは、安全管理者や現場責任者が作業現場を実際に歩き回り、不安全な状態や行動がないかを目視等で確認する活動を指します。一方、安全点検は特定の機械や設備に対して、基準通りに機能するかを詳細に検査する活動です。

両者は相互に補完し合う関係にありますが、その役割には明確な違いがあります。以下の表は、安全巡視と安全点検の違いを整理したものです。

項目 安全巡視 安全点検
主な目的 現場全体の不安全状態・不安全行動の発見と是正 特定の設備・機械の機能維持、故障や欠陥の発見
対象 作業者(人)、作業環境、作業方法、整理整頓状況など全体 クレーン、プレス機、車両、電気設備などのハードウェア
視点 広い視野で現場の「変化」や「異常」を捉える 規定のチェックリストに基づき「基準適合」を確認する
実施者 安全管理者、現場代理人、経営層、安全衛生委員など 有資格者、専門技術者、オペレーター(始業前点検)
法的根拠 労働安全衛生法に基づく安全管理者の職務など 労働安全衛生法、クレーン等安全規則などの特定自主検査等

[出典:厚生労働省 職場のあんぜんサイト 安全衛生管理]

安全巡視の核心
  • 機械の故障だけでなく、「人がルールを守っているか」「作業環境に潜むリスクはないか」といった、流動的な現場の状況を包括的にチェックすること

労働災害防止における安全巡視の3つの目的

安全管理活動の一環として行われる巡視には、大きく分けて以下の3つの目的があります。これらを意識して実施することで、漫然としたパトロールから脱却できます。

  • 危険の芽の摘み取り(不安全状態・行動の排除)
    労働災害の多くは、重大事故の背後に無数の軽微な事故やヒヤリハットが存在するという「ハインリッヒの法則」に従います。巡視の最大の目的は、事故に至る前の「ヒヤリとする状態」や「危険な行動」を早期に発見し、その場で、あるいは計画的に是正することです。

  • 安全意識の向上(行動変容の促進)
    管理者が定期的に現場に姿を見せ、安全に関心を持っている姿勢を示すことは、作業者に程よい緊張感を与えます。「見られている」という意識は、保護具の着用や手順遵守といった安全行動を促進し、現場全体のモラルを向上させます。

  • 職場環境の改善(コミュニケーションの活性化)
    巡視は一方的な監視ではありません。現場の作業者と直接対話し、作業のやりにくさや困りごとを吸い上げる機会でもあります。物理的な環境改善だけでなく、風通しの良い職場づくりも安全管理の重要な要素です。

安全管理の効果を高める安全巡視のチェックポイント

ただ漫然と現場を歩くだけでは、潜在的なリスクを見落としてしまいます。効果的な安全管理を行うためには、多角的な視点を持って巡視を行う必要があります。ここでは、現場のリスクを漏れなく抽出するためのフレームワークとして「4M」や「5S」を活用した具体的なチェックポイントを紹介します。

4Mの視点に基づいたチェック項目

事故やトラブルの原因を分析する手法である4Mの視点を巡視に取り入れることで、抜け漏れのないチェックが可能になります。以下に、4Mごとの主なチェック項目を整理しました。

4Mの要素 定義 具体的なチェック項目例
Man(人) 作業者の行動や状態 ・保護具(ヘルメット、安全帯等)を正しく着用しているか
・定められた作業手順を遵守しているか
・体調不良や疲労の色が見える作業者はいないか
・無資格者が有資格業務を行っていないか
Machine(機械) 機械・設備・道具 ・安全装置(インターロック、非常停止ボタン)は有効か
・点検済証の有効期限は切れていないか
・工具に破損や摩耗はないか
・回転部などの危険箇所にカバーが設置されているか
Media(環境) 作業環境・方法・情報 ・足場の安定性や手すりの設置状況は適切か
・作業場所の照度(明るさ)は十分か
・騒音、粉塵、温度などの環境は適切か
・通路や避難経路に物が置かれていないか
Management(管理) 管理体制・ルール ・作業指揮者が配置され、適切に指示を出しているか
・KY(危険予知)活動は実施されているか
・立入禁止区域の表示は明確か
・緊急時の連絡体制は周知されているか

[出典:中央労働災害防止協会 安全衛生パトロール(巡視)の進め方]

5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の確認

「5S」は生産性向上のためだけでなく、安全管理の土台となる要素です。巡視の際は、単に「見た目がきれいか」ではなく、「安全が確保されているか」という観点で5Sを確認します。

  • 整理(Seiri)
    作業エリアに不要なもの、使わない工具、廃材などが放置されていないかを確認します。これらは転倒やつまずきの原因となります。

  • 整頓(Seiton)
    必要な工具や資材が、緊急時でもすぐに取り出せる場所に、決められた方法で置かれているかを確認します。「定位置・定量・定方向」が守られているかがポイントです。

  • 清掃(Seiso)
    床に油や水がこぼれていないかを確認します。スリップ事故の防止に加え、機械の油漏れなどの異常発見にも繋がります。

  • 清潔(Seiketsu)
    粉塵や有害物質の滞留がないか、保護具が衛生的に保たれているかなど、健康障害を防ぐ状態が維持されているかを確認します。

  • しつけ(Shitsuke)
    挨拶やルールの遵守が習慣化されているかを確認します。現場の規律が乱れている場所では、労働災害が発生しやすい傾向にあります。

作業者の不安全行動を見逃さないための着眼点

設備がどれほど安全でも、人の行動にエラーがあれば事故は起きます。巡視中は、以下のようなヒューマンエラーが起きやすい不安全行動に特に注意を払う必要があります。

注意すべき不安全行動の例
  • 近道行動・省略行為
    「面倒だから」といって正規の通路を通らず設備を乗り越えたり、安全装置を無効化したりする行為。

  • 不適切な姿勢・動作
    重量物を無理な姿勢で持ち上げたり、回転体の近くに手を出したりする動作。

  • 保護具の不使用・誤使用
    暑いからといって顎紐を緩めたり、高所作業で安全帯(墜落制止用器具)を使用していなかったりするケース。

  • 不慣れな作業・共同作業
    新人作業者の動きや、合図が必要なクレーン作業などで連携が取れているか。

安全管理業務を円滑にする報告書の書き方とポイント

安全巡視において最も重要なのは、発見した不安全箇所を確実に改善へつなげることです。そのためには、誰が読んでも状況が理解でき、次のアクションが明確になる報告書が不可欠です。ここでは、実効性のある報告書を作成するための手順を3つのステップで解説します。

ステップ1:事実と意見を分けた「5W1H」での記録

報告書作成の第1段階は、現場の状況を客観的に記述することです。ここでは主観を排除し、事実を正確に伝えることが求められます。

  • 事実(Fact)
    「いつ・どこで・誰が・何を・どうした」という5W1Hに基づいて記述します。
    良い例:「A工区の2階足場にて、作業員Bが安全帯を使用せずに移動していた。」
    悪い例:「作業員の安全意識が低く、足場が危険だった。」

  • 意見(Opinion)
    事実に対する巡視者の見解や、必要な対策案を別途記載します。
    記述例:「即時の是正指導を行ったが、職長による再教育が必要であると考える。」

このように事実と意見を項目分けして記載することで、読み手(上層部や責任者)は現状を正しく認識できます。

ステップ2:リスクランクの判定と是正期限の設定

すべての指摘事項を同時に解決することは困難です。発見したリスクに対して重要度(ランク)を付け、優先順位を明確にします。

  • ランクA(重大・緊急)
    重篤な災害に直結する恐れがあるもの。
    対応:作業中止、即時改善。

  • ランクB(中程度)
    放置すれば災害につながる可能性があるもの。
    対応:当日中、または数日以内の改善指示。

  • ランクC(軽微・注意)
    環境改善や整理整頓など。
    対応:次回の巡視までの改善、または日常管理での指導。

「いつまでに直すのか」という期限を設けることで、是正の放置を防ぎます。

ステップ3:PDCAを回すためのフィードバックと保存

報告書を提出して終わりではありません。指摘した内容が改善されたかを確認するまでが巡視のサイクルです。

  • 1.是正確認
    期限後に現場を確認し、問題が解消されているか(Before/After)を写真などで記録します。

  • 2.フィードバック
    安全衛生委員会などで集計結果を共有し、類似災害の防止に役立てます。

  • 3.記録の保存
    報告書は法的な証拠能力も持つため、3年間(法令や社内規定に基づく)は保管し、傾向分析に活用します。

安全管理担当者が抱えがちな巡視の悩みと解決策

安全巡視は継続的な業務であるため、マンネリ化や現場との人間関係など、担当者特有の悩みがつきものです。ここでは、よくある課題とその解決策を提示します。

現場作業員と笑顔で対話し安全について確認し合う安全管理者

巡視がマンネリ化・形式的になってしまう場合

毎回同じルートを歩き、同じような指摘ばかりになってしまうと、巡視の効果は薄れます。視点を変える工夫を取り入れましょう。

  • テーマを決める
    「今日は電気コードの配線重点」「今日は保護具の着用状況重点」など、回ごとにテーマを設定します。

  • 時間帯を変える
    始業直後、昼休み前後、終業間際など、時間帯によって現場のリスク要因は変化します。

  • ルートを変える
    いつもと逆周りで歩く、普段見ない裏側を見るなど、物理的な視点を変えます。

現場からの反発やコミュニケーションの課題

現場から「監視に来た」「また小言を言われる」と敬遠されると、真の安全管理はできません。

  • 「ご安全に」の声掛けから入る
    いきなり指摘するのではなく、まずは挨拶と労いの言葉をかけます。

  • 良い点も褒める
    悪いところだけでなく、「整理整頓ができていて素晴らしい」「保護具をしっかり着けている」など、良い点を見つけて評価します。ポジティブなフィードバックは信頼関係を築きます。

  • 相談ベースで話す
    「ここが危ないから直せ」ではなく、「ここは危ないと思うが、どうすれば作業しやすいか?」と現場の意見を聞く姿勢を見せます。

専門知識不足で何を指摘すべきかわからない場合

新任の担当者などは、ベテラン作業員に対して指摘することに躊躇しがちです。

  • 完璧である必要はない
    最初から全ての法令や基準を覚えている必要はありません。「何かおかしい」「危なっかしい」という素直な感覚(違和感)を大切にしてください。

  • 過去の事例を活用する
    社内の過去の災害事例や「ヒヤリハット報告書」を確認し、類似の状況がないかチェックします。

  • 同行巡視を行う
    経験豊富な上司や、専門知識を持つ担当者と同行し、どこを見ているか(着眼点)を学びます。
まとめ:安全巡視の成功ポイント
  • 安全巡視は単なるパトロールではなく、組織全体の安全管理レベルを底上げする重要な業務です。
  • 効果的な巡視には、4Mや5Sといった多角的な視点を持つこと、そして事実に基づいた明確な報告と確実な是正が不可欠です。
  • 現場との信頼関係を築き、双方向のコミュニケーションを通じて「共に安全を作る」という姿勢が、最終的な労働災害ゼロへとつながります。

Q1. 安全巡視の頻度はどのくらいが適切ですか?

現場のリスクレベルや工事の進捗、法令、社内規定によりますが、一般的には現場監督者による「日常巡視(毎日)」に加え、安全管理者や店社パトロールによる「定期巡視(週1回または月1回)」を組み合わせるのが基本です。リスクが高い作業が行われる時期は頻度を増やします。

Q2. 安全管理者以外の社員も巡視を行うべきですか?

はい、非常に有効です。安全担当者だけでなく、事務職や営業職、若手社員など、普段現場に入らない社員が巡視(相互パトロール)を行うことで、「慣れ」による見落としを防ぎ、新鮮な視点でリスクを発見できます。また、全社の安全意識向上にもつながります。

Q3. 指摘事項がすぐに改善されない場合はどうすべきですか?

予算や大規模な工事が必要で即時改善が難しい設備的な課題などは、まず「暫定的な安全対策(立入禁止表示、カバーの設置、監視人の配置など)」を行い、リスクを低減させます。その上で、具体的な改善計画とスケジュールを立て、対策完了まで継続的に管理してください。

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