「工程管理」の基本知識

工程変更に伴う契約・請負変更とは?注意点と交渉ポイントを解説


更新日: 2025/11/05
工程変更に伴う契約・請負変更とは?注意点と交渉ポイントを解説

この記事の要約

  • 工程変更が契約変更に繋がる理由とリスクを解説
  • 契約変更の適切な手順とトラブル回避の注意点を網羅
  • 発注者・受注者別の円滑な交渉ポイントを紹介
目次

「工程変更」が契約に与える影響とは?建設業・IT業界における工程管理の重要性

プロジェクトの途中で発生する「工程変更」。これは、単なるスケジュールの見直しに留まらず、コスト、品質、そして何より契約内容そのものに重大な影響を及ぼします。
本記事では、建設業やITシステム開発などで頻発する「工程変更」に伴う「契約・請負変更」に焦点を当て、その基本的な知識から、トラブルを未然に防ぐための注意点、さらには円滑な合意形成のための交渉ポイントまで、網羅的に解説します。

そもそも工程変更とは?

工程変更とは、プロジェクトの進行中に、当初合意した計画(工程表)や仕様を変更する必要が生じることを指します。これは建設プロジェクトにおける工期の見直しや、ITシステム開発における機能の追加・修正など、様々な形で発生します。

変更の主な要因としては、以下のようなものが挙げられます。

顧客(発注者)の要望:追加機能の要求、デザインの変更、納期の短縮など。
設計・仕様の問題:設計上の不備、技術的な実現性の問題、仕様の解釈違いなど。
外的要因:天候不順(建設業)、関連法規の改正、資材の調達遅延、予期せぬ障害(地中障害物やシステムの互換性問題)など。

なぜ工程変更が契約・請負変更に発展するのか

工程変更がそのまま契約・請負変更に直結する最大の理由は、それが当初契約の前提条件を覆すためです。

プロジェクトの契約(請負契約)は、「この仕様のものを、この金額で、この納期までに作る」という双方の合意に基づいています。工程変更、特に仕様の変更や追加は、以下の要素に直接的な変動をもたらします。

作業量(工数)の増加
費用(コスト)の増加(人件費、材料費など)
納期(スケジュール)の延長

これらの変動は、当初の契約内容ではカバーしきれないため、契約そのものを見直し、「変更契約」として双方で再合意する必要があるのです。

工程変更への対応を怠るリスク

工程変更の必要性を認識しながらも、正式な契約変更の手続きを怠ったり、曖昧なまま作業を進めたりすると、プロジェクトは深刻な事態に陥ります。適切な工程管理が行われない場合、以下のようなリスクが顕在化します。

追加費用の未払い・赤字プロジェクト化:受注者側が追加作業分の費用を請求できず、不採算(赤字)プロジェクトとなる。
納期遅延による損害賠償:正式な納期延長の合意がないまま遅延した場合、発注者から遅延損害金や賠償を請求される。
品質の低下:無理なスケジュールや予算内で作業を強行した結果、成果物の品質が著しく低下する。
発注者・受注者間の信頼関係の悪化:「言った言わない」の不毛な対立が生じ、最悪の場合、訴訟などの法的な紛争へと発展する。

工程変更の種類と契約・請負への影響

工程変更には様々なパターンがあり、その原因や内容によって契約への影響度合いも異なります。どの変更が契約見直しの対象となり、どれが日常的な調整の範囲内なのか。ここでは、その分類と境界線を明確にします。

【種類別】主な工程変更のパターン

プロジェクトで発生する主な工程変更は、その発生源によって以下のように分類できます。

仕様変更によるもの
内容:顧客(発注者)からの追加要求、要求仕様の変更、機能の削除・変更など。
影響:作業量とコストに直接影響するため、契約変更の対象となることが最も多いパターンです。

設計変更によるもの
内容:設計ミスや考慮漏れの判明、法令・規制への対応、より良い品質や安全性確保のための見直しなど。
影響:原因が受注者側にある場合(設計ミスなど)と、発注者側にある場合(要求の曖昧さなど)で、費用負担の交渉が分かれることがあります。

顧客(施主・発注者)都合によるもの
内容:発注者側の意思決定の遅れ、必要な情報や資材(支給品)の提供遅延、現場確認の遅れなど。
影響:受注者側の作業が停滞(手待ち)し、スケジュール遅延や追加コスト(待機費用など)が発生するため、契約変更(主に納期延長や費用補償)の対象となります。

外的要因によるもの
内容:台風や豪雨などの天候不順、感染症の流行、資材の予期せぬ高騰や調達難、地中障害物の発見(建設)、連携する外部システムの仕様変更(IT)など。
影響:双方の責任ではない不可抗力(またはそれに準ずる)事象であり、契約書の「不可抗力条項」に基づき、工期延長や費用負担について協議する必要があります。

施工者・開発者側の都合によるもの
内容:受注者側の人員不足、作業ミス、機材の故障など。
影響:これは基本的に受注者側の責任(債務不履行)であり、契約変更(追加費用など)を発注者側に求めることはできません。むしろ、遅延や損害に対する責任を負う可能性があります。

変更が「契約変更」になる場合とならない場合の境界線

すべての「変更」が、即座に「変更契約書」の締結を必要とするわけではありません。実務上、プロジェクトの成功という共通目標のため、ある程度の柔軟な調整は必要です。問題は、その「境界線」をどこに引くかです。

以下の表は、契約変更が必要な「重い変更」と、日常的な調整で済む「軽微な変更」の一般的な判断基準を示したものです。

【変更の「重さ」に関する判断基準】

比較項目 契約変更が必要なケース(重い変更) 軽微な変更として扱えるケース
影響の範囲 工期、費用、品質(成果物)に重大な影響を与える。 工期、費用に影響しない、または極めて軽微(例:全体の0.5%未満など)。
契約書の記載 原契約の仕様書スコープ(業務範囲)を逸脱する。 契約書で許容された「日常的な調整」や「軽微な変更」の範囲内。
合意形成 別途、「変更契約書」や「覚書」の締結が必要。 議事録やメールなど、書面での確認(証拠)のみで完了できる。
具体例 ・大幅な機能追加(IT)
・フロア面積の変更(建設)
・工期の数ヶ月単位の延長
・ボタンの色や配置の微調整(IT)
・壁紙の品番の軽微な変更(建設)
・数日程度の軽微な遅れ

重要なのは、軽微だと思われる変更でも、それが積み重なると重大な影響になる点です。「このくらいなら良いか」という判断が、後の大きなトラブルの原因となります。

適切な工程管理を維持する!契約・請負変更の基本ステップ

工程変更が発生した際、場当たり的に対応すると、プロジェクトの工程管理は即座に破綻します。トラブルを防ぎ、適切な管理を維持するためには、定められた手順(プロセス)を踏むことが不可欠です。

建設業とIT業のプロジェクト管理者がガントチャート(工程表)を確認している様子

ステップ1:変更要求の発生と内容の確認

すべての起点です。変更要求が発生したら、まずはその内容を正確に把握します。

1. 要求の明確化
誰が(発注者か受注者か)、いつ、何を、なぜ変更したいのかを明確にします。

2. 書面化の徹底
口頭での「ちょっと変えてほしい」という依頼は、正式な要求として扱いません。必ず書面(変更要求書、仕様変更依頼書、最低でもメール)で依頼を受け付け、記録を残します。

ステップ2:影響範囲の調査と見積もり

受注者側は、受け付けた変更要求がプロジェクト全体にどのような影響を及ぼすかを調査・試算します。

影響の分析:変更に必要な追加工数追加費用(人件費、材料費、外注費など)、納期(スケジュール)への影響、他の作業や品質への影響(デグレードリスクなど)を詳細に洗い出します。
見積書の作成:調査結果に基づき、「追加見積書」および「変更後の工程表(案)」を作成し、発注者へ提示します。

補足:調査・見積もり作業の費用

この「調査・見積もり作業」自体に相応の工数がかかる場合、この作業自体を有償とする取り決めを原契約で結んでおくこともあります。

ステップ3:変更内容の協議・交渉

作成した見積書や変更工程表(案)を基に、発注者と受注者間で変更内容と条件について協議・交渉を行います。

条件の提示:受注者側は、ステップ2で算出した客観的なデータ(影響)を提示します。
合意形成:発注者側は、その内容を精査し、追加費用や納期延長の妥当性を判断します。ここで予算や納期が折り合わない場合は、代替案(例:要求仕様のランク付け、リリース時期の分割など)を双方で検討します。

ステップ4:変更合意書(覚書)の作成と締結

協議の結果、双方が変更内容と条件に合意したら、その内容を法的に有効な書面として確定させます。

1. 書面の作成
合意内容を明記した「変更契約書」または「覚書」を作成します。(通常は、原契約に紐づく形で作成されます)

2. 内容の確認
変更する項目(作業内容、金額、納期など)が正確に記載されているか、双方で最終確認します。

3. 署名・捺印
双方が記名(署名)・捺印し、それぞれ1部ずつ保管します。

このステップ4が完了して初めて、変更は正式に確定し、受注者は変更後の内容で作業に着手できます。

トラブル回避のための重要チェックポイント

工程変更と契約変更のプロセスは、プロジェクトにおける最大のトラブル要因の一つです。ここでは、失敗しないために厳守すべき重要な注意点を解説します。

注意点1:「書面(証拠)」を残すことの徹底

最も重要かつ基本的な注意点です。工程変更に関するやり取りで、口頭のみで済ませて良いことは一つもありません。

記録の対象:変更要求、協議の経緯(議事録)、見積書、合意内容など、プロセス全体を書面(またはメール等の電子的記録)で残します。
書面の役割:これらの書面は、後の「言った言わない」という水掛け論を防ぐための唯一の客観的な証拠となります。曖昧な記憶ではなく、合意した記録に基づいて判断することで、紛争を未然に防ぎます。

注意点2:変更範囲と追加費用の明確化

契約変更において最も揉めるのが「お金」と「範囲」です。

スコープの明確化:「どこからどこまでが元の契約範囲」で、「どこからが追加作業か」の線引き(スコープ)を明確に合意します。
費用の明確化:「いくら追加費用が発生するか」だけでなく、「なぜその金額になるのか」(作業単価、工数の算出根拠)も明確にして合意します。サービス残業的な対応や、どんぶり勘定での「一式」見積もりは避けるべきです。

注意点3:元の契約書(原契約)の変更条項を確認する

工程変更が発生した際、その対応方法は、通常、最初の契約書(原契約)に定められています。

確認すべき条項:「契約変更」「仕様変更」「協議事項」といった条項を確認します。
手続きの確認:そこには、変更が発生した際の「手続き(通知方法、協議方法、合意形成プロセスなど)」や「費用の取り扱い(追加費用の請求可否、算出方法など)」が記載されているはずです。まずはそのルールに則って対応することが基本となります。

出典情報:建設業法に基づく書面化の義務

建設業においては、建設業法第二十五条により、契約変更を行う場合でも、当初の契約と同様に「請負代金の額、工期その他の請負契約の内容を明確にしておかなければならない」と定められており、書面による明確化が法的に求められています。

[出典:e-Gov法令検索「建設業法(昭和二十四年法律第百号)第二十五条」]

【読者のよくある不安】「とりあえず進めて」は危険信号

実務上、発注者(顧客)から「納期が優先だから、費用は後で相談するから、とりあえず作業を進めてほしい」と要求されるケースは頻繁にあります。

契約変更に正式に合意し、握手を交わすビジネスパーソン

しかし、これは受注者にとって非常に危険な信号です。この要求に応じて作業を先行させてしまうと、作業完了後に「思ったほどの作業ではなかった」「予算がない」といった理由で、追加費用が支払われないリスクが非常に高くなります。

作業に着手する前に、最低限でも以下の条件を書面(メールなど)で合意することが不可欠です。

最低限合意すべき条件

・ 変更作業の範囲(スコープ)の確認
・ 追加費用の概算または上限額
・ 正式な合意(変更契約)の期限

スムーズな合意形成のための交渉ポイント

契約変更は、どちらかが一方的に損をするものであってはなりません。双方にとって納得のいく合意(Win-Win)を目指すための、それぞれの立場からの交渉の心構えを紹介します。

発注者側(顧客)の交渉ポイント

発注者は、変更を要求する側(または承認する側)として、以下の点を明確にすることが求められます。

変更の必要性と緊急性を具体的に説明する
なぜ今、その変更が必要なのか、ビジネス上の理由や背景を具体的に説明します。抽象的な「もっと良くしたい」ではなく、「この機能がないと〇〇が達成できない」と伝えることで、受注者の理解を得やすくなります。

予算と納期の制約を正直に提示し、代替案を相談する
追加費用や納期延長が難しい場合は、その制約(予算上限、最終デッドライン)を正直に提示します。その上で、「この予算内でできることはないか」「優先順位をつけて、一部の機能を後回しにできないか」など、パートナーとして代替案を相談する姿勢が重要です。

受注者側(業者)の交渉ポイント

受注者は、変更要求を受ける側として、感情論ではなく客観的な事実をもって交渉に臨む必要があります。

変更による影響を客観的なデータ(見積書)で示す
「大変になる」「間に合わない」といった主観的な表現ではなく、「この変更により、〇〇の作業が追加でXX人日必要となり、コストはYY円増加します。また、関連するテスト工程がZZ日延長されます」といった客観的なデータ(見積書、変更工程表)を示します。

単に「できない」「金がかかる」ではなく、代替案を提示する
発注者の要求を拒否するだけでは、関係が悪化します。「その仕様をすべて実現するにはXX円かかりますが、もし機能を〇〇に絞ればYY円で対応可能です」や、「納期をZ日まで延長いただければ対応可能です」といった、実現可能な代替案(オプション)を提示することがプロフェッショナルな対応です。

双方に共通する心構え:Win-Winの関係を目指す

工程変更の交渉は、敵対関係で行うものではありません。発注者も受注者も、「プロジェクトを成功させる」という共通の目的を持つパートナーであるべきです。

対立構造からの脱却:どちらかが得をし、どちらかが損をする「ゼロサムゲーム」ではなく、双方が納得できる着地点(Win-Win)を探る姿勢が不可欠です。
事実(ファクト)に基づく協議:感情論や憶測ではなく、契約書、仕様書、見積書といった事実(ファクト)に基づいて誠実かつ迅速に協議することが、信頼関係を維持し、プロジェクトを成功に導く鍵となります。

まとめ:適切な契約変更がプロジェクト成功と工程管理の鍵

プロジェクトにおける工程変更は避けられない側面もあります。重要なのは、変更が発生した際に、それをいかに適切に管理し、公正な契約変更に繋げるかです。曖昧な合意や口約束で作業を進めることは、赤字プロジェクト、納期遅延、品質低下、そして発注者・受注者間の深刻なトラブルの元凶となります。

プロジェクト成功のための4つの鉄則

書面の徹底:「言った言わない」を防ぐため、すべてのやり取りを書面で残す。
影響の明確化:変更が工数・費用・納期に与える影響を客観的に試算する。
迅速な協議:問題を先送りにせず、発注者・受注者間で速やかに事実に基づいた協議を行う。
変更契約の締結:合意内容は必ず「変更契約書」として正式に締結する。

適切な手順を踏んだ契約変更は、プロジェクトの工程管理を正常化し、最終的な成功へと導くための不可欠なプロセスです。

工程変更と契約に関するよくある質問

最後に、工程変更と契約に関して実務でよく寄せられる質問とその回答をまとめます。

Q. 軽微な変更でも、毎回「変更契約書」を締結する必要がありますか?

A.
必ずしもその必要はありません。工期や費用に影響しない、または極めて軽微な変更(例:IT開発での文言の修正、建設での色の微調整など)であれば、議事録やメールでの合意確認のみで済ませる場合も多いです。

ただし、「何が軽微か」の認識が双方でずれないよう、プロジェクトの初期段階で「この程度の変更は議事録ベース、これ以上は変更契約」といったルールを双方で決めておくとスムーズです。

Q. 発注者から「追加費用は一切認めない」と言われた場合はどうすればよいですか?

A.
まず、元の契約書の仕様書や業務範囲(スコープ)を再度確認し、今回の変更が明らかに「追加作業」であることを客観的資料(見積書、工数比較表など)で示す必要があります。

その上で、なぜ追加費用が必要なのか(工数が増える、新たな資材が必要など)を論理的に説明します。もし交渉が平行線になる場合は、代替案(例:「この機能を実現する代わりに、別の機能を削る」「工期を延長する」)を提示し、落とし所を探ることが重要です。

Q. 変更協議が長引いて工程が止まってしまう場合の対策は?

A.
協議が長引くこと自体が、さらなる納期遅延とコスト増につながる重大なリスクです。対策として、以下の方法が有効です。

1. 協議事項の優先順位付け
プロジェクトへの影響度が大きいものから先に協議・決定します。

2. 変更内容の分割
大きな変更要求を分割し、合意できる部分(または緊急性の高い部分)から先行して変更契約を結び、作業を再開します。

3. 協議期限の設定
双方合意の上で「いつまでに結論を出すか」という期限を設けることも、迅速な意思決定を促す上で有効です。

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