「工程管理」の基本知識

工程データを活かすには?現場改善につながる分析方法を紹介


更新日: 2025/12/11
工程データを活かすには?現場改善につながる分析方法を紹介

この記事の要約

  • 工程管理のデータ活用で生産現場の可視化と意思決定を迅速化
  • 予実管理やタクトタイム分析など具体的な改善手法を徹底解説
  • アナログからIoTまで自社に合うデータ収集ツールの選び方
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工程管理とは?データを活用する重要性とメリット

製造業において、品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)のQCDを最適化するためには、経験や勘だけに頼らない客観的な管理体制が不可欠です。本セクションでは、工程管理の正確な定義と、なぜ今データに基づいた管理が強く求められているのか、その背景とメリットについて解説します。

そもそも工程管理とは何か

工程管理とは、製造プロセス全体を計画・統制し、所定の品質・原価・数量・納期で製品を完成させるための管理活動のことです。単に進捗を追うだけでなく、以下の2つの側面を統合的に管理することが求められます。

工程管理の2つの側面
  • 進捗管理(納期遵守)
    日々の生産実績が計画通りに進んでいるかを確認し、遅れが生じた場合に調整を行います。

  • 余力管理(工数最適化)
    各工程の負荷状況(作業者や設備の空き具合・忙しさ)を把握し、リソースの配分を最適化します。

なぜ今、データ活用が求められるのか

かつては、ベテラン担当者の「勘」や「紙の日報」によるアナログ管理が主流でした。しかし、現代の製造現場では以下の理由から、客観的なデータ活用が不可欠となっています。

  • 熟練工の減少と技術継承の断絶
    「背中を見て覚える」時代の終焉により、誰でも同じ判断ができる数値基準が必要となったため。

  • 変種変量生産への対応
    多品種少量生産が一般化し、頻繁な段取り替えや複雑な工程フローを人間の記憶だけで管理することが限界に達しているため。

  • リアルタイム性の要求
    短納期化が進み、月次の集計ではなく「今、何が起きているか」を即座に把握し対策する必要があるため。

データを分析することで得られるメリット

工程管理においてデータを収集・分析することは、現場に以下のような具体的な変革をもたらします。

  • 現状の可視化(ブラックボックス化の解消)
    「なぜか遅れる」という曖昧な状態がなくなり、ボトルネック工程が数値で特定できます。

  • 意思決定の迅速化と精度向上
    「おそらく大丈夫だろう」という希望的観測を排除し、事実データに基づいて即座に増員や残業などの対策を打てます。

  • 標準化と属人化の防止
    特定の担当者が不在でも、データを見れば誰でも工程の状況が把握でき、一定の管理レベルを維持できます。

工場内でタブレットの生産データを分析しながら現場改善の打ち合わせをする管理者とリーダー

現場改善に直結する工程管理の具体的なデータ分析手法

データを集めるだけでは現場は改善されません。重要なのは、集めたデータを「どの指標」で見るかです。ここでは、現場改善に直結する代表的な4つの分析手法を、見るべき指標や計算式を交えて解説します。

予実管理分析(計画と実績の乖離)

最も基本的かつ重要な分析です。生産計画(予定)に対して、実績がどれだけ乖離しているかを確認します。

  • 見るべき指標:計画達成率
    計算式:(生産実績数 ÷ 生産計画数) × 100

  • 視点と対策
    達成率が100%を下回る場合、「開始遅れ」なのか「サイクルタイム超過」なのかを切り分けます。日単位だけでなく、時間単位(1時間ごとの出来高管理)で予実を見ることで、遅れが発生した瞬間を特定できます。

稼働率・タクトタイム分析(ボトルネックの特定)

設備の有効活用度と、作業スピードのばらつきを分析する手法です。

  • 見るべき指標:時間稼働率
    計算式:(負荷時間 - 停止時間) ÷ 負荷時間 × 100

  • 見るべき指標:タクトタイム(T.T)
    計算式:稼働可能時間 ÷ 必要生産数

  • 視点と対策
    設備が動いているはずの時間に停止している「チョコ停」や「段取り替え時間」を抽出します。また、作業者ごとのタクトタイムを比較し、標準時間より極端に長い(または短い)作業者がいないかを確認することで、手順の標準化や教育不足の発見につなげます。

不良率・品質データの分析

品質維持(Q)の観点から、不良の発生傾向を分析します。

  • 見るべき指標:直行率
    計算式:(良品数 ÷ 投入数) × 100

  • 見るべき指標:工程能力指数(Cpk)
    規格内に収まる能力が工程にあるかを示す指標です。

  • 視点と対策
    単に「不良が出た」だけでなく、「どの工程で」「どの設備で」「どの時間帯に」発生したかをパレート図で分析します。上位2割の原因を潰すことで、全体の8割の不良を削減できる可能性があります。

在庫回転率・仕掛品の分析

工程間に滞留している「モノ」の流れを分析し、キャッシュフローとスペース効率を改善します。

  • 見るべき指標:在庫回転期間
    計算式:棚卸資産 ÷ (売上高 ÷ 365日)

  • 見るべき指標:仕掛品(WIP)数
    各工程前に滞留している未完成品数です。

  • 視点と対策
    特定の工程前に仕掛品が山積みになっている場合、そこが工場のボトルネック(制約条件)です。その工程の能力を上げるか、前工程の投入を抑えることで、全体のリードタイム短縮を図ります。

以下の表は、各手法の目的と効果を整理したものです。自社の課題に合わせて優先順位を検討してください。

分析手法名 主な目的 活用するデータ例 期待できる効果
予実管理分析 進捗把握・遅延対策 計画数、実績数、達成率 納期の遵守、計画精度の向上
タクトタイム分析 ボトルネック発見 サイクルタイム、停止時間 生産性向上、標準作業の確立
品質分析 不良原因の特定 不良数、直行率、廃棄損 コスト削減、品質の安定化
在庫分析 キャッシュフロー改善 仕掛品数、在庫回転率 適正在庫の維持、リードタイム短縮

[出典:JIS Z 8141(生産管理用語)などの一般的な工程管理概念に基づく]

工程管理におけるデータ収集・分析ツールの比較

データ分析を行うためには、まず現場からデータを収集する仕組みが必要です。ここでは、代表的な3つのツール(手段)について、それぞれの特徴、コスト感、向いている現場のタイプを比較解説します。

エクセルや紙によるアナログ管理

最も手軽に始められる方法です。作業日報を紙で記入し、後でエクセルに入力・集計する運用が一般的です。

特徴と注意点
  • メリット
    初期投資がほぼ不要で、フォーマットを自由に変更できる点です。

  • デメリット
    記入や入力に工数がかかる(二重入力の手間)ほか、記入ミスや入力ミスが発生しやすくなります。データがリアルタイムに反映されず、事後報告になりがちな点も課題です。

工程管理システム(生産管理システム)の導入

生産管理に特化したパッケージソフトやクラウドサービスを利用する方法です。

特徴と注意点
  • メリット
    データが一元管理され、部門間での共有が容易です。標準的な分析機能が備わっており、グラフ化などが自動で行えるため、集計の手間が省けます。

  • デメリット
    導入コストやランニングコストがかかります。また、自社の業務フローをシステムに合わせるか、高額なカスタマイズが必要になる場合があります。

IoTツールによる自動収集

設備にセンサーを取り付けたり、PLC(制御装置)から直接データを吸い上げたりする方法です。

特徴と注意点
  • メリット
    人手を介さないため入力ミスがゼロで、データ精度が極めて高いのが特徴です。リアルタイムでの稼働状況把握が可能で、詳細なデータから予知保全にも活用できます。

  • デメリット
    センサー設置やネットワーク構築などの初期導入ハードルが高くなります。収集した膨大なデータを分析するためのBIツールや専門知識が別途必要になることが多いです。

以下の表は、各ツールの特徴を比較したものです。

ツール種別 導入難易度 コスト データ精度 分析の自由度 向いている現場
エクセル・紙
(すぐに開始可)

(入力ミスリスク有)

(自分で加工可)
小規模・多品種少量
データ活用の初期段階
工程管理システム 中〜高 中〜高
(標準機能に依存)
中規模以上
業務を標準化したい現場
IoTツール
(設置が必要)
極めて高い
(BIツール等と連携)
自動化が進んでいる現場
リアルタイム性を重視する現場

データ活用を成功させるためのステップと工程管理のポイント

ツールを導入しただけでは、現場改善は進みません。データ活用を定着させ、成果につなげるためには、適切な手順を踏む必要があります。ここでは、工程管理におけるデータ活用の成功ステップを解説します。

目的とKPI(重要業績評価指標)の明確化

まず、「何のためにデータを集めるのか」を定義します。目的が曖昧だと、ただデータを記録することが目的化してしまいます。具体的なKPIを設定しましょう。

  • KPI設定の例
    「製造リードタイムを現状より10%短縮する」「設備停止時間を月間5時間以内に抑える」「工程内不良率を半減させる」など、数値目標を定めます。

現場への負担が少ない収集ルールの策定

データの精度は、現場作業者の協力にかかっています。しかし、データ入力のために作業の手が止まってしまっては本末転倒です。現場の負担を最小限にする工夫が必要です。

  • 具体的な工夫
    手書きではなく、タブレットのタップ操作や音声入力、バーコードスキャンを活用します。入力項目を「必須の3項目だけ」に絞り込むことも有効です。可能な限りIoTを活用し、人が入力しなくても自動で記録される仕組みを取り入れます。

PDCAサイクルを回す仕組みづくり

データ分析の結果をもとにアクションを起こし、その効果を検証するサイクル(PDCA)を回し続けることが重要です。

  • Plan(計画)
    データ分析に基づき、改善策(例:配置転換、手順変更)を立案します。

  • Do(実行)
    現場で改善策を試行します。

  • Check(評価)
    改善後のデータを再度収集し、効果があったか検証します。

  • Action(改善)
    効果があれば標準化し、なければ別の策を検討します。

工程管理のデータ化でよくある課題と対処法(読者の不安解消)

現場に新しいデータ管理の手法を導入しようとすると、様々な壁にぶつかります。ここでは、よくある課題とその具体的な対処法を紹介し、導入への不安を解消します。

データ入力が面倒で定着しない

最も多い失敗パターンです。現場は日々の生産に追われており、追加業務には消極的です。

対処法
  • 入力項目を断捨離する
    「念のため取っておこう」というデータは一切排除し、KPIに直結する項目のみにします。

  • メリットを還元する
    データ入力によって「日報作成が不要になる」「在庫確認の電話をしなくて済む」など、現場にとっての具体的なメリットを提示・実装します。

集めたデータをどう見ればいいかわからない

データは溜まったものの、分析スキルがなく活用できないケースです。

対処法
  • スモールスタート
    最初から高度な統計分析をする必要はありません。「予定に対して遅れているか/進んでいるか」の2択だけ見える化することから始めます。

  • 視覚化
    数字の羅列ではなく、グラフや信号機(青・黄・赤)のような色分け表示を行い、パッと見て状況がわかるダッシュボードを作成します。

現場の反発がある場合の進め方

「監視されているようで嫌だ」「今のやり方で問題ない」という心理的な反発です。

対処法
  • 目的の共有
    「作業者を監視するため」ではなく、「現場の困りごと(無理な納期、急な割り込み、設備の不調)をデータで証明し、解決するため」であることを丁寧に説明します。

  • 巻き込み型
    トップダウンで押し付けるのではなく、現場リーダー(職長)をプロジェクトに加え、現場の声を取り入れながらルールを策定します。
まとめ:データ活用は継続が鍵
  • 工程管理のデータ化
    現状を客観的に把握し、属人化を排除するために不可欠です。

  • 適切な分析手法の選択
    自社の課題に合わせて、予実管理、タクトタイム分析、品質分析などの手法を使い分けることが重要です。

  • 身の丈に合ったツール導入
    ツールは、エクセル、システム、IoTなどから、自社の規模と予算、現場のITリテラシーに合わせて選定してください。

  • PDCAの徹底
    成功の鍵は、現場の負担を減らし、集めたデータを使ってPDCAを回し続けることです。まずは、「なぜ納期遅れが起きるのか?」といった仮説を立て、必要なデータを洗い出すことから始めてみましょう。

Q1. 小規模な工場でもデータ分析は必要ですか?

はい、必要です。規模が小さいからこそ、リソース(人・モノ・金)の無駄をなくして利益率を高めることが経営の安定に直結します。高機能なシステムである必要はありません。まずはホワイトボードやエクセルなどの身近なツールを使い、主要な工程の時間や実績を記録することから始めてみてください。

Q2. 高価なシステムを入れないと分析はできませんか?

いいえ、必ずしも高価なシステムは必要ありません。パレート図による不良分析や、基本的な予実管理などは、エクセルやGoogleスプレッドシートでも十分に可能です。まずは手軽なツールで運用を定着させ、データ量が増えたり、よりリアルタイム性を重視するようになった段階で、システムの導入を検討するのが効率的です。

Q3. どのようなデータを収集すればよいですか?

解決したい課題によりますが、工程管理の基本として推奨されるのは以下の3つです。

  • 生産開始・終了時間(リードタイム・工数)
  • 生産数量(良品数・不良品数)
  • 設備停止時間とその理由
これらがあれば、進捗の遅れ、生産性、品質課題といった基本的な分析が可能になります。
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