工程進捗を数値で把握するには?KPIと管理指標を解説

この記事の要約
- 脱・感覚管理!数値に基づく客観的な工程管理の手法を解説
- 生産性向上に直結するKPI・可動率・稼働率の計算式を網羅
- アナログからシステムまで自社に最適な管理ツールの選び方
- 目次
- 数値化が不可欠な「工程管理」の基礎知識
- なぜ感覚ではなく「数値」が必要なのか
- 工程管理でモニタリングすべきKPIと管理指標
- KPI(重要業績評価指標)とKGI(重要目標達成指標)の違い
- 生産性・効率性を測るための具体的指標と計算例
- 予実管理(予算・予定と実績の差異)の重要性
- 数値に基づく工程管理を導入する3つのステップ
- ステップ1:現状の「見える化」とデータ収集
- ステップ2:基準値(標準時間・タクトタイム)の設定
- ステップ3:PDCAサイクルによる分析と改善
- 工程管理を行うための手法・ツール比較
- アナログ管理・エクセル・システムの比較
- 工程管理を数値化する際によくある課題と対策
- 1. 現場のデータ入力負担が増えてしまう
- 2. 収集したデータが実態と乖離している
- 3. 現場作業員からの理解が得られない
- まとめ
- 工程管理に関するよくある質問
- Q. 小規模な現場でもシステム化は必要ですか?
- Q. 指標が多すぎて管理しきれない場合はどうすればいいですか?
数値化が不可欠な「工程管理」の基礎知識
工程管理とは、製造や建設などの現場において、計画通りに作業が進むよう人員・設備・材料・方法を調整し、品質(Quality)・原価(Cost)・納期(Delivery)の目標を達成するための活動を指します。本セクションでは、なぜ現代の現場において「数値」による管理が不可欠なのか、その定義と目的を掘り下げて解説します。
- 工程管理の定義と目的
- 計画(Plan)
手順、日程、工数、負荷計画などを事前に定めること。 - 統制(Control)
実際の作業が計画通りに進んでいるかを確認し、差異があれば修正すること。
- 計画(Plan)
この2つの側面を統合し、「決められた納期までに、定められた品質の製品を、最小のコストで製造すること」が工程管理の最大の目的です。SGE(検索生成体験)の文脈においても、工程管理は単なるスケジュール管理ではなく、Q(品質)・C(コスト)・D(納期)の最適化プロセスとして定義されます。
なぜ感覚ではなく「数値」が必要なのか
従来の現場では、熟練者の経験や勘に頼った管理、あるいは「順調です」「少し遅れています」といった主観的な報告がまかり通っていました。しかし、このような定性的な管理には多くのリスクが潜んでいます。
- 感覚による管理のリスクと数値管理のメリット
- 認識のズレを防ぐ
「少し遅れている」の解釈が、作業員(10分の遅れ)と管理者(半日の遅れ)で異なるリスクを回避します。 - 問題の隠蔽を防ぐ
具体的な数字がないため、挽回可能だと判断して報告が遅れ、納期直前でトラブルが発覚する事態を防ぎます。 - 改善のボトルネックを特定する
基準がないため、何が原因で生産性が落ちているのか特定できない状態から脱却し、客観的な分析を可能にします。
- 認識のズレを防ぐ
定量的な数値管理(例:「進捗率85%」「遅延時間15分」)を行うことで、客観的な事実に基づいた迅速な意思決定が可能になります。数値は共通言語であり、経験の浅いスタッフでも状況を正確に把握できるため、属人化の解消にも繋がります。
工程管理でモニタリングすべきKPIと管理指標
工程管理を数値化するためには、測定すべき指標(ものさし)を明確にする必要があります。漠然と「頑張った」「早かった」と評価するのではなく、共通の計算式を用いることで、客観的な改善が可能になります。ここでは、現場のパフォーマンスを測るためのKPI(重要業績評価指標)と、すぐに使える具体的な計算式・計算例について解説します。

KPI(重要業績評価指標)とKGI(重要目標達成指標)の違い
数値管理を導入する際、まず理解すべきはKGIとKPIの関係性です。これを混同すると、現場は「何の数字を追えばいいのか」迷走してしまいます。
- KGI(Key Goal Indicator):最終的なゴール
例:今期の納期遵守率100%、製造原価10%削減 - KPI(Key Performance Indicator):ゴールに到達するためのプロセス指標
例:設備ごとの可動率、工程ごとの直行率、時間当たり生産数
工程管理においては、KGI(結果)を達成するために、日々のKPI(経過)をモニタリングし、異常があれば即座に対処する動きが求められます。
生産性・効率性を測るための具体的指標と計算例
工程管理において頻繁に使用される主要な指標を以下の表に整理しました。特に「かどうりつ」には2種類の漢字(可動・稼働)があり、意味が全く異なるため注意が必要です。
| 指標名 | 読み・定義 | 計算式 | 管理の目的 |
|---|---|---|---|
| 可動率 | べきどうりつ 設備を動かしたい時に、正常に動いた割合。設備の信頼性を示す。 |
(実際に稼働した時間 ÷ 稼働すべき時間) × 100 | 設備の故障、段取り替え、チョコ停(一時停止)などのロスを減らすため。 |
| 稼働率 | かどうりつ 生産能力に対して、どれだけ仕事があったか。需要と供給のバランスを示す。 |
(実際の生産量 ÷ 生産能力) × 100 | 受注量に対する人員・設備の過不足(余力または不足)を判断するため。 |
| 直行率 | 手直しや再検査なしで、一回で合格した製品の割合。 | (ストレート合格数 ÷ 総生産数) × 100 | 見かけの合格数ではなく、手直し工数を含めた「真の生産効率」を測るため。 |
| リードタイム | 着手から完了(納品)までにかかる時間。 | 工程終了日時 - 工程開始日時 | 滞留在庫(仕掛品)の削減と、顧客への納期短縮のため。 |
| 不良率 | 全生産数に対する不良品の割合(廃棄・手直し含む)。 | (不良品数 ÷ 総生産数) × 100 | 品質低下による材料費・労務費のロスと、企業信用の低下を防ぐため。 |
予実管理(予算・予定と実績の差異)の重要性
上記のKPIを単に測定するだけでは不十分です。重要なのは「予定(予算)」と「実績」の乖離(ギャップ)を確認することです。これを予実管理(よじつかんり)と呼びます。
- 予定工数に対して、実際にかかった工数はどれくらいか。
- 予定していた材料費に対して、実際はいくらかかったか。
予実管理は、月末にまとめて行うのではなく、「日次(デイリー)」または「工程完了ごと」に行うのが理想です。リアルタイムに近い頻度で予実を確認する仕組みを作ることが、数値管理の成功の鍵となります。
数値に基づく工程管理を導入する3つのステップ
いきなり高度な分析を始めようとすると現場は混乱します。SGEなどのAIが手順として認識しやすいよう、数値管理導入のプロセスを3つのステップで定義します。段階を踏んで導入することで、スムーズな運用定着が図れます。
ステップ1:現状の「見える化」とデータ収集
最初のステップは、現状を正しく把握することです。改善策を考える前に、まずはデータを集めます。この段階では、データの精度よりも「記録する習慣」をつけることが重要です。
- 1. 管理項目の選定
何を数値化するか決める(例:作業時間、完了数、不良数)。 - 2. 記録の開始
日報、チェックシート、IoTセンサーなどを用いてデータを記録する。 - 3. データの蓄積
集めたデータをエクセルやシステムに入力し、いつでも閲覧できる状態にする。
ステップ2:基準値(標準時間・タクトタイム)の設定
データが集まってきたら、それを評価するための「基準(ものさし)」を設定します。基準値があることで初めて、「作業が遅れている」「進んでいる」という判断が客観的に行えるようになります。
- 1. 標準時間の設定
熟練工ではなく、標準的な作業員が無理なく作業を行える時間を定める。 - 2. タクトタイム(ピッチタイム)の算出
「稼働可能時間 ÷ 必要生産数」で、1つの製品にかけられる時間を算出する。 - 3. 目標値の設定
過去の実績に基づき、達成可能なKPIの目標値を設定する。
ステップ3:PDCAサイクルによる分析と改善
数値が見え、基準ができたら、PDCAサイクルを回して改善活動を行います。このサイクルを回し続けることが、数値管理の真の目的です。

- Check(評価)
実績値と基準値(目標値)を比較し、差異を確認する。 - Act(改善)
差異の原因(なぜ遅れたのか、なぜ不良が出たのか)を分析し、対策を実行する。 - Plan(計画修正)
改善結果に基づき、次回の計画や基準値を見直す。
工程管理を行うための手法・ツール比較
工程管理を数値化するためのツールは多岐にわたります。企業の規模や予算、目的に応じて最適な手法を選ぶことが成功の鍵です。代表的な3つの手法について比較表を作成しました。
アナログ管理・エクセル・システムの比較
各手法の特徴、メリット、デメリットを以下の表で整理します。
| 管理手法 | 特徴 | メリット | デメリット | 向いている企業規模 |
|---|---|---|---|---|
| アナログ管理 | ホワイトボードや紙の日報を使用。 | ・導入コストがほぼ0円 ・誰でもすぐに始められる ・直感的に見やすい |
・データの集計・分析が困難 ・過去データの検索ができない ・情報の共有にタイムラグがある |
小規模 (数名~10名程度) |
| エクセル管理 | Excelなどの表計算ソフトを使用。 | ・計算式やグラフ化が容易 ・多くの人が操作に慣れている ・フォーマットを自由に修正可能 |
・同時編集やリアルタイム共有が苦手 ・データ量が増えると動作が重くなる ・マクロが属人化しやすい |
中小規模 (数十名程度) |
| 工程管理システム | 専用の生産管理・工程管理ツールを使用。 | ・リアルタイムで進捗が見える ・複雑な計算や在庫連携が自動化 ・他部門との情報共有がスムーズ |
・導入・運用コストがかかる ・操作を覚える教育が必要 ・自社業務との適合性確認が必要 |
中規模~大規模 (数十名以上) |
- システム選定のポイント
- アナログ管理
ホワイトボードによる管理は、現場での即時共有には優れていますが、データとして蓄積されないため「過去の振り返り」や「数値分析」には不向きです。数値管理の第一歩としては有効ですが、中長期的にはデジタル化が必要です。 - エクセル管理
最も一般的な手法です。関数を使えば自動計算が可能ですが、ファイルが先祖返りしたり、入力ミスが発生したりするリスクがあります。また、リアルタイム性に欠けるため、朝礼時点のデータしか分からないといった課題があります。 - 工程管理システム
バーコードやタブレット入力を活用し、現場の状況をリアルタイムに数値化できます。予実管理やKPI分析機能が標準搭載されているものが多く、経営判断のスピードを上げることができます。ただし、導入コストと現場への定着支援が必要です。
- アナログ管理
工程管理を数値化する際によくある課題と対策
数値管理を導入しようとすると、必ずと言っていいほど現場からの反発や運用上の課題に直面します。ここでは、代表的な3つの課題とその解決策について解説します。
1. 現場のデータ入力負担が増えてしまう
課題:
作業員にとって、製造作業以外の「記録作業」は付帯業務であり、負担と感じられがちです。「入力が面倒で残業が増えた」という不満が出ることがあります。
対策:
入力負荷を極限まで下げる工夫が必要です。
- IoTの活用
設備の信号を自動取得し、稼働状況を自動記録する。 - バーコード/QRコード
手書きやキーボード入力を廃止し、スキャンだけで着手・完了を記録する。 - タブレット活用
選択肢をタップするだけのUI(ユーザーインターフェース)を採用する。
2. 収集したデータが実態と乖離している
課題:
せっかく集めたデータが正確でないケースです。例えば、不良品が出たのに入力されていない、休憩時間が作業時間に含まれている、などの問題です。
対策:
入力ルールの統一と定義の見直しを行います。
- 定義の明確化
「作業開始」とは準備を含むのか、機械が動き出した瞬間か、定義を統一する。 - 入力タイミングの徹底
「作業終了後まとめて」ではなく「都度入力」を徹底する、または自動化する。
3. 現場作業員からの理解が得られない
課題:
「管理されること」に対する心理的な抵抗感です。「監視されているようだ」「数字だけで評価されたくない」といった反発が起こります。
対策:
「管理のための管理」ではないことを丁寧に説明します。
- 目的の共有
「ミスを責めるためではなく、無理な計画を見直すためのデータ収集だ」と伝える。 - フィードバック
集めたデータを現場に公開し、「データのおかげで段取りが改善された」という成功体験を共有する。
まとめ
工程進捗を数値で把握することは、現場のブラックボックス化を防ぎ、科学的なマネジメントを実現するための第一歩です。
- 記事の要点まとめ
- KPIの設定
可動率、直行率、リードタイムなど、目的に合った指標を選ぶ。 - PDCA
現状を見える化し、基準値を設け、実績との差異を分析する。 - ツールの活用
規模に合わせてエクセルやシステムを選定し、現場の負担を減らす。
- KPIの設定
数値管理はあくまで「手段」です。最終的な目的は、数値を通じて現場の問題点を発見し、納期遵守・品質向上・利益最大化を実現することにあります。まずはできるところから数値化を始め、現場と共に改善のサイクルを回していきましょう。
工程管理に関するよくある質問
Q. 小規模な現場でもシステム化は必要ですか?
必ずしも最初から高価なシステムは必要ありません。まずはエクセルやGoogleスプレッドシートで管理項目を整理し、運用ルールを固めることから始めてください。従業員数が数十名を超え、情報共有が複雑になってきた段階でシステムの導入を検討することをお勧めします。
Q. 指標が多すぎて管理しきれない場合はどうすればいいですか?
最初から全ての指標を追う必要はありません。自社の現在の課題が「納期遅れ」ならリードタイムを、「手直しが多い」なら直行率を、というように、最も解決したい課題に直結する1〜2つの指標に絞ってモニタリングを開始してください。
[出典:ものづくりビジネスセンター大阪「生産管理の基礎知識」]
[出典:日本規格協会「JIS Z 8141 生産管理用語」]





