工期遅延が起きる理由とは?対策と工程をうまく回す方法を解説

この記事の要約
- 工期遅延の三大要因である外的・人的・管理的要因を徹底分析
- 工程管理の基礎知識とガントチャート等の手法を比較解説
- システム導入とPDCAサイクル徹底で現場の効率化を実現
- 目次
- 工程管理を行っても工期遅延が起きてしまう主な理由
- 天候不順や資材不足などの「外的要因」
- 人員不足やスキル不足による「人的要因」
- 計画の甘さと情報共有不足による「管理的要因」
- 工期遵守のために知っておくべき工程管理の基礎知識
- 工程管理の定義とQCD(品質・原価・工期)の関係
- 代表的な工程管理表の種類と特徴
- 工期遅延を防ぎ工程管理を円滑に進めるための具体的対策
- 【STEP1】計画策定:無理のないベースラインとバッファ設定
- 【STEP2】情報共有:リアルタイムな伝達ルールの確立
- 【STEP3】予実管理:PDCAサイクルの短期化と即時修正
- 工程管理システムとエクセル管理の比較・検討
- 従来のエクセル管理における限界とリスク
- 工程管理システム導入によるメリットと効率化
- 自社に合う管理手法の選び方比較表
- 工程管理の見直しにおける現場の「不安」とその解消法
- 「デジタルツールは難しくて使いこなせない」という不安
- 「導入コストに見合う効果が出るか」という懸念
- まとめ
- よくある質問(FAQ)
- Q. 工期遅延が発生した場合、最初に行うべきことは何ですか?
- Q. 工程管理表を作成する際のコツはありますか?
- Q. 小規模な現場でも工程管理システムは必要ですか?
工程管理を行っても工期遅延が起きてしまう主な理由
綿密な計画を立てていたとしても、建設プロジェクトにおいて工期遅延は頻繁に発生します。問題解決のためには、まずその原因がどこにあるのかを構造的に理解することが不可欠です。遅延を引き起こす要因は、大きく分けて「外的要因」「人的要因」「管理的要因」の3つに分類されます。それぞれの詳細とリスクを確認しましょう。
天候不順や資材不足などの「外的要因」
自社の努力だけではコントロールが難しい外部環境による影響です。これらは突発的に発生するため予測困難ですが、発生頻度が高いリスクとして認識しておく必要があります。
- 自然災害や悪天候による作業中断
台風、豪雨、降雪などにより物理的に作業が不可能になるケースです。また、雨上がり後の地盤の緩みによる待機期間なども工期を圧迫します。 - 世界情勢に起因する資材の納品遅延
サプライチェーンの寸断により、半導体、木材、鉄鋼などの特定資材が入手困難になり、工程全体がストップする事態です。 - 近隣トラブルや法的規制の影響
騒音や振動に対する近隣からのクレーム対応や、予期せぬ埋蔵文化財の発見などで、一時的に工事を中断せざるを得ない状況です。
- 外的要因への対策ポイント
- 予期せぬ事態に備え、工程表にあらかじめ予備日を設定する
- 資材の早期発注と納期の常時モニタリングを行う
- 代替資材や代替工法の検討を事前に行っておく
人員不足やスキル不足による「人的要因」
現場で実際に施工を行う「人」に起因する問題です。建設業界全体で深刻化している人手不足や、個人の能力差が遅延に直結します。
- 慢性的な人手不足と欠勤
予定していた作業員が集まらない、または急な体調不良などによる欠勤で、その日に予定していた作業ノルマを達成できないケースです。 - 職人のスキル格差による進捗のばらつき
熟練工と経験の浅い作業員では作業スピードや精度に差があり、標準時間内で作業が終わらず、後工程に影響を及ぼすことがあります。 - 現場でのヒューマンエラー
図面の読み間違いによる施工ミスや、現場監督の指示出しの遅れにより、無駄な待ち時間ややり直しが発生します。
計画の甘さと情報共有不足による「管理的要因」
プロジェクトマネージャーや現場監督の管理体制に起因する問題です。これは内部努力によって最も改善が見込める領域であり、工期遅延の真因となることが多い部分です。
- 希望的観測に基づいた過密スケジュール
着工前の実行予算や契約工期に合わせることを優先し、現実的ではない無理な工程表(希望的観測)を作成してしまうことです。バッファがなく、一つの遅れが全体に波及します。 - 関係者間のコミュニケーションエラー
元請け・下請け間、または設計・施工間での情報伝達が不十分で、「言った言わない」のトラブルや認識の齟齬が発生します。 - 手戻りの発生
変更事項がリアルタイムに関係者に伝わらず、古い図面や指示に基づいて施工してしまい、解体・再施工という大幅なロスが発生するケースです。
工期遵守のために知っておくべき工程管理の基礎知識
「工程管理」は単にスケジュールを引くことではありません。その本質は、品質・原価・工期のバランスを保ちながらプロジェクトをゴールへ導くことにあります。ここでは、工程管理の定義と、現場で利用される代表的な管理手法の特徴について解説します。

工程管理の定義とQCD(品質・原価・工期)の関係
工程管理とは、建設プロジェクトにおける最重要指標であるQCDのバランスを最適化する活動です。
- QCDの3要素
- Quality(品質):設計図書通りの品質・規格を満たすこと
- Cost(原価):予算内で工事を完了させ、利益を確保すること
- Delivery(工期):約束された期限内に引き渡すこと
工期(Delivery)の短縮ばかりを優先すると、突貫工事による品質(Quality)の低下や、安全対策がおろそかになり労働災害のリスクが高まる恐れがあります。逆に、品質を追求しすぎれば原価(Cost)や工期が圧迫されます。適切な工程管理とは、これら3つの要素の均衡を保つコントロールタワーの役割を果たします。
代表的な工程管理表の種類と特徴
工程管理を行うために使用される表(チャート)には、それぞれ特性があります。現場の規模や工種に合わせて最適なものを選ぶことが重要です。
| 管理表の種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| ガントチャート | 横軸に時間(日付)、縦軸に作業項目を配置した棒グラフ形式。 | 進捗状況がひと目でわかり、視認性が高い。作成が比較的容易で一般的。 | 作業同士の関連性(前後関係)が見えにくく、工程変更時の影響範囲が掴みにくい。 |
| ネットワーク工程表 | 作業の手順と依存関係を「矢印」と「丸(イベント)」で繋いだ図。 | 作業の順序関係やクリティカルパス(最重要経路)が明確になる。 | 作成難易度が高く、専門知識が必要。全体の日程感を直感的に把握しづらい。 |
| バーチャート | ガントチャートに似ているが、より簡易的なスケジュール表。 | 作成が非常に簡単で、プロジェクト全体の大まかな日程把握に向いている。 | 各作業の進捗率など、細かい進捗管理には不向き。 |
| 曲線式工程表 | 縦軸に進捗率(%)、横軸に日時を取ったグラフ(バナナ曲線など)。 | 予定と実績の乖離(遅れ・進み)を数値的・視覚的に把握できる。 | 全体の進み具合はわかるが、具体的に「どの作業」が遅れているか特定しづらい。 |
[出典:国土交通省「工事工程の管理に関するガイドライン」等の情報を基に作成]
工期遅延を防ぎ工程管理を円滑に進めるための具体的対策
工期遅延を防ぐためには、精神論ではなく論理的かつ構造的なアプローチが必要です。着工前の計画段階から施工中の管理に至るまで、現場監督や管理者が実行すべき対策を3つのステップで解説します。この手順を踏むことで、手戻りや突発的なトラブルに強い現場体制を構築できます。
【STEP1】計画策定:無理のないベースラインとバッファ設定
最初のステップは、現実に基づいた「実行可能な計画(ベースライン)」を作ることです。多くの遅延は、着工前の計画の甘さに起因します。
- 過去データの参照と標準化
「なんとなく」で期間を決めるのではなく、過去の類似案件の実績データを参照します。各工種にかかる標準時間を算出し、それを積み上げて全体の工期を試算します。 - バッファ(余裕期間)の戦略的設定
天候リスクや資材遅延を考慮し、工期全体に対して5〜10%程度の予備日をあらかじめ工程表に組み込みます。これにより、突発的なトラブルが発生しても全体工期への影響を最小限に抑えられます。 - クリティカルパスの特定
全ての作業を均等に管理するのではなく、「その作業が遅れると全体の竣工日が遅れる」という最長経路(クリティカルパス)を特定し、重点管理項目とします。
【STEP2】情報共有:リアルタイムな伝達ルールの確立
計画ができたら、次はそれを関係者全員が「同じ鮮度」で共有できる仕組みを作ります。現場の混乱の多くは、情報のタイムラグから生じます。
- 「言った言わない」を防ぐ記録ルール
口頭での指示は避け、変更事項や追加指示は必ずチャットツールや日報アプリなどの「ログが残る形」で記録するルールを徹底します。 - 変更フローの即時化
図面の変更や仕様変更が発生した際、即座に協力会社を含む全関係者の端末へ通知が届くフローを確立します。情報伝達の遅れは、そのまま手戻り(やり直し工事)のリスクとなります。
【STEP3】予実管理:PDCAサイクルの短期化と即時修正
工事が始まったら、計画通りに進んでいるかを細かくチェックし、ズレを修正し続けます。「終わってみたら遅れていた」という事態を防ぐための運用です。
- ショートインターバル管理の実践
月単位ではなく、週単位(週間工程表)や日単位での進捗確認を行います。チェック頻度を上げることで、問題の芽を早期に発見できます。 - 予実差異の原因分析とリカバリー
予定(Plan)と実績(Do)にズレが生じた場合、「なぜ遅れたのか」を特定します。半日の遅れであっても放置せず、翌日以降で「残業でカバーする」「増員する」などの具体的なリカバリー計画(Action)を即座に策定します。
工程管理システムとエクセル管理の比較・検討
従来のエクセル管理に限界を感じ、専用システムの導入を検討する企業が増えています。ここでは、両者の違いを明確にし、自社にとってどちらが適しているかを判断するための比較材料を提供します。

従来のエクセル管理における限界とリスク
多くの企業が使い慣れているエクセルですが、複雑な現場管理においては以下のような構造的な弱点があります。
- 属人化と先祖返りのリスク
「誰が最新版を持っているかわからない」状況になりやすく、誤って古いファイルを更新してしまう「先祖返り」のリスクがあります。 - 現場と事務所の往復ロス
現場で入力・確認ができず、事務所に戻ってからPC作業を行う必要があるため、移動時間や残業時間の増加につながります。 - データ連携の欠如
工程表を変更しても、関連する資材発注表や予算管理表には自動反映されないため、転記ミスが起こりやすくなります。
工程管理システム導入によるメリットと効率化
クラウド型の工程管理システムを導入することで、物理的な制約から解放され、業務効率が劇的に向上します。
- システム導入の主なメリット
- リアルタイム更新:スマホやタブレットで現場から直接進捗を入力・確認可能
- 情報の一元管理:写真、図面、チャット履歴を工程表のタスクと紐付けて管理
- アラート機能:タスクの期限切れや遅延の予兆を自動通知し、見落としを防止
自社に合う管理手法の選び方比較表
自社の規模や課題に合わせて、最適なツールを選ぶための比較表です。
| 比較項目 | エクセル・紙管理 | クラウド型工程管理システム |
|---|---|---|
| 導入コスト | 低い(既存のOfficeソフトで対応可能) | 月額費用などが発生(数千円〜数万円/月) |
| 習得難易度 | 低い(使い慣れている人が多い) | 中〜高(操作を覚える学習コストが必要) |
| 情報共有速度 | 遅い(メール送付や掲示板貼り出しが必要) | 早い(リアルタイムで同期・共有) |
| データ活用 | 難しい(分析には手作業での加工が必要) | 容易(蓄積データから生産性などを分析可能) |
| おすすめの企業 | ・小規模工事がメイン ・IT投資を極力抑えたい |
・複数現場を抱えている ・移動時間を削減したい |
工程管理の見直しにおける現場の「不安」とその解消法
新しい管理手法やツールを導入しようとすると、現場からは抵抗感や不安の声が上がることがあります。ここでは、現場が抱える心理的なハードルと、それを乗り越えるための現実的なアプローチを解説します。
「デジタルツールは難しくて使いこなせない」という不安
特にベテランの職人や監督から多いのが、ITツールへの苦手意識です。
- シンプルなUIの製品選定
多機能すぎるものではなく、直感的に操作できるシンプルな画面設計の製品を選びます。現場にとって「使いやすさ」は最優先事項です。 - サポート体制の活用
導入時の講習会や、電話・チャットでのヘルプデスクが充実しているベンダーを選び、現場の負担を減らします。 - スモールスタートの実践
いきなり全社導入するのではなく、ITリテラシーの高い特定のチームや現場だけで試験導入し、成功事例を作ってから徐々に広げる方法が有効です。
「導入コストに見合う効果が出るか」という懸念
経営層や管理職が抱く、「費用対効果」への不安に対する考え方です。
- 見えないコストとの比較
システム利用料単体で見るのではなく、「削減できた残業代」や「事務所への移動時間(燃料費・人件費)」と比較します。 - リスクヘッジとしての投資
工期遅延による損害賠償や、発注者からの信頼損失という巨大なリスクを回避するための「保険」として捉える視点が重要です。 - 無料トライアルの活用
多くのシステムには無料試用期間があります。実際に現場で使い、どれくらい業務が楽になるかを検証してから本契約に進むことを推奨します。
まとめ
工期遅延は、「外的要因」「人的要因」「管理的要因」が複合的に重なって発生します。これらを未然に防ぎ、スムーズに現場を回すためには、以下のポイントが重要です。
- 適切な工程管理(QCDのバランス維持)は、企業の利益と信頼を守る生命線である
- 管理手法にはガントチャートやネットワーク工程表などがあり、現場の特性に応じて使い分ける必要がある
- エクセル管理に限界を感じる場合は、クラウド型工程管理システムの導入が、情報共有の迅速化と移動時間削減に有効である
- 現場の不安を解消するためには、スモールスタートで徐々にデジタル化を進め、実績を作ることが近道である
自社の規模や抱える課題に合った最適な管理手法を選択し、遅延のない健全な現場運営を目指しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 工期遅延が発生した場合、最初に行うべきことは何ですか?
まずは遅延の正確な状況(遅れている日数と、後工程への影響範囲)を把握し、発注者や関係者へ速やかに報告することです。隠蔽や報告の遅れは信頼を大きく損ないます。その上で、原因を特定し、残業や増員などの具体的なリカバリー計画(挽回策)を策定・提示して合意を得る必要があります。
Q. 工程管理表を作成する際のコツはありますか?
最も重要なのは「余裕(バッファ)」を持たせることです。全ての作業が最短で進む前提のスケジュールは必ず破綻します。また、作業の順序関係を明確にし、クリティカルパス(最重要経路)を意識すること、そして現場の職長など実務者の意見を取り入れて「実現可能な計画」にすることがコツです。
Q. 小規模な現場でも工程管理システムは必要ですか?
現場数や作業員数が非常に少ない場合は、エクセルやホワイトボードでも十分管理可能です。しかし、たとえ小規模でも「言った言わない」のミスを減らしたい、現場から事務所に戻る移動時間を削減したいという課題がある場合は、小規模事業者向けの安価なクラウドツールの導入が効果的です。





