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請負契約と収益認識基準とは?建設業における考え方を解説


更新日: 2025/11/04
請負契約と収益認識基準とは?建設業における考え方を解説

この記事の要約

  • 建設業の請負契約と準委任契約の違いを解説
  • 新会計ルール「収益認識基準」の5ステップを紹介
  • 従来の工事完成基準や進行基準との変更点を詳解

建設業の会計処理に不可欠!請負契約と収益認識基準の基本

この記事では、建設業の会計処理において非常に重要な「請負契約」と「収益認識基準」について、基本的な考え方から実務上のポイントまでをわかりやすく解説します。これまでの会計ルール(工事完成基準・工事進行基準)との違いや、新基準へ対応する上での疑問点も解消していきましょう。

請負契約とは?建設業における特徴と法的側面

建設業のビジネスは「請負契約」を土台としています。このセクションでは、請負契約の法的な定義と、建設業務で関連する「準委任契約」との明確な違いについて解説し、建設業特有の契約形態についても触れます。

請負契約の定義と特徴

請負契約とは、当事者の一方(請負人)がある仕事を完成させることを約束し、相手方(注文者)がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束する契約です(民法第632条)。

建設業における請負契約には、主に以下の特徴があります。

仕事の完成が目的: 契約の目的は、単なる労働力の提供ではなく、「建物を完成させる」「設備を設置する」といった仕事の完成そのものです。
成果物に対する報酬: 報酬は、約束された仕事が完成し、その成果物が引き渡されること(または完成)に対して支払われます。
契約不適合責任: 引き渡された成果物(建物など)が、契約内容と異なる種類、品質、または数量であった場合、請負人は契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)を負います。これには、修補、代替物の引渡し、または損害賠償などの責任が含まれます。

[出典:e-Gov法令検索 民法 第六百三十二条]

建設現場での施工と工事請負契約書

準委任契約との違い【比較検討】

建設関連業務では、工事そのものの「請負契約」のほかに、設計監理やコンサルティング業務などで「準委任契約」が用いられることもあります。両者は会計処理(特に収益認識)の考え方にも影響するため、違いを明確に理解しておくことが重要です。

以下に、請負契約と準委任契約の主な違いを表にまとめます。

比較項目 請負契約 準委任契約
目的 仕事の完成 法律行為や事務処理の遂行
報酬の対象 完成した成果物(仕事の結果) 業務の遂行(行為そのもの)
善管注意義務 (※成果物完成義務が主) 負う(善良な管理者の注意義務)
契約不適合責任 負う 原則として負わない(※)
建設業での例 工事の施工、建物の建築 設計監理、施工管理支援、発注者支援コンサルティング

※準委任契約では、遂行した業務プロセスに善管注意義務違反があれば、債務不履行責任を問われる可能性があります。

建設業特有の契約形態「工事請負契約」

建設業における請負契約は、特に「工事請負契約」と呼ばれ、建設業法によって厳格なルールが定められています。これは、工事が専門的であり、発注者(注文者)と受注者(請負人)の間に情報の非対称性が生じやすいため、発注者を保護し、建設工事の適正な施工を確保する目的があります。

建設業法第19条では、工事請負契約の当事者は、契約の締結に際して以下の事項を書面に記載し、署名または記名押印して相互に交付しなければならないと定められています。

工事請負契約書の主な法定記載事項

・ 工事内容
・ 請負代金の額
・ 工事着手の時期及び工事完成の時期
・ 契約不適合責任(または瑕疵担保責任)に関する定め
・ 代金の支払方法、時期
・ 工期の変更に関する定め
・ 不可抗力による損害の負担に関する定め

これらの法定事項を欠いた契約は、建設業法違反となる可能性があるため、会計処理以前の前提として、適正な契約締結が不可欠です。

[出典:e-Gov法令検索 建設業法 第十九条]

新しい会計ルール「収益認識基準」とは?

近年、企業の会計処理に大きな影響を与えているのが「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識基準)です。このセクションでは、収益認識基準の基本的な概要と、収益を認識するための具体的な「5つのステップ」について解説します。

収益認識基準の概要

収益認識基準とは、企業が顧客との契約から得られる収益(売上)を「いつ(タイミング)」「いくら(金額)」計上するかを定めた、統一的な会計ルールです。

この基準が導入された主な目的は、国際的な会計基準であるIFRS(国際財務報告基準)第15号「顧客との契約から生じる収益」と、日本の会計基準を近づけること(コンバージェンス)にあります。これにより、国内外の企業間での財務諸表の比較可能性を高めることが狙いです。

収益認識の「5つのステップ」

収益認識基準では、収益を認識するために以下の5つのステップを順番に適用します。このステップは、建設業を含むすべての業種に共通する基本的な考え方です。

収益認識の5ステップ(How To)

1. Step1: 顧客との契約を識別する
・ 契約の存在(書面、口頭、取引慣行など)と、契約の要件(権利義務が特定できるか、回収可能性が高いか等)を確認します。

2. Step2: 契約における履行義務を識別する
・ 契約の中で、顧客に提供を約束した財またはサービス(建設工事、設計業務など)を特定します。これを「履行義務」と呼びます。

3. Step3: 取引価格を算定する
・ 契約に基づき、企業が受け取ると見込まれる対価(工事代金など)の総額を算定します。

4. Step4: 取引価格を各履行義務に配分する
・ Step2で特定した履行義務が複数ある場合(例:建設工事と保守サービスがセット契約)、Step3で算定した取引価格を、各履行義務の独立した販売価格の比率などで配分します。

5. Step5: 履行義務を充足した時に(または充足するにつれて)収益を認識する
・ 履行義務が「充足」(=顧客に財やサービスが移転)されたタイミングで、配分された取引価格を収益として計上します。

従来の会計基準との関係性

収益認識基準の導入は、従来の日本の会計実務に大きな変更をもたらしました。以前は、業種や取引の特性に応じて、複数の会計基準や実務指針(建設業であれば「工事契約に関する会計基準」など)が存在していました。

新しい基準が必要となった背景には、これらの複数のルールによる会計処理のバラツキをなくし、統一的な判断基準を設けることで、投資家など財務諸表の利用者が企業間の比較をしやすくする狙いがあります。

原則適用は、大企業や上場企業において2021年4月1日以後に開始する事業年度の期首からとなっています。

建設業の請負契約における収益認識会計基準の考え方

ここが本記事の核心です。建設業の請負契約に、収益認識基準の「5つのステップ」をどのように適用するかを解説します。特に、従来の「工事完成基準」や「工事進行基準」とどう変わったのか、その判断基準を明確にします。

建設業の会計処理とグラフ

従来の「工事完成基準」「工事進行基準」との違い

収益認識基準が導入される前、建設業の会計処理は主に「工事契約に関する会計基準」に基づき、以下の2つの基準が用いられていました。

工事完成基準: 工事が完成し、成果物を顧客に引き渡した時点で、工事収益(売上)と工事原価をまとめて計上する方法。
工事進行基準: 決算期末までに、工事の進捗度を見積もり、その進捗度に応じて収益と原価を計上する方法。

従来は、工事の成果の確実性が高い場合には工事進行基準を、それ以外は工事完成基準を適用する、という「基準の選択」の側面がありました。

しかし、新しい収益認識基準では、「基準の選択」という概念はなくなりました。代わりに、契約の実態(Step5の履行義務の充足)に基づき、「一時点で充足される」か「一定の期間にわたり充足される」かを客観的に判断することが求められます。

新基準における収益認識のタイミング判断

収益認識のタイミングは、Step5「履行義務を充足した時に(または充足するにつれて)収益を認識する」の判断にかかっています。

「一時点で充足される履行義務」
顧客が財またはサービスの支配を獲得した「ある一時点」で収益を認識します。これは、実質的に従来の工事完成基準に近い考え方です。(例:小規模なリフォーム工事で、完成・引渡し時に支配が移転すると判断される場合)

「一定の期間にわたり充足される履行義務」
履行義務が時間(期間)の経過とともに充足されていくと判断される場合、その期間にわたって収益を認識します。これは、実質的に従来の工事進行基準に近い考え方です。

建設業の請負契約は、どちらに該当するのでしょうか。

建設業で「一定の期間にわたり充足される」と判断する要件

収益認識基準の適用指針では、以下のいずれかの要件を満たす場合、「一定の期間にわたり」履行義務が充足されると判断します。

「一定の期間にわたり充足される」と判断する3つの要件

・ 企業が履行すると同時に、顧客が当該履行による便益を享受すること(例:清掃サービスなど。建設業では該当するケースは稀)

・ 企業が履行することによって、顧客が支配している資産(例:顧客の土地に建設中の建物)の価値を創出または増価させること

・ 企業の履行により創出される資産が、当該企業にとって他の用途に転用できず、かつ、当該履行を完了した部分について対価を収受する強制力のある権利を企業が有していること

[出典:企業会計基準委員会 「収益認識に関する会計基準の適用指針」第9項]

多くの建設工事(特に注文建築)は、顧客(発注者)の土地の上に建物を建てるため、上記の「2」(顧客が支配する資産の価値増加)に該当します。また、仮に自社の土地で建設していても、その建物が顧客の仕様に合わせた特注品であれば「3」(他への転用不可+対価収受の権利)に該当する可能性が高いです。

その結果、多くの建設業の請負契約は「一定の期間にわたり充足される履行義務」に該当し、実質的に工事進行基準(進捗度に応じた収益認識)の適用が求められることになります。

建設業の会計実務における収益認識基準の適用ポイント

新しい収益認識基準を建設業の会計実務に適用する上で、特に注意すべき具体的なポイントがいくつかあります。ここでは「進捗度の見積り」「契約変更」「変動対価」の3点と、中小企業への影響について解説します。

進捗度の見積り方法

「一定の期間にわたり」収益を認識する場合、決算期末において、履行義務がどれだけ充足されたか(=工事がどれだけ進んだか)の進捗度を合理的に見積もる必要があります。

進捗度の測定方法はいくつかありますが、建設業で一般的に用いられるのは「原価比例法(コスト・トゥ・コスト法)」です。

原価比例法(コスト・トゥ・コスト法):
工事の見積総原価に対する、決算期までに実際に発生した工事原価の割合をもって進捗度とみなす方法です。
(計算式: 進捗度 = 決算期までの実際発生原価 ÷ 見積総原価)

この方法を採用する場合、見積総原価の算定精度が、そのまま収益計上額の精度に直結するため、精度の高い原価管理が不可欠となります。

契約変更(追加・変更工事)の取り扱い

建設工事では、工事の途中で顧客の要望による仕様変更や、追加工事が発生することが頻繁にあります。

収益認識基準では、このような契約変更(追加・変更工事)が発生した場合、それが「独立した別契約」として扱われるべきか、「元の契約の一部(変更)」として扱われるべきかを判断する必要があります。

独立した別契約と判断される場合:
追加の財・サービス(追加工事)が、元の契約のものと「別個」であり、かつ、その価格が独立した販売価格を反映している場合。この場合、追加工事は新しい契約としてStep1から処理します。
元の契約の一部(変更)と判断される場合:
上記以外の場合。元の契約の取引価格や進捗度を修正して会計処理を行います。

この判断は、追加工事分の収益をいつ認識するかに影響するため、慎重な検討が必要です。

変動対価の考慮

Step3「取引価格の算定」において、変動対価を考慮する必要があります。

変動対価とは、契約当初に定められた金額ではなく、将来の事象(天候、インセンティブの達成、ペナルティの発生など)によって変動する可能性のある対価の部分を指します。

建設業においては、以下のようなものが該当します。
・ 工事の早期完成によるボーナス(インセンティブ)
・ 工期の遅延によるペナルティ(違約金)
・ 物価スライド条項による代金調整

これら変動対価は、発生する可能性や金額を合理的に見積もり(期待値法または最頻値法を使用)、取引価格に含めて算定する必要があります。

【読者のよくある不安】中小の建設会社・工務店への影響は?

「この新しい収益認識基準は、上場企業や大企業だけのものではないか?」という疑問を持つ中小の建設会社や工務店の経営者・経理担当者も多いでしょう。

結論から言うと、収益認識基準の強制適用対象は、主に上場企業やその連結子会社、会社法上の大会社です。

したがって、これらに該当しない多くの中小企業は、引き続き従来の「工事完成基準」「工事進行基準」や、「中小企業の会計に関する指針」に基づいた会計処理を継続することが認められています。

ただし、注意点もあります。たとえ自社が中小企業であっても、取引先(発注者)が収益認識基準を適用している大企業である場合、その取引先から、新基準に沿った請求や進捗度の報告などを求められる可能性があります。また、金融機関からの融資審査(格付け)においても、新基準への対応が評価に影響する可能性も否定できません。

まとめ:建設業における請負契約と収益認識基準の適切な理解が重要

本記事では、建設業の会計処理の根幹をなす「請負契約」の法的性質と、新しい会計ルールである「収益認識基準」の概要、そして建設業における具体的な考え方について解説しました。

本記事のまとめ

・ 建設業のビジネスは、「仕事の完成」を目的とする請負契約に基づいており、建設業法による規制も受けています。

・ 新しい収益認識基準は、従来の「完成基準」「進行基準」といった基準の「選択」ではなく、契約の実態に基づき、収益認識のタイミングを5つのステップで客観的に判断するルールです。

・ 建設業の請負契約は、その性質上、多くが「一定の期間にわたり充足される履行義務」に該当し、結果として実質的な進行基準(進捗度に応じた収益認識)での処理が求められます。

・ 適切な会計処理は、企業の財政状態や経営成績を正しく示すだけでなく、金融機関や取引先からの信頼にも直結します。自社が強制適用の対象であるかはもとより、取引先との関係においても、新基準の基本的な考え方を理解しておくことは不可欠です。

請負契約と収益認識基準に関するよくある質問

建設業の収益認識基準に関して、読者が抱きがちな疑問についてQ&A形式で補足します。

Q. すべての建設会社が、この新しい収益認識基準を強制適用されますか?

A. いいえ、強制適用の対象は主に上場企業やその連結子会社、会社法上の大会社などです。これらに該当しない中小企業は、強制適用の対象外です。ただし、中小企業であっても、金融機関や取引先の要請、あるいは経営管理の高度化の観点から任意適用するケースもあります。

Q. 収益認識基準を適用しないと、どうなりますか?

A. 強制適用の対象企業が適用しない場合、会計監査において適正意見が得られない(監査意見不表明など)といった重大なペナルティを受ける可能性があります。適用対象外の中小企業が従来の基準(工事完成基準・工事進行基準や中小企業の会計に関する指針)を継続しても、直ちに法的な問題が生じるわけではありません。しかし、対外的な信用力の観点(特に金融機関や大企業の取引先との関係)では、新基準への対応が望ましい場合があります。

Q. 従来の「工事進行基準」と、新基準の「一定の期間にわたり充足される履行義務」は全く同じものですか?

A. 考え方は非常に近いですが、厳密には異なります。新基準では、収益認識の前提として、Step2「履行義務の識別」やStep3「取引価格の算定(特に変動対価の見積り)」、Step4「取引価格の配分」などを、より厳密に行う必要があります。従来の工事進行基準では一体として処理されていた契約が、新基準では複数の履行義務に分割されたり、変動対価の見積りによって収益額が変わったりする可能性があります。実質的な処理が同じになるケースも多いですが、契約内容によっては異なる判断が必要になります。

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